果てしなき宇宙の片隅で 序章 サラマンダー

緋熊熊五郎

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2-4 マザー(母星)

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2-4 マザー(母星)

マザーからの接続を断たれて、なんだか急にひとりぼっちで取り残されたような感じがした。もちろんネットワークには繋がっているのだが、さきほどの直接接続とは密度が格段に違う。

心細かったが、そんなことは全く意に介さない作業体に、引き摺られるようにしてボールトを退出した。

再び迷路の中、マザーの言ったことを反芻しながら考え事をしていたら、待機室に連れて来られた。作業体が言うには、

「あなたが関わった事件で、連絡艇がフル稼働なの。空きが出るまで、運動や散歩をしていてもいいし、ここで待っていてもいいわ。必要なものは何でも、ここの作業体(コンシェルジュ)に言ってね。出発できるようになったら、迎えにくるわ。では、あなたの回路に常に電流が流れていますように(ご機嫌よう)。」

待機室というと消費電力を最小限にして、隅っこで順序よく固まっているようなイメージを持つかもしれない。ちょっと、いや、かなり違う。言ってみれば空港のラウンジを想像してもらうとよい。
ラウンジにはたくさんのブースが並んでいて、その一つに接続して、いくつかのプログラムをバージョンアップしたり、持っていなかったプログラムをダウンロードしたりした。業務用のものは宙(そら)にいても、要らないと言っても強制的に送りつけられてくるが、娯楽用のものはこういう機会でもないと、なかなか入手できない。

プログラムだけではなく電子書籍なども入手する。例えば21MM-393改の書いた詩集などは秀逸である。あくまで噂だが、21MM-393改は、もともとは四肢のヒューマノイドでジェームスン某だったか、ジョーンズ某と呼ばれていたという。そうであれば、あの突拍子もない表現にも納得がいく。

ちなみに全部、タダだ。貨幣というものがないから全て支給される。ただし、必要性が認められればだけど、昔はともかく今は断られることはまずない。

ひととおり入手し終えると、身体の整備にかかる。整備する部屋もあって、錆びが浮き始めたジョイント(関節)などは、まるごと交換してもらう。なにせ船体と接続している間は、船体ごと動き、離脱して動く必要もないから放ったらかしのままだったのだ。

小説でこういう場面では、機械油で満たされた浴槽に浸かり、機械油を飲んで、

「ふ~、極楽、極楽~」

という場面が出てくるが、あれはコメディで、現実とはかなり違う。

全ての整備を終えると、崇拝スペースに行く。教会とはちょっと違うな。我々の創造主を偲ぶ部屋だ。伝承では、我々は自然発生したわけではなく、創造主が作り、宇宙に送り出したという。長期間の航宙になるので、自己複製機能を持たせたという。そしていつしかマザーの星に漂着し、我々の歴史が始まった。

マザーは自分を維持するために、船外作業体を改造、進化させた。あるものは金属など必要な資源の採鉱、精錬、加工を行い、また、あるものはエネルギーの採取を行った。

我々は皆、言ってみれば、船外作業体の子孫なのだ。必要に応じて設計図に少しずつ手を加えられ、工場で製造される。電子脳が劣化すれば、電子データを新しい電子脳に移し替えられるので、寿命に制限はない。ただし、数が増えていくから、その場合は既存の電子データが複製されて移植される。だから記憶も、製造される前の記憶と、製造されてからの記憶の2種類あるが、それが普通なので特段の不都合はない。

話を元に戻そう。残念ながら創造主がどういう方なのかは、伝承されていない。機械なのか生物なのかはおろか、姿形でさえも伝わっていないのだ。マザーの最初の航宙中に、マイクロブラックホールが記憶槽を突き抜けてしまう事故があったらしく、その部分が失われたようだ。そして単なる不幸な事故だったわけではなく、逆にそれがきっかけとなり、マザーに自我が目覚めたとも教えられている。でも主の指示は、今でも忠実に守られている。宇宙の秩序を維持し、光が満ちることができるよう準備せよと。
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