けん者

レオナルド今井

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水と花の都の疾風姫編

アカンサスの誘い

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 ──あの後、クイズ大会を終えた俺たちは、晴れて葉薊の街を案内してもらえることになった。

「……私が赤裸々な秘密を晒された意味っていったい」

 歩く死体のようになってしまったソフィアの背を押しながら、先頭を歩く葉薊領主についていく。

 そう。検問を受けていた俺たちは、葉薊領主の許可を得て街に入ることができたのだ。

 少しばかりソフィアには色んなものを失ってもらったが、どうせ昼過ぎには食後のデザートにすべての記憶を持っていかれているに違いない。

 そんなことを考え安心しながらソフィアから目を離すと、さっそく路上で芸を披露している一組の若い男女がいることに気づく。

「領主さん、あれは?」

 街が防壁に覆われているこの世界であっても路上で活動する芸人は珍しい。なにせ、いつ空棲の魔物に襲われるか分かったものではないからだ。

 なので、物珍しさから手を向けて問いかけてみると、待っていましたと言わんばかりの笑みを浮かべた領主が足を止めてこちらへ向き直った。

「よくぞ聞いてくれた。我が葉薊の街は芸術の街。我らが街では芸能という業種を認めていているのだ。志高い若き芸者はあのように知名度を上げて芸能ギルドへの加入を目指すことになる。芸能ギルド加盟後は、ギルドのバックアップを受けつつ本格的に生計を立てていくことになるが、彼らはギルドへの加盟を目指しているのだろう」

 まるで日本の売れない芸人みたいな感じだなと思っていると、何か掴みに成功したのかギャラリーがドッと沸いた。

 釣られて視線を向けてみると、一枚の風呂敷から数百羽はくだらないであろう白い鳩が大空へ飛び立っていくのが見えた。

「おい、物理法則はどこへ行った」

 あんなものが手品というたった一つの単語でまかり通ってしまったら、多分日本から手品師はいなくなる。

 俺だけでなくマキたちも……それこそ、先ほどまで項垂れていたソフィアまでもが口を大きく開けて驚くが。

「……あれではまだまだギルド加盟は遠いでしょうな」

 ただ一人難しい顔をする葉薊領主は、俺たちにしか見えないように組んだ手から一匹の鳩を出すと、ソイツは虹色に輝き高速旋回しながらはるか上空へと急上昇していった。ヤバすぎるだろ、この街。

 この街において芸能というものが甘くないことを数分で思い知らされた俺たちは、こちらの驚嘆具合など気にしていないと言わんばかりに次の場所を案内すべく歩き出した──



 ──次に連れてこられた場所は、この街最大のシアターだそうだ。

「これこそ、葉薊の街最大にして最高峰の劇場、アカンサスシアターですぞ」

 派手な形状や色合いで見た者に奇抜な印象を与える建物こそ、この街が誇る芸術の髄だという。

 ここへ来たからには何か鑑賞していくのだろうと思っていると、案の定領主さんが懐から数枚のチケットを取り出した。

「今日は我が街が発祥とされるミステリー劇の講演がありますのでな。ささ、楽しんでいっておくれ」

 そう言いならが、実は一番楽しみにしていそうな領主さんはルンルンで受付へと駆けていく。俺たちはその背中を、少し距離を空けてついていった。







 ──劇を見終えた俺たちは午後からの業務で忙しいらしい葉薊領主と別れ、手配されていたレストランへとやってきていた。

「あれだけ現実離れした怖さのミステリーでさえリアリティ満載な印象を抱かせるんだから、この街の劇はレベルが高いね」

 『月夜見』は食べているミートソースパスタを飲み込むと。ついさきほどまで見ていた劇の感想を口にする。

 手元のマカロニサラダを口にしつつ、確かにあれはすごい完成度だったなと劇の様子を思い出す。

「へえ、『月夜見』は怖かったのね。でも大丈夫よ。もし怖かったとしても、夜は女子部屋だから三人で寝れるわ」

「食器を持つ指が震えてるぞ。強がりたいなら少しは取り繕う努力をしろ」

 今回の劇が相当怖かったらしいソフィアは、さきほどからまるで辺り構わず威嚇する子猫のように強がっているのだ。

「触れないであげるのが紳士のあるべき姿ですよ、ケンジロー。まあ、アタシとて少し怖かったですし。しかもあの呪われた一族のお話にはモチーフとなった実話があるそうなのです」

「ひぃっ!」

 急に竦み上がったソフィアが手に持っていた食器を落としてしまった。

 おいマキ。お前のフォローは逆効果じゃねえか。

 どうするんだという視線を向けるが、当の本人はこちらの視線に気づくや否やプイッとそっぽを向いた。

「お嬢様。公共の場でございます」

「わ、わかってるわよ!」

 目尻にほんのりと涙を浮かべるソフィアは、恨めしそうにこちらを見ながら落としてしまった食器を水の魔法で洗い始めた。

「しかし、眠れなくなる呪いねぇ。俺の故郷だとメンタルやられて睡眠障害になる人もいたが」

 もっとも、劇のモチーフになった呪いと違い、家族への伝播や必ず死ぬというほど俺が口にした睡眠障害のケースは重くない。

 今回のがただのフィクションだというなら気にも留めていないが。未だに怯えながらも、何やら決意を固めたような目をしているソフィアを見て内心呆れる。

 ネズミがもたらした呪いによって家族同然であったスターグリーク家の面々を失ったコイツのことだ。元ネタの呪いがあるというなら何としてでも呪いを解いてやりたいのだろう。

「まあ、所詮はただの劇だ。元ネタがあろうが、少なくとも今は発生してないのだろう。であれば、俺たちがこの街にしてやれることは、この前の地震で被災した人たちの支援だ」

 葉薊領主によると、街の一部区画では揺れによって魔物の侵入を防ぐ壁が壊れてしまったらしい。

 夜は警備のために傭兵団を雇っているらしいが、昼間は冒険者たちと協力して魔物の進入を抑えてほしいとのことだった。

「領主さんにとって俺たちが求める同盟関係というのも渡りに船だったんだろうな」

 何も知らないこの街の人にとって俺たちは救世主かもしれないが、実のところ地震を起こした巨竜が現れたのも俺たちを狙った誰かである可能性があるとすればなんだかマッチポンプな気がしてならない。……とりあえずこれ以上考えないでおこう。そして忘れておこう。

 無駄に知力が高いソフィアには後で個別に釘を刺す必要がありそうだ。コイツ、一度気づいたら良心から何か損することをやりそうな気がする。

 俺が何を考えているかなど知る由もないであろうソフィアが未だに指を震えさせているうちに話題を変える。

「防壁が壊れた区画の防衛は明日の朝からだが、今日はこの後何をして過ごすつもりだ? パーティ単位で動かなければならない用事で、尚且つ面倒くさくないものなら付き合うが」

 打算マシマシの話題転換に最初に乗ったのはマキだった。

「めんどくさいものでも付き合ってくださいよ。ちなみにアタシは特に用事はありません。一人で防具商の屋台でも冷やかしに行こうかと思っていたのです」

 武器はこの前新調しましたからね、と薔薇の街にいた際フォックスナイトの祭壇から奪った素材で作ったらしい短剣をこれ見よがしに見せびらかしてきた。危ないからしまってほしい。

 マキが話すと、次々に自分の予定を口にした。

「私は魔法道具店を見て回れればそれでいいわ。特別な物じゃないけれど、買っておきたいものがあるのよ」

「私はお嬢様の仰せのままに」

「僕は特にないよ。でもまあ、みんなが行くところに付き添うよ」

 それぞれ目的は違えど、みんな商店街方面への用事があるようだ。

「俺は特にないが、手配されてる宿があるらしいから先に行って休んでる。念のため奇襲にだけは気を付けて見て回るといいだろう」

 そう言いつつ俺は会計だけ済ませてしまおうと席を立ち。

「ねえ、どこへ行くつもりなの?」

 ソフィアに掴まれた手を振り戻そうとしても、まるで万力で固定した器具のように動かなかった。







 ──商店街のとある魔法道具店にて。

 ソフィアたちに連行された俺は、結局全員でまとまって商店街を巡った後、路地裏にこじんまりとたたずむ魔法道具店の前へとやってきていた。

 中に他の客の気配はなく、穴場らしい雰囲気が漂っている。

 ソフィア曰く広く普及している物を買いたいらしいが、こうも珍品が出てきそうな予感がすると内心ワクワクしてきた。

「いらっしゃいませ! まあ、ご新規様がこんなにも! 心行くまでご覧くださいね!」

 若い女性店員が握手までして出迎えてくれた店内には、ポーションが大量に並んだ棚や如何にも魔法使いが使っていそうな水晶や杖、鉱石なんかがテーブルの上に並んでいた。

 店の外から感じた通り、店内は俺たち以外には客どころかこの女性を除き店員の姿すら見えなかった。

 もしやこのお姉さん一人で経営しているのか?

 そんなことを考えているのが顔に出ていたのか、女性の店員さんがお店の紹介を続けてくれた。

「このお店は私の夢だったんです。まあこんな立地ですのでお客さんは少ないんですけどね。近頃は忙しいようですけれど、今でも数日に一度は冒険者だった頃の仲間たちが遊びに来てくれるんですよ」

 店員さんは二十代半ばくらいなのだが、ちょっと婆くさくないかという感想が喉まで出かかって慌ててひっこめる。

 初対面で失礼過ぎる感想を飲み込んだ俺の横から、ひょいっと『月夜見』が出てきて爆弾を投下した。

「これは、三十年くらい前にこの辺の国で流行った占い道具だと思うけど、お姉さんはこの年代の出来事に詳しいのかい?」

 やりやがったな『月夜見』この野郎。

 おそらく悪意などないのであろう屈託ない笑みで占い用の道具だという先端が丸い謎の棒を指差しそう口にする『月夜見』は、自分のセリフが遠回しにお前は年増か、と言っているように捉えられかねないことに気づいていないのだ。

 幸い、そんなことで怒るような人ではないだろうが、ひやひやさせないでほしい。

 いつの間にか店内を物色し始めていたソフィアたちもこの事態にはギョッと視線を向けている、まさにそんな時だった。

 カランカラン、と耳心地のいい鐘の音とともに店の入口が開いて誰かがやってきた。

「邪魔するよ、エリー。……っと、お客さんの対応中だったか」

 半ば失礼だと思いながらも視線を向けると、店員さんをエリーと呼ぶ二十代半ばくらいの男性が、三歳くらいだと思われる男の子を抱きかかえて入店してきた。

 そのすぐ後から、妻だと思われる同世代の青髪の女性が同じく青髪の七歳くらいと思われる少女と手を繋いで現れた。

 特に気にしていなかったが、マキとは雰囲気が違う赤髪の男性と、金髪の店員さんを見ているとなんだか信号機みたいだ。

 と、そんな親子を見てこの人たちの関係性を察したらしいソフィアが、俺たちしかいないところでは絶対に見せることのないお嬢様らしい所作で挨拶をしに数歩近づいてくる。

「ごきげんよう。ご失礼だとは思いますが、こちらの店員さんの仰っていた冒険者仲間でお間違いないでしょうか」

 誰だお前。

 思わずツッコミを入れそうになるが、会話が逸れそうなのでいったん黙っておく。

「あら、その身なりからして霧の国の貴族の方でしょうか。ええ、仰る通り私たちは数年前まで同じパーティで行動していました」

 見るからに貴族なソフィアを見て父親が言葉を選んでいるうちに母親の女性がそう答えた。

 今更ではあるが、ウチの女性陣は貴い身分の者しかいないんだな。女友達くらいの感覚で接していたので再認識した形ではあるが、対外的にはもっと言葉遣いを気を付けるべきだろうか。

 そんなことを考えた俺は、ボロが出ないうちに店の商品を見るため店舗の奥の方へと向かう。

 魔法道具店というだけあり、魔法使いが魔力補給に使う魔力鉱やらステッキタイプの魔法杖やら魔法のポーションやら、実に様々なものが置いてあったが。

「おや、ケンジローもこっちにきたのですね。なかなかお目が高いのです」

「どの立場からのセリフだよ。だがまあ、俺たちのような魔法の素人だと、変わった効果が付いた魔法のアイテムの方が興味をそそるよな」

「同感なのです」

 マキとそう言い合いながら視線を向ける先には、奇天烈な効果が付与された装飾品の類が所狭しと並べられていた。例えば……。

「使うと敵か味方全体の体力を全回復させるネックレス。ただし一回使うと壊れるうえ、使用者は回復しないどころか代償として体力を消費する。……初手からすごいのが来ましたね。もしかして他もこんなのばっかりなのでしょうか」

「お店の経営状態を考えればそうであってほしくないが、どうせ買わないから面白ければ何でもいいだろう」

 思えば、ポーション売り場をチラッと見た時にも、爆発系ポーションしか並べていない棚とかもあった。今更だが、この店は大丈夫なのだろうか。

 立地以外にも客が少ない原因を垣間見た気がする。

「この腕輪も中々えげつないですね。装備者が死んだら大爆発して敵を相打ちにするとのことですが、範囲が装備者中心なのでおそらく味方も巻き込まれますし、爆発自体が即死属性らしいのでそもそも効かない魔物が結構いるはずなのです」

「つまりはあれか? 味方を即死させるかもしれない爆発を起こした挙句、最悪の場合敵は一匹もやられないってことか?」

 俺の問にマキは無言を貫くことで答える。

 ちなみに、ゴミ同然のアイテムばかり選んで手に取って感想を言っているわけではない。現に、俺が無作為に手に取ってみた魔法の十字架も、使えば自分を回復する効果があるらしいが、回復量に拘った逸品はレベル三十の前衛職の平均体力の十倍以上にも昇り、無駄に高すぎる回復量に反比例して使用回数は一回しかない。そのうえなぜか金でできているせいで重いのだ。とてもじゃないが激しく動き回る冒険者が装備できる代物ではない。

 あれ? この店の店主だというエリーさんって元は冒険者だったと言っていたが、なんでこうも冒険者にとって役に立たない品物ばかり並んでいるんだ。

 まあいい。こういうのは頑張って探せば掘り出し物が眠っているというのが相場だし、もっと探してみよう。

 例えば、この如何にも呪われていそうなネクタイピンなんかももしかしたらすごいアイテムかもしれない。

 手に取って効果を見ようとしていると、積もる話も済ませてきたらしいエリーさんがこちらへ来ていた。

「そちらのネクタイピンは自慢の商品ですよ。なんといっても、装備者の性格により効果が変わる奇想天外なアイテムです。スーツが似合うナイスガイにピッタリな一品なんですよ」

 どこの世界にスーツが似合うナイスガイな冒険者がいるというのだ。

 文明レベルが中世なこの世界でさえスーツは一般にも普及しているが、荒くれ稼業の冒険者には縁もゆかりもない服がスーツというものだ。それを冒険者向けに、しかも効果はわからないときたものだ。

「一度装備すると一日外れなくなるので、風が強い日でも紳士らしいスマートな着こなしができますよ。ちなみにデメリット効果が付くのではないかという心配をされると思いますが、テスト段階では装備者に不利な効果は確認されなかったので安心してください」

「安心できないが? おいどんなテストをしたのかテスト仕様書を見せてみろ。テストが甘いから不利な効果が確認できなかっただけじゃないのか?」

 エリーさんとやり取りしていて、ふと情報系の本を読んでいた時のことを思い出した。

 確か、テストにおいてテスト密度とバグ密度は高すぎても低すぎても潜在的なバグが残っている可能性が高いという話だったと思う。魔法のアイテムについても同じことが言えるのではないかと思いエリーさんを軽く問い詰めてみると、ケロッとした顔でこう答えた。

「仕様書はないですけれど、どんなことを試したかお教えしますね。……一日で外せるという性質上、冒険中は危ないので店内に籠って自分で付けて見たんです。魔力の自動回復量が増えたので成功だと思いますよ」

 バカだ。この店員、バカな奴だった。

 テスト仕様書がないうえ、文脈的に試験に参加したのはエリーさんただ一人だろう。装備者によって効果が変わるのに一人分しかデータがないのでは危険すぎる。最悪装備者が爆発するんじゃないか。

 エリーさんにはキツく言ってしまって悪かったがこのネクタイピン型の呪われたアイテムは危ないのでそっとしておこう。そう思って棚の一番奥の方へと戻そうとしていたのだが、呪いのアイテムを誰かにひったくられた。

 いったい誰だと思い振り返った頃には、着ていた執事服のネクタイに呪いのアイテムが装着されていた。

 そして、犯人はというと。

「ケンジローもまだまだだね。まったく、ネクタイピンの使い方もわからなかったのかい? まあでもほら、とても似合ってるよ」

 状況を知らずにとんでもないことをしでかしてくれた『月夜見』は、屈託のない笑みを浮かべてそう言った。

 この後俺が、このバカ女神が大泣きするまで頭を拳で挟んでやったのは言うまでもない。







「──まだ痛い」

 壁にもたれかかってうずくまる、頭を抱えているようにも見える姿勢のまま泣き言を口にする『月夜見』は自業自得なので放っておくとして、ひとまずデバフがかかっていなくてよかった。

 効果は鑑定スキルを使える人くらいしか見分けられないとのことなのでこの件は一旦置いておこうと思う。

 そんなことより、ソフィアがやたらと買い込んでいることの方が気になった。

「七千シルバーお預かりしましたので、八百八十シルバーのお返しになります。お確かめください」

 ソフィアがお釣りを受け取る会話が聞こえてくる。

 日本円にして六十万円以上のデカい買い物をしてきたソフィアが店内入口近くでたむろしていた俺たちの元へ、お目当てのブツが手に入りホクホク顔のソフィアが戻ってきた。

 ただいま、とでも言おうとしていたらしいソフィアが、未だに悶絶している『月夜見』を見て、なぜか俺に冷たい視線を向けてくる。

「……なにしたのよアンタ」

「ほっとけ、自業自得だ。それより何を買ってきたんだ?」

 基本的に冒険者稼業で得た報酬分すらポケットに入れず家や領地のための予算に充てているソフィアが珍しく私用の買い物をしたのですごく気になるところだ。

 俺がそう聞くと、待ってましたとばかりにソフィアは買い物袋からある魔法アイテムを取り出して見せた。

「いくつか買ったけれど、まずはこれよ」

 じゃじゃーん、と効果音を口ずさむソフィアが両手に抱きかかえて見せたのは、一見すると薬剤を包むカプセルにも見えなくもない楕円体の謎物体である。

「これは葉薊の街が誇っていないアカンサスボムよ。誇ってないって言うくらいだからこの店でしか作ってないし売っていないんだけど、その威力は絶大よ」

「芸術の街だけに芸術は爆発だってか、喧しいわ」

 あまりのインパクトに、ついさきほどまで悶えていた『月夜見』も興味を抱いたようだ。

 いいぞ、お前からも言ってやれ。

「ちなみにそれはいくらしたんだい?」

 そうだ。安い値段ならその辺の雑魚敵に使ってしまえばいい。

 しかし、俺の甘い考えはすぐに捻り潰された。

「少し値引きしてもらって五千シルバーで譲ってもらえたわ」

 たかっ!

「返品してこい!」

「嫌よ! これを使って低消費で超威力魔法を撃てる杖を作るんだから!」

「改造すんのかよ! 絶対やめろよ!? どうせ爆発するんだからやめておけ!?」

 まるで家庭内暴力を振るう父親から我が子を庇う母親のように危険物を抱きしめるソフィアを見て冷や汗が止まらない。

「分かったからいったんソレを強く抱くのはやめろ! 爆発したらどうする気だよ!」

 ちくしょう。このメスガキ、賢者だというくらいだから賢いよなって思っていたが、やっぱり紙一重でバカだった。

 そんなやり取りをしていると、騒ぎを聞きつけたらしいマキが自分の買い物を済ませて戻ってきた。

「いったい何をして……って、買ったんですねそれ」

 微妙な顔をするマキに気づいていないのか、ソフィアがついに危険物に頬ずりし始めた。ついに気が触れたか。

 危険物をべたべた触るソフィアに対し、色々諦めた俺は返品ではなく危険物として扱うよう促していると、どこからか警報が流れてきた。

『商業区画損壊防壁付近にて魔物の侵入を確認! 推定個体数は三十匹とみられます! 手の空いている冒険者や傭兵団、騎士団の皆様は応援に向かってください! 繰り返します──』

 商業区画と言えばちょうど俺たちがいる場所だった。

 しかも、地震によって壁が倒壊していて、魔物が寄り付きやすい辺りだ。

「よかったなソフィア。使い道だぞ」
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