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第1章
3 初回はクリスマス③
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しばらくしたら、またチンと音が鳴ってピザが焼けたので、伊月はそれを皿に取り出してソファの前のテーブルへと運んでいった。
テーブルはソファ用のダイニングテーブルで、そこには先に、デパ地下で買ってきたチーズの盛り合わせとサラダが置いてある。
チキンの両面がこんがりいい色合いになってきた。
いったん油から取り上げて、少し温度を上げて仕上げにかかる。
「先輩、これ見てください、これ」
いつの間にか手にしていた二十センチくらいの箱を開けながら、伊月が言う。
どうやら、ソファの足下に置いていた自分の荷物から取り出してきたらしい。
「なんだ」
「じゃじゃーん、卓上クリスマスツリー!」
箱から出てきたのは、雪が降り積もったように白く化粧された小さなクリスマスツリー。金や赤の飾りがあちこちにくっついている。
「先輩の部屋、クリスマスっぽいもの何もないだろうなと思って、家から持ってきました」
「そんなのあるのか」
「去年買ったんです。これを飾ったら気持ちも上がるでしょ~?」
そう言って、伊月はそのツリーをテーブルの上にセットしに行った。
なぜわざわざクリスマスに誘われたのか、わかったような気がする。
ツリーまで準備してきてはしゃぐくらい、伊月はこういうのが好きなんだろう。
恐らくこれまでは彼氏や友達と過ごすことが多かったことだろうし、こういう楽しいはずの日を一人で過ごすのは淋しいのかもしれない。
「さて、できたぞ」
「わー!」
フライドチキンを運ぶのは伊月に託して、冷蔵庫を開けてシャンパンを取り出した。
「あ、そうだ。グラスが一人分しかないんだよな」
こちとら筋金入りの独身だ。食器を二人分買うなどということは離婚後一度もなく、一つずつがたくさんある、という状態だ。
一応シャンパングラスとワイングラスはあるから、これを伊月に使わせて……。
「私マグカップとかでもいいですよ」
「いや、お前がグラス使え。俺は普通のコップで飲むから」
「え~、ジェントルマーン! って、二つあるなら一個ずつ使えばいいじゃないですか」
俺の手にある二つのグラスを見た伊月が言う。
「いやでも、シャンパンとワインがあるだろ」
「いや独り占めは逆に気まずいんで、グラス使ってください!」
まあ、マグカップでもいい奴が、シャンパンとワインで使い分けたいなんて言わないか。
なんだか伊月って……。ホント求めてくることが少なくて、楽だ。
「カンパーイ! メリークリスマース!」
「乾杯」
寝ころべるようにと思って買った、三人掛けのソファ。そこにゆったりと並んで座り、グラスをカチンと当てて食事を開始した。
伊月はさっそくフライドチキンへと箸をのばし、左手の指先を添えて熱さを警戒するように遠慮がちにかぶりついた。
「んん!」
驚いた目でこちらを振り向き、もぐもぐしながら何度も頷く。
「そうか」
表情で十分に感想を伝えてくる伊月に、思わず笑ってしまった。
「チキン、カリサクでスパイシーでめっちゃおいしい……。先輩にこんな特技があったなんて」
「大学の頃ずっと飲食店でバイトしてたからな」
「えっ、バイトする余裕あったんですか!? 神か……。私なんて課題に追われて……」
「ちょっとわかる気がする」
「失礼な」
伊月は、能動的にやりたいと感じた仕事は抜群に手が早いが、あまり興味のない仕事を割り当てられると途端に進みが悪くなるところがある。
大学の課題などは、さぞバラツキがあっただろうと容易に推測できる。
「そうだ、何か足りないと思ったら、音楽だ! 音楽かけましょ~」
「手を汚す前に思い出してほしかったな」
俺は仕方なく立ち上がって手を洗いに行き、タブレットを持ってきてクリスマスソングのプレイリストを再生した。
ゴージャスで豊かな音色に乗って、深みのある男性の英語が流れ出す。
「おおー、いいですね、雰囲気出る~! なんか楽しいなー。お家パーティー最高ですね」
「お前は好きそうだな」
「え、先輩嫌いですか?」
「嫌いというか、クリスマス自体を長年やってないから慣れなくて、ただただお前のテンションに驚いてる」
「あっはは! でもたぶん、楽しいのは理雄先輩とだからですよ」
「は?」
「だって気楽じゃないですか~。なんていうか、お互いが精神的に独立してるって、対等でいいですよね……」
そう言って、伊月ははぁっとため息をついた。
テーブルはソファ用のダイニングテーブルで、そこには先に、デパ地下で買ってきたチーズの盛り合わせとサラダが置いてある。
チキンの両面がこんがりいい色合いになってきた。
いったん油から取り上げて、少し温度を上げて仕上げにかかる。
「先輩、これ見てください、これ」
いつの間にか手にしていた二十センチくらいの箱を開けながら、伊月が言う。
どうやら、ソファの足下に置いていた自分の荷物から取り出してきたらしい。
「なんだ」
「じゃじゃーん、卓上クリスマスツリー!」
箱から出てきたのは、雪が降り積もったように白く化粧された小さなクリスマスツリー。金や赤の飾りがあちこちにくっついている。
「先輩の部屋、クリスマスっぽいもの何もないだろうなと思って、家から持ってきました」
「そんなのあるのか」
「去年買ったんです。これを飾ったら気持ちも上がるでしょ~?」
そう言って、伊月はそのツリーをテーブルの上にセットしに行った。
なぜわざわざクリスマスに誘われたのか、わかったような気がする。
ツリーまで準備してきてはしゃぐくらい、伊月はこういうのが好きなんだろう。
恐らくこれまでは彼氏や友達と過ごすことが多かったことだろうし、こういう楽しいはずの日を一人で過ごすのは淋しいのかもしれない。
「さて、できたぞ」
「わー!」
フライドチキンを運ぶのは伊月に託して、冷蔵庫を開けてシャンパンを取り出した。
「あ、そうだ。グラスが一人分しかないんだよな」
こちとら筋金入りの独身だ。食器を二人分買うなどということは離婚後一度もなく、一つずつがたくさんある、という状態だ。
一応シャンパングラスとワイングラスはあるから、これを伊月に使わせて……。
「私マグカップとかでもいいですよ」
「いや、お前がグラス使え。俺は普通のコップで飲むから」
「え~、ジェントルマーン! って、二つあるなら一個ずつ使えばいいじゃないですか」
俺の手にある二つのグラスを見た伊月が言う。
「いやでも、シャンパンとワインがあるだろ」
「いや独り占めは逆に気まずいんで、グラス使ってください!」
まあ、マグカップでもいい奴が、シャンパンとワインで使い分けたいなんて言わないか。
なんだか伊月って……。ホント求めてくることが少なくて、楽だ。
「カンパーイ! メリークリスマース!」
「乾杯」
寝ころべるようにと思って買った、三人掛けのソファ。そこにゆったりと並んで座り、グラスをカチンと当てて食事を開始した。
伊月はさっそくフライドチキンへと箸をのばし、左手の指先を添えて熱さを警戒するように遠慮がちにかぶりついた。
「んん!」
驚いた目でこちらを振り向き、もぐもぐしながら何度も頷く。
「そうか」
表情で十分に感想を伝えてくる伊月に、思わず笑ってしまった。
「チキン、カリサクでスパイシーでめっちゃおいしい……。先輩にこんな特技があったなんて」
「大学の頃ずっと飲食店でバイトしてたからな」
「えっ、バイトする余裕あったんですか!? 神か……。私なんて課題に追われて……」
「ちょっとわかる気がする」
「失礼な」
伊月は、能動的にやりたいと感じた仕事は抜群に手が早いが、あまり興味のない仕事を割り当てられると途端に進みが悪くなるところがある。
大学の課題などは、さぞバラツキがあっただろうと容易に推測できる。
「そうだ、何か足りないと思ったら、音楽だ! 音楽かけましょ~」
「手を汚す前に思い出してほしかったな」
俺は仕方なく立ち上がって手を洗いに行き、タブレットを持ってきてクリスマスソングのプレイリストを再生した。
ゴージャスで豊かな音色に乗って、深みのある男性の英語が流れ出す。
「おおー、いいですね、雰囲気出る~! なんか楽しいなー。お家パーティー最高ですね」
「お前は好きそうだな」
「え、先輩嫌いですか?」
「嫌いというか、クリスマス自体を長年やってないから慣れなくて、ただただお前のテンションに驚いてる」
「あっはは! でもたぶん、楽しいのは理雄先輩とだからですよ」
「は?」
「だって気楽じゃないですか~。なんていうか、お互いが精神的に独立してるって、対等でいいですよね……」
そう言って、伊月ははぁっとため息をついた。
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