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第一章 クエルカルーナでのはじめの一歩
第5話 冒険者稼業とエアリアの力
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朝食を終えた俺とエアリアは冒険者ギルドへ向かった。
そりゃ金稼がにゃうちのバカ食い精霊に破産させられてしまうわけで――
で、冒険者ギルドに到着して受付にいるはずのセリーナさんに昨日狩ったセルクスの買い取りをFランクの仕事斡旋をしてもらおうと思ったのだが、セリーナさんが見当たらなくてきょろきょろしていると、
「どうされましたか?」
と長身のすらっとしたギルド職員の制服を着た男の人に声をかけられた。大体俺と同じ目線だから180センチメートルくらいの身長だろうか。尖った耳をしているところを見るとこの人はエルフってところかな?――しかしこう美形でってだけでうらやましくなるな――
「あ、申し遅れました。僕はユリアン・アヴェリーと申します。見ての通りギルド職員をしております。種族もご覧の通りのエルフでございます」
と、ユリアンさんは優雅に一礼して自己紹介をしてきた。
再び顔を上げたユリアンさんは何というかバラを背負ってたりしそうな、そんな感じのする美形だった。
きっと年頃の女の子ならユリアンさんのこの挨拶ひとつでおちる人は一人や二人ではないだろう、そんな気がする。
「えっとセリーナさんを探していたのですが――」
「セリーナは今日休みでして、代わりに僕が対応させていただいても?」
「では、お願いします」
ということで、ユリアンさんにセルクスの買い取りとFランクの仕事斡旋をお願いすることにした。
「では、買い取りの品を――エ?」
ユリアンさんが皆まで言う前に、エアリアがマジック収納庫からセルクスの屍を取りだしたセルクスを「台に乗らないから下でいいよね?」と「ドン」という効果音が似合いそうな感じで床に置いたところ、ユリアンさんがその場で固まってしまった。
セルクス改めて見るとでかいやつだよな――しかもこんなのを愛車で轢いて一発で仕留めるとか――俺も俺で――
当然というかなんというか、ギルドホールもシーンと静まり返って――
そして、さらに上からドドドドド……という音と主にギルマスのエイナ女史が走って降りてきた――なんか昨日も同じことあったな――と呑気にギルマスを見ると、そのギルマスと目が合い、そしてギルマスの目が床に転がっているセルクスの屍をとらえた――
「こ、これ、いったい誰がこのまま持ってきたの?――って、あなたたちしかいないわね――」
と額に手を当てて物凄ーく疲れた顔をするギルマス――
俺はエアリアに言われるままにセルクス倒して持ってきただけなんですけど――
ということで、昨日ぶりのギルマスの部屋――
今日のドア当番は表情が呆けたままのユリアンさん。
そして、俺の左側には先ほど5人前の朝食を食ったはずのに目の前に出されたクッキーをこれまた口の周りにクッキーカスをつけながら幸せそうに食いまくってるエアリア、そして目の前には腕組みをしながら何やら難しい顔をしているギルマス――
「雄太クン、あなた、セルクスなんてどうやって倒したの?――」
しばらくこの部屋を支配していたエアリアの幸せそうにクッキーを頬張る音に、ギルマスの声が加わった。つか、クン付けですか――
しかし「どうやって倒した」って言われましても――車で轢いたなんて言っても、たぶん理解してもらえないんだろうな――エアリアをちらりと見ると、エアリアが手に持ってたクッキー全部を口の中に放り込んで、マジック収納庫を開けようとしていたので全力で止めて「エアリアの力を借りて仕留めた」ということにしておいた。
「そういえば雄太クンにはエアリア様が付いていたっけねえ――」
ん? エアリア様?――
俺は様付けで呼ばれたエアリアをちらりと見る。
――コイツが「さま」?――
思わず吹き出しそうになるのを必死でこらえて、
「は、はい。私はエアリアと契約してまして――」
と営業トークっぽく一人称を「俺」から「私」に変えてみたのだが――
「雄太が「わたし」なんて言ってる! 俺でいいじゃん、何畏まってんの?」
とエアリアが腹抱えて笑っている。口にクッキーカスつけたままで――
――つか、お前が「エアリア様」って方が笑えるんだけどな――
「ま、まあ一人称は置いておいて――」とギルマス。
置いておかれてしまった――
「まあ、エアリア様の力を借りてっていうことで納得はしました――」
とギルマスがうまくまとめてくれたのに、エアリアが「それ違うよ」と否定してしまった。
いや、ここはその方向でうまく纏まってくれた方が――とエアリアを見ると、なぜかエアリアが俺に右目でウィンクしてきた。
なんだ?――と思ったら、
「セルクスはね、雄太がエイヤってやっつけたんだよ。それも一撃で!」
とエアリアが空手の正拳突きのそぶりを見せる。
はい、ユリアンさんも含めて一同がポカン――そして「ナイナイ」と声としぐさで答える。
「ア、アハハ――」
いや、もう笑うしかない――
しかし、エアリアはユリアンさんとギルマスの「ナイナイ」が気に入らなかったのか、それこそ「ゴゴゴ……」とでも効果音が付くようにエアリアの目が座ってきて、
「雄太はあなたたちが思ってるほど弱くないんだからね!」
と腕組みをしながら言うエアリア。
途端にギルマスとユリアンさんがその場で顔を青ざめさせて固まる。
「雄太は強いの! わかった?」
とエアリアが腕組みしたままで言うと、ギルマスもユリアンさんも「Yes, Sir!!」となぜか右手で敬礼までして返事をした。ユリアンさんに至ってはびしっと気を付けの姿勢までして敬礼をしている――つか、なぜに敬礼?――
エアリアが引っ掻き回したというか、エアリアの一人勝ちというか、そんな感じでセルクスの売却は適正価格で行われた。
「雄太さん、こちらがセ●クスの代金になります」
ユリアンさんが言い間違えた。そう、それはまさに至高のくんずほぐれつな――
そんでユリアンさんの言い間違いにサッと体をユリアンさんから遠ざけて両腕で胸を覆い隠くしながらユリアンさんをジト目で見るギルマス――
「セルクスです、セルクス!」
ユリアンさん――なんつーか、お疲れ様です――
「と、とにかく――ですね。セルクスの状態が非常によろしかったことから――」
「私がそんなによかったの?――」
とまぜっかえすギルマス。
そんなギルマスをジト目で見るユリアンさん。美形がジト目してもやっぱり美形ってのは――負けた……
「そんなだからギルマス結婚できないんじゃないんですか?――」
「ちょっ! それは言ったらだめなやつでしょぉぉおおおおお!?」
とユリアンさんの突っ込みに顔を真っ赤にして逆切れするギルマス――
「ふーん、レイナって結婚してないんだ――」
そしてニヤニヤしながら火に油を注ぐ風の精霊エアリア――
「ちょっと! あなたの契約精霊でしょうが! 何とかしなさいよ!」
と、なぜかその怒りが俺に飛び火してくる。勘弁してくださいよ――
とにもかくにも、俺たちはセルクスを売って、大銀貨5枚と銀貨20枚、銅貨55枚を受け取った。日本円に換算すると大銀貨1枚が100万、銀貨1枚が10万、銅貨1枚が100円程度であることは車の中でエアリアに聞いていたので、それで計算すると約520万5500円を受け取ったことになる。いきなり大金持ちになった気分ではあるんだけれども、ギルマスに聞くと武器や防具、それに各種ポーションなどを用意しておくことが冒険者としての鉄則でもあるらしく、そうなるとそんなに大金持ちというわけではなさそうだ。
Fランクの仕事も斡旋はしてもらったけれども基本薬草採取が多い。ただ、今回のセルクス討伐の件も踏まえるとすぐにEランクには上がるだろうといわれた。
で、今回討伐したセルクスだけれどもDランクの魔物だという。けど、そのDランクの魔物を車で1回跳ねただけでアレなのだから俺の愛車はチートにもほどがあるということになるのだろう。移動にはかなり便利であることは間違いはないことなのだけど――
☆☆☆ ☆☆☆
「雄太ー、これでいいのー?」
エアリアが草を手に俺のところに走ってやってくる。
俺はその草を確認する。
「そうだな、これでいいよ」
「わかったー! じゃあここに置いておくねー」
目的の薬草であることを確認するとエアリアがニカッと笑胃ながらその薬草を俺が手元にまとめている床に置くと、再び薬草を取ったところに走って戻っていく。
実は同じことをこれで20回繰り返しているエアリア。元気いいなと思うが、実は具現化したエアリアはぶっちゃけ余りある俺の魔力を食いながら存在していたりする。まあ具現化しても俺にとっては微減の状態ではあるんだが、普通の人にとっては異常なことらしい。
けどまあ、何というか――
「雄太―、これでいいのー?」
「これでいいよ――」
「わかったー! じゃあここに置いておくねー」
リフレイン――
いい加減覚えろや、ポンコツ精霊――
いや、まあこのポンコツさが可愛いっちゃ可愛いんだが、うざいっちゃうざかったりもする。
そんなことを繰り返しているうちに必要以上の薬草が手に入っていた。
「エアリア―、もういいぞー!」
俺がエアリアに声をかけると、
「わかったー! 雄太―! これでいいのー?」
ええ加減覚えてくれや、割とマジで――まあ終わりだからいいけどさあ――
とにもかくにも、余ったやつでポーション作れるんなら自分で持っておいた方が何かと役に立つかもな。エアリアに聞いてみるか――
「雄太―! もう終わりー?」
だから、そういうたやんか!――
けどなんつーかこう、エアリアすごいはしゃいでんだよな――最初は薬草採取なんてイヤだ―とか言ってたのにな――
まあ、どんな仕事でも楽しくできることはいいことだよ。
「そう、終わりだ。なあエアリア、必要分よりも多く取っちゃったんだけどさ、この余りでポーションとか作れるんかな?――」
そう俺が聞いてみると、エアリアは右手の人差し指を顎先に当てて「んー……」と考えている。
――やっぱ無理か?――
「えっとね――雄太が調剤のスキルを持ってたらできるよ?――」
――調剤のスキルか――
俺が「ステータスオープン」というと、目の前に半透明の青っぽい画面のようなものが開く。その中のスキルのページを開いてみると、すでにいくつかのスキルを覚えていたようだ。
・自動車運転 → 岡崎雄太限定の固有スキル
・カーシールド → 岡崎雄太限定固有スキル。雄太使用の自動車に結界を張りバリア効果を発生する
・カーナビ誘導 → 岡崎雄太限定固有スキル。雄太使用の自動車搭載のカーナビをアルデリア仕様にする
・マナ燃料化 → 岡崎雄太限定固有スキル。雄太使用の自動車の燃料をマナで賄うようにする。
・風の魔法<下級> → エアブラスト、ウィンドスウィープ、エアシールドが使用可能
・風の精霊具現化 → 契約中のエアリアの具現化
・風の精霊具現化大 → 契約中のエアリアを人間サイズで具現化
・薬草採取1 → 小範囲内でどれが薬草かを検視できる。
・剣技1 → 剣技のレベル1
・防御1 → 防御のレベル1
と続いていって、次のページがあるらしいので、ページを切り替えてみると、
・調剤1 → 薬草で下級傷治療ポーションを作ることができる
「あ、あった!」
調剤1かぁ。傷治療ポーション。下級であってもあると便利だろうな。
とりあえずこれでポーションも作ることができることが分かった。まあ下級の傷治療だけども、ないより全然マシだ――
「エアリア、帰ったらポーションを作ってみようと思う」
「雄太作れるようになってたんだ!」
「まあ、下級の傷治療ポーションだけなんだけどな――」
「でもすごいよ! やったね、雄太!」
「まだ作ってないんだけどな――」
「あ、そういやそうだね」
と、エアリアはキャハハと笑った。
そんな時だった。誰かの視線を感じた。それもあまりよろしくはない感じの――
俺が感じた嫌な視線はエアリアも感じたようで、即座に臨戦態勢に入った。
その嫌な視線の元が視界に入ってきた。
そして、その相手が俺たちに築いたようでその相手、2人と男と1人の女の中の大剣を背中に背負っている1人が嫌らしい笑みを浮かべた。
「おやあ? 雄太君じゃないかあ。キミ、風の精霊と契約したんだってー?」
大剣の男はニタニタといやらしく笑いながら俺たちに近づいて来たので、俺はすぐにエアリアの前に出てエアリアを守る体制を取った。といっても格闘技すらやったことのない俺。運動神経はそこそこあるとは思うんだけれども、この異世界では赤子をひねるようなものかもしれないとも思ったのだが、やはり女を守ろうとするのが男の性だったりもするからなあ――
「おやおや、精霊相手に王子様気取りかなあ?」と、背中にしょっていた大剣を肩にかけて近づいてくる大男。
「ヒャヒャヒャヒャ――触れる精霊って早々居ないですからねえ」と、向かって右側にいる弓を構えながら近づいてくるエルフ男。
「そんなに大事ならあたいたちに見えないところに隠さなきゃだめだよ、オニイチャン」と、出した爪をなめながら同様に近づいてくる獣人の女。
こいつら、いったいなんなんだ?
俺は「さすがにこれだけは持っておいた方がいい」とギルマスにもらった短剣を抜いて臨戦態勢を取った。
その時だった。
――ヒュッ――
何かが風を切って飛んできたと思ったら、短剣を握っていた右腕上腕部に矢が刺さった。
「いってー!」
思わず叫んださらに、獣人族の女が異常な速度で走り寄ってきたと思ったら、出した爪で攻撃を仕掛けてきたので何とか逃げようとしたのだが、爪が左肩をかすめて、そこから血が飛んだ。
あまりの痛さに声すら出なくなった俺――
このまま俺はここで死ぬのかな――
俺が死んだらエアリアはどうなるんだろう――
と、俺がエアリアに目をやった時、エアリアの体が緑色に光った。
「あなたたち、よくもアタシの雄太にケガさせたね!――」
そんな怒号が聞こえた次の瞬間――
エアリアは3人に向けて突き出した左手から竜巻を横に倒したようなそんな空気の流れを見えて、そしてすぐにその風が敵3人を覆った。
「なんだこれは!?」
「逃げろ!」
「死ぬのはイヤァ!」
3人それぞれの声が聞こえたような気がした次の瞬間、3人それぞれのシルエットに白い風がまとわりついて、そして持っていた武器ごと三人全員が霧散した。
そう、俺を攻撃してきた3人は、跡形もなく消えてしまったのだ。
俺にとって初めての対人戦――
日本にいた時でさえ、対人戦なんてやったことないし、そもそも格闘技すらやったことのない俺にとって、文字通り初めての敵だった人間――
その人間が一人の精霊を怒らせたことでその存在自体がなかったかのように消し去られてしまった。
もしかしたら3人には家族がいたかもしれない――
もしかしたらそれぞれに大事な人がいたかもしれない――
俺は、エアリアはこれからどうなるのだろうか――
そんな感情や思考が目まぐるしく頭の中を駆け巡り、そして俺は何とか繋ぎとめていた意識を手放したのだった。
そりゃ金稼がにゃうちのバカ食い精霊に破産させられてしまうわけで――
で、冒険者ギルドに到着して受付にいるはずのセリーナさんに昨日狩ったセルクスの買い取りをFランクの仕事斡旋をしてもらおうと思ったのだが、セリーナさんが見当たらなくてきょろきょろしていると、
「どうされましたか?」
と長身のすらっとしたギルド職員の制服を着た男の人に声をかけられた。大体俺と同じ目線だから180センチメートルくらいの身長だろうか。尖った耳をしているところを見るとこの人はエルフってところかな?――しかしこう美形でってだけでうらやましくなるな――
「あ、申し遅れました。僕はユリアン・アヴェリーと申します。見ての通りギルド職員をしております。種族もご覧の通りのエルフでございます」
と、ユリアンさんは優雅に一礼して自己紹介をしてきた。
再び顔を上げたユリアンさんは何というかバラを背負ってたりしそうな、そんな感じのする美形だった。
きっと年頃の女の子ならユリアンさんのこの挨拶ひとつでおちる人は一人や二人ではないだろう、そんな気がする。
「えっとセリーナさんを探していたのですが――」
「セリーナは今日休みでして、代わりに僕が対応させていただいても?」
「では、お願いします」
ということで、ユリアンさんにセルクスの買い取りとFランクの仕事斡旋をお願いすることにした。
「では、買い取りの品を――エ?」
ユリアンさんが皆まで言う前に、エアリアがマジック収納庫からセルクスの屍を取りだしたセルクスを「台に乗らないから下でいいよね?」と「ドン」という効果音が似合いそうな感じで床に置いたところ、ユリアンさんがその場で固まってしまった。
セルクス改めて見るとでかいやつだよな――しかもこんなのを愛車で轢いて一発で仕留めるとか――俺も俺で――
当然というかなんというか、ギルドホールもシーンと静まり返って――
そして、さらに上からドドドドド……という音と主にギルマスのエイナ女史が走って降りてきた――なんか昨日も同じことあったな――と呑気にギルマスを見ると、そのギルマスと目が合い、そしてギルマスの目が床に転がっているセルクスの屍をとらえた――
「こ、これ、いったい誰がこのまま持ってきたの?――って、あなたたちしかいないわね――」
と額に手を当てて物凄ーく疲れた顔をするギルマス――
俺はエアリアに言われるままにセルクス倒して持ってきただけなんですけど――
ということで、昨日ぶりのギルマスの部屋――
今日のドア当番は表情が呆けたままのユリアンさん。
そして、俺の左側には先ほど5人前の朝食を食ったはずのに目の前に出されたクッキーをこれまた口の周りにクッキーカスをつけながら幸せそうに食いまくってるエアリア、そして目の前には腕組みをしながら何やら難しい顔をしているギルマス――
「雄太クン、あなた、セルクスなんてどうやって倒したの?――」
しばらくこの部屋を支配していたエアリアの幸せそうにクッキーを頬張る音に、ギルマスの声が加わった。つか、クン付けですか――
しかし「どうやって倒した」って言われましても――車で轢いたなんて言っても、たぶん理解してもらえないんだろうな――エアリアをちらりと見ると、エアリアが手に持ってたクッキー全部を口の中に放り込んで、マジック収納庫を開けようとしていたので全力で止めて「エアリアの力を借りて仕留めた」ということにしておいた。
「そういえば雄太クンにはエアリア様が付いていたっけねえ――」
ん? エアリア様?――
俺は様付けで呼ばれたエアリアをちらりと見る。
――コイツが「さま」?――
思わず吹き出しそうになるのを必死でこらえて、
「は、はい。私はエアリアと契約してまして――」
と営業トークっぽく一人称を「俺」から「私」に変えてみたのだが――
「雄太が「わたし」なんて言ってる! 俺でいいじゃん、何畏まってんの?」
とエアリアが腹抱えて笑っている。口にクッキーカスつけたままで――
――つか、お前が「エアリア様」って方が笑えるんだけどな――
「ま、まあ一人称は置いておいて――」とギルマス。
置いておかれてしまった――
「まあ、エアリア様の力を借りてっていうことで納得はしました――」
とギルマスがうまくまとめてくれたのに、エアリアが「それ違うよ」と否定してしまった。
いや、ここはその方向でうまく纏まってくれた方が――とエアリアを見ると、なぜかエアリアが俺に右目でウィンクしてきた。
なんだ?――と思ったら、
「セルクスはね、雄太がエイヤってやっつけたんだよ。それも一撃で!」
とエアリアが空手の正拳突きのそぶりを見せる。
はい、ユリアンさんも含めて一同がポカン――そして「ナイナイ」と声としぐさで答える。
「ア、アハハ――」
いや、もう笑うしかない――
しかし、エアリアはユリアンさんとギルマスの「ナイナイ」が気に入らなかったのか、それこそ「ゴゴゴ……」とでも効果音が付くようにエアリアの目が座ってきて、
「雄太はあなたたちが思ってるほど弱くないんだからね!」
と腕組みをしながら言うエアリア。
途端にギルマスとユリアンさんがその場で顔を青ざめさせて固まる。
「雄太は強いの! わかった?」
とエアリアが腕組みしたままで言うと、ギルマスもユリアンさんも「Yes, Sir!!」となぜか右手で敬礼までして返事をした。ユリアンさんに至ってはびしっと気を付けの姿勢までして敬礼をしている――つか、なぜに敬礼?――
エアリアが引っ掻き回したというか、エアリアの一人勝ちというか、そんな感じでセルクスの売却は適正価格で行われた。
「雄太さん、こちらがセ●クスの代金になります」
ユリアンさんが言い間違えた。そう、それはまさに至高のくんずほぐれつな――
そんでユリアンさんの言い間違いにサッと体をユリアンさんから遠ざけて両腕で胸を覆い隠くしながらユリアンさんをジト目で見るギルマス――
「セルクスです、セルクス!」
ユリアンさん――なんつーか、お疲れ様です――
「と、とにかく――ですね。セルクスの状態が非常によろしかったことから――」
「私がそんなによかったの?――」
とまぜっかえすギルマス。
そんなギルマスをジト目で見るユリアンさん。美形がジト目してもやっぱり美形ってのは――負けた……
「そんなだからギルマス結婚できないんじゃないんですか?――」
「ちょっ! それは言ったらだめなやつでしょぉぉおおおおお!?」
とユリアンさんの突っ込みに顔を真っ赤にして逆切れするギルマス――
「ふーん、レイナって結婚してないんだ――」
そしてニヤニヤしながら火に油を注ぐ風の精霊エアリア――
「ちょっと! あなたの契約精霊でしょうが! 何とかしなさいよ!」
と、なぜかその怒りが俺に飛び火してくる。勘弁してくださいよ――
とにもかくにも、俺たちはセルクスを売って、大銀貨5枚と銀貨20枚、銅貨55枚を受け取った。日本円に換算すると大銀貨1枚が100万、銀貨1枚が10万、銅貨1枚が100円程度であることは車の中でエアリアに聞いていたので、それで計算すると約520万5500円を受け取ったことになる。いきなり大金持ちになった気分ではあるんだけれども、ギルマスに聞くと武器や防具、それに各種ポーションなどを用意しておくことが冒険者としての鉄則でもあるらしく、そうなるとそんなに大金持ちというわけではなさそうだ。
Fランクの仕事も斡旋はしてもらったけれども基本薬草採取が多い。ただ、今回のセルクス討伐の件も踏まえるとすぐにEランクには上がるだろうといわれた。
で、今回討伐したセルクスだけれどもDランクの魔物だという。けど、そのDランクの魔物を車で1回跳ねただけでアレなのだから俺の愛車はチートにもほどがあるということになるのだろう。移動にはかなり便利であることは間違いはないことなのだけど――
☆☆☆ ☆☆☆
「雄太ー、これでいいのー?」
エアリアが草を手に俺のところに走ってやってくる。
俺はその草を確認する。
「そうだな、これでいいよ」
「わかったー! じゃあここに置いておくねー」
目的の薬草であることを確認するとエアリアがニカッと笑胃ながらその薬草を俺が手元にまとめている床に置くと、再び薬草を取ったところに走って戻っていく。
実は同じことをこれで20回繰り返しているエアリア。元気いいなと思うが、実は具現化したエアリアはぶっちゃけ余りある俺の魔力を食いながら存在していたりする。まあ具現化しても俺にとっては微減の状態ではあるんだが、普通の人にとっては異常なことらしい。
けどまあ、何というか――
「雄太―、これでいいのー?」
「これでいいよ――」
「わかったー! じゃあここに置いておくねー」
リフレイン――
いい加減覚えろや、ポンコツ精霊――
いや、まあこのポンコツさが可愛いっちゃ可愛いんだが、うざいっちゃうざかったりもする。
そんなことを繰り返しているうちに必要以上の薬草が手に入っていた。
「エアリア―、もういいぞー!」
俺がエアリアに声をかけると、
「わかったー! 雄太―! これでいいのー?」
ええ加減覚えてくれや、割とマジで――まあ終わりだからいいけどさあ――
とにもかくにも、余ったやつでポーション作れるんなら自分で持っておいた方が何かと役に立つかもな。エアリアに聞いてみるか――
「雄太―! もう終わりー?」
だから、そういうたやんか!――
けどなんつーかこう、エアリアすごいはしゃいでんだよな――最初は薬草採取なんてイヤだ―とか言ってたのにな――
まあ、どんな仕事でも楽しくできることはいいことだよ。
「そう、終わりだ。なあエアリア、必要分よりも多く取っちゃったんだけどさ、この余りでポーションとか作れるんかな?――」
そう俺が聞いてみると、エアリアは右手の人差し指を顎先に当てて「んー……」と考えている。
――やっぱ無理か?――
「えっとね――雄太が調剤のスキルを持ってたらできるよ?――」
――調剤のスキルか――
俺が「ステータスオープン」というと、目の前に半透明の青っぽい画面のようなものが開く。その中のスキルのページを開いてみると、すでにいくつかのスキルを覚えていたようだ。
・自動車運転 → 岡崎雄太限定の固有スキル
・カーシールド → 岡崎雄太限定固有スキル。雄太使用の自動車に結界を張りバリア効果を発生する
・カーナビ誘導 → 岡崎雄太限定固有スキル。雄太使用の自動車搭載のカーナビをアルデリア仕様にする
・マナ燃料化 → 岡崎雄太限定固有スキル。雄太使用の自動車の燃料をマナで賄うようにする。
・風の魔法<下級> → エアブラスト、ウィンドスウィープ、エアシールドが使用可能
・風の精霊具現化 → 契約中のエアリアの具現化
・風の精霊具現化大 → 契約中のエアリアを人間サイズで具現化
・薬草採取1 → 小範囲内でどれが薬草かを検視できる。
・剣技1 → 剣技のレベル1
・防御1 → 防御のレベル1
と続いていって、次のページがあるらしいので、ページを切り替えてみると、
・調剤1 → 薬草で下級傷治療ポーションを作ることができる
「あ、あった!」
調剤1かぁ。傷治療ポーション。下級であってもあると便利だろうな。
とりあえずこれでポーションも作ることができることが分かった。まあ下級の傷治療だけども、ないより全然マシだ――
「エアリア、帰ったらポーションを作ってみようと思う」
「雄太作れるようになってたんだ!」
「まあ、下級の傷治療ポーションだけなんだけどな――」
「でもすごいよ! やったね、雄太!」
「まだ作ってないんだけどな――」
「あ、そういやそうだね」
と、エアリアはキャハハと笑った。
そんな時だった。誰かの視線を感じた。それもあまりよろしくはない感じの――
俺が感じた嫌な視線はエアリアも感じたようで、即座に臨戦態勢に入った。
その嫌な視線の元が視界に入ってきた。
そして、その相手が俺たちに築いたようでその相手、2人と男と1人の女の中の大剣を背中に背負っている1人が嫌らしい笑みを浮かべた。
「おやあ? 雄太君じゃないかあ。キミ、風の精霊と契約したんだってー?」
大剣の男はニタニタといやらしく笑いながら俺たちに近づいて来たので、俺はすぐにエアリアの前に出てエアリアを守る体制を取った。といっても格闘技すらやったことのない俺。運動神経はそこそこあるとは思うんだけれども、この異世界では赤子をひねるようなものかもしれないとも思ったのだが、やはり女を守ろうとするのが男の性だったりもするからなあ――
「おやおや、精霊相手に王子様気取りかなあ?」と、背中にしょっていた大剣を肩にかけて近づいてくる大男。
「ヒャヒャヒャヒャ――触れる精霊って早々居ないですからねえ」と、向かって右側にいる弓を構えながら近づいてくるエルフ男。
「そんなに大事ならあたいたちに見えないところに隠さなきゃだめだよ、オニイチャン」と、出した爪をなめながら同様に近づいてくる獣人の女。
こいつら、いったいなんなんだ?
俺は「さすがにこれだけは持っておいた方がいい」とギルマスにもらった短剣を抜いて臨戦態勢を取った。
その時だった。
――ヒュッ――
何かが風を切って飛んできたと思ったら、短剣を握っていた右腕上腕部に矢が刺さった。
「いってー!」
思わず叫んださらに、獣人族の女が異常な速度で走り寄ってきたと思ったら、出した爪で攻撃を仕掛けてきたので何とか逃げようとしたのだが、爪が左肩をかすめて、そこから血が飛んだ。
あまりの痛さに声すら出なくなった俺――
このまま俺はここで死ぬのかな――
俺が死んだらエアリアはどうなるんだろう――
と、俺がエアリアに目をやった時、エアリアの体が緑色に光った。
「あなたたち、よくもアタシの雄太にケガさせたね!――」
そんな怒号が聞こえた次の瞬間――
エアリアは3人に向けて突き出した左手から竜巻を横に倒したようなそんな空気の流れを見えて、そしてすぐにその風が敵3人を覆った。
「なんだこれは!?」
「逃げろ!」
「死ぬのはイヤァ!」
3人それぞれの声が聞こえたような気がした次の瞬間、3人それぞれのシルエットに白い風がまとわりついて、そして持っていた武器ごと三人全員が霧散した。
そう、俺を攻撃してきた3人は、跡形もなく消えてしまったのだ。
俺にとって初めての対人戦――
日本にいた時でさえ、対人戦なんてやったことないし、そもそも格闘技すらやったことのない俺にとって、文字通り初めての敵だった人間――
その人間が一人の精霊を怒らせたことでその存在自体がなかったかのように消し去られてしまった。
もしかしたら3人には家族がいたかもしれない――
もしかしたらそれぞれに大事な人がいたかもしれない――
俺は、エアリアはこれからどうなるのだろうか――
そんな感情や思考が目まぐるしく頭の中を駆け巡り、そして俺は何とか繋ぎとめていた意識を手放したのだった。
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侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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