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ダンジョン潰し
しおりを挟む「ちょっと、まずい話がありましてな……」
ある朝、ファレルがやって来て、開口一番にそう言った。
珍しく笑っていない。というか、額に汗まで浮かべていた。あのファレルがこうも真面目な顔になると、こちらも背筋が伸びる。
「どうした」
「商人仲間の話なんですが……最近、いくつかの初級ダンジョンが立て続けに“機能不全”に陥ったって情報が入りまして」
「機能不全?」
「はい。出入り口が破壊されたり、罠や装置が無効化されたり、中の魔導機構が奪われたり……」
「つまり、潰されたのか」
ファレルはうなずく。
「通称“ダンジョン潰し”。冒険者でもなく、魔術師でもなく、表向きは調査団やギルド下請けの業者を装って潜り込み、ダンジョンを“喰って”いく連中です。技術と金儲けのために、なりふり構わない連中ですよ」
私とヴァルゼさんは顔を見合わせた。
私の胸に、じわりと不安が広がる。
「まさか……“試練の環”も、狙われるかもって……?」
「既に森の外れに、“それっぽい連中”が滞在してるとの情報もありましてな。警戒はしておいて損はありません」
その日の午後。
私は森の中を巡回していた。
ヴァルゼさんの指示で、ダンジョンの罠や誘導看板のチェックをしていたのだが、そこで――妙な気配を感じた。
「……足音、三人分?」
茂みの向こうに見えたのは、確かにギルドの制服“風”の装備をした三人組。
中年の男がひとり、若めの男がふたり。
そして――その中の一人が、無断で結界ラインを越え、ダンジョンの側壁に何かの道具を当てていた。
「なにしてるんですか!」
思わず私が声を上げると、三人のうち一人がこちらを一瞥した。
「ああん? あんた、案内人の子かい。ここの管理者に伝えてくれ。“施設点検”だってな」
「ギルドからの派遣なら、通知があるはずです!」
「うるせえな……面倒事に首突っ込むと、命なくすぜ?」
そのときだった。
風が変わった。
空気が、凍るように張り詰めた。
「その言葉、撤回しろ」
木陰から歩いてきたのは、いつものように無表情なヴァルゼさんだった。
けれど――その声は、普段の落ち着いた低音ではなかった。
明らかに“圧”があった。
重く、鋭く、そして拒絶の意志をはっきりと含んでいた。
三人組の男たちが、思わず後ずさる。
「な、なんだ、てめえ……」
「この施設の設計者か? へっ、だったら交渉って手も――」
「交渉の意思があるなら、最初に“罠”を壊しにかかったりはしない」
ヴァルゼさんの目が、静かに、だが確実に怒っていた。
「この地は試練を与える場であり、育ちの場でもある。貴様らのような“喰らう者”に蹂躙される筋合いはない」
その瞬間、風が唸った。
気づけば、地面に満ちていた魔力がわずかに震えている。
魔物でもなく、術でもなく――これは、存在そのものの“格”によるものだった。
「お、おい、なんだよこれ……魔力が、勝手に……!」
「おかしいだろ、なんで、逃げ――」
結界の外に出ようとした男たちの前に、茨のような土壁がせり出した。
逃げ道を失った彼らは、最後には腰を抜かしてへたり込む。
「帰れ。次に来たときは――対話では済まさん」
その冷たい言葉に、三人は転げるようにして森を逃げていった。
私は、その背中を見ながら、小さく息を呑んでいた。
ヴァルゼさんが怒るのを、初めて見た気がした。
「……ヴァルゼさんって、ほんとに、ただの“ダンジョンの人”じゃないんですね」
そう言うと、彼は少しだけ顔を背けた。
「言っただろう。“創る”だけでは足りん。“護る”意思があってこそ、創造は完成する」
夕方、ダンジョンの内部に戻ったヴァルゼさんは、新たな結界式の設計を始めていた。
外部からの魔力検知、侵入者警告、構造破壊の自動修復。
すべては、“試練の場”を守るため。
私はその横顔を、いつまでも見つめていた。
私たちの居場所は、ただの施設じゃない。
“誰かにとっての始まり”を守る、意志の城なのだ。
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