悪魔の被験体に明日は笑わない

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10話 負の連鎖

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 ノエルと対面する。こんな形でノエルと殺し合うことになるとは思わなかった。僕は怪物として排除されないといけない。しかし、奴隷からやっと開放されたばかり僕としてもここで負ける訳にはいかない。

「どうしてそこまであいつの言うことに固執するんだ」ノエルの行動にどうしても自分の意思を感じなかった僕はノエルに問う。

「私はあんたを殺すために育てられてきたの。厳密に言うと嘘の悪魔と言えばいいのかしら」

「なんだと」ノエルの言葉は到底僕には理解できない内容だった。

「私の先祖は勇者魔王戦争で勇敢にも悪魔に殺された勇者ウィンザー=マサキ。そして勇者と魔王を殺したのは紛れもない嘘の悪魔フラウロス。我々は嘘の悪魔を殺すために今まで封印してタイミングを待っていた」

「フラウロスが…」すると、額の紋章が光る。フラウロスは僕に少しの間半分体を貸すように頼む。それを承諾し体の半分が気味の悪い紋様が浮き出る。

 それを見て、この場の全員が混乱する。嘘の悪魔という脅威を幼い頃からおとぎ話でしか耳にしたことがない身からするとにわかに信じ難い状態だが、事実今この場の全員がフラウロスというおとぎ話を目にしている。

「私はフラウロス。お前の先祖を殺したのは私だ」

「見ろこれが我々先祖の敵だ!よく目に焼き付けろ。そしてここでその仇を打つ時だ!」ウィンザー王国は立ち上がり周囲に向けて話し始める。

「まぁ長いこと私を封印してくれたな。その件はお世話になったよヘルツベント。お前には用はない。今はこの娘と話している」フラウロスはヘルツベントを除け者にする。

 半分しかフラウロスに預けていないにも関わらずその支配力は強大で残りの半分では抑えきれていない。今は思考と言葉も行動も全て任せた方が良いと判断し、ここで話される内容はフラウロスとウィンザー王家との確執の問題であり、ここで僕が入っても何も出来ないと分かっていたからだ。

 フラウロスはノエルに近づき、僕と夢であった時のようにノエルの周りをゆっくり回る。僕は知っている。この行動する時のフラウロスは相手の心の弱い部分に踏み込み、そこに漬け込む時だ。ノエルも今だけはフラウロスの詮索領域に支配されている。

「ウィンザー=マサキ。私が殺したあの異物か。あいつは何処となくいきなり現れ始め人知を超える異常な力を持ち勇者と崇められた」

「異物だと。あの方はウィンザー王国の英雄と呼ばれるお方だ」

「英雄か。面白いことを言うもんだ。全ての国を占領し、独裁、蹂躙、あいつはどこか違う世界から飛んできた異物だ。その違う世界とやらはこの世界よりも随分と発展した国だったようで、その技術も伝えられどんどんと発展していった。それによって生物の生態系を崩し、多様性を奪い、環境もめちゃくちゃだ。あの異物を処理し、この世界をリセットするそれが私の役割だ」

「そのようなデマを鵜呑みにするな!こいつの言うことすべてが偽りだぞ」ウィンザー王国は再び話を遮る。

「今はお前ではないと言わなかったか?3度目はない」フラウロスの威圧感に国王も恐怖か懲りて口を閉じる。この場にいる誰も口を開くことが出来ない。フラウロスの声だけが響く。

「まぁ昔話は置いとこう。さぁ本題だ。お前はなぜ嘘をついた」フラウロスはノエルの背後から肩に手を置いて尋ねる。

「嘘!?」

「おっと、自覚がないのか?誰に頼まれた、それはお前の自発的にしたことか?」

「なんのことだ」ノエルはフラウロスに弱みでも握られているのかと言わんばかりにビクッとし、冷や汗をかいている。

「わからないなら教えてやろう。ライ。お前もよく聞いておけ。今からこいつがお前に偽り、善人ぶった嘘つき女だということを証明してやる」

「ノエルが僕に」僕は混乱した。そしてあの時から僕を欺き、利用していたことを知ることになる。

「今から私がお前の仮面を丁寧に剥がしてやる。覚悟は出来ているなノエル。いや、ウィンザーノエルフリーデン」

「フラウロスあんた。どこまで知ってるわけ?」

「全部お見通しさ。こいつの記憶、思考は私にも共有されるってわけでお前が嘘つき女だということは初めからわかっていた」

 フラウロスは指を鳴らすと、国王と僕とノエルは真っ暗な空間に飛ばされる。

「一時的に作った嘘の空間だ。これで役者は揃った早速始めるか」そう言うと再びノエルの周りを回り始める。

「まずお前はこいつに偽名を使って近づいた。そして悪魔の器を判断する為の特殊なネックレスを付けさせ、悪魔の器かどうかを判断する」

「まさかあの青いネックレスは」僕は胸に着いたネックレスを見る。

「そして悪魔の器とわかったお前はこいつをどこのタイミングで殺そうと考えていた。病室でも、ネルソン事変の移動中も、生命の大樹で寝転んだ時も。しかし、出来なかった。それはお前がヘルツベントへの唯一反発できた部分だった。いつもなら、父親に認められるためとかなんとかで自分さえ押し殺し自分でそれが正しいことなんだと納得していた」

「なんだとノエル!貴様父親にそんなことを思っていたのか」ヘルツベントは怒りで顔を赤くしている。フラウロスはヘルツベントを無視し話を進める。

「そして私はネルソン事変で全ての真実を知った。ヘルツベントお前が全ての元凶だということだ」

「ふん!わしは何もしていない!なにか証拠があるなら出してみろ」

「証拠はない。ノエル!君が証人になる」

「え…。わ、わ、私も何も知らない」

「ほらみろ!わしは何も関与していない。全てノエルがやったことだ」

 ノエルは唇を噛み、何かを押し殺し我慢している様子だった。

「ヘルツベントは私を殺すために全てを企んだのだろう。そしてそれを全てノエルに責任を押し付けた。悪魔の器を見つけることも、模擬戦で殺し合いをさせたのも、ネルソン事変で少数兵士か出兵させなかったこと。そして、ウェスター王国にネルソン地域の宣戦布告の手紙を送ったのも。あの時からウェスター王国が急に攻めてきたと言ったが、お前が予めネルソン地域を占領するなどという内容をウェスター王国に送っていた」

「ふ、そこまで知られていたのか。だったらなんだ!そうだ!お前を殺せば、英雄になれる。民衆からの指示を得られ名を永遠に刻める。しかし、この約立たずがライ=フランキュールを殺害をしくじった。だから、ウィンザー聖教との話し合いを持ち込んで再び封印することに決めたんだ」

「自分の名誉の為か。実に人間は欲深い。しかし、分からないのだノエル。お前はなぜライを殺せなかった」

「それは…」

「もう話はいい!ノエルこいつをさっさと殺せ!」

「黙れ」ノエルは小さく弱い声で言う。

「なんだ?」ヘルツベントは聞き返すと「黙れって言ってんだよクソ野郎!!!」

その時、ノエルは走り出し、ヘルツベントの首をスパッと切り落とした。国王の首が転がる。胴体も後から力が抜けたように膝から崩れ落ちる。

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