けん者

レオナルド今井

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凍らぬ氷の都編

操られたは魔か靄か

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 ──空高く打ち上げられる仲間の姿を見て、アタシはただ言葉を失い見ていることしかできなかった。

「願いよ、届け!」

 自分より二回り大きいケンジローが地面にたたきつけられた瞬間、ソフィアは瞬時に回復させていた。

 あらゆる魔法に精通し、実戦経験も兼ね備える彼女だからこそなせる業といえるのでしょう。それに比べてアタシはまだ何もできていない。

「マキ! アイツの足止めをお願い!」

「は、はい!」

 ソフィアはすかさず次の呪文を唱えると、アタシにケンジローを任せて金のなる木の群れがいたほうへ駆ける。

 底なし沼へ飲み込まれた金のなる木はすでに息絶えていて、代わりと言わんばかりに煌びやかな人型の獣人みたいな魔物が悠々と浮かび上がっている。確か、大量の金のなる木が死ぬと、その魔力を糧に強化される魔物がいるらしいが、こんな大物スターみたいな奴だったなんて。

 というか。

「大変ですソフィア! アイツ浮いてるせいでアタシの攻撃が全然届きません!」

 なんとか跳躍しながら攻撃を試みるも、高度を上げ続ける魔物には全然届かず、なんなら魔物のほうも小首をかしげている始末です。なんだか納得がいきません。

「うそでしょ⁉ し、仕方ないわ! 帰るわよ!」

「り、了解です!」

 いまいちこちらへ攻撃する意思が感じられない魔物を放って、いまだに目を覚まさないケンジローを引きずって帰還した。







 ──翌日。

 朝になって何事もなかったかのように目を覚ましたケンジローは、用事があるらしくジョージさんを連れて朝食を終えて早々どこかへ行ってしまった。

 せっかく女の子同士で残ることになったので、アタシたちは商店街を見て回ることにした。

「はじめて来た街ですけど、連日賑やかな商店街なのですね」

 昨日も来たわけだが、今日はウィンドウショッピングが目的ということで違った視点でお店を見れる。そのせいか、昨日は気づけなかったところにも気づけるわけで。

「ええ、この街は霧の都と氷の旧都を結ぶ中間拠点として栄えた街で、近隣地域の特産品やその加工物が主流の売り物になっているわ」

 氷の旧都という単語に、無意識のうちに弛んでいた気を引き締める。

 氷の旧都はソフィアの故郷であり旅の目的地で、目撃情報によると『旗槍』の逃亡先ではないかと予想されている地域だ。激しい戦いになるだろう。

 そんなアタシを見て、ソフィアは微笑みながら頭を撫でてきた。

「そんなに心配しなくてもいいわ。準備を整えながらゆっくり向かいましょう」

「はい」

 アタシの余計な心配を吹き飛ばすように、ソフィアは店の入り口にあるショーケースの商品に目を移していく。

「ねえマキ。この服なんかどうかしら? 私の見立てではいいと思うけど」

 そう言って指さす先に視線を移すと、自分が着る姿など想像もできないほど綺麗で上品なドレスが飾られていた。

「ええ⁉ や、その、ア、アタシにはちょっと似合わないんじゃないかと」

「そうかしら? 私は似合うと思うけど」

「うっ⁉」

 あっけらかんと言うソフィアに顔が熱くなるのを感じる。

「さ、さあ! ドレス以外にもいろんな装飾品が並んでますよ! あっ、店主さん! あっちのブレスレットってどんな効果がついているのですか?」

「おっ、嬢ちゃんたちは……冒険者の方だね。であれば、こっちの品がおすすめだよ。祈りを捧げる祝福によって体力を回復してくれるのさ」

 回復量は控えめだがね、と付け加える店主さん。

 ソフィアの身分など一目で見抜いたうえで、お忍びで来ているのではないかと気を使っているのだろう。アタシの父くらいの年齢なのだろうが、少なくとも父より優れた人かもしれない。あとで名前を聞いておこうと思う。

 それはそうと、紹介された商品は強さはともかくとして便利そうだ。価格も手ごろなので買ってしまおう。

「いい品なのです。ソフィア、全員分買っていきませんか?」

「え? あ、うん。そうね。私の魔力だって有限だし、買っていきましょ」

 何やら店の外を眺めながら、こちらに意識を割いていないようなソフィアがそんな返事をした。

 気になることでもあるのかと思いつつ、店主にお金を払って購入した。

 そんなにあのドレスを着てほしかったのかと思うとちょっと罪悪感を感じます。帰りにでもこの街に立ち寄って買っていくのもいいかもしれない。

 購入後、ほかの商品を見ながら帰りのことを考えていると、店を出てすぐソフィアに手を引かれた。

 何事かと思って耳を貸すと、どうやら誰かに尾行されているような視線を感じるとのことだった。索敵スキルに引っかかっていないが、ソフィアの索敵系魔法に引っかかったのだろうか。ソフィアと同じ方へ視線を向けると、確かにこちらを凝視する人影が見えた。

「索敵スキルに引っかかっていませんし、少なくとも敵対心はなさそうですが……。というか、そんなに魔力を使っちゃって大丈夫なのですか?」

「探知魔法は数分に一回しか使ってないから大丈夫よ。窓や鏡からの視覚情報を魔法で鮮明にすればたいていの場所はお見通しだし、強い敵対心がないと反応しない索敵系の魔法やスキルより確実よ」

 スキルだよりのアタシとしてはそういうものなのかというくらいの感覚なのだが、幼少期から貴族として振る舞うソフィアは襲撃者対策の一環で学んでいたりしたのだろうか。

 だとすれば、この場はソフィアの行動に乗っかった方が安全でしょう。

「だから、人気の少ない場所に誘い出して問い詰めるわよ」

 ……やっぱ乗っからない方がいいかもしれません。





 あのあと、追っ手を誘い出すために街の外まで繰り出た。

 相変わらず誘われていると気づいていないのか素直についてきてくれた。そんな追っ手に対して、街を出て一歩目で立ち止まったソフィアが来た道へ振り向く。そして。

「……こそこそしてないで出てきなさい! 賢者ソフィアが相手になるわ!」

 いつの間にか魔法で収納していた杖を向けて、物陰に姿を隠す追っ手にそう宣う。すると、とうとう追っ手がその姿を現し……。

「させません!」

 十歩以上ある間合いを一瞬で詰めてきた敵の攻撃をナイフで止めた。

 次の瞬間、魔法で追撃を加えようとするソフィアだったが、凄まじい反射神経で見切られてしまった。

 追っ手は近くの木の幹へと着地すると、フードを脱いでこちらへ一礼。そして、頭を上げると同時に名乗り出た。

「ボクの名は『操魔』。妖魔教団幹部が一柱、魔物脅しの『操魔』さ」

 外見年齢はアタシと同い年くらいだろうか。

 しかし、自ら名乗った肩書に相応しいプレッシャーを放っており、その実力を確かなものだと思い知らせる風格があった──







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