超弩級宇宙戦艦パルシファル

ヒルナギ

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最初の接触 02-22

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 ダーナは、シルビアたちを士官用の船室へと案内した。士官用とはいえ、とてもシンプルで無愛想な部屋だ。

 部屋にはいると同時に、ごんとブリュンヒルド全体が揺さぶられる感覚がはしる。

 ダーナは、微笑みながらシルビアに話しかけた。


「本艦は、核融合反応弾を使用した加速プロセスに入りました。これから九十六時間加速を行い、その後九十六時間の減速を行います。その間、エナーシャルキャンセラーの作動範囲外にでると、加速に押しつぶされる危険があります。できるだけ、この部屋をでないように」

「判っているわ」


 シルビアは簡単な作りのワークチェアに深く腰をおろし、足を組む。

 ブルース・ブロディ護衛官はその隣に腰をおろした。

 そんな二人をみて、ダーナはふたりとも自分の家にいるようにくつろいでいると思う。

 ダーナは部屋の設備について手短に説明をすると、部屋をでようとした。


「ねえ」


 立ち去ろうとするダーナに、シルビアが声をかける。


「少しだけ、お話しさせてよ」


 ダーナは、うなずく。シルビアは、嬉しそうに笑う。


「どうやら、わたしの王族種への理解は間違っていたようね」


 ダーナは、少し首をかしげる。


「もしもわたしたち王族種が、並列して存在する未来を見通して、そこから正しい未来を選択していると思っていらっしゃるなら違いますね」

「だって、ねぇ」


 シルビアは、少し肩をすくめた。


「未来選択能力なんていうんだから、そう思うじゃあないの」


 ダーナは、苦笑する。


「カール・ハインツ・シュトラウス博士がどういうつもりでそう名付けたのかは、判らないですけれど。どちらかと言えば、思い出すっていう感覚に近いですね」


 シルビアは、よく光る美しい瞳でダーナをみた。

 サファイアのような輝きは、ダーナのこころを魅了しすこしどきりとする。


「混沌とした不確定の世界の中で、ああこの未来ならもう知ってる、ていう気持ちになるんです。まあ、ロキ王家以外の王族種にあったことはないんで、一般的な感覚かはわからないですけど」

「へぇ、面白いわね。ちなみに、今存続が確認できる唯一の王族種が、ロキ家なのよ。比較のしようが、ないわねぇ」


 シルビアは、よく光る目でダーナを見つめながら微笑む。

 黒のナイトドレスを身につけたシルビアは、夜を纏っているようだとダーナは思う。

 夜を纏い、夜明けの輝きを髪に宿したおんな。

 生まれたときから絶滅へのカウントダウンが続くテラで生きてきたダーナにとって、シルビアは全く未知の世界のおんなであった。

 そのおんなとおんなの属する世界に焦がれるような感情を持つ自分に気がつき、ダーナは少し不思議な気持ちになる。自分はまるではじめて空をみた、海の底の魚のようだとダーナは思う。


「ねぇ、それでどうなのよ」


 シルビアはくすりと笑い、ダーナを見つめる。ダーナはそんなシルビアに、こころを読まれたような気がし、頬を紅く染める。


「わたしのことは、思い出したの?」


 反射的に頷きそうになったダーナは、慌てて首をふる。


「いえ、今はまだなんとも」

「へぇー、なんかつまんないなぁ。ま、しょうがないか」


 シルビアは、そっとダーナに顔をよせる。ダーナは、自分の鼓動が高まるのを感じた。シルビアは、睦言を囁くようにダーナに語りかける。


「ねぇ、わたしのこと、思い出したら教えてよ。きっとね。約束だから」


 ダーナは、大きく頷く。


「はい。判りました。お約束します」


 ダーナは笑みをみせ、シルビアは目を輝かせ頷く。

 ダーナはその瞳に魅了されながら、別れを告げた。


「では、わたしはこれで失礼します」


 シルビアは愛撫するような眼差しでダーナをひととおり眺めると、すっと身をはなす。


「ええ、ありがとうダーナ王女。また、お会いしましょう」


 扉が閉まり二人きりとなった室内で、シルビアはブレスレッド型の情報端末を操作する。空中に映し出されたバーチャルコンソールに、シルビアは指を走らせた。ホログラムディスプレイに、部屋を監視しているシステムの情報が表示される。

 シルビアはコンソールを操作し、部屋につけられた監視装置をハッキングした。監視カメラと盗聴マイクに偽信号が送られるようになったサインが、ホログラムディスプレイに表示される。

 シルビアが、ブルースに頷きかける。まずブルースが口を開く。


「あんたはあの王女を、どうみたんだ。シルビア」


 シルビアは、電子シガーのスティックを取り出すと咥える。千年の時をかけて宇宙に進出した人類は、未だその悪癖を根絶しきれていない。

 電子シガースティックのランプが紅く灯り、シルビアはそっと紫煙を吐く。その瞳には、どこか憂鬱な色がある。


「思ったよりやっかいね。あの子のなかには、累積した並列世界がカオスとなって渦巻いてる。でもあの子は、それを喰らい一意の未来へ落とし込めるのよ。怪物じみてる」


 ブルースは、苦笑した。


「その怪物を確かめるために、おれたちがナイア皇帝の密命をうけてここにいるんだろ。まあ、王族種ってやつらは、おれたちと真逆の存在らしいな」


 シルビアは、頷く。


「ナイア皇帝は彼らを飼いたいようなんだけど、どうかしらね。それと、ブルース。あなたはあの子狼をどうみたの?」


 ブルースは少し顔をしかめると、口を開く。


「ケン・ブラックソードか。あいつは、変だな。そうだろ」


 シルビアは、頷く。


「やつは、王族種と血の繋がりはないはずだが。やつも、カオスを喰らうことができるとおれは見ている」


 シルビアは、薄く笑った。


「ある意味、王族種以上に怪物じみてるわね」


 ブルースは、肩を竦めた。


「皇帝陛下は、飢えた狼を帝都に解き放つつもりなのか?」


 シルビアは、微笑みながら頷く。


「テラの神話で語られるラグナロク、神々の黄昏を帝都でみることになるのかもね」



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