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28. 進む道は遥かで

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 ウチの台所。今、お姉ちゃん春香と一緒にお料理してる方がいる。

 西門 愛衣楽さん。

 お姉ちゃんと同じ高校の後輩で私より3つ上だったかな?短大の語学科に入ったって聞いてる。

 祖父が英国イギリス人って。だから瞳に若干翠色が入ってて。
 動物大好きで、何でも飼ってる亀は小学生の頃から育ててるって。家を訪ねた時見せてもらった。ミドリガメって500円玉くらいだと思ってたのに、私の掌より大きくてビックリした。
 将来は外交の仕事したいって。
 祖父仕込みって言ってたけど、英語は勿論ドイツ語フランス語もペラペラ。ポルトガル語やスペイン語は少し怪しいって。あんな流暢に喋ってるのに。

 そんな風に、夢を語る愛衣楽さんはとても眩しいくらい輝いていて。あんな女性になれたらって思ったんだ。

「よく、そんな器用に薄く」
「慣れよ、慣れ。後は気合い。ほら、夏希なんか愛する旦那様の為にメチャクチャ腕上げたし」
「え?は?夏希ちゃん、高校生じゃなかった?」
「ちょ、お姉ちゃん?」

 何で私を引き合いに出すかなぁ?
「隣ンチの幼馴染です。その、中学の時から自他処か学校中でも『ヨメ』呼ばわりなので。彼のお母さん隣のオバさま、夜勤とかもあって家にいない事多いんです」
「だから、もう通い妻超えて半同棲レベルなのよねー、夏希?」

 自分が遠距離恋愛だからって、ここぞとばかり。

「お姉ちゃんも通い妻してるじゃない」
「あ、春香先輩、沢口先輩のトコに通って?」
「なーつーきぃー?」

 週末、しかも1泊してるし。

「だって洗濯物とか溜まってるのよ。日帰りじゃ無理だもの」

 だよね。毎日の洗濯でも時間かかるし。

「ハイハイ、ご馳走様です、先輩方」

 何でも愛衣楽さん、母親が失踪したらしい。
 それで元気無くした父親を元気付けてあげたくて、スタミナ料理や酒の肴をお姉ちゃんに習いに来たんだとか。

 で、夕方アキラん家。

「だからって、晩飯におひたしとか」
「あはは。せっかくだし」

 当然今夜もおばさまは帰りが遅くなり。
 お姉ちゃん達が作ったもののお裾分け貰って。

 先週末の無条件大会。
 アキラは5勝2敗で決勝トーナメント進出は成らず。私は4戦全勝で初のトーナメント進出!
 とは言え初戦敗退。
 初優勝して、やっとランクアップ挑戦権が得られると言うのに。

「まだまだなんだよねー」
 新機体RD-36ライジンで挑んだ無条件大会。この上位レア機体を駆使して、それでもトーナメントで1勝も出来なかった。
「バズーカをさ。ビームじゃなくて実体弾タイプにしとけば良かったとかさ」
「だって、BgランクでVBi-fdビーム中和フィールド持ってるなんて思わないモン」
 アキラの BRL-X大型ロケット弾は、このフィールド対策って聞いてはいたけど。
 実体弾タイプのバズーカは威力はかなり高いんだけど、兎に角弾数が少ないから。上位レア物になると5発とかの世界。そもそも10発以上のモノが殆ど無いんだから。
「後は移動で掻き回すか。生半可な機体じゃ RD-36ライジンの機動力に追い付かない」

 それは…、アキラにも再三言われてる。
 私の動きは、って。

 実際、アキラとの模擬戦。
 先回りは勿論、誘い込まれての袋叩きすら喰らった事があって。

「酷!此処までボコる?」
「弱点…、いや、欠点だ。ソレ指摘する為の模擬戦だろ?」
「彼女相手に、心折れそうな位ボコるかって聞いてんの!」
「そんなタマかよ。どうせ晩飯で仕返しとか考えてるんだろ?」
「むう。ならリクエストにお応えして。セロリ入れる?」
「勘弁してくれ」

 アキラ、セロリ大嫌いだもんね。
 とは言え、私も好んで食べたいとは思わないから、アキラとの食卓にセロリが出る事は無いけど。

 あれ?
 横に座って…、え?肩抱かれて?

「機嫌直せよ」

 ならばとばかり、待ち受けにしちゃう。

 この程度でご機嫌になるのだから、私、かなりチョロいのかも。

「回り込めって言わないけどさ。動きの緩急、つけるだけでも相手は迷うと思う。それにさ、Nノービスはタッグ戦も有るんだ。頑張って、早く来て欲しい、夏希」
「…うん」

 俄然やる気出たー!
 ロボットでも、アキラの横は私だけの定位置。

 先ずは並び立たないとね。
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