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1章
1話 ここから始まる!!…はず?
しおりを挟むこの世界には、人間の他に様々な種類が生息している。動物やモンスターはもちろん、獣人や精霊、幽霊から妖怪まで人間の生み出した概念的存在が実在する世界だ。
これは、そんな世界で私、ヒアラが相棒のキュアーや仲間と共に最高の探索者になる物語だ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やばいやばいやばい…今日だけは絶対に遅刻できないのに!」
雑にかきあげた髪をお団子に結び玄関へ走る。今日は高校の卒業式だ
「ヒアラ、昨日担任に『明日遅刻したやつはそのまま卒業も取り消すからな!』って言われてなかった~?」
にやけ顔で隣に並び顔を伺ってくる少女は精霊のキュアー。精霊といってもキュアーの見た目は人間と何も変わらない。魔力とかは使えるけど羽もなければ体も透けてないタイプの精霊だ。
私が幼い頃、ちょっとした事故にあった時に遭遇してからずっと一緒にいる精霊…らしい。お父さんにそう言われた。
私と一緒に成長し身長や見た目もちゃんと変わる。よくラノベやアニメに出てくるような精霊では無い。
「もう、茶化さないでよ。あいつはまじでやりそうだからシャレにならないって。」
家を出てからもニヤニヤしながら見てくるキュアーはなんか…いつもよりうざい気がする
「あんたの方の担任は女の先生で優しいから羨ましいよ」
「しょーこちゃんは悪い生徒にはちゃんと厳しいよぉ?私が優秀だ・か・ら!」
そうそう、キュアーも私と同じ高校に通ってる。クラスが違うから担任の話でよく盛り上がっていた
「…時間どう?」
「ちょい急げば間に合うと思う。」
「あんたの急ぎってまさか…」
腕時計から顔を上げたキュアーの視線の先には通学路はなく、遠くに天井が少し見える学校とその手前の、住宅街。
目を合わせまたニヤッと笑うキュアー。
「じゃ、行こうか。着いてこれるかなぁ!?」
勢いよく土手の塀に飛び上がり住宅街の屋根に飛び移ったキュアーの身のこなしはまるで鳥のようだ。風に舞い、艶をなびかせる金髪の長い髪はどこか儚さを感じそうなほどの透明感があった。
しかし見惚れるのは一瞬、今はそれどころじゃない。瞬く間に一軒、また一軒と屋根から屋根へ飛び移るキュアーに置いていかれる訳にはいかない。
「今日こそ勝ってやるんだからー!」
私だって黙って置いていかれるわけが無い。小さい頃からこのような出来事は何度もあった。負けず嫌いの私は小学生の頃からずっと食らいつくために屋根から屋根へ命知らずな飛び込みを繰り返してきた。
おかげで今では、電車の窓から外を眺めた時の、屋根から屋根へ飛ぶ忍者のようなレベルで走れるようになっているのだ!
勢いよく塀に飛び上がりキュアーの後を追う。
「高校3年間新体操部で鍛えた私を舐めるなぁー!!」
・・・・・今日、人生の節目を迎える。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キーンコーンカーンコーンとさよならを咽び泣くような古いチャイムの音は絶対に泣かないと決めていた2人の涙腺を的確に刺激していた
「うぅ、私ぜっだいながないっで思っでだのに…」
「もぅ…グスンっ、みんなが泣くからもらい泣きしただけだもんね!」
ボロボロと泣きじゃくるキュアー。負けじと強がる私の言動が、結局学校への競走で負けたことに対するやり返しのつもりだったことは内緒にしておこう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あー!楽しかった!みんなともお別れかぁ…。…それにしても、ちゃんと卒業出来たね、鹿児島県唯一の探検学科だったから、ほんとによかったよ」
卒業式の後、友達と最後の遊びに行ってきた2人は帰路に着きながら振り返る。
あたりはすっかり暗くなり月がきれいに見えている。
「そうだね、ヒアラが絶対ここに行くって言い出した時はお父さんも驚いてたけど…」
話していた途中でキュアーは何かを感じる。平和な時間は突然終わりを告げる。
「きゃぁぁぁああ!!!」
どこからか女性の悲鳴が聞こえた。
耳を劈くような事件性のある悲鳴。方向はすぐにわかった。
「ヒアラ!」
「分かってる!」
走り出した2人が急いで現場に駆けつけると、路地裏で倒れた男性を抱きながら泣く女性とその奥に逃げる男の背中を見つけた。
「キュアーは2人を看て!私があいつを追うわ!」
「わかった!私もすぐ向かうから無理しないでね!」
心配性のキュアーを後に男性を追う
男は路地から大通りに出ようとしていた
「そうはさせないよっ!」
狭い路地の壁を蹴って屋根から上を取ると
自慢のスピードで大きく回り込む
お気に入りのサイハイソックスに忍ばせた棒を取り連結させる。
「また君の出番だよっ!悪いやつは許さないんだから!」
男が大通りに差し掛かる寸前、槍のような武器を持って上から奇襲をかける
「はぁっ!」
大きく振り下ろされた槍の直撃を食らった男は大きな奇声をあげた後、その場に静かに倒れた。
「あれ?やばい?もしかしてやっちゃった!?」
「いや、大丈夫!脳震盪で気絶してるだけだよ」
遠くから走って追いかけてきたキュアーが男を見ながら言う。キュアーは精霊なので夜目も効くし、遠くの人間の状態もよく分かるらしい
「はぁぁ…良かった。殺人犯になっちゃうかと思ったよ。」
「ヒアラは人を手にかけるような度胸もなければ技量もないから安心しな~?」
「ちょっと!度胸は欲しくもないけど技量はあるでしょ!いや!そんな技量あっても嬉しくないけど!」
「感情がラビリンスに入ってるよ?大丈夫?」
「もう、うるさい!さっさと警察に連絡して!」
「はいはい~、山田さん今日出勤してるかな~?」
スマホを操作しながらキュアーが呼んでいる山田さんとは、鹿児島県警でいつもお世話になってる人だ。
そう、私たちが今みたいに不審者を退治するのは何も今に始まったことでは無い。実は高校に入ってすぐの頃にとあることがきっかけで不審者をやっつけたら警察に感謝の代わりにご飯を奢って貰えたのだ。それ以降積極的に不審者をやっつけたらすっかり仲良くなってしまった。山田さんは最初に奢ってくれた人だ。地域が管轄らしくいつも会うのだ
「もしもし、あっ!山田さん!あのですね、ーーーーーーーー」
20分後
「いやぁ、せっかく今日卒業式だったのに台無しにしちゃってごめんね!ありがとう!また奢るよ!いつも通り、他の警察には内緒にしてね…」
「あっれ~?山田さんちゃんと悪いことしてるって分かってるんだ?」
「そんなことは最初から分かってたけどさ、警察でもない女の子2人が毎回毎回不審者退治してるなんて警察としての面目が立たないんだって…だから許して?」
「ま、私たちはいいことしかないので全然大丈夫ですけどね~!」
キュアーは山田さんがいじりがいがあるとの事で大好きだ。でもこんなこともこれから先はなくなってしまう
「そういえばヒアラちゃんとキュアーちゃんは卒業したらあれだっけ、東京に行って探検家適正試験受けるんだよね?」
探検家適正試験とは、世界中に存在するまだ生態が確認できてない種族を探し政府の管理下に置くための記録活動を行う組織、探索者になるための試験だ。
まぁ、分かりやすく言えば幽霊や妖怪など、様々な種類がいる種族は生態から住む地域が異なるためどこに何が住んでるかを冒険して見つけてくる。って感じだ。
漫画やアニメでは異世界系でよく冒険者って言われてるカテゴリーかな?ギルドとかは無いんだけどね…
「そうですね、色々準備したらすぐにでも東京に行こうと思います。探検家適正試験に受かれば政府公認の職になるので手当で全国の宿泊施設の無料宿泊の権利とかもらえるので食費だけ何とかして行こうと思ってます」
「そうか…この3年散々お世話になったからな…少し寂しいけど、おじさんは若い芽の成長を見守りたい人だから止めないよ!」
「うぅ…山田ざぁ~んんん!!」
お昼に引き続き2度目のお別れになってしまいまたキュアーは泣いている。
「あ、そうだキュアーちゃん、君も気をつけなね?肉体のある精霊なんてこの世界どこ探してもなかなかいないと思うから悪い輩に狙われるかもしれない。くれぐれも油断しないように。」
「私ってそんなに激レアなんですか?正直自分でもそこら辺よく分かってないんですよねぇ。」
「そりゃあ激レアよ!超激レアでもいい!おじさんも最初に聞いた時はびっくりしたもんだ!」
「ふーん、私の事、欲しくなっちゃった?」
また悪い顔をしている。キュアーは上目遣いで山田さんを誘うような仕草を見せつける
「おいおい、おじさんをからかうんじゃないよ!ほらっ、もう暗いんだから早く帰りなさい。」
「はぁ~い。山田さんっ!またね!」
「はーい!何かあったらいつでも鹿児島に帰ってくるんだよ!」
すごく遠くになっても見切れるまで手を振り続ける山田さんを見てまたキュアーは半泣きしてた。
数日後ーーーーーーーーーーーーーーーー
「キュアー!荷物確認!」
「服よし!バッグよし!財布、スマホ…んー、、ん!!多分大丈夫!!」
曖昧な指差し確認を終えたキュアーと共に勢いよく家を出た2人。向かうは東京!
飛行機の出発の際にお互いの元クラスメイトが見送りに来てくれた件でキュアーがまた泣いてたのは言うまでもない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「着いたーー!!!とうきょぉおおおおお!!」
きた!きたきた!ついに来た!東京!
鹿児島では見たこともないような高層マンションが視界の限り続く都市!
人の量もすごい。鹿児島の1番混んでる駅が常にある感じだった
「鹿児島のショッピングモールの上の観覧車より高くない!?」
「ちょっと!あんまり大声でそーゆー事言わないで…恥ずかしい!」
「なんでよ!地元愛は無いのかー!?」
「それとこれとは別でしょ!?もう!ほらっ!早く都庁に行こう?探検課?ってとこから申請出来るみたいよ…っておーい!!」
スマホで色々調べながら歩いていたら少し目を離した隙にキュアーは隣からいなくなっている
「ねぇ!みて!鹿児島は全然いなかったのに!妖怪とか幽霊がいるよー!」
「え゛」
妖怪??幽霊!?なに!?やばいやばい鹿児島の方がそーゆーの多そうなのに滅多に見なかったよ!?
あーもうほんとじゃんすごいよもう歩道橋からバンジーとか立ち幅跳びみたいなことしてるよもう…下に行く時には消えてるけどあれが日常なのはかなり心臓に悪いよ…
これが…東京…都会…か…!
「ここから私たちの輝かしい未来の始まりじゃなかったの~!?!?」
ヒアラの声は人混みに揉まれ大空へ消えていった
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