上 下
3 / 3

第3話 序盤に大魔王と遭遇した件

しおりを挟む

 再び長い廊下を抜け、新たな広間に出た。

「何だここは? ガラクタ置き場?」

 その広場には何だかよく分からない物の残骸が乱雑に山積みされており、そしてその山はいくつもあった。
 見た所金属製の何かが積み上げられている様だが。

「うん? これって剣や鎧や盾じゃないか……」

 少し山を蹴飛ばしてみると、軽く崩れた中から比較的原形を留めている武器や防具が見つかった。
 ぐにゃりと歪められた鎧を手で持ってみるがかなりの重量と強度があり、普通に手で挟んだくらいではびくともしない。
 それをこんな状態にしてしまうとはこれをやった存在は余程の怪力か何か特別な能力を持っているに違いない。
 考えたくは無いがここに在る残骸になってしまっている装備を持った戦士たちを倒した者が粗大ゴミ感覚でここに捨てたのだろう、その者にとっては、まさにガラクタ置き場だ。
 そうなると中身である人間はどうなった? 
 これも考えたくは無いがそちらもどこかに?
 挑んできて敗れた人間はモンスターにとっては何なのだろう、食料? ゴミ?

「うげぇ!!」

 想像してしまい吐き気に見舞われる。
 そうだった、ここは生前に過ごした平々凡々とした平和な世界では無いのだ。
 常に命の危険が伴う弱肉強食の世界なのだ。
 それを思うと一気に体中の体毛が総毛立つ。
 軽い気持ちでこの黒い城の結構な深部にまで入って来てしまったが軽率だったのではないか?
 あれ? 今思ったが何で俺、こんな事をしているんだろう?
 女神シルビアには転生した後特に何をしろとは言われなかった筈なのに。
 完全にしくじった、転生者が異世界で無双する創作があまりにも多いせいで俺もそうするべきと何の疑問も持たなかった、さも当然と思ってしまった。
 こうするのが当たり前なのだと。
 畜生、こんなの何の謝罪にもなっていないぞ。
 前世の俺に孤独のスキルを付与した事もそうだが、神や女神って奴らは自分のした事に対しての罪の意識が薄いんじゃないのか?
 蘇らせてやったのだからこれで手打ちとでも思っているのではないか?
 若しくは魔王退治に体よく使われているだけなのかもしれない。
 冗談じゃない、前世が神のせいでああなったのに転生した現世まで神に振り回されてたまるか。
 しかし魔王の居城のかなり奥まで来てしまった以上、前に進むにも後ろに戻るのもただでは済むまい。
 神たちの思惑通りになるのは大いに癪だがここは一つ魔王の顔を拝むとしよう。
 俺は足元に落ちていた比較的損傷の少ない剣を一本拾い上げ頭上に掲げた。
 思ったより軽い、いや恐らくお一人様のスキルの影響だろう、チャンバラごっこ宜しく剣を振る。
 まるで掃除のときにふざけて箒を振り回しているのではと錯覚する程自在に剣を扱えている。
 よし、取り合えずさらに奥へ進むか。

 しばらく進むと廊下の様子が今までとガラリと変わった。
 神殿か何か、遺跡などによく見受けられる立派な円柱が廊下の側面にずらりと並び、それが奥まで続いている。
 この荘厳な感じ、間違いなく魔王に近付いている……気がする。
 不安に押しつぶされない様に気をしっかりと持ち恐る恐る歩みを進める。
 突き当りに大きな扉があった。
 これまた複雑で美しい装飾が施された扉だな。
 両側には鎧を纏った戦士を象った巨大な像が鎮座している。
 俺から見て右手にあるのは青い甲冑を着た戦士、手には人の背より長い大剣を持っている。
 そして左手には紅い甲冑」を着た戦士、こちらは巨大な斧を持っていた。
 これまた大迫力だな、さしずめこの扉を守護する番人か何かだろう。
 俺が前世に過ごした世界でも寺院の門番として仁王像などの像が設置されていたものだ。
 まあそんなのは一種の呪い的な物、悪く言えばコケ脅しだ。
 像自体が実際に門や扉を守っている訳じゃない。
 所詮は作りモノさ。
 最初こそドキリとさせられたが何の事は無い、俺は扉の取っ手に手を掛けた。

「うん? 何だ?」

 何だ? 急に揺れが、城自体が揺れている?
 天井から細かい破片が降り注ぐ。
 いやこれは揺れと言うより振動だ、何か大きなものが動くときに起こる振動。
 しかしその振動の元凶はすぐに判明した。
 両側の巨像の戦士が二体、立ち上がろうとしているではないか。

「おいおい、マジかよ……」

 座っていた状態から分かってはいたが二体の戦士像は相当大きかった。
 まさに見上げる程。
 そして今まさに各々の武器を大きく振り上げている。
 それらの振り下ろし先は当然俺だろう。

「冗談じゃねぇぞ!!」

 青の戦士により振り下ろされた剣を寸での所で飛び退きかわす。
 今までみたいにスキルで気配を気取られないんじゃないのか?
 いやこいつらは造られし物、魔王の魔力か何かで自動的にこの城へと侵入して来た者を排除するために居る謂わばトラップの類。
 あの気配隠匿スキルは命ある者にしか通用しないのかもしれないな。
 おっと、考え事どころではなかった、今度は赤い戦士が軽自動車程の大きさのある斧を叩きつけて来やがった。
 これも避ける、斧は床に深々と突き刺さったまま抜けなくなった。
 チャンス、俺はその状態のまま固まっている赤い戦士の腕を駆け上り、奴の顔目がけ跳び上がった。

「えいやあああああああっ!!」

 剣を振りかぶったまま宙を舞い、奴の顔目がけてその剣を振り下ろす。
 するとどうだろう、まるで室温で放置していたバターの塊にナイフを刺すかのように奴の顔を兜ごと、いとも容易く両断するのだった。
 頭部を失った赤い戦士はその場で力を失い動かなくなった。

「スゲェ……これが俺の力……」

 体現してみて初めて思い知るスキルお一人様の威力。
 この世界に来て誰とも話していない、誰にも好意を持たれていないのでこの力はマックスの状態であるはずだ。
 初めは何て使いづらそうなスキル何だと思い別に失っても良いとさえ思ったが、実際に目の当たりにすると失うには惜しいスキルだ。
 だがこの力を維持するには前世で死ぬほど味わったあの孤独の状態をも維持することになるのだ、正直悩む。
 赤の戦士を倒したことにより後は青の戦士を残すのみ。
 俺は床に突き刺さった大斧を軽く引き抜くとそのまま青の戦士に投げつけた。
 大斧は高速に縦回転をしながら飛んでいき、奴を身体の中心から縦に真っ二つにしたのだった。

「よし!!」

 渾身のガッツポーズをとる。
 楽勝であった。
 本来ならラストダンジョンのラスボス前の中ボスであろう巨人どもを難なく倒せるのだ、この調子で大魔王なんてさっさと片付けてしまおう。
 俺は改めて大扉に手を付きゆっくりと押し開くのだった。
 大扉は見かけに寄らず簡単に開く。
 まあこれもスキル(以下略)
 中に入ると広い部屋、床には紅い絨毯が長々と敷かれており、その先には一段高くなった玉座があり、そこには誰かが座っていた。

「あんたがこの城の主か?」

「ムッ!? 貴様は何者だ!? どうやってここまで来た!?」

 角が生えた頭、吊り上がった眼、鋭い牙、トゲトゲの肩パットに漆黒のマントを纏ったまさにテンプレの集合体の様な人物が俺を見て慄く。
 間違いない、コイツが大魔王だろう。

「勇者……と言いたい所だけどそうでもないんだよね、しいて言うならたまたま城に迷い込んだ住所不定無職ってところか」

「ふざけるな!! この厳重な城の警備をどうやって抜けて来た!?」

「厳重? 俺がここまで来るのにあったのってカードで遊んでたゴブリンたちと門番の石像位だぜ?」

「何……だと? そうだった、四天王は各々拠点のダンジョンに派遣していたし、三人官女と五人囃子は先遣魔王軍の慰問、八部衆と十傑集は遠征に出していたんだった……!! クゥ、不覚!!」

「何だ何だ? 途中から怪しげなのが混ざってるぞ?」

 大魔王は頭を抱えて悶絶している。
 もしかして運よく魔王軍の主力が出払っていた所に俺が着たって事か?
 この幸運もスキルお一人様の力なのか?

「まあいいや、それじゃあ大魔王さんよ、あんたに恨みは無いがその首もらい受けるとしようかな?」

 俺は剣の切っ先を魔王に向けて言い放った。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...