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案内人デビュー
しおりを挟む「案内役、ですか……?」
ギルドの帰り道、ファレルさんに呼び止められて言われたのは、まさかの提案だった。
「そうそう、最近な、このダンジョンの評判がずいぶん良くてな。初心者の挑戦者が毎日のように来るんだが……実は、事故もちらほら起きててな」
「事故って……?」
「知らずに罠に突っ込んだり、回復の泉を飲みすぎて腹壊したり……まあ、あとは軽いパニックとかだな。大事には至ってないが、導線ってやつが必要でね」
「それで、私が?」
「おう。お前さんなら、ヴァルゼ様の意向も知ってるし、初心者の気持ちもわかるだろう?」
……うっ。褒められると断れないやつだ。
「わ、わかりました。できる範囲でやってみます!」
そうして、私は翌日から“ダンジョン案内役”として、初心者たちを誘導する立場になった。
案内初日、集まったのは少年少女の3人組。まだ十代前半って感じで、全員Fランクの新人だった。
「えっと、わたし、ライナって言います! 今日はこのダンジョンの案内役を務めさせてもらいます!」
「よろしくお願いしますっ!」
「うわあ、緊張するなあ……」
「マジックアイテムとかって、本当に出るのかな……?」
かわいい。初々しさがまぶしい。
私は彼らをダンジョン入口に連れていき、事前説明を始めた。
「このダンジョンには、いくつかの層があって、罠も魔法もあります。でも、大事なのは焦らないこと。それと、絶対に“勝手に進まない”こと!」
「は、はいっ!」
「ええと……じゃあ、まずは第一層、行きましょう!」
幻影の通路に戸惑う彼らを、私は後ろから丁寧に誘導した。
「あ、そこは偽の壁が見えるだけ。実際には、そっちのほうが本当の通路です」
「えっ!? ほんとだ! ぶつかった……!」
「ふふ、私も最初は壁に鼻ぶつけました」
徐々に、緊張していた空気が和らいでいくのがわかる。
第二層の罠部屋では、事前に設置場所を説明したことで、全員が無事に通過できた。
「ここ、前にヴァルゼさんがめちゃくちゃ苦労して調整してたんですよ。魔法を撃つと、跳ね返るんです」
「うわ、それ危なっ!」
そして、問題は第三層。
ひとりの少年――ショウという子が、テンションが上がりすぎたのか、私の説明を聞かずに勝手に走っていってしまった。
「おい、そっちは……!」
バチッ!
「ぎゃあっ!? し、しびれた!?」
雷針の罠だ。
幸い軽傷だったけど、私はすぐに彼のもとへ駆け寄り、ポーチから乾燥薬草と水を取り出して処置した。
「ショウくん、大丈夫?」
「ご、ごめんなさい……俺、ちゃんと聞いてなかった……」
「ううん、私の注意の仕方が足りなかったのもあるから。でもね、“知ってから動く”って、大事なことだよ」
「……うん」
それからは3人とも真面目に耳を傾けてくれた。
第四層には進まず、今日は第三層までで終了。無事に案内を終え、外に出ると、彼らはそろって頭を下げてきた。
「今日は本当に助かりました!」
「すっごく分かりやすかったです!」
「また、今度も一緒に行ってください!」
私は思わず、顔が綻んだ。
誰かの役に立てた。
少し前まで、ただ怯えて逃げ回っていた自分が、今はこうして“教える側”に立っている。
「あっ、そうだ!」
3人が、手にしていた小さな袋を差し出してきた。
「これ、さっきの報酬の一部なんですけど……ライナさんにも分けたいって、3人で話して」
「えっ!? い、いいの?」
「だって、ライナさんいなかったら、罠にいっぱい引っかかってましたもん!」
その言葉が、報酬の銀貨よりずっと嬉しかった。
そしてその夜。
私は、森の奥でひとり座っていたヴァルゼさんに声をかけた。
「ヴァルゼさん、今日……案内役、無事に終わりました」
「見ていたぞ」
「……え?」
「木の上から、な」
「のぞきですか!?」
「監督だ。ちゃんと指導が伝わっていて、安心した」
ヴァルゼさんはそう言って、木の枝からひらりと降りてきた。
「創造とは、ただ物を作ることではない。価値を誰かに渡し、育て、広げていくことだ」
「……はい。なんだか、ちょっとだけ分かってきた気がします」
私は今日初めて、“試練を伝える者”として、自分が立てたことを誇らしく思えた。
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