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第27話 サクリファイス
しおりを挟む目の前に筋骨隆々の逞しい大男が立っている。
彼の名前は道明寺凱。
俺の母真紀の学生時代の同級生、そして後の結婚相手で俺の妹であるMの父親。
俺にとっては所謂義理の父親って事になるな。
全く実感は無いが。
ただこの男の姿を見ていると胸に熱いものが込み上げてくる。
これは恋愛感情に近いものだ。
思わず涙が込み上げてくる。
気落ち悪いとか言うなよ? これは仕方がない事なんだ。
恐らくだが俺が真紀として道明寺と過ごした時の記憶の断片、夫婦として過ごした記憶がそうさせているのだ。
だがこんな気持ちを抱いていることを道明寺には悟られたくない。
俺はその感情を何とか心の奥底へと押し込め彼の元へと歩いていく。
「よう、道明寺凱だよな?」
「おう、こうして直に話すのは初めてか? いや、あの銀色スーツを着ていた時に話したか」
ダンディな笑みを浮かべる凱。
しかし老けたな、顔には皺が増え髪にも髭にも白いものが混じっている。
「あんたみたいに協調性の無い体型のくせにあんな格好とヘルメットで顔を隠したって正体はバレバレなんだよ」
「そうか? イケると思ったんだがなぁ」
道明寺は後頭部に手を当て苦笑いを浮かべる。
「それよりこれはあんたの差し金か?」
「差し金とは人聞きの悪い、お前と紺野の蟠りを解いてやりたかったんだよ……だから俺がMに内容を知らせずお前への伝言を頼んだんだ」
「俺に美沙と今生の別れをしろと?」
「まあそう取ってもらっても構わんがね……少し急いでいる、歩きながら話さないか?」
「分かった」
確かにバス停で話す内容ではない。
俺は歩き出した道明寺に付いていく。
何せ俺にはこの男に聞きたいことが山ほどあるのだ。
「なあ、あんたは一体どこまで関わっているんだ? 俺が思うに初めからこの事件に関わっていた訳じゃないんだよな?」
「ああそうだ、もう俺の娘から聞いたかもしれないがお前らが紺野に会いに行った留守の時だなこの事を知ったのは……あの時お前らを追いかけようかどうか悩んでいた時にふと頭に中に声がしたんだ、若い女の声がな」
「その口ぶりから察するに俺が真紀の中にいて女として生活していたのは知っているんだな?」
「まあな、まさか俺は男に恋をしていたなんてな、知らなきゃよかったよ」
「悪かったよ」
「気にするな、ある意味仕方のない事だ……仮にお前がその事を当時の俺に打ち明けたとして俺は信じなかっただろう」
それはきっとそうだろう。
俺にその気も無かったしな。
だがそれも全ては既に決まっていた行動だったのだろう。
Mの話しでは俺と真紀は何度となく同じ変わり映えのしない人生を繰り返していた様だからな。
「じゃあ、あんたがかなり深い所まで関わっていると仮定した上で話すが、結局Mはどうやって宇宙人と決着を着けるつもりなんだ?」
「M? なんだアイツ、お前に本名を名乗らなかったのか?」
「説明に時間を取られてね、最後に聞こうとしたんだが時間切れだった」
「そうか、悪いが俺からアイツの名前を教えるわけにはいかないな」
「何でだよ」
「それはそうだろう、本人が名乗らないのに親とはいえ俺が勝手に本名をばらすわけにはいかないだろう?」
「まあ言われればそうなんだが」
「男親はとかく娘に嫌われがちなんだ、わざわざ嫌われる動機を作りたくない」
「そんなもんかねぇ」
俺は首を竦めて顔を横に振った。
「お前も父親になれば分かるよ」
「生憎だな母親にならなった事があるんだけど」
「違いない」
二人して苦笑いをした。
「おっと、宇宙人との決着の方法だったな、それは俺の方からお前に切り出そうと思っていた事なんだ」
「というと?」
「それは……おお、丁度見えて来た、それを説明するのにうってつけの場所だ」
「うん?」
道明寺が足を止めた場所、それは俺が園田に襲われたあの空き地に繋がる路地の前だった。
俺は気付かぬうちにバスで隣町まで来ていたんだな。
「お前が先に進んでくれ、俺ではこの侵入防止のフィールドに入ることが出来ない」
「どういう事だ?」
「この先に入ることが出来るのは宇宙人とその血を引いている者だけなんだよ」
道明寺に背中を押されて俺は裏路地を進む。
以前美沙と来た時はすぐに行き止まりになってしまったがまさか空き地に入るのにそんな条件があったとは知らなんだ。
今回はあの時同様に奥に進むことが出来た。
「ここに来たのは随分と久しぶりだな、出来れば二度と来たくは無かったけど」
「済まんな、嫌な事を思い出させた」
「いいって事さ、あれはあれで事件が起こらなければ俺はこの世に生まれて来ないし」
「そう割り切ってくれるなら俺たちも少しは罪の意識が薄れるよ、ああなるのが分かっていて見て見ぬふりをしていたんだからな」
「もう過ぎた事さ」
「これが最後だから打ち明けてしまうが、お前の母真紀の死因、お前は知っているか?」
「いいや、そう言えば知らないな、あんたは病名を知っているのか?」
「あれは病気ではない、クリムゾンレッドを飲み込んでしまった事で身体に負担がかかったんだ」
「何だって?」
「計画上真紀が死んで有紀にクリムゾンレッドが渡る様にしなければならないからな、しかもあのタイミングで死ぬのを何度も調べ上げた上でだ、これも知っていて俺たちは彼女に対してなんの処置もしなかったんだ、済まない」
ふとMとGである二人が園田から俺たちを救ってくれた後の事が頭の中に蘇る。
Gである道明寺は頻りに俺に謝っていたがもしかしてその事の謝罪をしていたのだではないだろうか。
確かにこの事を聞いては心穏やかではないが、道明寺達だって非人道的な事をしていることを悔やみながらこの計画を実行している。
俺と真紀は被害者なのは間違いない、だがそれを言うならこの壮大な地球人類救済の計画に関わった人間全てが被害者だ。
みんな何かしらで人生を台無しにしている筈。
「だからもういいって、それでMの話しは?」
「ああそうだったな、その前にどうやって宇宙人共が地球を侵略しようとしているかお前は知っているか?」
「ああ、園田は自分たちの遺伝子と地球人の遺伝子を交わらせてその子孫を社会に潜伏させ、数世代後に地球の社会を内面から支配するようなことを言っていたな」
「ああ、間違っちゃいない、概ね正解だ、じゃあ奴らはどうやってその自分たちの遺伝子を持った人間を動かすと思う?」
「う~~~ん、え~~~と……」
俺は頭を捻るがはっきりとした答えが浮かんでこない。
「遥か衛星軌道上にある奴らの母艦から電波を発信してその遺伝子を持った人間に一斉に指令を伝えるんだよ」
「そうなのか!?」
「ああ、世界に散らばる奴らの子孫は自分が宇宙人の血を引いていることを知らないも者が殆どだ、それを自覚させ世界征服の為の蜂起を促すのもその電波だ、しかも第一回目の指令を発信するのがまさしく今日の午後三時なんだよ」
俺は慌てて腕時計を見た。
すると現在の時間は午後二時四十五分。
「もうすぐじゃないか!!」
「お前と真紀がため込んでくれた精神エネルギーをその身に蓄えたMは仲間を引き連れここから奴らの本拠地である宇宙船に転移していった、奴らの発信装置を破壊するために」
「何だって!? それはいつの事だ!?」
「二十分くらい前だな」
「ついさっきじゃないか!!」
「そうだ、その直後にお前を迎えに行ったんだからな」
「何であんたはそんなに冷静なんだ!? 自分の娘が、仲間が危険な作戦を遂行している真っ最中だっていうのに!! 何であんたはここに残っている!?」
俺は思わず道明寺の胸倉を掴んでしまった。
「このフィールドと同様にここから宇宙船に跳ぶには宇宙人の血を引いていることが条件なんだ、俺は付いていく事が出来なかった」
俺は道明寺から手を放しガクリと肩を落とす。
我に返って思う、道明寺を責めるのはお門違いだと。
「……待てよ、奴らの血を引いているのが転移の条件なら俺なら宇宙船に行けるんじゃないのか!?」
「そうだ、子孫の中でもお前が一番純粋に宇宙人の血が濃いはずだ、だからこそお前をここへと導いた……頼む!! あの子を!! 美紀を救ってくれないか!?」
「美紀? それがMの名前か?」
「あっ……」
道明寺は慌てて口を押えるがもう遅い。
「そうか、じゃあ会って名前を呼んでやるためにも無事に連れ帰らなきゃな……分かった、俺も行ってやるよ!!」
「そうか……恩に着る」
「あんたの為じゃねぇよ、妹の為だ」
俺はサムズアップをしながら片目を閉じた。
「で、どうやったらその宇宙船に行けるんだ?」
「さっきも言った通り俺にはその資格がないからな、詳しくは分からないが美紀が言ってたのは心に念じるんだそうだ、宇宙船に行きたいってな」
「そうか、やってみる」
俺は空を仰ぎ目を瞑り精神を集中した。
(宇宙船に行きたい……宇宙船に行きたい……)
すると何だか急に身体が軽くなったような気がする。
「有紀!! お前身体が光って浮いてるぞ!!」
そうか、どうやら上手く言っている様だ。
このままこの状態を維持できれば俺も宇宙船に……。
その時だった、上空から物凄い圧力で身体を押さえ付けられた。
堪らず俺と道明寺は地面に倒れ込み身動きが取れなくなった。
これは何だ? 何かの衝撃波か?
辺りからもガラスが割れる音や人々の悲鳴が聞こえてくる。
十数秒後、その圧力は解かれ身体の自由を取り戻すことが出来た。
「今のは!?」
「………」
「道明寺!?」
俺の呼びかけに答えず沈痛な面持ちの道明寺。
「……遅かった」
「なっ……どういう事だ!?」
地面に膝を付いている道明寺の両肩に手を置き身体を揺さぶる。
「この計画にはいくつかの選択肢があった……美紀たちが宇宙船に潜入、発信装置を破壊して脱出すると言うのが最終目的だ、だがもしそれが叶わないと判断した場合は自爆してでも発信器を宇宙船諸共破壊するというものだ……恐らく美紀はその方法を実践したのだ……さっきの空からの圧力は成層圏に浮かんでいた宇宙船が爆発した事によって発生した衝撃波だったんだ」
「そんな!! じゃあ美紀は!!」
「くっ……!!」
道明寺が嗚咽を漏らす。
俺は全身から血の気が引いていく感覚を味わっている。
「くそーーーー!! こんな馬鹿な事があるかーーーー!!」
俺は叫びながら何度も何度も拳で地面を殴りつけた。
拳は皮が擦りむけ血が滲んでいるがそんな事、構うものか。
道明寺はただ力なく座り込んままだ。
恐らくこれで地球は救われたのだろう。
宇宙人の子孫たちは確かに残っているが指令が届かない限りは自分が宇宙人の血を引いている事に気付かないから特に行動を起こす事は無いだろう。
だがこれではあまりに美紀が報われなさすぎる。
一体何のためにこの世に生を受けたんだ?
地球を救った救世主? それが何だ? 誰にも知られず誰にも憶えていてもらえないなんて……こんな悲しい事があるか。
これじゃあ美紀は地球を救う為に捧げられた生贄ではないか。
「あ~~~あ、やってくれたねぇ……」
「………!?」
聞き慣れない若い男の声がする。
俺はすぐさまその声がした方向を睨みつける。
するとそこにはすらっとした細身の体型に垢抜けた顔立ちの俺と同世代位の少年が立っていた。
「お前は誰だ?」
「これは初めまして早乙女有紀君、僕の名前は水野零士、水野暦の息子です」
「なっ……暦の息子……だと!?」
この思わぬ人物の登場は宇宙人との戦いにまだ決着が着いていない事を悟るには十分過ぎるものであった。
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