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第3章
3 交流①
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「青山、この前の資料どのくらい出来た?」
「えっと、八割方出来てますけど、もう少しデータ入れて説得力持たせたいとこあって……」
「先方から明日の午前中にリスケしたいって言われたんだけどイケる?」
「あー……、今夜がんばれば、なんとか」
「悪いね、よろしく」
優子さんと過ごした時間は夢だったみたいに遠のいて、仕事に追われる日々。
今夜も残業が決まって、一息入れようと自販機にコーヒーを買いに出た。
外の空気を吸いながら熱いコーヒーを飲み、ポケットを探ってスマホを取り出して、メールを開く。
そこには優子さんとやり取りしたスレッドが、企業メールに混ざって残っていた。
"青山亮弥"で始まったスレッドは、その後"今日はありがとうございました。たくさん話せてよかったです"という特に中身もない俺の二通目のメールに続いている。
それに対して、"こちらこそ、楽しかったです。声かけてくれてありがとう。またゆっくり会いましょう"と優子さんからの返事。"はい!"と俺。
それから四日、後には何も続いていない。
毎日、たったこれだけのやり取りを読み返しては、ニヤニヤして、今日もがんばるぞ、と生きる活力にしている。
さて、チャッチャと済ませるか。
飲みかけの缶を片手に、急ぎ足でオフィスに戻った。
資料作成が終わり、共有フォルダに入れて上司にメールした。
時計を見たら二一時十分。思ったより早く仕上がった。
オフィスにはまだ四、五人、同じように残業している奴らがいたが、一足先に帰り支度をして外に出た。
夜遅くなると薄手のトレンチでは寒さを凌げない季節になってきたな、と思いながら駅の方へと歩き、通り沿いの飲食店の看板をチラチラと眺めていたが、疲れたから早く家に帰ろうと思い直してコンビニで弁当と缶ビールを買った。
自宅は会社から駅を挟んで反対側に十分ほど歩いたところにあるワンルームのマンションで、もう四年半住んでいる。
平日はほとんど帰って寝るだけの状態だから、基本的には雑然としている。
ごはんを食べながらスマホを見ていたら、晃輝から電話が来た。
「はい」
「おーおつかれさん。土曜日あかりが友達と買い物行くらしいから、俺暇だけど」
「マジで!? じゃウチ来いよ!」
「お前んち遠いわ」
「遠くないわ」
「遠いわ。乗り換えなきゃ行けねぇじゃん」
「乗り換え嫌がってたらどこにも行けねーでしょ」
「乗り換えは一回までって決めてんの俺は」
「とにかくアホほどノロケたいからマジで家に来て。お願い」
「それはレアだからやっぱ行くわ」
「じゃ適当に来て。なんか食べたいもんあったら買ってこいよ、俺金出すから」
「わかった特上の寿司買ってく」
「渋すぎだろ。じゃあな」
「おう」
優子さんと会ってから、この興奮と幸せを誰かに話したくて悶え苦しんでいた。
八年前のことを知っている姉ちゃんに話そうかと思ったが、わざわざ電話したことが万一優子さんにバレたら恥ずかしいので踏みとどまった。
親友の晃輝は、結婚してから以前ほど気軽に呼び出すわけにいかなくなっていた。
でも他に話せる人もいないので、ダメ元で昨日連絡してみたら、今この電話が来たという状況だ。
明日いっぱいまで我慢すれば、明後日の土曜日には優子さんがどんなに可愛くてどんなに最高だったか存分に話せる。
そう思っただけで嬉しくてワクワクして、なんなら優子さんにメールでこの高揚を伝えたいくらいだった。
「えっと、八割方出来てますけど、もう少しデータ入れて説得力持たせたいとこあって……」
「先方から明日の午前中にリスケしたいって言われたんだけどイケる?」
「あー……、今夜がんばれば、なんとか」
「悪いね、よろしく」
優子さんと過ごした時間は夢だったみたいに遠のいて、仕事に追われる日々。
今夜も残業が決まって、一息入れようと自販機にコーヒーを買いに出た。
外の空気を吸いながら熱いコーヒーを飲み、ポケットを探ってスマホを取り出して、メールを開く。
そこには優子さんとやり取りしたスレッドが、企業メールに混ざって残っていた。
"青山亮弥"で始まったスレッドは、その後"今日はありがとうございました。たくさん話せてよかったです"という特に中身もない俺の二通目のメールに続いている。
それに対して、"こちらこそ、楽しかったです。声かけてくれてありがとう。またゆっくり会いましょう"と優子さんからの返事。"はい!"と俺。
それから四日、後には何も続いていない。
毎日、たったこれだけのやり取りを読み返しては、ニヤニヤして、今日もがんばるぞ、と生きる活力にしている。
さて、チャッチャと済ませるか。
飲みかけの缶を片手に、急ぎ足でオフィスに戻った。
資料作成が終わり、共有フォルダに入れて上司にメールした。
時計を見たら二一時十分。思ったより早く仕上がった。
オフィスにはまだ四、五人、同じように残業している奴らがいたが、一足先に帰り支度をして外に出た。
夜遅くなると薄手のトレンチでは寒さを凌げない季節になってきたな、と思いながら駅の方へと歩き、通り沿いの飲食店の看板をチラチラと眺めていたが、疲れたから早く家に帰ろうと思い直してコンビニで弁当と缶ビールを買った。
自宅は会社から駅を挟んで反対側に十分ほど歩いたところにあるワンルームのマンションで、もう四年半住んでいる。
平日はほとんど帰って寝るだけの状態だから、基本的には雑然としている。
ごはんを食べながらスマホを見ていたら、晃輝から電話が来た。
「はい」
「おーおつかれさん。土曜日あかりが友達と買い物行くらしいから、俺暇だけど」
「マジで!? じゃウチ来いよ!」
「お前んち遠いわ」
「遠くないわ」
「遠いわ。乗り換えなきゃ行けねぇじゃん」
「乗り換え嫌がってたらどこにも行けねーでしょ」
「乗り換えは一回までって決めてんの俺は」
「とにかくアホほどノロケたいからマジで家に来て。お願い」
「それはレアだからやっぱ行くわ」
「じゃ適当に来て。なんか食べたいもんあったら買ってこいよ、俺金出すから」
「わかった特上の寿司買ってく」
「渋すぎだろ。じゃあな」
「おう」
優子さんと会ってから、この興奮と幸せを誰かに話したくて悶え苦しんでいた。
八年前のことを知っている姉ちゃんに話そうかと思ったが、わざわざ電話したことが万一優子さんにバレたら恥ずかしいので踏みとどまった。
親友の晃輝は、結婚してから以前ほど気軽に呼び出すわけにいかなくなっていた。
でも他に話せる人もいないので、ダメ元で昨日連絡してみたら、今この電話が来たという状況だ。
明日いっぱいまで我慢すれば、明後日の土曜日には優子さんがどんなに可愛くてどんなに最高だったか存分に話せる。
そう思っただけで嬉しくてワクワクして、なんなら優子さんにメールでこの高揚を伝えたいくらいだった。
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