毒兵器少女と化け物王子の幸福論

千 遊雲

文字の大きさ
1 / 5

毒兵器が主様に、初めて出会った日

しおりを挟む
私が主様と出会ったのは、まだ隣国との戦争も始まっていない時のことだった。

いつ起こってもおかしくない戦に備えて、秘密裏に開発されていた人間兵器。実験の繰り返しの末、体にあらゆる毒を詰め込まれた動く毒兵器。それが私だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「…娘、名前は?」

「よんごう」

「ここから出たらしてみたい事はあるか?」

「でる?」



ある日、研究所の扉を壊して私の所にやって来た主様は、私の手足を縛る鎖を外しながらそう聞いた。

質問の意味が分からなくて首を傾げる私に、主様は再び聞いた。



「…こうなったらいいと望むことはあるのか?」



私は最初、主様のことを「へんな人だ」と思った。

だって、注射で毒を流し込むことも、色々な器具で体を切ったりすることも、私どくへいきの前でマスクもせずに立って、言葉を掛ける人なんて、今までずっと居なかったから。

けれどその声は、私が今まで聞いてきた言葉の何よりも優しく聞こえて。



こうなったらいい。

毒に塗れて、苦しくて、痛くて。

こうして生きていくために吐く息ですら、含んだ毒で誰かを傷つける私が、望むこと?



「きえたい」



小さくそう答えた私に、主様は痛みを堪えるような顔をした。

この人も痛いのかな、と思った。主様の体は大きくて、重そうな剣も軽々と担いでいたから凄いと思っていたけど、もしかしたら私と同じように、体のどこかが痛いのかもしれない。




主様は私の瞳をじっと見つめ、それから膝をついて…私の手を取った。毒に塗れて、主様の手とは全く違う色の不気味な私の手を躊躇いなく握って、主様は私を抱え上げた。

主様の腕の中から見える世界は地面が遠くて、少しだけ怖かった。



「お前の苦痛は痛いほど分かる。

消えてしまいたいという気持ちも。

けれど…。

けれど、誰にでも降り注ぐ日の光は暖かく。

頬を撫でる風は心地よく。

見上げる空は青く、こんな時ですら美しい。

幸せを見つける方法が分からないというなら俺が教えてやる。

消えたいなど言うな」



研究所から連れ出されて、主様に見せられた空は確かに綺麗だった。

その時から、毒兵器だった私は、幸せを教えてもらうために主様の側にいることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

ヒロインは修道院に行った

菜花
ファンタジー
乙女ゲームに転生した。でも他の転生者が既に攻略キャラを攻略済みのようだった……。カクヨム様でも投稿中。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

真実の愛ならこれくらいできますわよね?

かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの でもそれは裏切られてしまったわ・・・ 夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。 ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...