俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~

美作美琴

文字の大きさ
9 / 29

第9話 恋と運命の分岐点

しおりを挟む

 更衣室内に充満する甘酸っぱい匂い。
 目の前で年頃の少女たちがあられもない姿で着替えをする光景。
 
 まさか男の俺が合法的にこの光景を目の当たりにするとは、三日前の俺に話したとして果たして信用しただろうか。
 少女たちは他愛のない会話をしながら制服を脱ぎ体操服へと着替えていく。
 だがたったそれだけの事を何と楽しそうに行うのだろう。
 少女は存在しているだけで尊いのではと一人勝手に悟りの域へと達しそうになる。
 ここに来る前に俺が抱いていた邪な感情が恥ずかしくなってきた。
 逆に一人男である自分が紛れ込んでいる事の方がいたたまれなくなりさっさと着替えを終わらせるよう部屋の片隅でセーラー服の上着を脱ぎ下着姿になる俺。

「えい!!」

「ひゃっ!?」

 ひとり物思いに耽っていた俺の胸が、背後から回り込んできた手に鷲掴みにされた。

「あれ~~~? 真紀っち、お胸が少し育って来たんじゃないかにゃ?」

「んふっ……」

 胸への不意打ちに俺の口から艶めかしい声が漏れる。
 このふざけた物言いは暦か?
 この言い草だと彼女は、いや彼女も美沙同様に頻繁に真紀の胸を揉んでいたと推測できる。
 俺は女の子同士がそうやって戯れるのを見たかっただけであった俺自身が被害にあうのは望んでいない。

「もーーーっ!! 止めてよぅ!!」

 俺はなるべく穏便に暦の手を払い除ける。
 意識していないと男の時の様に力尽くで引っぺがしかねないからな。

「ちぇーーーっ」

 つまらなそうに暦は手を引っ込める。

「………」

 ゾクッ……視線を感じてそちらに視線を移すと美沙がこちらを物凄い形相で見ているではないか。
 これは完全に嫉妬に狂った眼だ。
 何故俺の周りの女たちは俺に向けて妙な感情を抱くのだろうか。
 いや俺に向けてでは無いな、母の真紀に対してだ。
 まさかとは思うがこういった人間関係の縺れが後の未来の俺の誕生や母の死に対して何かしらの影響を及ぼしていたのではと邪推をしてしまう。
 だがふと冷静になるとそんな馬鹿げたことがあるはずがないといとも思ってしまうのも事実。
 確かに俺が高校時代の母になったり、怪しげな男に声を掛けられたりと不可思議な事は起きているが、ごく普通の女子高生である彼女たちが何かの陰謀に関わっているとは到底思えないからだ。
 美沙だって未来でこそ少し怪しげな印象を俺に抱かせたりもしたが、赤い玉の存在を知っていたからといって必ずしも危険人物に指定するのは些か早計なき気も今ではしている。

 寧ろ警戒すべきは『男』の存在だろう。
 母は俺の年齢から逆算して18歳の時に妊娠が発覚し高校を中退している。
 そして今俺の精神が入っているこの身体は17歳の母のものだ。
 俺の誕生月は五月、そして今も五月……妊娠期間が約十月十日と考えると今から約二か月の間に俺の父にあたる『男』との接触があるはずだ。
 だが父の事と俺を身籠った経緯を憶えていなかった母の事が引っかかる。
 普通に考えてこれがまともな事ではないのは誰にでも想像がつく。
 真っ当な恋愛を母がしたのならその付き合っていた男の事を憶えているだろうし、何らかの要因で記憶喪失になったとしてもまず真紀にべったりの親友である美沙や暦がその男の事を知らないはずがない。
 この数日一緒に居て分かったが美沙はそれらしき男の事を知らない。
 そうでなければ俺に協力して真紀の心を射止めた相手を確認するなんて言わないはずだ。
 可能性としてはこれから知り合って親密になる男が登場することも大いにあり得る。
 だが現時点の暦が知っている真紀の情報も知っておいて損は無いだろう。
 そうと決まれば少し暦に探りを入れるのもアリかもしれない。

「ねぇ、ヨミはさ、気になる人とかいないの? 付き合いたい男子とかさ」

「えっ? どうしたのいきなり?」

 本当にそうだな、俺もそう思う。
 真紀に恋人がいたかとは流石に聞けないので遠回しに攻めてみようと思う。

「私の胸を揉んだ罰よ、教えなさいよヨミの好きな人」

 俺は暦ににじり寄りながらいたずらな笑みを浮かべた。

「もう……真紀っちだって知っているでしょう?」

 暦は顔を背け頬を赤らめている。
 誰の事をいっている? この反応は予想していなかった。
 この反応は要するに以前に真紀と暦の間で恋バナをしていた過去があったという事。
 これはマズイ……ある意味恋バナという最も印象に残っていなければならない友人間の話題を憶えていないという事実は親友として不信感を抱かせてしまうには十分の失態。
 それにまだクラスメイトを全員把握していない俺にとってこれは完全にやらかし案件だ。
 この間に他の女子たちは既に着替えを終え更衣室から出ており、残っているのは俺と暦だけだった。
 いや正確には更衣室の外から聞き耳を立てている美沙の影が見え隠れしているが。

「そっちこそどうなのよ、健太郎君にはアプローチしたの?」

「えっ……?」

 暦はさっきまでの明るい感じではなく神妙な面持ちに変わっていた。
 これは相当本気の話しだろう。
 何という事だ、あの完璧超人園田と真紀がそう言う仲だったとは。
 いや違うな、暦の口ぶりから察するに真紀が一方的に園田に恋心を抱いていて、告白をしようとしていた……という事だろう。
 どうやら俺のやらかしに暦は気付いていない様だ。
 それどころかかなり重要な情報が聞き出せたのでは?
 
「まさか真紀っちと同じ人を好きになるなんて思いもしなかったなぁ……」

「えっ……」

 暦の一言に俺は固まった。
 もしかしてこれ、三角関係と言うヤツでは?
 
「真紀っちがまだ言わないっていうなら私が先に健太郎君に告るけどいいよね?」

「………」

 俺は言葉が出てこなかった。
 もし園田が真紀の運命の相手で俺の父に当たる人物ならここで暦に告白をされてしまうのは果たして良い事なのだろうか?
 ここで暦に園田を譲る、譲らないという事は今後を左右する重要な選択肢にならないか?
 これがゲームならここでデータをセーブしたい所だが、現実はそうもいかない。

「ゴメン……先行くね」

「あっ……」

 無言の俺に焦れたのか暦はこちらを見ずに踵を返し更衣室から出て行った。
 俺は暦に対して何の返事も出来なかった。
 恐らくこのままでは早ければ今日中にでも暦は園田に告白するだろう。
 改めて思い知った、選択をしないこと自体が選択になってしまう事に。
 だがもう起こってしまった事を覆す事は出来ない。
 このまましばらくは動向を見守るしかない。

 それからの一日、俺自身、何をしたのか殆ど記憶に残らなかった。

 そして放課後。
 
「ヨミったらどこ行ったのかしら? いつもは一緒に帰るのに」

 美沙が人の少なくなった教室内を見回しているが、暦はどこにも居なかった。

「仕方ないわね、帰ろうか真紀」

「うん……」

 何となく胸につかえがある感覚があったが、俺は席から立ち上がり美沙と共に教室を出ようとしたその時だった。

「ねぇねぇ知ってる!? さっきヨミが園田君と屋上へ行ったんですって!!」

「えーーーーっ!? 告白しちゃうのかな!?」

 まだ教室に残っている女子たちがそんな会話を始めた。
 俺は美沙の制服の袖を引っ張り立ち止まる。
 暫くこの話しを聞いていたい、そう美沙にアイコンタクトを送る。

「でもヨミも勇気あるよね、園田君と言えば下級生上級生関係なく女子に人気があるし告白も一杯されてるのに」

「うんうん、しかも園田君は誰の告白もOKしていないんだって、私のお姉ちゃんの友達もフラれたって」

 ほうほう、やはりイケメンは敵だな、男にとっても女にとっても。
 だが性格が良いせいか誰も園田の事を悪く言う人間がいないのが何ともやるせない。
 おっと、恨み節を唱えていても仕方がない、問題は今現在暦が園田に告白をしているという事実だ。
 園田が今まで誰の告白も受けていないからといって暦の告白を断るとは決まっていない、もしかしたら園田は暦の告白を待っていたかもしれない可能性だってある。
 
「確か屋上だったよね、様子を見に行こう」

「ちょっと、野暮な事は止めましょう? 趣味が悪いわよ?」

 美沙はあからさまに嫌そうな顔をした。

「そう言うんじゃないんだよ、実は……」

 俺は美沙に先ほどまで考えていた俺の仮説を伝え始めた。

「成程、あなたのお母さん真紀はソノケンに惚れていたって言うのね? しかもヨミとお互いが告るのをけん制し合っていたと……」

「何? そのソノケンって?」

太郎、だからよ」

「あ、そう……だからもしかすると園田が俺の父親の可能性もあると俺は思ってる」

「なるほどね、いま屋上のヨミの告白が成功するかしないかでその辺がはっきりするって訳だ」

「園田が父親と仮定した場合においてだけどね、そうでない場合はヨミの告白の成否は全く影響しないんだけど可能性の選択肢の一つは潰していける」

「はぁ、分かったわよ、本意ではないけれど屋上に様子を見に行きましょう」

 やれやれと半分諦めた様に俺の意見に従う美沙。

「ゴメンね」

 俺と美沙は小走りで屋上へと上がる階段を目指した。
 
 これは決して冷やかし半分のデバガメではない、俺の運命が掛かっているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...