ドラゴンズロアー~竜の血族~

美作美琴

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第7話 謎の助っ人

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 「ハァ……ハァ……ハァ……」

 サントスは一心不乱に走っている。
 顔は青ざめ、走るその様は形振りを構っていない。
 幻滅する程のその姿、追走する手下は怪訝に思いサントスに問うた。

「お頭!! 何でなんです!? あんなトカゲ殺し如き俺たちが一斉にかかればれたはずなのに、何故逃げ出したんです!?」

「馬鹿野郎!! お前には見えなかったのか!?」

「えっ? 何の事です?」

 予想外のリアクションに手下は虚を突かれる。
 サントスの顔は恐怖のあまり引きつっていたのだ。

「これだからお前はチンピラ止まりなんだよ!! 俺には見えたぜ……あの野郎の背中に凶悪なツラをして翼を広げたドラゴンのオーラをな……あんなのとは関わっちゃいけねぇ、命がいくつあっても足んねぇよ……」

 そこまで言った後無言になるサントス。
 サントスがあくどい事や卑怯な事で成り上がるのをずっと見て来た手下だ、彼がそこそこの実力を持っているのも知っている。
 そうでなければオーキードの冒険者ナンバースリーの地位まで駆け上がる事は出来なかったのだから。
 そのサントスが身を震わせ焦燥しきった表情でここまで言うのだ、今になってその手下も背筋がうすら寒くなったのだった。


 
「で? 爺さんは俺たちに何を期待してるんだ?」

 ドーンはジェーニャを背に庇いながら老人を睨みつける。

「フム? どういう事かな?」

 ドーンの第一声に疑問を持つ謎の老人。

「変わった小僧よな、普通こんな怪しげで謎めいたこ汚いジジイが現れたらまずは儂の素性から聞きそうなもんなのにのぅ」

「自分から怪しげとか言うな」

「じゃあ怪しくない、儂はまったく怪しくなどないぞ?」

「ふざけてるのか? 糞ジジイ」

「初対面の老人を捕まえて糞ジジイとは最近の若者は礼儀ななっておらんな」

「コイツ……」

「フォッフォッフォッ」

 のらりくらりとはぐらかすような物言いの老人にドーンは段々腹が立ってきていた。
 いつまでも相手をしていられない、ドーンは老人からそっぽを向くとのしのしと歩き始めた。
 老人が気になり何度も振り返りつつもジェーニャもすぐ後を追う。

「いいんですかドーンさん? あのおじいさんを放っておいて」

「いいんだよ、あの糞ジジイが簡単にどうにかなるとは思えない」

「何故です?」

 コイツ何も分かっていないなと言った蔑みの表情でジェーニャを見据えるドーン。

「考えてもみろ、そんな軟なジジイがこんなモンスタいつ出て来てもおかしくない森の中に居ると思うか?」

「えーーーと、思いませんね」

 その返答にドーンはがっくりと肩を落とす。

「俺は前に言ったよな、情報こそ最大の武器だって……相手を見、状況を見ればおのずと最適解が見いだせる……あれは関わっちゃいけない類の人間、いや人間かどうかも怪しい」

 会話をしつつも茂みを掻き分けどんどん森の奥へと歩みを進めるドーンにジェーニャは付いていくのがやっとであった。
 いやどちらかと言うと徐々に離されている。

「フォッフォッフォッ、つれないのぅ、そう邪険にすることもあるまいに」

「!!!」

 先ほどの老人の声が聞こえたかと思うとドーンとジェーニャを取り巻いていた茂みが一斉に倒れ、まるで刈り取ったかのように道が開ける。
 そして老人はその道を足を動かさずに滑る様にドーンたちの所まで移動してきた。

「わぉ!! 凄い……これおじいさんがやったんですか!?」

「そうじゃよ、何も茂みを掻いて行かなくともこうすればスマートに進めるというものじゃ」

「………」

「ちょっと、ドーンさん……?」

 ドーンの老人を見つめる目が明らかに殺気の籠ったものに変わった。
 普段そう言ったこのに疎いジェーニャですら緊張するレベル。
 それを感じ取り老人は慌てて両手を上に揚げた。

「ちょっと待ちなされ、これだから血気盛んな若者はいかん」

「最初に行ったはずだ、お前は俺たちに何を期待している?」

「だからその話しをしに来たんじゃよ、お前さんがいけずして先に進むからいかんのじゃ」

 ドーンはそれでも老人に対して警戒を解こうとはしない。
 
『冒険者は臆病なくらいが丁度良いんだよ』

 この用心深さこそドーンが師匠であるライラから学んだことの一つであった。
 
「ねぇドーンさん、このおじいさんが怪しいのは私にもわかるわ、でもここはお話し位聞いてあげてもいいんじゃないのかしら?」

「……確かに放置して付き纏われたんじゃ溜まらん……仕方がない、話し位は聞いてやる……但し杖は少し離れた地面に投げ捨てろ、何をされるか分かったものではないからな」

「分かったのじゃ、やれやれ」

 老人は仕方なく先端が渦巻くように丸まった木の杖を倒れた草の上に放り投げる。

「手短に言え、要件は何だ?」

 ドーンはそっけなく問う。

「お前さん方に興味があってな、実に面白い二人組だと思ってのぅ」

「貴様……まさか見えているのか?」

「そうじゃとも」

「えっ? えっ?」

 二人が何を話しているのか理解できずジェーニャはキョロキョロと二人の顔を交互に見つめている。

「分かっていてちょっかいを出すとはいい度胸だな」

「その程度なら儂にも何とか出来そうじゃからな」

 にぃっと歯を出して口元を歪める老人。

「貴様、喧嘩を売りに来たのか!?」

「済まん済まん、どうしても煽ってしまうのは儂の悪い癖じゃな」

 ポンと自身の頭を叩く。

「そうそう、話しを元に戻そうかの、お前さん方はこの先の古城に居る赤黄色スカーレットの所へ行くんじゃろぅ?」

「ああそうだ、……何故それを知っている?」

 再び鋭い眼光。

「知っているとも、実はな儂も奴に用がある、奴の角はとある秘薬の材料になるのじゃよ」

 一瞬訝しんだドーンだったが杞憂であった。
 クエストの依頼書を見ていなくともこの手の魔導の研究をしているものならこの手の情報を持っていても不思議では無いからだ。

「なるほど、要するにクエストのパーティーに加えろ……そういうことでいいんだな?」

「ウム、単刀直入に言ってそうじゃ、お前さんが望んでいる炎防御も出来るぞい」

「何故それを知っている!?」

 さすがにそれだけはドーンの許容の範囲を超えていた。
 この老人がその事を知るはずがないのだ、あの酒場に居でもしなければ。

「さては見ていたな?」

「済まんの、一部始終を見ていた、だからこそ接触をしたんじゃ」

「コイツ……!!」

 あの時の恥ずかしいやり取りをすべてこの老人に見られていたとは、ドーンは羞恥の余り身体が熱くなっていた。

「き、気に入らねぇ!! お前なんかをパーティーに入れてたまるものか!!」

 急に踵を返すとドーンは再びのしのしと歩みを進め始めた。
 しかしこれは赤面した顔を見られたくないだけだった。

「あっ!! ドーンさん!! 待ってくださいよぅ!!」

「そう言わずに、必ず役に立つでな」

 その後を慌ててジェーニャと老人が追う。

(しかしこの糞ジジイがさっき言っていた『面白い二人組』とは何だ? 魔術師なら俺の身体から滲み出るオーラか何かから俺が竜人ドラゴノイドと見抜けるかもしれないがジェーニャは? 彼女にも何かあるのか?)

 ドーンは歩きながらふとそんな事を考える。

「あまり不用意に進むなよ、そろそろ赤黄色やつの住まう古城が近付いているぞい」

 老人の一言にドーンは立ち止まり剣を背中の鞘から抜き構える。

「何かがいるな……気を付けろよ」

 微かに地面が揺れている、そしてその振動は徐々に激しさを増す。

「グワアアアアアアアアッ!!」

 茂みから飛び出し彼らの目の前に現れたのは身体が鮮やかな赤のドラゴンだった。
 翼は無く身体の長さは人二人分くらいのドラゴンとしては小振りの部類だ。

「これが赤黄色スカーレットですか? 思ったほど大したことないんですね」

 ジェーニャが余裕綽綽と言ったいかにも相手をおちょくった表情をする。

「馬鹿、コイツは赤黄色スカーレットじゃない、別の下位個体だ、こんなのだったらあのサントスだって倒せている」

 そういうっている内にゾロゾロと同種のドラゴンが集まりだした。
 その数、五匹。
 そしてドラゴンたちは一斉に頭をもたげて後ろいっぱいに首を逸らせた。

「まずい!! ファイアブレスの予備動作だ!! ジェーニャ逃げろ!!」

「えっ!? えっ!?」

 突然の展開に何が起こっているか理解出来ていないジェーニャはその場に留まったままどう動いていいか分からずにいた。
 完全に足が竦んでいる。

「あの馬鹿……!!」

 一旦自らの退避の行動を取っていたドーンであったが身体を反転、ジェーニャの方へと走り出す。

 ボアアアアアアアア……!!

 五条の炎が一斉に放射されジェーニャは逃げ場を失う。

「きゃあああああっ……!!」

「ジェーニャ!!」

 ドーンがジェーニャに飛びつき覆いかぶさる、背中はドラゴンたちに向けているのでこのままではドーンは丸焦げになってしまう。

「ドーンさん!!」

「くそーーーーっ!!」

 ジェーニャを抱きしめなるべく身体を屈める、いつ炎に巻かれても耐えられるように身体に力を入れて待ち受けるが、一向に炎に焼かれる事が無い。

「どうしたんだ?」

 ヒュンヒュンと甲高い音を上げて回転する、二人と炎を阻むように魔方陣が刻まれた半透明の盾がそこにはあった。

「フォッフォッフォッ、役に立つと言ったじゃろう?」

 老人の持つ木の杖の先端が魔法力を湛え輝いている。
 この光の盾は老人が出したものだ。

「あんた、口先だけじゃなかったんだな」

「失敬な、儂を誰だと思っている、かつて『七本杖セブンワンズ』と謳われし者の一人、『守りのキャスパー』とは儂の事よ!!」

 キャスパーと自ら名乗った老人は自信満々の笑みを湛えて杖を天高らかに掲げるのだった。
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