LOTUS FLOWER ~ふたたびの運命~

勇黄

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初戀

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高校へ向かう道の途中で
彩明あやあきは一瞬にして
体全体がカッと熱くなった。



前を数人で固まって歩いている
男子生徒たちの中に
一際キラキラと輝くオーラを
放ってる人がいる。





笑顔が眩しい。




周りの人もザワザワしていて
みんな彼を見ていた。





本人は気がついていないのか
大きくあくびをし眠そうな顔をする。





女子生徒がキャッキャと騒ぎ始めた。






仲間らしい男子生徒たちが
うしろからその人に向かって
突進してワイワイとはやし立てる。


「お~い!ふみちゃん!
か、ん、だ、と、し、ふ、み、くーん!
キャーキャー言われてるぞ~
おまえ、高校こそ彼女作れよな~
モテるのにさ!
片付いてくれないと
俺たちに回ってこない!」と
おどけて言う。





当の本人は
「は?俺じゃねぇよ。モテねぇし。
彼女?めんどくさいから、いらね。」と
嫌そうに手をヒラヒラさせて言う。




「なんだよ~!おまえがモテねぇなら
俺らどうなるんだ~!バカ!」と
仲間たちに小突かれて

「バカってなんだよ!」と
ふざけながら笑って走っていった。









(一瞬………………

体がめちゃめちゃ熱くて…
もしかして…あの人…シュンなのか、と
思ってしまった…。




でも…しゅんじ、じゃなかった…




ふみ、ちゃん。
か、んだ、とし、ふみ。)








彩明あやあきは学校へ行くのが
楽しみになった。
もしかしたら会えるかもしれない。

彼に。そう思うと力が沸いた。

廊下ですれ違ったり
全校集会で見かけたりすると
胸がしめつけられるような
感覚になり心がときめいた。




(これが………恋、なのかな…。)と
ドキドキする。






初めての中間試験の結果で
彼が学年1位だったのには驚いた。

神田俊詩かんだとしふみ
名前の漢字もわかった。






(僕も…勉強がんばれば
ひょっとしたら彼の目に
触れられるかもしれない。

恋人に、なんてなれるわけは
ないけどせめて友達になれたら…)






彩明あやあきはがむしゃらに
勉強を頑張った。
そして期末試験では学年2位に
急浮上する。
もちろん1位は俊詩としふみだ。





掲示板に名前が並んだだけでも
彩明あやあきはとても嬉しかった。


そっと写メを撮って
別フォルダに入れて
永久保存にするぐらい嬉しかったのだ。








彩明あやあきは子供の頃から
外出できない時に家にある本を
たくさん読んでいたので
思いのほか博識で
高校内のクイズ大会で
優勝してテレビに出たりしたので
1年生の中では有名な人になった。



それも俊詩としふみ
近づきたい一心だったのだ。








睡眠障害は相変わらずあって
朝起きれなかったりするものの
導入剤のおかげで
一定の睡眠時間を保てて
体調も安定していた。





ただやはり浅い眠りの時は
夢を見たり、夢精することも
あったがそれもあまり
気にしないようにした。







初めて俊詩としふみを抜いて
学年1位になったときは
正直落ち込んだ。



彼を抜かしてしまうなんて…
なんてことを、なんて自分を責めた。


いてもたってもいられずに
彼のクラスにそっと様子を
見に行くと、彼ははじける笑顔で
友達と楽しそうに話していて…



彩明あやあきは顔が熱くて
しかたがなくなった。




きっと、真っ赤だったに違いない。
急いで自分の教室に戻ると

「大丈夫?熱でもある?」と
声をかけられる。



「え?だ、大丈夫。
今、走ってきたから暑い、だけ。
ありがとう、………………高橋たかはし、くん。」


「大丈夫ならいいんだ。」


微笑んで肩にポンと触れる
その手が優しくて彩明あやあきも微笑む。





「…よかった。安心したよ。
神宮寺じんぐうじも笑うんだな。」



そう言うと満面の笑みで隣の席に座る。




「ねぇ、神宮寺じんぐうじ。俺、小中と
同じ学校だったんだけど覚えてる?」

「…………え?そうなの?」

「あ、やっぱ覚えてないか!
ふふ…神宮寺じんぐうじ休みばっかだったもんな!

でも高校では見違えるように元気で
俺、嬉しいよ。」



高橋たかはしくん…ありがとう。
気にかけてくれてたの?」




「…あぁ。うん、そうなんだ。
俺…なんかずっと神宮寺じんぐうじ
気になっててさ。あ!いや…
変な意味じゃないよ?わはは!」

「ふふふ…そんなこと一言も…
あはは!………ほんとにありがとう。」

「ま、これからもよろしく!」

「うん、こちらこそ!ありがとう!」

「ありがとう、って何回言うねん!
ぶはは!」

「あ…あはは!下手な関西弁!
…ありがとう!」

「ほら、また!ふふふ…」

「…なんかわからないけど
言いたくなっちゃうの!」

「ぶはっ!」

彩明あやあきは楽しい掛け合いに
とても嬉しくなった。







ほらー授業始めるぞー!
数学の教師が前で叫んでいる。
2人は笑いあいそれぞれの席に着く。









ある時彩明あやあきは先生に頼まれて
たくさんのプリントの束を
教室へと運んでいた。




汗をかき何往復もして疲れたのか
これで最後、と気が抜けたのか
途中の廊下でプリントの束が
スルリ、とすべて腕から
落ちてしまった。



焦って必死で彩明あやあき
プリントを拾う。





「ほい。」





誰かが落ちたプリントの束を
一緒に拾ってくれ、
彩明あやあきの手にぽん、と置いてくれた。





「あ、ありがとうございます………………
!!!」







それは俊詩としふみだった。





その背にもう一度
「ありがとうございます!」と
言った彩明あやあき俊詩としふみ
手をあげてこたえ
振り向くことなく行ってしまった。







(もっと…もっと近づきたい!
もっと話したい…
もっと、もっと………。)





彩明あやあきは強く思った。







2年生になり、彩明あやあき
また体調の悪い日が
ずっと続いた。


ちゃんと眠っているはずなのに
疲れがとれていないのだ。



それどころか疲れが
溜まっていく一方で
彩明あやあきは病院で診てもらったり
薬を加減してもらいながら
学校にだけはがんばって通った。







夏になり、生徒会長選挙の時期が
近づいて、彩明あやあきは風の噂を耳にする。


俊詩としふみが立候補するというのだ。





これだ!と思った。
自分が立候補すれば俊詩としふみ
話すことが出来るのでは
ないだろうか…。






彩明あやあきはまず生徒会長選の
担当教師のところへ行ってみた。



「あの…。先生。生徒会長選って
誰か立候補してたりするんですか?」




神宮寺じんぐうじ、出てくれるのか?
なんて教師は身を乗り出して
聞いてくる。




「相手が誰か、なんですけど…」と
もっともらしく言ってみると
選挙をやりたいらしい教師は
2組の神田かんだ、と小声で教えてくれた。





「あの、先生。僕、出ます。」



勢いに任せて彩明あやあきは言ってしまった。
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