毎日スキルが増えるのって最強じゃね?

七鳳

文字の大きさ
14 / 27
第一章 『転生』

十四話

しおりを挟む
 翌朝、宿を出た俺は、穏やかな朝の街並みを歩きながら、これまでの出来事を振り返っていた。七つの大罪のスキルを三つ手にし、次第にこの世界での居場所を築きつつある俺だが、同時に心のどこかに不安が残っている。自分が魔王へと近づいていること、それが周囲の人々にどんな影響を及ぼすのか――それを考えると、自然と足取りが重くなる。

 だが、そんな俺の心情を振り払うように、街の広場に着くと、聞き覚えのある明るい声が響いてきた。

「アオさーん! こっち、こっちですよ!」

 声の主はウサギ耳のイルナだった。手には例の回復ポーションの瓶をいくつか抱えており、にこやかな表情で俺を手招きしている。その横には、猫耳のシェオラと妹のリーシェも立っていて、どこか穏やかな雰囲気が漂っていた。

「今日は何か用事でもあるのか?」

「はい! せっかく調合したポーションを、実際に使ってみたくて。お近くの森で簡単な採取も兼ねて、試験運用しようと思ってたんですけど……もしよかったら、アオさんも一緒にどうですか?」

 イルナが少し照れ臭そうに尋ねる。横でシェオラも「私たちもその案に賛成しました。妹の体調も落ち着いてきたので、少し外に出たいんです」と優しく微笑む。その視線の先で、リーシェはまだ少し緊張しているものの、俺に向かって小さく手を振ってくれていた。

「……わかった。俺も少し身体を動かしたいと思ってたし、付き合うよ」

 そう答えると、イルナは嬉しそうに頷き、ポーションの瓶を一つ手渡してきた。

「これ、試しに持って行ってくださいね! すっごく効く自信があるんです!」

 彼女の自信たっぷりの態度に、思わず苦笑いしながらポーションを受け取る。その一方で、リーシェやシェオラも準備を整え、俺たちは街を出て近くの森へと向かった。

 森の中は、朝露の残る葉や静かに揺れる木々が目に心地よく、どこか気持ちが落ち着く場所だった。イルナが調合したポーションの効果を試しながら、俺たちはゆっくりと歩みを進め、木の根元や茂みに生えている採取ポイントを探す。そんななか、ふとした瞬間にイルナが立ち止まって振り返った。

「アオさん、実は少し試してみたいことがあるんですけど……」

「試したいこと?」

「はい。《視界共有》をもう一度やってみて、採取ポイントを効率よく見つけられるか試してみたいんです!」

 以前の遺跡探索で使ったこのスキルが、どれだけ実用的か再確認したいらしい。俺は軽く頷き、彼女と向き合って手を差し出した。

「わかった。じゃあ、やってみようか」

 イルナの手が俺の手に触れると、ほんの一瞬だけ彼女が顔を赤らめたのが分かった。だが、すぐにスキルの効果が発動し、互いの視界がリンクする感覚が生まれる。彼女の視線に映る景色が、俺の意識に重なり合い、茂みの中に隠れた採取ポイントが一目で分かるようになった。

「すごい……やっぱり便利ですね、これ! あ、アオさん、右手側にある木の根元を見てください。たぶんそこに……」

「確かに、何か生えてるな。ありがとう、すぐ行ってみる」

 俺が指摘された場所に近づいていくと、そこには青く輝く小さな花が咲いていた。見たことのない珍しい植物だったが、試しに《精密採取》で回収してみると、イルナが目を輝かせる。

「それ! 多分、新しいポーションの材料に使えると思います! すごい発見です!」

 彼女の喜ぶ姿を見ていると、自分のスキルが少しでも役に立っていることを実感し、何ともいえない達成感が湧いてくる。だが、その穏やかな時間も束の間、森の奥から妙な音が聞こえてきた。

 ――ガサガサッ……。

 音の方向に目を向けると、茂みの陰から大きな影が現れる。体毛の薄い四足歩行の魔物が、牙をむき出しにしながらこちらを睨みつけていた。どうやら、この森を縄張りにしている獣型の魔物らしい。

「……来たか。皆、下がって!」

 俺は咄嗟にイルナやシェオラ、リーシェを後方に下がらせ、手元にダガーを構えた。獣の動きは鋭く、逃げようとする素振りはない。どうやら、完全にこちらを敵と認識しているようだ。

 だが、そのときだった。

 ――ふと胸の奥で、微かな熱を感じる。

 スキルが反応している――いや、正確には、“何かを得る予感”が胸を打った。これまでの経験から、それが次の“ユニークスキル”に繋がる瞬間だと直感できた。獣型の魔物がこちらに飛びかかってくる刹那、俺は心の中で力を呼び起こした。

「《七つの大罪》――来い!」

 その瞬間、視界が一瞬白く染まり、頭の中に強烈な閃光が走った。次に目を開けたとき、俺の胸の中には新たな力が刻まれていた。

《七つの大罪「怠惰」:Lv–》
このスキルは、戦闘時にすべての動作を“最小限の力で最大効率”に変換することができる。攻撃、回避、防御――あらゆる行動が自然と洗練され、敵の力を無効化するような動きすら可能となる。だが、発動中は“自分が何もしていないように見える”ため、周囲から誤解を招くこともある。

「……これは……?」

 得られた力に驚きながらも、試しに発動させると、自分の動きが異常なほど滑らかで無駄がないことに気づいた。獣型魔物の鋭い爪が迫るが、何の苦もなく身をかわし、そのまま自然な動きでダガーを突き出す。獣の急所に正確に突き刺さったのが分かり、次の瞬間には魔物が地面に崩れ落ちていた。

「……えっ?」

 イルナやシェオラが驚いたように俺を見ている。どうやら、俺が何をしたのか全く分からなかったらしい。だが、これが新たな力《怠惰》の効果なのだと俺は理解した。

「大丈夫、終わったよ」

 そう言って微笑むと、彼女たちはほっと胸をなでおろし、再び柔らかな空気が流れる。新たなスキルを手に入れた俺は、この力が次第に“魔王”としての自分を形作っていくのを感じつつも、それを彼女たちに悟られないよう、静かに息を整えた。

 ――そして、俺はまた一歩、魔王の座へと近づいていく。誰も知らない運命の旅路を進みながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...