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第5章 野望の錬金術

37. 海魔出現!

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 話は数週間前に遡る。

 その日、いつになく漁が不作だったが為に、漁船団は沖合まで出て来てしまっていた。
「ここまで不漁ボウズだとはな。潮が変わった訳でもないのに…」
「あれだ…。もしかして海魔が目ェ覚ましたんじゃ」
「休眠期に入ってまだ200年程か?いくら何でも早ェ。それに目覚めてりゃ、こんな風に航海は出来ねぇよ。奴は頭上のモノは手当たり次第に襲うからな」

 ザバババァーン。

「ぎゃあああ」
「な、何だぁ?」
「ひゃあ、た、助けて」

 突如船団の何隻かがひっくり返される。

「な、何だ?」
「船頭長、あれ!」

 キラっ!キラキラ。

 船を押し上げ、転覆させたと思しき何か巨大生物。青光りする身体が波間に消えていく。

「まさか?本当に海魔が?い、急いで港に戻れ‼︎」

 必死の想いで櫂を漕ぎ港に戻り着いた時には、船団は1/3に減っていた。

 所々波間が赤く染まっている。
 千切れた服が漂っており、中にはあちこち喰い千切られた人間が浮かんでいる。が、すぐ何者かに海中へ引き摺り込まれていく。

「…海魔が、また活動を始めた…」


 ビザレニア商業自治区総督府。
 総督と言っても、商業ギルドマスターが兼任であり、ギルド有力者の合議制で治められている港都市国家の形態をとっている。そして今、海魔活動期入りの報に、総督府へ有力者が集まっていていた。

「前回の活動期から200年ちょっとだぞ?こんなに早く活動期に戻るなんて古今前例は無い」
「だが200年前と比べると、沖合を走る船舶数は比べ物にならん。その為に早く目覚めたのではあるまいか?」
「どうする?記録によると400年位活動するとある。これから400年も満足に漁が出来ないとなると」
「漁だけではない。貿易もこの間は不可能だ。このままだとビザレニアは寂れた漁村に戻ってしまう」

 海魔の活動海域は広い。
 迂回したとしてもかなり大回りになるし、どちらにせよ入港時に絶対に活動海域に入る。

「あの頃とは違う。軍の力も、冒険者達の質も格段に上がって…」
「人の手に負えるのか?海魔が?もしかしたらランクSの海神竜リヴァイアサンかもしれぬと言うのに?」
「海神竜様は海の守護神竜だ。捕食の為に船を襲う事等有り得ぬ」
「儂もそれは同意する。だが、皆目検討もつかぬし実際巨大魚オーガフィッシュすら倒す銛でも刃が立たぬ」
 長老格に言われ、皆沈み込んでしまう。

 正体不明なのが厄介なのだ。
 現時点では銛や剣は勿論、電撃呪文すら効いている様に見えない。しかも神出鬼没に感じる。姿が確認出来ないのだ。体色が波飛沫の色と紛らわしいのもあるが、兎に角視認し辛い。

「人の手に余る…。ならば魔物、そう同じ魔物ならば?高ランクの魔物をぶつけてみればどうでしょう」
 合議員に成ったばかりの若者。販路開拓や新船開発で頭角を現し、先年合議の場に加わる様になったサー・タルエル=ビダン。
「馬鹿な。高ランクの魔物?」
「ライカー王国の噂のテイマーです。確かロックとか?従魔の中にランクAの三ツ首神竜トライギドラスがいると聞いています」

 三ツ首神竜トライギドラス

 大陸北方の森の、伝説の守護神竜で電光ブレスと高位の風魔法を駆使する魔物。巨体に似合わず大きな翼と風魔法のお陰で信じられない機動力をも有する、この商業自治区を滅ぼす力すら持つ。

「やってみる価値はあるやもしれぬ。倒せれば勿論じゃが、抑え込められても重畳。確かに一縷の望みが湧いてきた」

 こうして海魔討伐の依頼を、他国の…アゥゴー冒険者ギルドに委託する事になった。使者として交易商人サー・キリー=ロマンが向かう。

「頼んだぞ、サー・ロマン」
「お任せを、総督ギルマス。では」

 海路を使えなくなってしまった為に、一旦ポーリア公国へ向かう。そこから改めて海路でライカー王国海の玄関口ベリーポリスに、そして定期乗合馬車を使いアゥゴーまでやって来た。それやこれやで15日近く掛かってしまったのだった。


「お話は分かりました。当ギルドとしては指名依頼としてテイマー・ロックに要請します。が、現時点で彼は別件依頼にてパレアナ王国国境近辺の森で活動中です」
「な、パレアナ?それはいつ迄?まさか、それ以外にも彼の指名依頼の予約が?」

 兎に角依頼を行う事で頭がいっぱいだった。当のテイマーが不在だという事に全く頭が働かなかったのだ。評判を考えるとそもそも売れっ子の筈であり、引く手数多、予約も数年先迄詰まっているのか?

「いえ。彼が予約依頼を受ける事は殆ど有りません。その都度来た依頼を受ける様にしているみたいですし」
 高ランクの者は予約を受ける者もいる。いつ頃からとは明確にしないものの、『この依頼は〇〇迄には終わる。その後な!多分〇〇の月にはそっちへ行ける筈だ』、そういう形で依頼を受ける。利点は食いっぱぐれが無い事。欠点は信用問題であるという事。一歩間違うと信用0となってしまうのだ。
 ロックは、その信用を失う事を極端に嫌がり、その為に予約という形を拒んだのである。テイマーとしてのスタンス、従魔契約にしてもだが、コミュニケーションをとるのが苦手だからこそ相手との信頼できる形にこだわったのだ。
 ついでに言えば、ロックは『竜の息吹』というパーティの一員だ。苦手ではあっても、やはり気の許せる仲間と共に居る、そう言ってロックはパーティから脱ける事は無い。現時点での単独行動が珍しいのだ。

「だからロックは勿論パーティメンバーの意見にも左右されるかもしれません。とは言えメンバーがこの依頼を断る可能性もほぼ無いと思います」

 ルミナも伊達にギルマスとして多くの冒険者を見てきた訳ではない。コミリアもあれで充分お人好しだ。高ランクパーティなのに無欲に近く金勘定に無頓着。違う意味でルミナにとって厄介なパーティに成りつつあるのが『竜の息吹』なのだ。今の彼女達は、おそらく遊んで暮らせる程の金を持っている。普通の貧困冒険者が羨み、口ガサのない冒険者達からの妬みヤッカミを受ける程に。
 それ程ロックの存在は大きい。
 彼のパーティ加入によりパーティランクと高額依頼がグングン上がったのだから。

 同郷の姉弟子。

 これがなければ、コミリアはその身体で少年を誑かしたと散々言われただろう。実際、2人の関係を知らぬ者からは言われた事もあるし。性格に多少難はあっても、コミリアは巨乳で、しかもそれに違和感のないスタイルの持主の女性だ。ビキニプレートなんか着ていたら世の男性の目を釘付けにする事間違い無しであり、それだけにアゥゴーギルドでは彼女のショートな髪型とガサツな性格を残念がられている。
 またロックも、苦手な姉御というのを全面に出してはいるものの、彼女から離れる気配がサラサラ無い。ガサツな姉に苦労する弟。姉弟の絆が誰の目にも明らかに見える。

「それを聞いて少しは安堵出来ました」
 有名になりつつあるとは言え、まだまだロックの為人が他国に広まっている訳ではなく、一縷の、微かな希望が湧いたり消えたりしているのが使者たるロマンの偽らざる気持ちだった。


 ロマンの希望が叶ったのか?
 ロックが国境近辺の依頼を終わらせてアゥゴーに帰って来たのは翌日である。
 依頼完了の手続きをしている最中に、ギルマスのルミナから呼び出しを受けたロックは、即ギルマス室の応接間でビザレニア自治区からの依頼を聞く事になった。

「リヴァイアサン?」
「かもしれないって話。この海魔退治は指名依頼よ。もうランクSの依頼と言っていいわ。どうする?」
「これ、断ったらビザレニアは…」
「滅ぶ…と言っても過言じゃないわね。おそらく寂れた漁村程の規模も維持出来なくなるわ」
「あぁ…、うーん、その、これ、単独ソロ依頼ですよね?」
 ロックの問いにルミナも溜息を吐きつつ頷く。
 少し悩んでいるかに見えたロックは、やがて
「少し皆と相談してみます。返事どれくらい待てます?」
「緊急性もあるし、待てても数日ね」
「あ、いや、明日まで貰えれば…。明日返事します」
 大人であればルミナも即決を促したであろう。こうなるとロックの11歳という年齢が引っかかる。どれ程の戦闘力が有ろうとも未成人、それも誰が見ても子供でしかないロックに国家存亡の決断等強要出来る筈が無い。
 規格外な能力。少年を本当にギルドは守り切れているのか?ルミナには溜息しかつけなかった。

 コミリア達『竜の息吹』にとってもランクSの依頼、しかも国家存亡に関わる件と聞き、何とも応えようがなかった。
「相手はランクSのリヴァイアサン?」
「見てるだけもムリ、ね」
「ロック様。我々も動き様がありません。多分ドランしか対応出来ないと思います」
 スライの言葉に「やっぱり」とロックも頷いてしまう。水中戦が出来るの魔物はトライギドラスドランしかいない。従魔は基本的に陸上戦力だ。飛行能力があるのはレトピージョレツとドランしかないが、レツに戦闘力は殆ど無い。低レベルの風魔法が使えるが、とても戦力と数えられない。
「レツの偵察も、万が一相手の攻撃を喰らった時が致命的となりかねません」
「つまり僕とドランとでやるしかない、と」
「いえ。ロック様も場合によってはドランの足枷になりかねません。神竜の戦いに他種が割り込む事等不可能と言えます」
 スライの言葉に改めてドランの存在を思う。
 トライギドラスは元々守護神竜なのだ。確かにランクはAだが、これは進化形が有る為だ。ヒュドラーやアイスフォックスは最終形であり、低ランクなら兎も角、A以上のランクになると最終形となる場合が多い。Bのナイツスライムスライならば上にハイナイツがあるように。

「だな…。水中に落ちたら足手纏いにしかならないか…。ドランに頑張ってもらって、シールド固めて高空に留まるしかないな」
「は?ロックも近くにやっぱ留まるって事?」
「海岸からじゃダメなの?」
 高空にいると聞いて、リルフィンとコミリアが難色を示す。神竜の戦いと言えば、最早天変地異に等しい。
「指示が必要な事もあるかもしれないし、そうなると声の届く処にいないと…。よし、ルミナさんに依頼受諾って朝イチで言って来る。コミ姉ェ、悪いけどコレ単独依頼ソロで受けるから」
 コミリアも頷くしかない。リルフィンは何か言いたそうだが、結局唇を噛み締めるだけで何も言わなかった。

 その夜。
 リルフィンはいつも以上にロックに甘えてきた。
「リルフィン?」
「うん、別に会えないとは思ってないよ。でも、当分離れるよね?一緒に行きたいけど…。あの戦争の時だって一緒だったのに」
「大丈夫だよ。だからコミ姉ェ達と別の依頼でもやってて」
 ベッドの上、しっかりと抱き合った2人。
「でも、確かに当分会えないよね。だから、今夜はしっかりリルフィンを感じようかな」
「ふぇ?あ、ちょっと?あん…、ね、ちょっと、くすぐったいよ、ひゃん。もう、ロックのエッチ」
 まだ幼い2人。ロックも優しいキスや頬擦りしかしていない。
 前世の六朗ロックは高校生であり、しかも経験済だった。多少の遊び要素はあったにしても、看護師達は少年の若い情熱に応えたのだ。
 とは言え、今のロックの身体は未成熟過ぎて精通すら始まっていない。記憶はあっても、精神的発育が肉体的発育に引っ張られたのか、ロックにはまだ強い性衝動は無かったのだ。
 リルフィンも同様で、確かにこの時期は少女の方が精神的発育が早く、大人びてきてはいるものの、こちらも初潮はまだであり同じく強い性衝動は持ち得なかった。知識としては借金奴隷になった時に教わっていた。奴隷商人も推奨はしないものの、その目的の為に奴隷を買い求める者は皆無では無いので、必要な教育と割り切っていた。

「リルフィン、大好きだよ」
「…うん、私も…、ロックが好き。大好き」

 しっかりと抱き締め合い、幸せに包まれて2人は眠りについた。


 翌日、朝一番でギルドに顔を出したロックは依頼の受諾を伝え手続きを済ませた。感激したロマンは直ぐに本国に知らせるべく持ち込んだ伝書レトパトを使い知らせを飛ばす。時同じくして、ビザレニアからアゥゴーへ、ロマン宛の伝書レトパトが届いた。

「な、そ、そんな…」

 内容を読んで絶句する。
 そこには、海魔が2体現れた事が記されていた。

「2体…。少なくともリヴァイアサンじゃない事がハッキリした訳だ。でもそれ相当の海棲魔物が2体…。急ぎます」
 ロックはレトピージョレツを先行させる。その共有した視界を頼りにドランに乗って急ごうとしたのだ。
 レツは直ぐ様、先に飛んだビザレニアへ向かう伝書レトパトに追い着く。多少の距離を保ち、相手に追われていると悟られぬ形で追跡を続けたのだ。

「それじゃ!」

 ロックはテレポートで三ツ首竜の森の奥、自宅のタラム村へ跳ぶとドランを呼び出し、その背に乗った。
「頼むよ、ドラン」
「パルルルル【任せろ】」
「ピルルルル【腕が鳴るぜ】」
「プルルルル【オレ様強い】」

 他の従魔に見送られながら、ロックは一路ビザレニアを目指す。

 ロックをアゥゴーのギルド前で見送ったリルフィンは、そのままギルドでコミリア達『竜の息吹』に合流した。
「そう、ロックは向かったんだ」
「それにしても海魔が2体?」

 少女達には、依頼達成とロックの無事を祈る事しか出来なかった。


 アゥゴーギルドの要請を受け、アゥゴー領主アルナーグ辺境伯の名でアゥゴー~ビザレニアの線上の街に通達される。

『緊急の依頼の為、三ツ首神竜トライギドラスが上空を通過する。低空は飛行しないものの街魔導防御壁に反応する可能性有り。通過のみである。くれぐれも迎撃されぬ様確認されたし』

 魔物暴走スタンピート処の話ではない。トライギドラスは単体で街処か小国をも滅ぼす力を持つランクAの神竜だ。こんな奴が街の上空を通った日には街中が大パニックに陥ってしまう。
 通達を受けた領主や代官は、冒険者ギルドや警備騎士詰所へ即話を持っていった。
 尤も、それでも多少のパニックは起こってしまったが。

 神竜とは言え、街に配慮出来る筈もなく…。
 ドランはいつものごとく歌いながら飛行したのだった。

「パルルルル【俺様♪】」
「ピルルルル【強い♪】」
「パルルルル【俺様♪】」
「プルルルル【無敵♪】」

 気配だけではなく鳴き声まで響いてしまっては、魔物達も動揺し場合によっては暴れ出してしまう。生息地から逃げ出しあわや暴走になりかけたり、テイマーズ・ギルドの厩舎内の魔物がパニックになったり。
 また、レトピージョに追いつく様風魔法を併用しての最大速度のトライギドラスの飛行は衝撃波を生み出してしまう。街の防御魔法壁や城壁、そして聖堂や粉挽製造風車小屋等の高層建築物に大ダメージを与えていて、その事もパニックに拍車をかけていたのだった。

「ドラン、あの塔の見える丘の方、やや東に向かって!」
「パルルルル【リョーカイ!】」

 後ろを振り返れば、街のパニックも見えたかもしれない。だが急いでいた、と言えばそれまでだが、ロックも下界を確認する余裕はなかった。

「あれが…三ツ首神竜トライギドラス

 人々は上空を飛行する黒き神竜の、圧迫感とも言える存在を感じ興奮して語り合った。

「何だってあんなモノが…」
「何でもビザレニアの海魔退治に駆り出されたとか」
「ホントかよ?海魔vs三ツ首神竜かぁ。コイツは見ものだ」
「バカか!神竜同士の戦いだぞ?とんでもない天変地異になる筈」
「オイオイ、彼処には娘が嫁いでいるんだぞ。無事でいてくれるといいが…」


 勿論、道中の惨状はアゥゴーにも届く。
 わかっていたとは言え、ケイン=アルナーグ辺境伯とギルマス・ルミナは他の街の領主や代官からの恨み言を受け、顔を見合わせ苦笑していた。

「只上空通過でもこの惨状か」
「予想を少し上回りましたか?流石はランクA+。それにしても海魔が2体なんて古今例が有りません。ロックは『リヴァイアサンじゃないのは確定』って言ってましたが」
「朗報と言ってよいのか?1体でも充分災厄級なのだが」
「もうロックを信じるしかありません」
「そうだね。信じよう。あの子はこれまでも数々の奇跡を成し遂げてきた」


 ビザレニア港湾都市自治区。
 ライカー王国アゥゴーへ使者を送って2週間以上経つ。依頼は失敗か?ともすれば絶望感に打ち拉がれそうになる街中を総督ギルマスは必死に鼓舞していた。
「海路が使えんのだ。ライカー王国アゥゴーまでは10日以上かかる。決して依頼が上手くいかなかったとは言えぬ」
「だが半月は経つ。これ以上は…。海魔の被害はここ数日格段に上がっている。しかも行動半径が信じられぬ規模になっている」
「信じられぬ処ではない。有り得ぬ事態だ。巨大魚オーガフィッシュをそれこそ見間違えたか?怯えにより何でも海魔に見えるのではないのか?」
「あれが巨大魚なものか!ウチの船乗り達を見くびらないでもらおうか」

 そうこうする内に信じたくない結論に達してしまう。
「海魔が…、2体いるとしか思えぬ」
「終わりだ…。ビザレニアの繁栄もこれで終わりだ」
「ロマンへ伝書レトパトを飛ばせ。交渉に加えねばならぬ」
「な、総督ギルマス?その様な事を伝えれば…」
「ここに着いてから契約違反のどうのと言われては話が進まぬ。ロマンに早く伝えるのだ」

 レトパトを飛ばした翌日。
 ロマンより依頼受諾の報を記したレトパトが届く。
「依頼を受諾…。受諾!件のテイマーが我々の依頼を受けてくれたぞ!トライギドラスが当方へ向かっておるそうだ」
総督ギルマス、アレを!」
「まさか?レトピージョか?」

 悠然と港湾上空を旋回する大型の鳥型魔物。レトパトの様に見えるが、遥かに大きい。
「レトピージョ?あの伝説の?」

 クックルー、クルッポー!

 レトピージョの鳴き声が響く。声につられ港を見ると、入港中の大型貨物帆船が海魔に襲われている!

「お、おい!アレを」

「パルルルル【あれか?】」
「ピルルルル【マスター】」
「プルルルル【やるぜ】」

 帆船を襲っていた海魔が姿を消す。海上上空に黒き大型の3つの首を持つ神竜!

「トライギドラスじゃ。本当に三ツ首神竜トライギドラスが来たんじゃ!」
「あれがトライギドラス…」
「見ろ、神竜の背に子供が!あ、落ちた!?いや、翔んだ‼︎」

 神竜の背から降りた少年は、皆の目の前でそのまま飛翔して見せた。と、レトピージョが少年ロックの元へ行くと空間に現れた扉へ消えていく。

「あの子の従魔だったのか…」

 ザッバァーン、ザザザァーン!

 波間から水飛沫がナイフの如くトライギドラスに迫る。

「パルルルル【効かねぇーよ】」

 ドランも風魔法『風刄呪文ウィンドカッター』で対抗し水飛沫を切り裂いていく。まだ帆船が近くにいる為、ドランは電撃ブレスで攻撃する事が出来ないでいる。風魔法を繰り出しての攻撃。上空を旋回しつつ海上へ魔法を撃ち込んでいく。

 今回は港湾内での戦いの為、上空に滞在しなくても大丈夫だろう。そう思ったロックは挨拶も兼ねて港湾へ降り立った。
「君が?」
「アゥゴーギルド所属のテイマー、ロックです。依頼を受けてトライギドラスドランと共に来ました」
「あぁ。依頼を受けてくれて感謝するよ。その、海魔退治を…」
「ドランはランクA+です。ランクSのリヴァイアサンでも互角に闘えますから」

 風魔法の追撃で、どうやら海魔を沖合へ追いやる事が出来た様だ。帆船はそのまま入港して来る。

「うん、あれは?多頭竜ヒュドラータイプ?海棲竜で居たっけ?」
 風魔法で波間も切り裂いているので、偶にチラッと海魔の身体が見える。が、色もだが兎に角視認し辛い。

「パルルルル【喰らいな】」
 バリバリバリッ!
 ドランが風魔法から電撃ブレス攻撃に変える。

「キッシャアーン」

 波間から焦げた肉片が上がって来る。
「は?ブレスが効く?下等竜種なのか?ドラン‼︎」
「パルルルル【おうさ!】」
「ピルルルル【喰らえ】」
「プルルルル【バリバリだぜ】」
 3つの顎から放たれる電撃ブレス。波飛沫と共に飛散する魔物の身体。
「パルルルル【出て来やがれ】」
 風魔法『トルネード』発動!海上に大渦が現れ天空に巻き上げられていく。その中心にいる巨大なクラゲのような魔物。
 いや、触手?の1本1本が竜の頭部の様になっている?

「な、何だ?アレは?」
「あれが海魔?」

「キッシャアァーオン」
 無数の頭部が一斉に吼える。
 頭部付近の波飛沫が水の刄となって渦から発射される。
「パルルルル【効かネェ】」
「ピルルルル【コイツを喰らえ】」
「プルルルル【燃やしちゃる!】」
 ドランはブレスを真竜の業火ファイアブレスに変えた。
 水の刄は瞬間的に蒸発して消え失せる。
 炎はそのまま、渦すらも貫いて海魔の触手頭部を幾つか焼き尽くした。

「キッシャアァーン」
「パルルルル!」

 更にファイアブレス攻撃を行うドラン。風魔法トルネードのせいで浮き上がってしまった海魔は身動きが取れない。ドランの世界をも焼き尽くせる程のブレス攻撃を避ける事が出来ないでいるのだ。

 港湾で繰り広げられる魔物達の戦い。
 海は荒れ、強い風と共に大波が湾内に押し寄せてくる。

 ザバババァーン!

「ああっ、わ、儂の船が!」
 波を被り、強く岸壁に打ち付けられた船は弦側が破れ始める。

「キッシャアァーン」

 見ると海魔がどんどん消えていく。波飛沫と同化していく様に見える。

「パルルルル【逃さねー】」
「ピルルルル【そこにいるよなぁ】」
「プルルルル【俺様、謀られなぁーい】」

 渦のやや下方。ドランはファイアブレスを浴びせる。
「キッシャアァーオン」
 再び現れる海魔。

「光学迷彩をもっていたのか?だから視認し辛いんだ。確か2体でしたよね?コッチが強い片割ならいいんですが…」
「ロック君。君は海魔の正体を、あの魔物を知っているのかね?」
「多分…群体大海蛇レギオン・シュランゲ
総督ギルマス、間違いない。大海蛇って名じゃが、れっきとした竜種じゃよ」
 長老格の老人が、荒れた波飛沫や強風の為に多少よたついてはいるもののロックの意見を肯定する。

群体大海蛇レギオン・シュランゲ…」
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