11番目の神 ~俺と勇者と魔王と神様~

琴乃葉ことは

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第二章『それは、確かな歴史』

第二十二話「灰色髪」

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 テーブルに運ばれてくる料理をぼーっと眺めながら、ユウキは緑色の液体が入った湯のみに口をつける。
 これはこの世界のお茶だ。そこそこ強い苦味と少々の甘み、それから渋みが口の中に広がる。
 日本の洗練されたものとは違い、味が一つに整えられていない。いろんな味が喧嘩をしながらこの一つの湯のみに収まっている。たしかシアルト、ライメ、フロンカの葉だったか。
 茶葉をこんなもんだろ、といいながら適当に配合して出来上がっているのが、このお茶である。

 なぜ原材料まで知っているのかというと、これを作ったのはリリィーだ。
 いや、お茶を淹れてくれたのがとかではなく、その茶葉を作ったのが、だ。

 まあ、癖は強いかもしれないが、不味いわけじゃない。もともと朝はコーヒー派だった俺は、お茶にそんなこだわりがあるわけでもないので、結構うまいと思える。あったかいもの流し込むだけでも十分幸せだ。

 さて、日課となっているステータス確認でもしていこうか。


「〈ステータスオープン〉」



 名 前:ヒイラギ・ユウキ

 年 齢: 17

 称 号:《転生者》《巨人の殲滅者》《重力掌握者》《空間掌握者》

 スキル:《神性なる身体》《火炎耐性》《暗視》《集中》《観察眼》《鑑定》《縮地》《立体起動》《怪力》《万有引力》《痛覚耐性》《再生》《瞬間移動》《亜空間》《強運》《凶運》《見切り》《遠視》《投擲》《氷水耐性》《思考加速》《並列思考》《打撃耐性》《斬撃耐性》《調理》《隠密》《強打》《追撃》《踏み込み》《短剣術》《両利き》《二刀流》《雷電耐性》


《雷電耐性》
 雷属性に対して耐性を得る。



「何? また何か新しいスキルでも手に入ったの?」

 料理が出来上がったのか、リリィーが皿を持ってきながら問いかけてくる。

「ああ、まあまた耐性スキルだけど。毎日シオンにボコられてるせいでどんどん覚えてるよ」

「今度わたしも手伝ってあげようかしら?」

「やめろ、耐性スキルとる前に身体が消し飛ぶわ」

 前に一度見たがこいつの魔法の威力はしゃれになってない。歩く現代兵器だ。

「そうだ。今日は街に顔をだしに行こうってことになったんだが、お前もくるだろ?」

「もちろんよ。ここにいてもやることがないわ」

「ほんといつも暇そうにしてんな」

「私も街づくりしたいのに手伝いをさせてもらえないせいよ」

 リリィーはボルガ―やその部下たちから手伝いを止められている。そりゃあ、魔王に働かせるわけにはいかないのだから当然なんだが、リリィーは毎度のように文句を言っている。

 そんなことを話している間にも朝食の準備を進め、料理を並べ終わる。リリィーも席につき、あとは食べるだけとなった。

「さ、食べましょ。イブは――」
「ユウキお風呂湧いた.......」

 そこで食堂に入ってきたイブと、リリィーの声が重なる。

 風呂と飯、先に準備のできた方からと思っていたんだが.......。
 飯が盛られるのと風呂の湧く時間がかぶる。あるあるだな。

 注目を集めるイブが、コテンと首をかしげた。





 例の小高い丘を越え、徒歩五分もかからず俺たちは目的地に到着した。
 すると、カンカンと釘を打ち付けるリズミカルな音が響いてくる。
 あたりを見回すと、建設途中の家がいくらか見受けられた。魔族と奴隷の男手が作業しているようだ。

 以前は些細なことで魔族側と奴隷側でケンカが起きていたが、だいぶ落ち着いたみたいだな。

 さらにその奥には、すでに出来上がった家々がずらりと並んでいるのが見える。住んでいるのは奴隷たちと作業を手伝っている魔族立ちだ。
 既に家の数は五十を超え、以前のように、住むところを急ピッチで作らなければならない状況は脱したようだ。ちらほら見えるみんなの顔からも、余裕が見受けられる。

 作業員の住むところを考えていなかったのはシオンのミスだろう。もしわかっていての所業なら鬼畜すぎる。
 ......あり得そうだな。






「あ、ゆーしゃさまだー」

 シオンを見つけた一人の女の子が、ステテテーとこちらに向かって走ってくる。

「ほんとだ、てんせーしゃさまと、かみさまもいる!」

「わーい、遊びに来たのー?」

 一緒に遊んでいたのだろう。何人かの子ども達がつられて集まって来た。



 ここで俺たちは、勇者様、魔王様、転生者様、神様というふうに呼ばれている。

 なぜならシオンとリリィーはもともと、勇者と魔王として有名だ。そのせいか、本来の名前ではなく「勇者」「魔王」と呼ばれることが多かったという。

 そして、俺とイブに関しては、サイクロプス事件の時の演説が影響した。
 奴隷たちの中にはちょうど現場に居合わせたものが何人かいたらしい。その人達を中心に呼び名が定着したようだ。
 無論、彼らは異世界人ということや、神様ということを本気にしているわけではない。いわゆる愛称というやつだ。

 魔王だけ呼ばれていないのは、この子達が人族と獣人の子どもだからだろう。魔王といえば恐怖の象徴だからな。
 気になるのか、ちらちらと視線を向けてはいるが、すぐに目をそらしている。

 リリィーのやつがちょっと不満そうにしている。可哀想だから呼んであげて!



「てんせいしゃさまー」

 遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。一人の女の子がこちらにかけてくる。
 えっと、確かあの子はエノラだったか。

 一週間程前、魔物暴走が起きて街が襲われた時、俺が守る区域に彼女はいたそうだ。そこで魔物と戦う俺を、家の中から見ていたらしい。
 普通魔物との戦闘なんて怖がるかと思ったが、この子の場合そんなことはなく、それから妙になつかれてしまった。

 結構エグい光景だったの思うんだけどな。てか、保護者になってる周りの大人も止めろよ。
 うん...... この子は将来大物になるかもしれない。

 魔物暴走とは魔物の体内にある魔力が暴走し、周辺の村や街を襲いだすことだ。その数は100から300、多い時は500を超える。魔物種類は関係なく、普段群れを組まないような魔物でも、大群になって襲ってくるそうだ。
 聞くところによると、魔王の魔力に反応して定期的に起こるものらしい。それはつまり、魔王という存在がいる限り魔物の襲撃が起きるということ。人族と魔族の争いが絶えない原因の一つとなっている。
 魔王本人に悪意はなくとも、事実、魔物の襲撃が起きる以上野放しにはできない。
 人間側の気持ちもわかるが...... やはり気分の良いものじゃないな。

 ちなみに街の損害は0だった。イブが《気配察知》でいち早く魔物の襲撃に気付いたおかげで、余裕をもって迎撃にあたることができたのだ。四人で手分けして、四方を囲むように防衛線を張ったので撃ち漏らしもない。完璧な防衛線だったといえるだろう。



「みてみてー。自分で結べるようになったの!」

 彼女はこの世界では珍しい灰色髪の少女だった。光を吸収するような不思議な色合いは、後ろに靡き肩程まで続いている。伸びるセミロングを三つ編みにし、ハーフアップにまとめている。彼女はそれを自慢するためにこちらへ背を向けると、髪の毛をこれ見よがしに揺らして見せる。


「おー、よく一人で結えるようになったな。似合ってるぞー」

 髪型が崩れないよう、頭を優しく撫でると、少女エノラは嬉しそうに目を細める。

 この世界では、髪型でオシャレをするという風習は無いらしく、良くてゴムや紐で軽く止める程度だ。そこで、俺の異世界知識を広めてみたのだ。
 効果は覿面。今では街の女性の殆どがいろいろな髪型に挑戦している。と言っても俺の髪型の知識量なんて高が知れているわけで、後は彼女たち自身で切り開いていってほしいところだ。

 ......もし江戸時代あたりの髪型が出てきたら止めておこう。
 方向性は間違っちゃいけない。ファンタジーの良さを生かしてほしいな。


 なでなでなで。
 イブが混じりたそうな目でこちらを見ている。
 なでなでなでなでなでなで。
 二人係でエノラをもみくちゃにする。

 エノラは撫でられるのに満足したのか、今度は魔王のリリィーに向きった。

「まおーさまは結わないの? きれいな髪だからきっと似合うと思うの」

 リリィーは声をかけられたことに驚くも、嬉しかったのか口元がニマニマし始める。しかし、質問に応えようとすると、途端に微妙な表情になり曖昧な返事を返した。

「そ、そうね。気が向いたらやってみようとは思ってるわ」

 そういえば、あいつが髪を結ばない理由は単にめんどくさいからだったな。「特別な何かでもない限り、普段はこのままでいいわ」と言っていたのを思い出す。


「それでどうだ? こっちでの生活には慣れたか?」

「うん、素敵なところなの。奴隷として捕まった時は怖かったけど、ここに来られて良かったの!」

 明るく返すエノラに憂いの表情はなく、本当に今の生活に満足しているようだ。変にストレスなどなくて何よりである。
 この国は「不幸な人を無くす」というのがコンセプトになっているからな。しかし、ここで「幸福な人を増やす」という目標を掲げないのは、俺たちの人柄が推して然るべきか。

 日本の法律でも、国民は最低限の生活は守られているが、それ以降の幸せはそれぞれに任せられている。案外この考え方は、俺たちだけでなく普通の考えなのかもしれない。
 この国に愛着でもわけば、いつか素直に幸福を願えるようになる日もあるのだろうか。

 ああ、また余計なことを考えてしまっていたな。
 少なくとも自身と周りの人の幸福は願い続けようとは思う。





 しばらくの間、子どもたちに囲まれ戯れていると、一人の魔族が俺たちのもとへやってきた。

「皆さま来ていたのですね」

「ええ、順調みたいね」

「はい、ですがまた資材が足りなくなってしまったようで、追加を頼みたいのですが」

「またかい? 随分はやいペースで出来ているみたいだね」

 この国はまさしく辺境の地といっていいところにある。リリィーの魔王城は魔界の北側に位置し、周辺に大きな街もないため、何かを買う場合は俺たちの誰かがいくことになっていた。その方が圧倒的に早いからな。

「わかった。なら俺が買ってこよう」

「お手を煩わせてしまい、申し訳ありません」

「いいって、別に。てか、そんなかしこまるなよ」

 こいつらは何かと敬語を使ってくる。敬われるような覚えはないし、勇者や魔王、神なんて存在と一緒いるおかげだろう。転生者なんて特別えらいわけじゃない。
 人々の希望でもなければ、総べるものでもない、ましてや崇められるものにもなれやしない。一つの人生すら消化できずドロップアウトした人間なのだから。



 特に必要なものもないので、さっさと行って戻ってくるために必要な資材の数を確認し準備を進める。早いにこしたことはないだろうしな。資材がないと作業が滞るだろうし。

 ここから帝国まで、徒歩は5か月、馬車なら2ヶ月、飛龍で7日かかる。飛龍があるといっても飛龍を扱えるものは少なく、その希少性から一般の人はまず乗る機会がない。本来とても長い時間、移動に縛られることになるのだ。
 まあ、俺には関係ないことだけどな。

「じゃあ、いってくるわ」

 軽く手をあげ、帝国へ飛ぶため俺は《瞬間移動》を発動させる。


 うーん、これどこぞのピンク色のドアより便利だな。
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