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第五章 伝説の厄災再び
第25話 魔法少女共同戦線
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「皆さんこっちです!!闘技場の中央に集まってください!!」
セキセイインコのマスコットが羽根を腕の様に振り回す。
そこには約50人ほどの魔法少女が集まって来ていた。
「はぁ~いっぱい見に来てたんだね…」
辺りを見回し感心する『果て無き銀翼』。
「それはそうでしょうね、みんな自分以外の魔法少女の戦い方が気になるでしょから」
『億万女帝』も然り。
純粋にショーとして見ていたのは一般の観客だけだ。
「時間が無いので細かい説明が出来ません!!こちらの指示に従う様お願いします!!」
魔法少女たちに緊張が走る。
「まず防御魔法が強力な方、もしくは水属性寄りの方はいませんか」
数人が挙手をした。
その中の一人が…
「…私…氷属性です…氷の防壁が…使えます…」
ギリギリ聞き取れる、か細い声で一人の魔法少女が申告する。
白いローブ、フードを目深に被り口元も布で覆っているので顔が殆ど見えない。
手持ちのマジカルワンドには美しい蒼の宝石が嵌っていた。
しかしさっきから身を屈めてオドオドしていてどこか挙動不審だ。
「え~と…あなたは?」
「…『吹雪の訪れ』と言います…」
セキセイインコが何やら装置を操作して闘技場のほぼ中心の地面が正方形に開口、下から台座に乗った大きな宝玉がせり上がってきた。
「ではそこのあなた、こちらへ!そう、その辺りに…あなた方はこちら…」
セキセイインコの仕切りで並びが決められていく。
『吹雪の訪れ』は宝玉の正面、センターに立たされ、他の子は彼女を中心に放射状に並ばされた。
「今からあなた方にこの宝玉に魔力とイェンを込めてもらいます!!『吹雪の訪れ』さんは防御魔法を唱えて下さいね、ではお願いします!!」
自分たちが何をやらされているのか分からないままセキセイインコの指示通り行動する魔法少女たち。
『果て無き銀翼』と『億万女帝』も宝玉の方に手を付き出し魔力とイェンを送った。
「『アイスバーンシールド』…」
『吹雪の訪れ』の控えめな詠唱で円形の氷の盾が闘技場の上空に展開される。
ただその大きさは尋常では無く、闘技場全体を完全に覆い隠すほどの巨大な物だった。
「…凄く…大きい…普段は…こんなんじゃない…」
相変わらずのか細い声でつぶやく『吹雪の訪れ』、とてもそうは聞こえないがこれでも彼女は驚いているのだ。
「この闘技場は有事の際には避難場所に使われる為、防御魔法が強化される様に作られているのです!!それも皆さんの協力があってこそ…
あっ!!そろそろ隕石が来ますよ!!ショックに備えて下さい!!」
セキセイインコが言う通り巨大な隕石はもう眼前に迫っていた。
衝突する隕石と『アイスバーンシールド』、
闘技場全体が強烈に揺さぶられる。
魔法少女たちから悲鳴に似たどよめきが上がる。
「ひゃあ!!凄い衝撃…!!」
「これは…!!そんなに長く持たせられませんわ…!!」
「…ああ…私の…アイスバーンシールドに…ひびが…」
全く緊迫感の無い『吹雪の訪れ』の声。
実際シールドには無数の亀裂が入り、徐々に押されてきているのだ。
「頑張ってください!!観客が逃げ切るまではもたせてください!!」
セキセイインコの悲痛な叫び、だがこのままでは…
「何情けないこと言ってんだい!!こんな石ころ一つ押し返せないでどうするよ!!」
「えっ…ミドリさん?」
何と先程の決闘で大ダメージを負った『森の守護者』が魔力充填の加勢に来たのだ。
コスチュームは薄汚れ引きずっている足が痛々しい。
しかし途端に勢いを取り戻したシールドが隕石を押し戻し始めた。
「アタイにはさっきの決闘の時に根っこが吸収した地脈の魔力があるからね…まだまだイケるよ!!」
そう言って自信満々の笑顔を向けて来る。
「…くっ!…」
その様子を少し離れた所から後ろめたそうに見ている『大地の戦乙女』。
逆に彼女は『森の守護者』に魔力を奪われたせいで何も出来ない状態なのだ。
やがて隕石にも亀裂が入り始めシールドに接している面からもうもうと蒸気が立ち上がる。
「皆さんもう少しです!!もう少しで相殺しそうです!!頑張って!!」
インコがエールを送る。
しかしその時上空に人影が現れた。
「あっ!!あの子は…!!」
『果て無き銀翼』にはその人物に見覚えがあった…。
「『魔法少女狩り』!!!」
禍々しい仮面に漆黒のマント…不気味に光を放つ巨大な鎌…
忘れたくても忘れる事なんて出来ない…チヒロの仇…!!
「あれが…そうなのか…?」
『森の守護者』も目を見開いた。
かなり距離が有ると言うのに何という威圧感…
他の魔法少女たちも騒めき始める。
「………」
『魔法少女狩り』が無言で左手を差し出し隕石に向けた。
「…一体何をしようというの…?」
『億万女帝』は嫌な予感がした。
敵対している者が取る行動は当然…
「『アンプ』…」
『魔法少女狩り』がそう唱えると隕石が急加速を開始、まるで見えない力で上から押さえ付けられている様だ。
「…うううっ…もう…だめです…」
『吹雪の訪れ』がギブアップ宣言をした途端アイスバーンシールドは細かく砕け散り、ほぼ同時に隕石も上からの圧力と下からの氷の板とのまさに板挟みで粉々に砕け散り無数も火球と氷塊が闘技場内に降り注いだのだ。
さながら火山弾である。
「きゃあああああ!!!!」
「いやあああああ!!!!」
逃げ惑う者、その場に座り込み泣き出す者、不幸にも火球が辺り倒れる者…闘技場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
「『エール』!!」
『果て無き銀翼』は魔法を唱え、自身の行動速度を上げ
近くに居た負傷した魔法少女たちをなるべく安全な所まで引っ張っていった。
それを何度も何度も繰り返す。
やがて全ての火球が降り終わった頃には闘技場は元の形が分からない程に破壊しつくされていた。
「………」
その様子を口元一つ動かさず空から見下ろす『魔法少女狩り』。
「『スカウト』!!」
虚を突いて『億万女帝』が『魔法少女狩り』に『スカウト』の探知の光を浴びせる事に成功した。
「少しあなたの事を調べさせていただきますわ!!」
「…!!…」
全くの無表情を通していた『魔法少女狩り』が一瞬だけピクリと反応した。だがすぐに平静を取り戻し…
「『ラピッドファイア』」
マジカルサイズを『億万女帝』に向け小型の火球を乱射したのだ。
「きゃあああああ!!!!」
火柱と煙幕が彼女を包む。
「金ちゃん…!!コイツ…!!『エアリーアロー』!!」
『億万女帝』への攻撃を止めさせるべく『魔法少女狩り』に向かって複数の風の矢を放つ。
『魔法少女狩り』は余裕の体裁きでそれらを避けていたが一本だけマントの先端にかすった。
切れ端がゆっくり落下してくる。
「………」
またしても無感情でこちを見つめてくる『魔法少女狩り』であったが、こちらに背を向けると爆音を残し何処かへ飛び去って行った。
「あっ…!!逃げた!!『スカイハイ』!!」
すぐさま『果て無き銀翼』が上空に飛び上がり周囲を見回したが既にその姿は見えなくなっていた。
仕方なく一度着地し、マントの切れ端が気になったので拾う事にした。
「金ちゃん!!大丈夫!?」
「何とか…無事ですわ…」
額と左腕から出血している…これは無事と言ってはいけないレベルだ。
「大丈夫…こんな傷…あの時に比べたら大した事ありませんわ…」
あの時とは守銭奴ラゴン戦の怪我の事だ。
確かに両手足の複雑骨折に比べたら大した事無いのかもしれないが…
お嬢様も逞しくなったものである。
「今回復できそうな人を探して来るから、ここで待ってて!!」
『果て無き銀翼』は駆け出した。
「おい貴様!!何のつもりでこんな事をした!!」
『果て無き銀翼』の耳に怒鳴り声が飛び込んで来る…この声の主は『大地の戦乙女』だ。
声がした方へ向かった彼女の目に飛び込んで来たものはわき腹から大量に出血して倒れている『森の守護者』とその傍らに片膝をついている『大地の戦乙女』だった。
火球に追い詰められ逃げ場を失った『大地の戦乙女』に『森の守護者』が覆い被さり、彼女の方が大怪我をしたのだ。
「…何って…魔法が使えなくなってるお前を守っただけだろう…」
弱々しい呼吸でそう答える『森の守護者』。
「さっきまで決闘していた者同士だろう!!そんな事をする謂れは無いはずだ!!」
尚も感情的に食って掛かる『大地の戦乙女』。
「同じ魔法少女の仲間を守るのに謂れなんか関係ないね…違うか…?」
「…うくっ…!!」
『森の守護者』の言葉で目に涙を浮かべ、遂には地面に両手をついてうな垂れてしまった。
「ミドリさん…しっかりして!!」
「あ~ツバサか…ちょっとまずいかもな~」
弱々しく笑みを浮かべる『森の守護者』。
「じゃあ早く『ライフディストリビュート』をかけなきゃ…!!」
『ライフディストリビュート』…瀕死のツバサや半身麻痺のカオル子を完全回復させた驚異の回復魔法だ。
「ああ…あれね…実はあの魔法は自分には掛けられないんだ…」
「そんな!!そんな事って…」
「見ていてくれたかい?アタイの戦いぶり…最後まで諦めなければ何とかなるものさ…アンタも友達を…必ず見つけてあげな…」
『森の守護者』の目の焦点がが段々と合わなくなって来た。
残酷な現実…
『果て無き銀翼』の目に涙が溜まって来た。
(駄目だ…このまま泣いたら今までと何にも変わらない…
また私に力が無いせいで友達を失うなんて…そんなの絶対嫌!!
お姫ちゃんお願い!!力を貸して…!!)
「…死なせない…ミドリさんは…絶対に死なせない!!」
『果て無き銀翼』の身体全体から虹色の光が立ち昇る。
そして彼女の口から唱えられるはずの無い魔法が発せられた。
「水よ!!その癒しの力をもって彼の者の傷を癒したまえ…『ヒール』!!」
何と風属性である『果て無き銀翼』が水属性の回復魔法『ヒール』を唱えたのだ!!
『森の守護者』のわき腹を水の球が覆う。すると見る見る大量に出ていた血液が止まっていくではないか。
「…ツバサ…アンタ…」
「まさか…そんな!?」
『森の守護者』と『大地の戦乙女』も驚きを隠せない。
普通、魔法少女は初めに決まった属性と無属性の魔法しか使えないのが決まり事なのだ。
三つ以上の属性魔法を使う魔法少女なぞ彼女らは知らない。
「ありがとうツバサ…凄いなアンタは…」
『森の守護者』は上体を起こせるまで回復した。『大地の戦乙女』が身体を支えてくれている。
但しそこはレベルの低い『ヒール』だ…傷は取り敢えず塞がった程度、痛みはまだ残っている。
「私…無我夢中だったんだ…きっとお姫ちゃんが助けてくれたんだね」
『果て無き銀翼』はホッとして笑顔をほころばせる。
それを見て赤面する二人…ツバサの笑顔に何か暖かい物を感じて胸が高鳴ってしまった。
「…悪かった…」
「えっ?」
「貴様と友人の事を侮辱した事を許してほしい…済まなかった…」
深々と頭を下げる『大地の戦乙女』。
複雑な心境でしばらく彼女を見つめていた『果て無き銀翼』だったが…
「…分かった…許してあげる…今度からはちゃんとみんなに協力してね」
「承知した…」
さっきのやり取りを見ていて『大地の戦乙女』がそんなに酷い人物では無い事も分かったのだから…これでツバサの心の中の彼女に対するわだかまりは完全に消滅した。
「あっそうだ…!!これなら金ちゃんも治療できるかも…!!ちょっと行って来るね!!」
言うが早いか『果て無き銀翼』は物凄い勢いですっ飛んで行ってしまった。
その様子を二人は温かい目で見送った。
「こんな…酷い…」
『果て無き銀翼』は目を覆いたくなった。
消火活動が終わった闘技場のフィールドが仮の診療所になっているのだが
天井の無い地べたに毛布を敷いただけの粗末なベッドに怪我人が寝かされている…さながら野戦病院だ。
「…奇跡的に死者は出ていないそうですわ…でも…」
『果て無き銀翼』に『ヒール』を掛けてもらい幾分か状態の良くなった『億万女帝』が言葉を濁す…ほぼ重傷者しかいないからだ。
彼女も今は三角巾で左腕を吊っている状態だ。
そして現状で無傷に近い状態の魔法少女は…
『果て無き銀翼』
『大地の戦乙女』
の二人…
但し『大地の戦乙女』に至っては今は魔法力が尽きていて戦える状態では無い。
今再び『魔法少女狩り』に襲われれば間違いなくここは壊滅する。
その対策の為マスコット達には『魔法少女協会』から非常招集が掛かっていてこの場には居ない。
…ひいい…ひいい…
「…ちょっと金ちゃん…今何か変な声が聞こえなかった?」
フィールド内を見回っている二人の耳に不気味な鳴き声が聞こえた。
…ひいい…ひいい…
「…確かに聞こえますわね…こちらからでしょうか…」
目先には瓦礫同士が支え合って三角形になっている所があった。
恐る恐るそこの隙間を覗くと…
真っ白くて丸い物体があった。
「何これ…?」
『果て無き銀翼』がそれを指でつつく。
「ひゃん…!!」
ゴチン!!
「あいたたた…何するんですかもう~」
瓦礫の隙間から出て来たのは『吹雪の訪れ』であった。
さっきの白くて丸い物体は彼女のお尻であった。
触られた拍子に驚きで身体が跳ね、瓦礫に頭をぶつけたのだ。
「あなた…何でこんな所に居るのですか?」
「あんな…恐ろしい相手と戦うのが…怖くてずっと…隠れていました」
何と臆病な…と言いかけた『億万女帝』であったがすぐに考えを改めた。
すぐ他人を責めるのが自分の悪い癖と自覚していたからだ。
この心境の変化も全ては仲間たちと死線を乗り越えて来たからに他ならない。
「よく無事でいてくれました…今は一人でも仲間が必要なのですわ、さあこちらにいらして?」
「…あ…はい…」
見た所『吹雪の訪れ』も大した怪我はしていない様だ。
「あっ…いたいた!!ツバサ!!お嬢さん!!」
ユッキーとダニエルがこちらに駆けて来る。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「『魔法少女協会』がツバサたちに聞きたい事があるらしいんだ、丁度よい機会だからこちらもあちらさんに色々聞こうと思ってね、ちょっと来てくれるかい?」
「うん、分かったよ…行こう金ちゃん!ブリブリさん!」
「分かりましたわ…ってそのブリブリさんて『吹雪の訪れ』さんの事?」
「うん!ブリザード・ブリンガー…だからブリブリさん」
「そんな…酷い~」
涙目の『吹雪の訪れ』。
それはさておき魔法少女たちはユッキーの案内で一路『魔法少女協会』本部へと向かった。
セキセイインコのマスコットが羽根を腕の様に振り回す。
そこには約50人ほどの魔法少女が集まって来ていた。
「はぁ~いっぱい見に来てたんだね…」
辺りを見回し感心する『果て無き銀翼』。
「それはそうでしょうね、みんな自分以外の魔法少女の戦い方が気になるでしょから」
『億万女帝』も然り。
純粋にショーとして見ていたのは一般の観客だけだ。
「時間が無いので細かい説明が出来ません!!こちらの指示に従う様お願いします!!」
魔法少女たちに緊張が走る。
「まず防御魔法が強力な方、もしくは水属性寄りの方はいませんか」
数人が挙手をした。
その中の一人が…
「…私…氷属性です…氷の防壁が…使えます…」
ギリギリ聞き取れる、か細い声で一人の魔法少女が申告する。
白いローブ、フードを目深に被り口元も布で覆っているので顔が殆ど見えない。
手持ちのマジカルワンドには美しい蒼の宝石が嵌っていた。
しかしさっきから身を屈めてオドオドしていてどこか挙動不審だ。
「え~と…あなたは?」
「…『吹雪の訪れ』と言います…」
セキセイインコが何やら装置を操作して闘技場のほぼ中心の地面が正方形に開口、下から台座に乗った大きな宝玉がせり上がってきた。
「ではそこのあなた、こちらへ!そう、その辺りに…あなた方はこちら…」
セキセイインコの仕切りで並びが決められていく。
『吹雪の訪れ』は宝玉の正面、センターに立たされ、他の子は彼女を中心に放射状に並ばされた。
「今からあなた方にこの宝玉に魔力とイェンを込めてもらいます!!『吹雪の訪れ』さんは防御魔法を唱えて下さいね、ではお願いします!!」
自分たちが何をやらされているのか分からないままセキセイインコの指示通り行動する魔法少女たち。
『果て無き銀翼』と『億万女帝』も宝玉の方に手を付き出し魔力とイェンを送った。
「『アイスバーンシールド』…」
『吹雪の訪れ』の控えめな詠唱で円形の氷の盾が闘技場の上空に展開される。
ただその大きさは尋常では無く、闘技場全体を完全に覆い隠すほどの巨大な物だった。
「…凄く…大きい…普段は…こんなんじゃない…」
相変わらずのか細い声でつぶやく『吹雪の訪れ』、とてもそうは聞こえないがこれでも彼女は驚いているのだ。
「この闘技場は有事の際には避難場所に使われる為、防御魔法が強化される様に作られているのです!!それも皆さんの協力があってこそ…
あっ!!そろそろ隕石が来ますよ!!ショックに備えて下さい!!」
セキセイインコが言う通り巨大な隕石はもう眼前に迫っていた。
衝突する隕石と『アイスバーンシールド』、
闘技場全体が強烈に揺さぶられる。
魔法少女たちから悲鳴に似たどよめきが上がる。
「ひゃあ!!凄い衝撃…!!」
「これは…!!そんなに長く持たせられませんわ…!!」
「…ああ…私の…アイスバーンシールドに…ひびが…」
全く緊迫感の無い『吹雪の訪れ』の声。
実際シールドには無数の亀裂が入り、徐々に押されてきているのだ。
「頑張ってください!!観客が逃げ切るまではもたせてください!!」
セキセイインコの悲痛な叫び、だがこのままでは…
「何情けないこと言ってんだい!!こんな石ころ一つ押し返せないでどうするよ!!」
「えっ…ミドリさん?」
何と先程の決闘で大ダメージを負った『森の守護者』が魔力充填の加勢に来たのだ。
コスチュームは薄汚れ引きずっている足が痛々しい。
しかし途端に勢いを取り戻したシールドが隕石を押し戻し始めた。
「アタイにはさっきの決闘の時に根っこが吸収した地脈の魔力があるからね…まだまだイケるよ!!」
そう言って自信満々の笑顔を向けて来る。
「…くっ!…」
その様子を少し離れた所から後ろめたそうに見ている『大地の戦乙女』。
逆に彼女は『森の守護者』に魔力を奪われたせいで何も出来ない状態なのだ。
やがて隕石にも亀裂が入り始めシールドに接している面からもうもうと蒸気が立ち上がる。
「皆さんもう少しです!!もう少しで相殺しそうです!!頑張って!!」
インコがエールを送る。
しかしその時上空に人影が現れた。
「あっ!!あの子は…!!」
『果て無き銀翼』にはその人物に見覚えがあった…。
「『魔法少女狩り』!!!」
禍々しい仮面に漆黒のマント…不気味に光を放つ巨大な鎌…
忘れたくても忘れる事なんて出来ない…チヒロの仇…!!
「あれが…そうなのか…?」
『森の守護者』も目を見開いた。
かなり距離が有ると言うのに何という威圧感…
他の魔法少女たちも騒めき始める。
「………」
『魔法少女狩り』が無言で左手を差し出し隕石に向けた。
「…一体何をしようというの…?」
『億万女帝』は嫌な予感がした。
敵対している者が取る行動は当然…
「『アンプ』…」
『魔法少女狩り』がそう唱えると隕石が急加速を開始、まるで見えない力で上から押さえ付けられている様だ。
「…うううっ…もう…だめです…」
『吹雪の訪れ』がギブアップ宣言をした途端アイスバーンシールドは細かく砕け散り、ほぼ同時に隕石も上からの圧力と下からの氷の板とのまさに板挟みで粉々に砕け散り無数も火球と氷塊が闘技場内に降り注いだのだ。
さながら火山弾である。
「きゃあああああ!!!!」
「いやあああああ!!!!」
逃げ惑う者、その場に座り込み泣き出す者、不幸にも火球が辺り倒れる者…闘技場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
「『エール』!!」
『果て無き銀翼』は魔法を唱え、自身の行動速度を上げ
近くに居た負傷した魔法少女たちをなるべく安全な所まで引っ張っていった。
それを何度も何度も繰り返す。
やがて全ての火球が降り終わった頃には闘技場は元の形が分からない程に破壊しつくされていた。
「………」
その様子を口元一つ動かさず空から見下ろす『魔法少女狩り』。
「『スカウト』!!」
虚を突いて『億万女帝』が『魔法少女狩り』に『スカウト』の探知の光を浴びせる事に成功した。
「少しあなたの事を調べさせていただきますわ!!」
「…!!…」
全くの無表情を通していた『魔法少女狩り』が一瞬だけピクリと反応した。だがすぐに平静を取り戻し…
「『ラピッドファイア』」
マジカルサイズを『億万女帝』に向け小型の火球を乱射したのだ。
「きゃあああああ!!!!」
火柱と煙幕が彼女を包む。
「金ちゃん…!!コイツ…!!『エアリーアロー』!!」
『億万女帝』への攻撃を止めさせるべく『魔法少女狩り』に向かって複数の風の矢を放つ。
『魔法少女狩り』は余裕の体裁きでそれらを避けていたが一本だけマントの先端にかすった。
切れ端がゆっくり落下してくる。
「………」
またしても無感情でこちを見つめてくる『魔法少女狩り』であったが、こちらに背を向けると爆音を残し何処かへ飛び去って行った。
「あっ…!!逃げた!!『スカイハイ』!!」
すぐさま『果て無き銀翼』が上空に飛び上がり周囲を見回したが既にその姿は見えなくなっていた。
仕方なく一度着地し、マントの切れ端が気になったので拾う事にした。
「金ちゃん!!大丈夫!?」
「何とか…無事ですわ…」
額と左腕から出血している…これは無事と言ってはいけないレベルだ。
「大丈夫…こんな傷…あの時に比べたら大した事ありませんわ…」
あの時とは守銭奴ラゴン戦の怪我の事だ。
確かに両手足の複雑骨折に比べたら大した事無いのかもしれないが…
お嬢様も逞しくなったものである。
「今回復できそうな人を探して来るから、ここで待ってて!!」
『果て無き銀翼』は駆け出した。
「おい貴様!!何のつもりでこんな事をした!!」
『果て無き銀翼』の耳に怒鳴り声が飛び込んで来る…この声の主は『大地の戦乙女』だ。
声がした方へ向かった彼女の目に飛び込んで来たものはわき腹から大量に出血して倒れている『森の守護者』とその傍らに片膝をついている『大地の戦乙女』だった。
火球に追い詰められ逃げ場を失った『大地の戦乙女』に『森の守護者』が覆い被さり、彼女の方が大怪我をしたのだ。
「…何って…魔法が使えなくなってるお前を守っただけだろう…」
弱々しい呼吸でそう答える『森の守護者』。
「さっきまで決闘していた者同士だろう!!そんな事をする謂れは無いはずだ!!」
尚も感情的に食って掛かる『大地の戦乙女』。
「同じ魔法少女の仲間を守るのに謂れなんか関係ないね…違うか…?」
「…うくっ…!!」
『森の守護者』の言葉で目に涙を浮かべ、遂には地面に両手をついてうな垂れてしまった。
「ミドリさん…しっかりして!!」
「あ~ツバサか…ちょっとまずいかもな~」
弱々しく笑みを浮かべる『森の守護者』。
「じゃあ早く『ライフディストリビュート』をかけなきゃ…!!」
『ライフディストリビュート』…瀕死のツバサや半身麻痺のカオル子を完全回復させた驚異の回復魔法だ。
「ああ…あれね…実はあの魔法は自分には掛けられないんだ…」
「そんな!!そんな事って…」
「見ていてくれたかい?アタイの戦いぶり…最後まで諦めなければ何とかなるものさ…アンタも友達を…必ず見つけてあげな…」
『森の守護者』の目の焦点がが段々と合わなくなって来た。
残酷な現実…
『果て無き銀翼』の目に涙が溜まって来た。
(駄目だ…このまま泣いたら今までと何にも変わらない…
また私に力が無いせいで友達を失うなんて…そんなの絶対嫌!!
お姫ちゃんお願い!!力を貸して…!!)
「…死なせない…ミドリさんは…絶対に死なせない!!」
『果て無き銀翼』の身体全体から虹色の光が立ち昇る。
そして彼女の口から唱えられるはずの無い魔法が発せられた。
「水よ!!その癒しの力をもって彼の者の傷を癒したまえ…『ヒール』!!」
何と風属性である『果て無き銀翼』が水属性の回復魔法『ヒール』を唱えたのだ!!
『森の守護者』のわき腹を水の球が覆う。すると見る見る大量に出ていた血液が止まっていくではないか。
「…ツバサ…アンタ…」
「まさか…そんな!?」
『森の守護者』と『大地の戦乙女』も驚きを隠せない。
普通、魔法少女は初めに決まった属性と無属性の魔法しか使えないのが決まり事なのだ。
三つ以上の属性魔法を使う魔法少女なぞ彼女らは知らない。
「ありがとうツバサ…凄いなアンタは…」
『森の守護者』は上体を起こせるまで回復した。『大地の戦乙女』が身体を支えてくれている。
但しそこはレベルの低い『ヒール』だ…傷は取り敢えず塞がった程度、痛みはまだ残っている。
「私…無我夢中だったんだ…きっとお姫ちゃんが助けてくれたんだね」
『果て無き銀翼』はホッとして笑顔をほころばせる。
それを見て赤面する二人…ツバサの笑顔に何か暖かい物を感じて胸が高鳴ってしまった。
「…悪かった…」
「えっ?」
「貴様と友人の事を侮辱した事を許してほしい…済まなかった…」
深々と頭を下げる『大地の戦乙女』。
複雑な心境でしばらく彼女を見つめていた『果て無き銀翼』だったが…
「…分かった…許してあげる…今度からはちゃんとみんなに協力してね」
「承知した…」
さっきのやり取りを見ていて『大地の戦乙女』がそんなに酷い人物では無い事も分かったのだから…これでツバサの心の中の彼女に対するわだかまりは完全に消滅した。
「あっそうだ…!!これなら金ちゃんも治療できるかも…!!ちょっと行って来るね!!」
言うが早いか『果て無き銀翼』は物凄い勢いですっ飛んで行ってしまった。
その様子を二人は温かい目で見送った。
「こんな…酷い…」
『果て無き銀翼』は目を覆いたくなった。
消火活動が終わった闘技場のフィールドが仮の診療所になっているのだが
天井の無い地べたに毛布を敷いただけの粗末なベッドに怪我人が寝かされている…さながら野戦病院だ。
「…奇跡的に死者は出ていないそうですわ…でも…」
『果て無き銀翼』に『ヒール』を掛けてもらい幾分か状態の良くなった『億万女帝』が言葉を濁す…ほぼ重傷者しかいないからだ。
彼女も今は三角巾で左腕を吊っている状態だ。
そして現状で無傷に近い状態の魔法少女は…
『果て無き銀翼』
『大地の戦乙女』
の二人…
但し『大地の戦乙女』に至っては今は魔法力が尽きていて戦える状態では無い。
今再び『魔法少女狩り』に襲われれば間違いなくここは壊滅する。
その対策の為マスコット達には『魔法少女協会』から非常招集が掛かっていてこの場には居ない。
…ひいい…ひいい…
「…ちょっと金ちゃん…今何か変な声が聞こえなかった?」
フィールド内を見回っている二人の耳に不気味な鳴き声が聞こえた。
…ひいい…ひいい…
「…確かに聞こえますわね…こちらからでしょうか…」
目先には瓦礫同士が支え合って三角形になっている所があった。
恐る恐るそこの隙間を覗くと…
真っ白くて丸い物体があった。
「何これ…?」
『果て無き銀翼』がそれを指でつつく。
「ひゃん…!!」
ゴチン!!
「あいたたた…何するんですかもう~」
瓦礫の隙間から出て来たのは『吹雪の訪れ』であった。
さっきの白くて丸い物体は彼女のお尻であった。
触られた拍子に驚きで身体が跳ね、瓦礫に頭をぶつけたのだ。
「あなた…何でこんな所に居るのですか?」
「あんな…恐ろしい相手と戦うのが…怖くてずっと…隠れていました」
何と臆病な…と言いかけた『億万女帝』であったがすぐに考えを改めた。
すぐ他人を責めるのが自分の悪い癖と自覚していたからだ。
この心境の変化も全ては仲間たちと死線を乗り越えて来たからに他ならない。
「よく無事でいてくれました…今は一人でも仲間が必要なのですわ、さあこちらにいらして?」
「…あ…はい…」
見た所『吹雪の訪れ』も大した怪我はしていない様だ。
「あっ…いたいた!!ツバサ!!お嬢さん!!」
ユッキーとダニエルがこちらに駆けて来る。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「『魔法少女協会』がツバサたちに聞きたい事があるらしいんだ、丁度よい機会だからこちらもあちらさんに色々聞こうと思ってね、ちょっと来てくれるかい?」
「うん、分かったよ…行こう金ちゃん!ブリブリさん!」
「分かりましたわ…ってそのブリブリさんて『吹雪の訪れ』さんの事?」
「うん!ブリザード・ブリンガー…だからブリブリさん」
「そんな…酷い~」
涙目の『吹雪の訪れ』。
それはさておき魔法少女たちはユッキーの案内で一路『魔法少女協会』本部へと向かった。
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