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第7話 真実を暴き出せ!!
しおりを挟む初めてのマタタビ粉作戦からその後一週間、平原での会戦を三度、JK達は妨害していた。
毎回まともな戦闘にならず、そのまま引き返していく猫たちには当然一頭の負傷者も出ていない。
「なぁ、あと何回これを続けるつもりなんだ?」
蕗の団扇を持ったまま、去っていく猫たちを見送りながら林檎がレモンに問う。
「これで一度様子を見ようと思っています」
「結局このマタタビ作戦は一体何だったんだ? アタイにはまだイマイチ全貌が見えないんだが………」
困惑した表情の林檎の顔を見てレモンは微笑みながらこう言った。
「林檎さん、『三日坊主』って言葉は知ってますよね?」
「ああ、何か物事を始めた時に長続きしないことを言うんだよな………大体三日目辺りから続かなくなるって言う」
「そうです、習慣的に続けている物事は序盤で挫けがちですが、軌道に乗れば案外楽に続けられるのです………ただ一度でも途絶えてしまうと中々元の状態に戻すのは難しいものですよね」
「分かる~~~『ダイエットは明日から』ってその日にお菓子をいっぱい食べて、でもやっぱり次の日も『ダイエットは明日から』って言っちゃうのと似てるよね」
「それとはちょっと違うかな………」
みかんの意見に困惑し苦笑いするレモン。
「そうだぞ、お前のそれは始まってすらいないだろ!!」
「あっ、そっか~~~てへぺろっ」
林檎のツッコミに対して頭に手を当て舌をチロッと出すみかん。
「話を元に戻すと、私たちの横やりで猫たちの二日に一回というルールにおいて行われていた戦闘に一週間の空白が出来た訳です………元々そこまで能動的に行動しない猫たちですから、彼らの戦闘意欲とモチベーションはかなり下がったと思ってよいでしょう」
「なるほど、あわよくばこのまま戦闘を起らなくさせる、と………そういう作戦だったんだな、やっぱ凄いよレモンは!!」
「いえ、それほどでも………」
レモンの顔は茹でた様に真っ赤だ。
火照る頬を掌で扇ぎなんとか平静さを取り戻す。
「実はまだ戦闘の妨害期間が不十分かもしれないんですが、一度ここで作戦を止めるのには理由があるんです」
「と言うと?」
「戦闘が停止してしまってはこのまま戦争が自然消滅してしまうかもしれない………
そうなっては困ってしまう誰かが居るかも知れないでしょう?」
「この戦争を裏で操っていた奴がいるんだな?」
「はい、恐らく」
直に口に出してはいなかったが、林檎は既にこの戦争が仕組まれた物ではないかとの予想を立てていた。
レモンも同じ疑念を抱いていたのは薄々感づいていたので特に驚きはしなかった。
「え~~~~っ!? そんな奴がいるの~~~!?」
みかんだけが一人驚いていた。
「鈍いなお前、考えても見ろ、この戦いは不自然な点が一杯あったじゃないか!!」
「そんな事言ったって………気付かなかったもん」
いじけて左右の人差し指同士でつつき合っている。
「まあいいや、レモン、続けてくれ」
「はい、戦争が終結して困る存在が焦って動き出すのを待ちたいと思ってます………
実はもう犯人の目星は付いているんです」
「何だって!?」
「ホント!?」
驚く林檎とみかん。
「百パーセントでは無いですがほぼ間違いなく、そこでお二人に頼みたい事があるのですが………」
レモンはその犯人を押さえる為に二人にある指示を出した。
翌日の朝方。
「頼もーーーーーー!!」
シャノワール国王の王城の前でみかんが叫ぶ。
知っての通りとてもアバウトな国民性の国なので、みかんでも簡単にここまで入って来れてしまう。
「おや、どうしたんですかみかんさん、こんなに朝早く」
城の入り口からリチャードが顔を出した。
「おはようタマゾウ!! 実はね、取って置きの情報を手に入れたんだ!!
ただここでは話せない内容だからちょっとこっちに来て」
「分かったにゃ」
二人は城の外壁に沿って建物の裏側へと周っていった。
「で、その取って置きの情報とはにゃんです?」
人気のない場所で二人は向き合った。
「えっとね、小耳に挟んだんだけど、タマゾウたちの戦っている相手がね、もう戦争を止めるって言ってるらしいんだ、それも今度は完全にね」
「にゃんですと!? それは本当かにゃ!?」
「タマゾウも知ってるでしょう? 最近、相手の兵隊猫さんが減ってるのを………
明日の戦いにはもう誰も来ないらしいよ」
「それはそうですが、しかしそんな馬鹿にゃ………」
「ん? いま馬鹿って言った?」
みかんは『馬鹿』というワードに妙に敏感になっていた、別に自分が言われた訳でもないのに。
「いえ、こっちの話しにゃ………分かったにゃ、貴重な情報感謝するにゃ」
「いやいや、あたしとタマゾウの仲だもん」
「我は色々準備があるのでこれで失礼するにゃ」
タマゾウもといリチャードは駆け足で去っていった。
「これでいいんだったよね?」
みかんはスカートのポケットから紙切れを出して確認する。
これは出掛けにみかんが用件を忘れないようにとレモンが書いて持たせてくれたものだ。
「あっ、忘れてた、次は………」
みかんもメモの指示に従い動き出した。
一方、林檎はと言うと、同時刻に単身ホワイトキャット女王国へと出向いていた。
「戦争調停役をしている林檎だ、今すぐブルース大臣に会わせてくれ!!」
「待つにゃ、いま呼んで来るにゃ」
「大急ぎで頼むぜ、この国の存亡が掛かってるんだからな!!」
「そっ、そうか分かったにゃ」
林檎の焦り具合に門番の顔色が変わり大急ぎで国内へと入っていった。
程なくしてブルースがやって来た。
「何なんですかにゃ? 火急の要件と言う事でしたが………」
「おお、来た来た大臣!! 大変なんだよ!! 奴ら、ルールを破ってあと二時間程でここに攻めてくる気だ!!」
「にゃんですって!? それは本当ですかにゃ!?」
「ああ間違いない、奴らが進行準備をしてるのをアタイは見たんだ!! この目でな!!」
血走った林檎の目を見て、ただ事ではないとブルースは思った。
「よく知らせてくれましたにゃ、感謝します………
しかしあまりにも時間が無い、これでは国の守りを固めるのが精一杯ですにゃ」
「アタイもそう思う、ウチの軍師もそうするべきと言ってたよ」
林檎が言う軍師とは勿論レモンの事である。
「これより準備に入りますのでこれにて失礼しますにゃ」
「ああ、気にすんな、アタイは少し休ませてもらうよ」
急いで立ち去るブルースを見送った。
「よし、行ったな………アタイも次の行動に移るとするかい」
ブルースが完全に視界から消えたのを確認し、林檎は人目に付かない裏路地へと消えた。
一時間後、とある茂みで密会する二つの影があった。
「何故あの政治のせの字も分からないお飾り女王様の命令を聞く!?
兵士の数を減らしたのは仕方が無い事とはいえ戦闘行為そのものを止めるなど命令違反だぞ!!」
「そちらこそなんだ!! 二国の中間地点に位置する平原で常に引き分けるのが決まり事だった筈だ、それを国内まで攻め入ろうとはどう言う了見だね!?」
二つの影はいがみ合っていた、しかしお互いの言ってる事がどうにもずれている事に気付く。
「ちょっと待ちたまえ、貴方は何を言っている? こちらは貴国に攻め入るなぞする訳が無いだろう、貴方が言う通り平原で戦うのが取り決めであるからな」
「それを言うならあなたもだ、こちらは一応、女王の顔を立てて兵を減らしてはいるが戦闘を止めるなどと言った事は無い」
「そもそも我らのこの情報は何処から入った………?」
影たちは暫し見つめ合ったまま考え込む、そして同時に声を上げた。
「「あ~~~~~っ!! あのJK共め!! 我らを謀ったにゃ~~~!?」」
頭を抱えて狼狽える影二人………いや、リチャードとブルース。
「やっとお気づきになりましたか?」
「「誰にゃ!?」」
「こんにちは、お久し振りです、敵同士なのに仲が宜しいですね」
茂みから顔を出したのはレモンであった。
眼鏡のフレームを押し上げるとレンズかキラっと光った。
「何故我らが通じ合っているのが分かったにゃ?」
レモンを睨みつけリチャードが問いかける。
「それは簡単です、推理すら必要なかったですよ………だって、両国のトップであるシャノワール王とミルク女王に積極的な戦闘意思が無いのに戦争が継続しているという事は、現場の指揮権を掌握している者が疑わしいのは当然………そしてそれは片方の国だけが動いても膠着状態を維持するのは困難ですからね、だから両国に内通者が居ると考えるのが当然でしょう? そうして導き出された答えがあなた達と言う訳です」
ビシッと人差し指を前に突き出すレモン………このレモン、ノリノリである。
「クックックッ、そこまで完璧に暴かれてしまったのなら申し開きは必要ないにゃ………しかしあなた、一人で来たのは間違いでしたね」
ブルースが不敵な笑みを浮かべる。
「そうだにゃ、ここでお前を仕留めてしまえば誰にもこの事実を知られる事は無いにゃ」
「くっ………」
レモンの顔に焦りの表情が浮かぶ。
それは芝居ではなく本物の危機に陥っている事を示す。
リチャードとブルースの瞳孔が縦に窄まる、典型的な猫目になった。
前足の爪が突きでて不気味に輝いている。
「我々の計画を暴いた事を後悔させてやるにゃ!!」
ブルースがレモンに向かって走り出す。
レモンの身体能力ではかわす事は不可能だ。
「ええいっ!!」
レモンが懐から取り出した巾着袋をブルースの顔目がけて投げつけた。
袋は見事、顔にぶち当たりん中身が散乱する。
「こっ、これは!! マタタビ!! うにゃぁ………身体の力が抜けるにゃ」
ブルースはその場で寝転んでしまった、幸せそうな表情を浮かべて。
「貴様!! 何をやってるにゃ!! こうなれば我が止めを刺すにゃ!!」
今度はリチャードが動き出す。
「それではサヨナラにゃーーーーー!!!」
刹那、勢いよくリチャードががレモンに向かって飛び掛かって来た。
レモンが顔を両腕でガードする体制を取った。
「ハーーーーーーッ!!!」
横から黒い影が猛スピードで飛び出しリチャードに爪を振り下ろす。
「フギャアアアアアっ!!!」
顔を斬り付けられたリチャードは堪らず顔を押さえ地面に落下後、のたうち回る。
「この不届き者め!! 恥を知るニャ!!」
スタっと地面に着地したのは何とシャノワール53世であった。
彼の後ろには数匹、王国の兵士猫が控えていた。
「レモン無事か!?」
「林檎さん!!」
「あ~~~良かった、間に合ったね!!」
「みかんさん!!」
レモンの所に林檎とみかんが駆けつけた。
「黒猫さんの説得に思ったより手間取っちゃって………テヘっ」
みかんも林檎も、リチャードとブルースに嘘の報告の後、シャノワール王とミルク女王に彼らが騒動を裏で操っている事を報告していたのだ。
流石にすぐには信じてもらえなかったので、ここに戻ってくるのに時間が掛かってしまった。
「皆さんお怪我はありませんか?」
「大丈夫だよミルク様、来てくれて嬉しいよ」
林檎がサムズアップしてミルク女王に見せつける。
「あの、その仕草にはどう言った意味合いがあるのですか?」
「ああゴメン、これはアタイたちの世界では『イイネ』って思った時に出すサインなんだ」
「まぁ、そうでしたか」
ミルク女王が優しく微笑む。
「さあ国家転覆を目論んだ大罪人よ、大人しくお縄に就くニャ」
「グムム………」
苦虫を噛み潰した様な歪んだ表情のブルース、負傷したリチャード共々兵士猫に取り囲まれた。
「良かったね、これで猫さんたちは平和に暮らせるよ!!」
「おう、そうだな」
「ええ、皆さんの頑張りのお蔭です」
「何言ってんだよ、レモンの知恵が無かったらアタイたちは事件解決どころかこの世界で野垂れ死にしてたぜ」
「そうだよ!! もっと威張っていいんだよ!! こう胸張ってエッヘンってね!!」
「お前は張る程の胸は無いけどな」
「うるさいな!! 林檎ちゃんのお胸なんてこうしてくれるわっ!!」
ガシっと林檎の胸を鷲掴みにするみかん。
「うわっ!! おいやめろ!! あっ!! やめてーーーっ!!」
「もう、あんまり胸を乱暴に扱うとクーパー靭帯が切れてしまいますよ!!」
「くぱぁ靭帯? 痛っ!!」
「馬鹿!!」
みかんは林檎に思いっきりオデコを平手で叩かれた。
「女性のお胸を引き上げている靭帯で、それが切れるとバストの形が崩れ、だらしなく垂れ下がってしまうんですよ」
「「何それ怖い………」」
二人は自分の胸を押さえ、震えあがった。
猫の国の騒動は一件落着………と思いきや実はこれこそが長く苦しい旅の始まりであった。
だが、はしゃぎ回る今のJK達には知る由も無いのであった。
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