悪魔の被験体に明日は笑わない

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1話 再開と対立

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 気づけば僕は病院の一室で眠りについていたらしい。

「たしか、研究室で拘束されてたような」断片的ながらも記憶はしっかりとある。

 この部屋は真っ白な箱のような空間でベットが一つ部屋の真ん中にあるだけで少し不気味だ。窓もない、外の音も遮断されていて、聞こえるのはヘッドサイドモニターから流れる心電図の音だけだった。

 しかし、この世界だとは思えないほど、質素で近未来的だった。街や景観はレンガ調のものが多く、馬車やアーチ橋など目に入るものは意外とおしゃれな国だ。

 すると、コンコンとドアをノックする音と共に「入るぞ」と声をかけられドアが開く。入ってきたのは国王だった。その後に宰相と護衛の兵が数人が部屋に入ってきた。

 ウィンザー=ヘルツベント。男らしい髭に立髪のような髪型。金の装飾がされた重装備に真っ赤に燃えるマント。まさしく王の威厳と言わんばかりの迫力。その隣にほっそりした老人が宰相だろうか。

 一つ咳払いをし宰相が話し始める。

「ライ=フランキュール。お前は悪魔の器となった。今までの生活はもう忘れろ。これからは国のためにそして国民のために隣国との戦いに励んでほしい」

 驚いて理解が追いついていない僕の顔を見て察したのか宰相はため息をついた。そしてあまり期待していないのか国王と顔を合わせて首を横に振った。

「早速、お前には訓練してもらう。ノエルこい」そう言われて護衛の最後尾に並んでいた高い位置でポニーテールをした金髪の少女が国王の横にくる。

 そして彼女と目が合った途端僕は、悪魔の行進で出会った少女だと気づいた。身なりも気迫も立ち振る舞いも全くの別人だが、確かにあの時出会った少女だった。

「ウィンザー国王の娘ながらこの国の軍を導く戦場の女神。ウィンザー王国第三王女ノエル=ヘルツベント様であられる」宰相が紹介する間に少し照れくさそうに顔を赤くしながらも目は鋭く僕を睨みつけている。

「ライ=フランキュール。貴様が悪魔の器か。今日からお前の教育係をするノエル=ヘルツベントだ。先程からお前を見ていたのだが、何だこのヘタレは!何も考えていないような顔つきだ。いいなぁ戦場ではなんにも考えずに死ねるのか。これは羨ましいことだ。さぞかし....」

「ん、うん!!」国王の咳払いでノエルの鋭く尖った言葉は止まったが、彼女はまだ言い足りていない様子だ。

「ライ=フランキュールよ。これからはノエルの厳しい訓練について行ってもらう。精進したまえ!詳しいことは後日報告する」そう言ってノエル以外は部屋を出ていった。

 ノエルは僕の方に近づき、物凄い勢いで僕の頬を引っぱたいた。その威力は凄まじく赤くなった頬がそれを物語っている。戦場の女神と呼ばれるほどの実力者だ。手加減してこれなら本気ならどうなるんだろうと思った。

「リザ、、?」僕は悪魔の行進で出会った少女の名前を呼ぶとノエルはムスッとした表情をしていた。

「私はリザじゃない。あれは偽名だ」

「どうして?」

「力が欲しかったんだ。一人で隣国を滅ぼせる程の力が。そしたら私はお父様に認められて....」

「それだけの為に偽名を使い、自分の命を危険に晒してまで悪魔の器になりたかったの?」

「それだけ?それだけってなによ。あんたにはわかんないでしょうね。何も考えず植物みたいに生きて、ただ呼吸してるだけのヘタレに私の気持ちなんてわかんないわよ。なんであんたなのよ.....」

「ご、ごめん」僕はそれだけしかノエルに言葉をかけることが出来なかった。彼女の気持ちを踏み躙った言動に深く申し訳なさを感じ、綺麗な青い目から流れる大粒の涙に男として悔しさを覚えた。

「私はあなたには悪魔の器計画を断念して欲しかった。あなたは心優しくて、何にも染まってない綺麗な画用紙みたいなあなただったからこそ説得しようと思ったの!でも、死んで欲しくないと大勢がいるあの場では言うことが出来なくて遠回しにしか言えなかった。何も夢がないって考えたことがないって言われた時こんな奴が私の夢を壊せるはずがないって思った」

 ノエルは怒りのあまり腰に着けた剣を鞘から抜き、僕の首筋に当てた。僕の首筋から真っ赤な血がつーっと垂れる。

「夢もないお前が私の夢を邪魔するな!!」

 僕は首筋に当てられた剣を握って力いっぱい押し返し、首筋から離した。掌は血だらけになっていたのになぜだか痛みを感じなかったし、僕がどうしてこんな行動を取れたかは分からなかった。

「ごめん。でも、、でもリザ!君のおかげで僕の夢ができたんだ。夢と言うには小さいかもだけど、僕は君を守りたいって初めてそういう風に思ったんだ。悪魔の器で死ぬのは分かっていた。それでも僕が成功しなきゃ君が死ぬって思ったんだ。君を守りたかった。それだけで僕は悪魔と戦うことが出来たんだ」

「あなたとこんな形で再開したくなかった」そう言って部屋を出ていった。
 
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