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第2部1章 ヴィオラのお悩み編
59 夢
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僕は、どこかの綺麗なレストランで食事を取っていた。
窓の外には綺麗な夜景が見える。立ち並ぶビルに燈る点々とした明りは、まるで小さな銀河のようだ。
純白のテーブルクロスの上には、小奇麗なコース料理が二セット並んでいる。
それがフランス料理なのかイタリア料理なのか、はたまた和食なのかよくわからないが、とても美味しそうだった。
不意に現れたウエイターがグラスにワインを注ぎ、会釈をして立ち去って行く。
まるで血のような深紅に染まるワイングラスを掲げた僕は、対面に座る相手と乾杯を交わした。
カン、という小さな音色が体の奥底まで響き渡り、閃光のような光が眼を眩ませる。
視界を取り戻した僕の目の前には、ワイングラスを掲げるヴィオラの姿があった。
煌びやかなドレスに身を包み、淑やかに佇むヴィオラの姿は、見惚れてしまうほどに美しい。そして、どこか儚げだ。
僕の視線に気付いたヴィオラは、優しげな微笑みを投げかけてくる。それは、この世全ての男を恋に落してしまいそうな微笑みだった。
そんなヴィオラに対して、僕はいったいどんな表情をしていたのか、自分でも分からなかった。
「さあ、頂きましょう」
そう告げたヴィオラは、おもむろにワイングラスを置き、いつの間にか近くに置かれていた果実酒の入ったボトルを手に取る。
頂くって、何を頂くのだろう。
僕がそんなことを考えていると、ヴィオラはおもむろにボトルを掲げて盛大なラッパ飲みを始めた。
「いやいやいや、それはおかしいでしょ!」
僕は訳も分からずヴィオラに突っ込みを入れる。
しかし、ゴクゴクと喉を鳴らしてボトルの中身をイッキ飲みしたヴィオラは、尚も慎ましい笑みを浮かべて平然と応じた。
「何がおかしいんですか? ジョージさんも、どうぞ」
すると、僕の手にはいつの間にかビールで満たされた大ジョッキが握られていた。
周囲には人だかりができ、顔のよく分からない連中が声を揃えてこんな言葉を口走る。
「「「イッキ! イッキ! イッキ!」」」
やめてくれ。それは思い出したくないんだ。
僕は救いを求めるかのように、ヴィオラへ視線を投げかける。
そして、満面の笑みを作ったヴィオラは、僕に向かってこう告げた。
「ヘタレですね」
* * *
その瞬間、承治の目は見開かれた。
目の前には、小さな寝息を立てるヴィオラの顔が写り込む。
その姿に驚いた承治はいささか身を引いてしまったが、すぐに自分が置かれている状況を思い出した。
ここはヴィオラの実家であり、承治は成り行きでヴィオラと同じベッドで寝ていた。
そしてどうやら、たちの悪い夢を見ていたらしい。
承治は夢の内容を反芻して頭を抱える。
「ヘタレって……」
承治にとっては、夢の中で自身が死んだ時の思い出を見せられるより、ヴィオラに面と向かってヘタレと言われた事の方がショックだった。
いかに夢とは言え、少し思い当たりのある承治はベッドの中で軽く落ち込む。
すると、固く目を閉じるヴィオラは体をよじって不意に寝言を放つ。
「もう飲めないれしゅ……」
「夢の中でも飲んでるのかよ……」
と、寝言に突っ込みを入れた承治は改めてヴィオラの寝顔を観察する。
普段見るヴィオラの表情は凛として大人びた魅力があるが、眉間の緩んだその寝顔はとても子供っぽい。
まるでいたいけな少女のように弱々しく、今にも泣き出してしまいそうだ。
もしかしたら、この表情こそがヴィオラの持つ本当の顔なのかもしれない。
などと考えつつ、寝顔観察はさすがに無粋だと感じた承治はヴィオラから背を向けてゆっくりとベッドから抜け出す。
そのまま窓に目を向けると、朝焼けに映える空が薄青く染まっていた。
時間帯は日の出間もない早朝といったところだろうか。
起きるにはまだ早い時間だが、変な夢を見ていたせいで目が冴えてしまった。
とりあえず、承治は用を足すため静かに部屋を抜け出して廊下を進む。
トイレの場所は昨日のうちに案内されていたので、すぐに見つけることができた。
そのままトイレで用を済ませた承治であるが、これから皆が起きるまでどうやって過ごすべきか、判断に迷った。
さすがにヴィオラの私室に戻って再びベッドに潜る気にはなれない。かと言って、他人の家でウロウロするのも憚られる。
そんなことを考えつつ廊下を進んでいると、昨晩宴会をしたダイニングルームから物音が聞こえた。
誰か既に起きているのだろうか。
承治が恐る恐るダイニングを覗くと、そこには一人でひっそりとお茶を飲むヴィオローネの姿があった。
「あら、おはよう。もう起きたのね」
起床していたヴィオローネに不覚にも見つかってしまった承治は、引き返すのも不自然かと思い、成り行きでダイニングに足を踏み入れる。
すると、ヴィオローネは自然な所作で承治に着席を促した。
「丁度よかったわ。ジョージさんとは、二人きりで話したいと思っていたところなのよ。少し、お付き合い頂けないかしら?」
二人きりで話したいこととは、やはりヴィオラ絡みだろうか。
承治はヴィオラと共謀してウソをついている手前、あまりヴィオローネとは話したくなかった。下手な会話を交わせば、自らボロを出す可能性もある。
しかし、席に誘われた以上は、その場に留まる他なかった。
窓の外には綺麗な夜景が見える。立ち並ぶビルに燈る点々とした明りは、まるで小さな銀河のようだ。
純白のテーブルクロスの上には、小奇麗なコース料理が二セット並んでいる。
それがフランス料理なのかイタリア料理なのか、はたまた和食なのかよくわからないが、とても美味しそうだった。
不意に現れたウエイターがグラスにワインを注ぎ、会釈をして立ち去って行く。
まるで血のような深紅に染まるワイングラスを掲げた僕は、対面に座る相手と乾杯を交わした。
カン、という小さな音色が体の奥底まで響き渡り、閃光のような光が眼を眩ませる。
視界を取り戻した僕の目の前には、ワイングラスを掲げるヴィオラの姿があった。
煌びやかなドレスに身を包み、淑やかに佇むヴィオラの姿は、見惚れてしまうほどに美しい。そして、どこか儚げだ。
僕の視線に気付いたヴィオラは、優しげな微笑みを投げかけてくる。それは、この世全ての男を恋に落してしまいそうな微笑みだった。
そんなヴィオラに対して、僕はいったいどんな表情をしていたのか、自分でも分からなかった。
「さあ、頂きましょう」
そう告げたヴィオラは、おもむろにワイングラスを置き、いつの間にか近くに置かれていた果実酒の入ったボトルを手に取る。
頂くって、何を頂くのだろう。
僕がそんなことを考えていると、ヴィオラはおもむろにボトルを掲げて盛大なラッパ飲みを始めた。
「いやいやいや、それはおかしいでしょ!」
僕は訳も分からずヴィオラに突っ込みを入れる。
しかし、ゴクゴクと喉を鳴らしてボトルの中身をイッキ飲みしたヴィオラは、尚も慎ましい笑みを浮かべて平然と応じた。
「何がおかしいんですか? ジョージさんも、どうぞ」
すると、僕の手にはいつの間にかビールで満たされた大ジョッキが握られていた。
周囲には人だかりができ、顔のよく分からない連中が声を揃えてこんな言葉を口走る。
「「「イッキ! イッキ! イッキ!」」」
やめてくれ。それは思い出したくないんだ。
僕は救いを求めるかのように、ヴィオラへ視線を投げかける。
そして、満面の笑みを作ったヴィオラは、僕に向かってこう告げた。
「ヘタレですね」
* * *
その瞬間、承治の目は見開かれた。
目の前には、小さな寝息を立てるヴィオラの顔が写り込む。
その姿に驚いた承治はいささか身を引いてしまったが、すぐに自分が置かれている状況を思い出した。
ここはヴィオラの実家であり、承治は成り行きでヴィオラと同じベッドで寝ていた。
そしてどうやら、たちの悪い夢を見ていたらしい。
承治は夢の内容を反芻して頭を抱える。
「ヘタレって……」
承治にとっては、夢の中で自身が死んだ時の思い出を見せられるより、ヴィオラに面と向かってヘタレと言われた事の方がショックだった。
いかに夢とは言え、少し思い当たりのある承治はベッドの中で軽く落ち込む。
すると、固く目を閉じるヴィオラは体をよじって不意に寝言を放つ。
「もう飲めないれしゅ……」
「夢の中でも飲んでるのかよ……」
と、寝言に突っ込みを入れた承治は改めてヴィオラの寝顔を観察する。
普段見るヴィオラの表情は凛として大人びた魅力があるが、眉間の緩んだその寝顔はとても子供っぽい。
まるでいたいけな少女のように弱々しく、今にも泣き出してしまいそうだ。
もしかしたら、この表情こそがヴィオラの持つ本当の顔なのかもしれない。
などと考えつつ、寝顔観察はさすがに無粋だと感じた承治はヴィオラから背を向けてゆっくりとベッドから抜け出す。
そのまま窓に目を向けると、朝焼けに映える空が薄青く染まっていた。
時間帯は日の出間もない早朝といったところだろうか。
起きるにはまだ早い時間だが、変な夢を見ていたせいで目が冴えてしまった。
とりあえず、承治は用を足すため静かに部屋を抜け出して廊下を進む。
トイレの場所は昨日のうちに案内されていたので、すぐに見つけることができた。
そのままトイレで用を済ませた承治であるが、これから皆が起きるまでどうやって過ごすべきか、判断に迷った。
さすがにヴィオラの私室に戻って再びベッドに潜る気にはなれない。かと言って、他人の家でウロウロするのも憚られる。
そんなことを考えつつ廊下を進んでいると、昨晩宴会をしたダイニングルームから物音が聞こえた。
誰か既に起きているのだろうか。
承治が恐る恐るダイニングを覗くと、そこには一人でひっそりとお茶を飲むヴィオローネの姿があった。
「あら、おはよう。もう起きたのね」
起床していたヴィオローネに不覚にも見つかってしまった承治は、引き返すのも不自然かと思い、成り行きでダイニングに足を踏み入れる。
すると、ヴィオローネは自然な所作で承治に着席を促した。
「丁度よかったわ。ジョージさんとは、二人きりで話したいと思っていたところなのよ。少し、お付き合い頂けないかしら?」
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承治はヴィオラと共謀してウソをついている手前、あまりヴィオローネとは話したくなかった。下手な会話を交わせば、自らボロを出す可能性もある。
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