LOTUS FLOWER ~ふたたびの運命~

勇黄

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前世の記憶⑨

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それからも一太いったは時々
金の無心に来た。

彪亮あやあきは払い続けるしかなかったが
小遣い程度の額しか要求してこないのが
せめてもの救いだった。




彪亮あやあきは今まで以上に
がんばって節約をした。

お客さんから少し
チップをいただいたり
時には、親方の現場へ
ごはんの調理の出張の仕事に
行ったりしてできるかぎり
貯金をする。




駿二しゅんじも早く1人前になろうと
大工の修行に勤しんだ。

親方や他の大工の仕事を
積極的に覚えようと
色々質問したりお願いして
体験させてもらったり
一生懸命だった。


そんな駿二しゅんじに親方や
まわりの大工も感心し
よく指導してくれた。






駿二しゅんじ彪亮あやあき
2ヶ月に1度休みを合わせて
逢瀬を重ねる。





彪亮あやあきが食堂のお客さんに
言い寄られ、幸子さちこ
撃退してもらったり

親方の現場にごはんの出張に
行った時に周りの大工たちに
可愛いと言われ照れて
赤くなっているのを見て
嫉妬した駿二しゅんじ
彪亮あやあきのものを噛んで
流血させてしまったこともあった。




駿二しゅんじが仕事先で
女の子に告白されたと聞いて
彪亮あやあきが拗ねて
やっぱり女の子のほうが
いいんじゃないか、と
落ち込んでしまったこともある。





駿二しゅんじ彪亮あやあき
お揃いのキーホルダーを
買ってプレゼントしたり

彪亮あやあきは手料理を
駿二しゅんじに届けたり…

楽しいこともたくさんあった。






それから嬉しいことも…。



彪亮あやあきが食堂で
店番をしていた時に
「すみません!このへんに
大工さんのおうちって
ありますか?」と言いながら
入ってきた少年がいた。



はい、えっと…と応対する
彪亮あやあきの顔を見て固まる少年。






「………………アキ?」

「えっ?」

「アキだよね!俺だよ!タイスケ!」

「え?タ、イスケ?」

「そう!施設で一緒だった!」

「あのタイスケ、なの?
ほんと?タイスケ!
無事だったのね?
こんなに大きくなって…
立派になった…」

涙があふれてとまらない彪亮あやあき



「シュンにも知らせなきゃ!」

「よかった!シュンジも一緒なんだね!」

コクコクと頷き、彪亮あやあき
タイスケの頭を撫で
「ごめんね…ごめんね…」と泣く。





「謝んないでよ…大丈夫だから。」
そういうタイスケも涙声だ。






幸子さちこに許しをもらい
2人で駿二しゅんじに会いに行った。


一目見るなり駿二しゅんじは「…………………!タイ、スケ…
あああ!タイスケだよな?
ごめん!ごめんなぁ…
本当にごめんなぁ…」と涙する。


「ああ!シュンジ!
会いたかったよ!謝らないで!
大丈夫だったんだから。
こうして会えたんだからさ!」




「タイスケ…」
3人で抱き合ってしばらく泣いた。





近所の喫茶店でタイスケの話を聞く。

2人が逃亡したあと
タイスケも逃げ出すことに
成功して夜道をさまよって
いたところを駐在員に保護され
そこであの施設のすべてを
打ち明けた。

すぐさま警察の手が入り
職員何名かが逮捕されて
施設は閉鎖になり
みんなはバラバラに
近隣の施設に入っていった。




タイスケは、というと
その時みつけてくれた
駐在員の夫婦が
子供が出来なかったので
養子にする子を探していて
そこに迎えてもらった。



その後は不自由なく
愛されて暮らしている、との事だった。






駿二しゅんじ彪亮あやあき
泣いて喜んだ。

なによりもタイスケが幸せそうで
そしてわざわざ探して
自分たちに会いに来てくれたことが
とても嬉しかった。

その後もちょこちょこ
手紙のやりとりを続けた。












色んな出来事があり
あっという間に2人が北海道に来て
3年の年月が流れる。



冬を越し、16歳になった彪亮あやあき
幸子さちこの助けを借りて
隣町に家を借りた。




古い一軒家だが、食堂のお客さんの
持ち物件で何年か
人が住んでいないので
修理しながら住んで欲しい、と
格安で借りることが出来た。


修理はやっと大工として
仕事ができつつある駿二しゅんじ
無償で買って出た。



仕事が休みの日に
現場であまった廃材などを
もらって利用し丁寧に修理した。



庭に大きな木が植わっている
小さな黄色い屋根の家。



そこで食堂へと通いながら
彪亮あやあきは新しい生活を始める。





休みの度に駿二しゅんじ
彪亮あやあきの家を訪れ
幸せな時間を過ごした。


駿二しゅんじは庭の木が
お気に入りだった。



行くといつもそこに寝そべり
気持ちよさそうにうたた寝をした。


彪亮あやあき駿二しゅんじ
腰に手を回し飽くことなく
顔を見つめている。



駿二しゅんじが目を覚ますと
いつも彪亮あやあきが寄り添っていて…




「アキ。愛してる…」と呟き抱きしめる。




そして彪亮あやあき
用意した夕食を一緒に食べ
幾度も愛し合う濃密な瞬間とき
過ごして帰っていく。














だが、そんな幸せな日々は
長くは続かなかった。





17歳になった駿二しゅんじ
異変が起きたのは秋だった。



最初は微熱が続きそして高熱が出た。
季節の変わり目の風邪だろう、と
病院にも行かず
いつも通り仕事に励んでいた
駿二しゅんじ
ある時仕事中に意識を失い
倒れてしまう。



病院に運ばれ
そこで診断された病名は白血病。

それももう手遅れの状態だった。







余命3ヶ月、との宣告を
表情ひとつ動かさずに聞いた
駿二しゅんじは声を発することが
出来なくなっていた。





親方夫妻はとりあえず
家に連れて帰り部屋に寝かせると
彪亮あやあきに連絡をした。






血相を変えてやってきた彪亮あやあき
全てを話すと
彪亮あやあきはガタガタと震え
体に力が入らず、床に倒れ込んだ。

不思議と涙が出ずに
しばらく放心する。







はっ!と我に返った彪亮あやあき

「ぁぁ!シュン!!」と叫び
駿二しゅんじの部屋へと
走っていくと

ベッドに横たわり
ただ天井を見つめている
駿二しゅんじがいた。



「………………シュン。」




ぴくりとも動かない駿二しゅんじ
見て彪亮あやあきは叫ぶ。




「シュン!シュン!僕だよ!
アキだよ!シュン!ねぇ!
シュンってば!ねぇ!
嘘でしょ!なんかの冗談だよね?
シュン!シュンが…なんで?
シュン!シュン?嘘だと言って!」




駿二しゅんじを揺さぶり
泣き叫びながら
名前を繰り返し呼ぶ彪亮あやあき





「シュン………。あやあきだよ…
ねぇ。しゅんじぃ…」





彪亮あやあき駿二しゅんじの唇に
強くキスをする。
何度も何度も繰り返し唇を吸う。






「…………………………アキ。」

「シュン!」





駿二しゅんじ彪亮あやあき
唇にすがるように貪りつく。






部屋のむこうでガタン!と
大きな音がした。


彪亮あやあきが振り向くと
親方の奥さんが尻もちをつき
驚愕と嫌悪の目でこちらを見ていた。






「あ、あ、あな、たたち…
まさ、か。。。まさか!
そ、んな関係だった、の?
そん、な……………汚らわしい…
汚らわしい!!!
嫌、イヤぁ!イヤぁぁ!
いやぁぁぁぁぁ!」と
泣き叫ぶ奥さんの声を聞きつけ
親方も慌ててやってくる。





「あ、なたっ!あれを追い出して!
はや、く!汚らわしい!

お、とこど、うしで…!
あ…いやぁぁぁぁぁ!」






「どういうことだ?!
おい!おまえ、どうした…?」
親方は戸惑い顔だ。






彪亮あやあきが立ち上がる。

「お、やかた…。
本当に申し訳、ありません。

僕たちは………お2人に…幸子さちこさんに…
みんなに…嘘をつ、いていました…。

僕とシュンはここへ来る前から…
いえ。もっと小さな子供の頃から
愛し合う恋人同士でした…。

駿二しゅんじはここに来た時
親方にすべてをお話したけれど
僕とのことだけは言えなかった、と
ずっと気に病んでいました。


ほ、んとうにごめんなさい。
ごめ、…なさい………。

恩を仇で返す形に…なってしまい
本当に申し訳ありません。

ごめんなさい…ごめんなさい………」





その間もずっと親方の腕の中で
奥さんは嫌だ、気持ち悪い!と
泣き続けていた。




親方も涙を流しながら
こちらに軽蔑の眼差しをむけた。




「おまえらがそんな関係だったなんて…
俺は微塵も思ってなかった…。

俺はシュンも、おまえも…
可愛がって息子のように
思ってた…なのに。

ずっと裏切っていたんだな…
本当におまえら気持ち悪い…
反吐が出るよ…出、ていってくれ!」





「本当にごめんなさい…」

彪亮あやあきは土下座する。




「僕たち、誠心誠意
尽くしてきたつもりです。

僕はともかく!シュンは!
シュンは許してあげてください!
あのがんばりを!
見ていたでしょう?

せめてもの罪滅ぼしを、と…



あああ!それにもう
シュンの命が…消えて、し、まう………
うわぁぁあ…!」

泣き叫ぶ彪亮あやあき






「アキ。立て。」

いつのまにか立ち上がり
彪亮あやあきの横に来ていた
駿二しゅんじ



「親方。奥さん。
お世話になりました。

本当にありがとうございました。

俺は、ここで
初めて家族の温もりを
知った気がします。

俺を、俺たちを可愛がってくれて
本当に嬉しかった。

いつもお2人を騙していることが
心苦しかったんです。

そのぶんせめてもと
俺はがんばったつもりです。

自己満足かもしれないけど。

本当に本当に…………
ありがとうございました。
そして申し訳ありませんでした。

俺はアキと行きます。アキ。」



「…………………シュン。」





「ありがとうございました!」

2人で頭を下げ
そのまま駿二しゅんじ彪亮あやあき
手を取り家を出た。
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