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本編 第1章

死人に口なし。

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ドゴッ!!!!!!

生々しい音とともに電車は軽々と生を跳ね飛ばした。電車に飛ばされた生はクルクルと宙を舞い、そのまま落下し、ホームに強く叩きつけられた。

ホームが悲鳴に包まれる。

普通の人間なら電車と接触して跳ね飛ばされただけでも重傷を負うだろう。


だが、この男は違かった。

ムクッと立ち上がると先ほどの女性の元へ駆け寄り、うつむいたままの彼女の肩を掴んで顔を上げさせる。

「なんでこんな危ない事をしたんだ!!あと一歩で君は死ぬところだったんだぞ!?」
自分でもどの口が言っているんだと思いながらも、目の前で人を死なせる訳にはいけないという気持ちの方が強かった。

「私は仕事でミスをし、会社に大打撃を与えてしまい、職場には私の居場所なんて無いんです。おまけに頼れる親族も友達も居なくて…死のうと。」
女性はポタポタと涙を流しながら自分に起きた事を語った。

「君はまだ若いんだ。これから幾らでもやり直せるチャンスはあるはずだ!」

「は、はい…。」

「死んだらやり直せない。…世の中生きたくても死んでしまう人…そして、死にたくても死ねない人間だって居るんだ!!」

「死にたくても死ねない…?どういう人ですか?…それ。」
女性はその言葉にキョトンとしている。

自分の言った事の不自然さに今更気づく。

「…あ、いや。それはこっちの事情だわ、ゴメン。」
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