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第14話 囚われのモニカ

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 リガイア軍宇宙戦艦解の格納庫内、解体用のレーザートーチが火を噴きアヴァンガード・ストライカーの胸のハッチを焼き切る。

「両手を頭の後ろで組んで立て!!」

「………」

 モニカは無言で周りを取り巻く拳銃を向けて来たリガイア軍の兵士の命令通りにしシートから立ち上がると、強引に身体をコックピットから引きずり出される。
 しかしこれはモニカにとっては完全に晴天の霹靂であった。
 アナコンダとの戦闘後、アヴァンガード・ストライカーとAIミズキの動力が落ちてしまい頭部カメラアイからの映像は映らず、通信も出来なくなっていた。
 勿論コックピットハッチの開閉もだ。
 そんな折、別の人型機動兵器と思われる物体が接触、機体が動き出した事で味方が回収してくれたと思いモニカは安心していたのだが、現実は違い彼女はいま敵に捕らわれている。

「おい、こいつ女だぜ……」

 ヘルメットを脱がされモニカの顔が露になると、途端にざわめく兵士たち。
 無理もない、任務に当たってから女っ気のない艦に閉じ込められているのだから。

「こっちだ、しっかり歩け!!」

 モニカは後ろ手にされ手錠をはめられる。
 そして兵士の誘導のまま格納庫から廊下を通り艦内の一室に通される。
 そこには立派な事務机があり、体格のいい壮年の男が待っていた。

「ようこそ我が船ドッグケージへ、私はリガイア軍特務大佐のヴァイデスと言う者だ
……お嬢さん、お名前は?」

「………」

 モニカは口を開かない、それどころか鋭い眼光でヴァイデスを睨みつけている。

「フム、兵学校の授業はしっかり受けていたようだね、捕虜はベラベラしゃべるものではない、結構結構」

 優し気にほほ笑むヴァイデスに一瞬気が抜けそうになったがすぐに気を持ち直す。

「黙秘は捕虜の権利として尊重しよう、その代わりまずは君の乗っていた機体を調べさせてもらうけどいいね?」

「あっ……」

 モニカが一瞬声を上げたのをヴァイデスは見逃さなかった。
 あの機体には何か重要な機密があると確信する。

「おい、鹵獲機体の調査と分析を急げ、それからお嬢さんをお部屋へ案内しろ、くれぐれも失礼のないように」

「はっ!!」

 二人の兵士がモニカを連れヴァイデスの部屋から出て行った。

「入れ」

 薄手の捕虜用の衣服に着替えさせられ窓に鉄格子のある狭い部屋にモニカは放り込まれた。
 そこは独房で、鉄パイプで組まれた粗末なベッドと洋式便器があるのみであった。

「大人しくしていろよ」

 耳障りな金属音を立てドアが閉められ、ロックが掛けられた。
 兵士がその場を離れてすぐにモニカはベッドの上がり膝を抱えた。

「ううっ……どうしてこんな事に……」

 緊張感が一気に解け、これからどうなってしまうのか分からない不安感に圧し潰されそうになる。

「助けて……ミズキ……」

 薄暗い独房の中、モニカは止めどなく流れる涙を抑えることが出来なかった。



 エデン3、スペシオン基地ブリーフィングルーム。

「モニカが敵に捕まった!?」

 グランツがいつもより何倍か増しの声量で叫ぶ。

「申し訳ありません、私が戦闘宙域に到達したときには既にモニカは連れ去られた後でした」

 普段感情を表に出さないレントの沈痛な声がその深刻さを物語っていた。

「何で!? 何でモニカがこんな目に合うの!?」

 フェイも冷静ではいられない。
 額に巻かれた包帯が痛々しい。

「そんなの決まってる……敵は僕らの起動兵器の情報が欲しいんだ……」

 ソーンがぼそりと言い放つ。

「これというのもAIがおかしな素振りを見せた時に黙認したレント!! 貴様の責任だぞ!! あの時AIが反乱を起こしていなければ敵に後れを取る事も無かったのだ!!」

 ファウザー司令官がレントを指さす。
 彼の怒りは怒髪天を突いていた。

「貴様は戦闘後に責任を取るといったな!!」

「はい」

「いい度胸だ、おい!! こいつを拘束しろ!!」

 ファウザーが近くにいた警備担当の兵士に命令する……が兵士たちは動こうとしない。

「何をしておるか!! 早くこいつを捕まえろ!!」

 尚も語気を荒げて命令を出すがやはり兵士は動かない。

「何だというのだ!? 一体どうなって……」

 さすがにこれはおかしいとファウザーも気づき始める。

「ファウザー指令、確かに私は先ほど責任を取ると申し上げました、ですから私は私なりのやり方で責任を取りましょう」

 レントが右手を上げると兵士が二人、ファウザーに組み付いた。
 そして床にねじ伏せると腕を後ろ手に回し手首に手錠を掛けたではないか。

「ぐううっ……これはどういう事だ!? 説明しろ!!」

 顔を床に押し付けられ、上目使いでレントを睨んだ。

「申し訳ありませんがあなたには何も教えられません……連れて行きなさい」

「はっ!!」

「やめろっ!! 貴様!! こんな事をしてタダで済むと思うな!?」

 二人の兵士が喚き散らすファウザーを引きずりブリーフィングルームから出て行く。
 その後何事も無かったかのようにレントが大型モニターでエデン3の外の宇宙空間を映し出す。
 すると本来非常時にコロニーから脱出するために用いられる球状の脱出ポッドが一つハッチから射出されゆっくりと星空を流れていった。
 ポッドの窓から誰かが顔を覗かせる、ファウザーだ。
 ファウザーは顔を真っ赤にし何かを必死に叫んでいるがマイクを切ってあるのでこちらには何も聞こえない。

「さて、邪魔者はいなくなりましたね、ではこれからの事をお話ししましょうか」

 レントはいつも通り穏やかな表情で皆に向き合う。

「隊長……あんたは一体……?」

 普段が粗暴なグランツもさすがに動揺を隠しきれない。

「君たちにはまだ私のもう一つの肩書を教えていませんでしたね……私は超人類国家【ハイペリオン】のエージェント、本名をレントール・レガリアスと申します」

「超人類国家ハイペリオン? ねぇティ……お兄ちゃん知ってる?」

『誰がお兄ちゃんだ、俺にはれっきとしたティエンレンという名前がある』

「だってあなたの名前、死んだお兄ちゃんと同じだから呼びづらいんだもの」

『チッ、しょうがないな……何々?』

 ティエンレンはフェイに頼まれ検索を開始した。

 超人類国家【ハイペリオン】
 惑星至上主義国家【リガイア】にも宇宙連邦【スペシオン】のどちらにも属さない第三の新興勢力と目される、しかし詳細は不明。

『何だよ、軍のデータベースですらこれしか把握していないのかよ』

 ティエンレンが毒づく。

「ハイペリオンの存在を知っているだけでも大したものですよ、因みにそれ、僕が書き込んだんですけどね」

「何やってんすか!!」

 グランツが突っ込み、一同は軽くズッコケそうになる。

「それで……隊長の目的は何?」

「はいソーン、いい質問です……私の、いえ私たちハイペリオンの目的はただ一つ、人類にさらなる進化を促す事です」

「はっ?」

 何だこいつといった疑惑の眼でレントールを見つめるグランツ、フェイ、ソーン。
 説明に必死のレントールだが胡散臭すぎて全く相手にされない。
 語れば語るほど警戒されていくのを感じる。

「いやーーー、流石に手厳しい……簡単に説明しますとあらゆる手段を使って人類を次なるステップへと引っ張り上げるとでも言いましょうか……今回はAIに目を付けたんですけどね」

「まさか、それはミズキの事を言ってるの?」

「あっ、はいはいそうです、今回の一連の騒動は私がリガイアにスペシオンに謎の新兵器アリとの情報を流しましたからね」

「何だってそんな事を!? そのハイ何とかの目論見のせいでモニカは!!」

 グランツがレントールの胸倉に掴みかかった。

「ミズキたち新型AIの進化を促す為ですよ……人間の成長と同様、にも何らかの刺激が必要でした、その為に騒乱を引き起こしたのです、平穏な状態では急激な進化は望めませんからね」

「勝手な事を!! その為にモニカが捕まっちまったんだぞ!! 頭きた、一発殴っていいか!?」

「それは勘弁願います、私だって責任を感じているんですよ、さっきも言ったでしょう? 私なりに責任を取るって」

 レントールが手を上げ合図をすると先ほどの兵士がインカムで誰かと会話をしている。
 すると大型モニターに巨大な影が映り込む。

「……何だこりゃあ……」

 グランツの口が開きっぱなしになる、それは巨大な戦艦だった。

「これぞ我がハイペリオンが誇る強襲戦艦【セインツ】です、皆さんと私はこの船に乗りモニカを連れ去ったリガイアの戦艦を襲撃し、モニカとAIミズキを奪還します!!」

  大袈裟に両手を広げレントールは高らかと宣言するのであった。
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