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エピローグ
エピローグ②
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先輩が絵なら私も絵だ、と思い、ZYXのファンアート制作に勤しみながら一日を過ごしていたら、夜になって母から電話があった。
瑞月があさってようやく退院できるらしい。
「まだリハビリで通院も必要だし、いきなり家のことを自分でするのも大変だと思うから、しばらくはウチに住まわせるつもり」
「あ、そうなんだ。そのほうがいいね。退院の時行かなくて大丈夫?」
「うん、平日だし、お父さんも休み取ってくれるから」
「わかった。それじゃ、そうだな、今度の土曜日にでもまた行く。……瑞月に話したいこともあるし」
「あ、でもいつもの部屋、瑞月に使わせるつもりだから、寝るの二階の部屋でもいい?」
「別にどこでもいいけど、たぶん日帰りで行くと思うから大丈夫」
「最近日帰りが多いわねぇ。大宮さんと会ってるんでしょ」
母が探りを入れてきたので、適当にごまかして早々に電話を切った。
シャワーを浴びて、バスタオル姿で熱を冷ましていたら、スマホの着信音が鳴った。
見ると理雄先輩からだった。
「はいはーい!」
「相変わらず元気いっぱいだな」
「もちろんです! どうしたんですか?」
「あー、お土産買ってきたんだけど、消費期限短いからこの後寄っていい?」
「わーい、お土産! いいです……」
言い掛けて、ふと自分の姿を見下ろした。
裸にバスタオル、髪はまだ濡れたまま。この姿を見せるのはさすがにまずい。
しかも、色気を感じさせてしまう心配ではなく、トラウマを刺激する心配があるという、この伊月ちゃんのないすばでぃをもってしても不本意な展開が見込まれる悲しみ。
「えっと、あと何分くらいで来ます?」
「えーと……十五分か二十分くらいかな」
「それなら大丈夫です!」
「そ。じゃまた後で」
「はーい」
それから急いでドライヤーをかけて、服を着た。
シャンプーやボディソープが香りすぎないように部屋の空気を入れ替え、ベッドをきれいに整えたりして軽く部屋の整理をする。掃除は昼間したばかりだから問題ない。
顔はすっぴんのままでいいか悩んで、いつも泊まりに行くときくらいの軽い化粧はしておいたほうがいいかな、と化粧道具に手を伸ばしたところで、インターホンが鳴った。
残念、タイムアウトだ。
「おかえりなさーい!」
「ただいま」
姿を見せた理雄先輩は、白のカットソーを白のパンツにインしてカーキのリネンシャツを羽織るという、オシャレ上級者な格好で、ちゃんとプライベートのお出掛けモードになっている。
いや、画家Rio-Oモードかもしれない。
「すみません、急だったんですっぴんですけど」
「別に、お前のすっぴんなんて見飽きてる」
「見慣れてるって言ってせめて」
先輩は中に入って扉を閉めると、お土産の袋を差し出した。
「これ、要冷蔵だから、冷蔵庫に入れといて」
「わー、ありがとうございます。上がっていきます?」
「いや、いい。飯食いそびれて腹減ってるし、早く帰りたい」
「えー! 先輩がいなくて私、昨日からずっと淋しかったのに……」
「そうなの? でもここには飯はないんだろ?」
「冷凍食品くらいしかないですけど」
でもせっかく来たんだから、ちょっとくらい話がしたい。
コンビニとかでごはん買ってくればいいんじゃないかな?
そう思っていると、理雄先輩は少し考え込んでから、言った。
「それじゃ、一緒にウチに来るか?」
「えっ、いいんですか!?」
今日は日曜で明日は仕事だし、先輩も疲れているだろうから、家に誘われる可能性は考えていなかった。
その分喜びも大きくて、きっとその気持ちがだだ洩れだったんだろう、私を見下ろしていた先輩が、少し呆れたように笑う。
「お前、俺のこと好きすぎだろ」
「もちろん、大好きですよ!」
「あっそ」
理雄先輩は大きな手で私の頭を撫でる。
目の前を覆う頑丈そうな手首の向こうにある、愛情のこもった穏やかな表情を見て、幸せだ、と実感する。
その伝わってくる愛情が、先輩にとっての恋愛感情だったとしても、不思議とそれは、心地の悪いものではない。
「最近、すげー思うんだけど」
「はい」
「お前、猫だと思ってたけど、犬みたいだよな」
「ペット枠?」
〈完〉
瑞月があさってようやく退院できるらしい。
「まだリハビリで通院も必要だし、いきなり家のことを自分でするのも大変だと思うから、しばらくはウチに住まわせるつもり」
「あ、そうなんだ。そのほうがいいね。退院の時行かなくて大丈夫?」
「うん、平日だし、お父さんも休み取ってくれるから」
「わかった。それじゃ、そうだな、今度の土曜日にでもまた行く。……瑞月に話したいこともあるし」
「あ、でもいつもの部屋、瑞月に使わせるつもりだから、寝るの二階の部屋でもいい?」
「別にどこでもいいけど、たぶん日帰りで行くと思うから大丈夫」
「最近日帰りが多いわねぇ。大宮さんと会ってるんでしょ」
母が探りを入れてきたので、適当にごまかして早々に電話を切った。
シャワーを浴びて、バスタオル姿で熱を冷ましていたら、スマホの着信音が鳴った。
見ると理雄先輩からだった。
「はいはーい!」
「相変わらず元気いっぱいだな」
「もちろんです! どうしたんですか?」
「あー、お土産買ってきたんだけど、消費期限短いからこの後寄っていい?」
「わーい、お土産! いいです……」
言い掛けて、ふと自分の姿を見下ろした。
裸にバスタオル、髪はまだ濡れたまま。この姿を見せるのはさすがにまずい。
しかも、色気を感じさせてしまう心配ではなく、トラウマを刺激する心配があるという、この伊月ちゃんのないすばでぃをもってしても不本意な展開が見込まれる悲しみ。
「えっと、あと何分くらいで来ます?」
「えーと……十五分か二十分くらいかな」
「それなら大丈夫です!」
「そ。じゃまた後で」
「はーい」
それから急いでドライヤーをかけて、服を着た。
シャンプーやボディソープが香りすぎないように部屋の空気を入れ替え、ベッドをきれいに整えたりして軽く部屋の整理をする。掃除は昼間したばかりだから問題ない。
顔はすっぴんのままでいいか悩んで、いつも泊まりに行くときくらいの軽い化粧はしておいたほうがいいかな、と化粧道具に手を伸ばしたところで、インターホンが鳴った。
残念、タイムアウトだ。
「おかえりなさーい!」
「ただいま」
姿を見せた理雄先輩は、白のカットソーを白のパンツにインしてカーキのリネンシャツを羽織るという、オシャレ上級者な格好で、ちゃんとプライベートのお出掛けモードになっている。
いや、画家Rio-Oモードかもしれない。
「すみません、急だったんですっぴんですけど」
「別に、お前のすっぴんなんて見飽きてる」
「見慣れてるって言ってせめて」
先輩は中に入って扉を閉めると、お土産の袋を差し出した。
「これ、要冷蔵だから、冷蔵庫に入れといて」
「わー、ありがとうございます。上がっていきます?」
「いや、いい。飯食いそびれて腹減ってるし、早く帰りたい」
「えー! 先輩がいなくて私、昨日からずっと淋しかったのに……」
「そうなの? でもここには飯はないんだろ?」
「冷凍食品くらいしかないですけど」
でもせっかく来たんだから、ちょっとくらい話がしたい。
コンビニとかでごはん買ってくればいいんじゃないかな?
そう思っていると、理雄先輩は少し考え込んでから、言った。
「それじゃ、一緒にウチに来るか?」
「えっ、いいんですか!?」
今日は日曜で明日は仕事だし、先輩も疲れているだろうから、家に誘われる可能性は考えていなかった。
その分喜びも大きくて、きっとその気持ちがだだ洩れだったんだろう、私を見下ろしていた先輩が、少し呆れたように笑う。
「お前、俺のこと好きすぎだろ」
「もちろん、大好きですよ!」
「あっそ」
理雄先輩は大きな手で私の頭を撫でる。
目の前を覆う頑丈そうな手首の向こうにある、愛情のこもった穏やかな表情を見て、幸せだ、と実感する。
その伝わってくる愛情が、先輩にとっての恋愛感情だったとしても、不思議とそれは、心地の悪いものではない。
「最近、すげー思うんだけど」
「はい」
「お前、猫だと思ってたけど、犬みたいだよな」
「ペット枠?」
〈完〉
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