89 / 102
狂神に捧げる戦い 06-10
しおりを挟む常識ではありえない、奇妙なドッグファイトがはじまろうとしている。それはドルーズとウルフバートの間にだけ存在する、暗黙の呼吸に基づく戦闘だ。
あまりに予想どおりのウルフバートがとる振る舞いに、ドルーズは薔薇色の唇から笑みをこぼれさせる。まさにおれたちは恋人同士のように、通じ合っている、ドルーズはそう思う。
しかしその笑みは、すぐに困惑によってかき消された。
「何だ、あれは」
ドルーズは、思わず声にだして呟く。
ウルフバートの機体は、激しく振動しているように見えた。マシントラブルかと思ったが、その航行自体は安定しており真っ直ぐこちらに向かってきている。
機体の振動はさらに激しくなり、まるで二機の機体がこちらに向かっているように見えた。
「ミルククラウン、あれは新手の光学ジャミングなのか?」
ドルーズの問いに、フェアリーは象牙色の髪を揺らして首を振った。
「ジャミングではなく、物理的実体として二機存在する反応があります」
ドルーズは、恋人の我が儘な振る舞いをとがめるおとこのように、眉をひそめた。
「馬鹿をいうなよ、じゃあ、ウルフバートは二機に分裂したとでもいうのかい」
ミルククラウンは、真面目に頷く。
「センサーの分析結果は、そのとおりです」
ドルーズは、薔薇色の唇を歪めた。
つくずくデタラメなやつだな、ウルフバート。
そう思ったが、その呟きはこころの中に留める。
「あと十五秒で、ビームフランベルジュの射程に入ります」
どうする?
ドルーズは、自分に問いかけた。
しかし、結論はすぐに出る。
今は考えるべきではなく、また躊躇うべきでもない。
ドルーズは、戦いの本能に身をまかせ燃えさかる炎の剣を振るう。
揺らめく真紅の輝きは、炎の軌跡を残し漆黒の空間をなぐ。
たとえ相手が二機に増殖していたとしても、二機ごと十次元振動で行動不能にしてしまえばいい。
紅の閃光は、二つに見える鋼鉄の狼に襲いかかった。
ドルーズは、ウルフバートを斬ったと確信する。
真紅の炎が、漆黒の機体を貫く。
しかしウルフバートは手応えのなさに、驚愕する。
そして、黒いミリタリーモジュールは二機ともドルーズの視界から消滅した。
「どこまで、でたらめな」
思わず声に出して呟いたドルーズの声に、ミルククラウンの叫びが被る。
「敵機、背後です。攻撃を受けます」
ドルーズは思考よりもはやく、本能で自機を翻し後ろの敵機に向き合おうとした。だが、それはひと呼吸遅れている。
ドルーズがみたのは死神の振るう鎌の弧を描いて自機に襲いかかる、スペースアックスであった。
ブースターで加速された狼の牙は、避けようのない速度でドルーズ機に襲いかかる。
どんと、ドルーズのミリタリーモジュールに衝撃が走りウルフバートのスペースアックスが機関部に食い込んだのを知る。機体の心臓部に電磁パルスが浴びせられ、断末魔の喘ぎのように機体が振動するのを感じ取ることができた。
一瞬だけ機体が振動した後すぐに、機関が停止する。ミルククラウンの映像もかき消すようになくなり、網膜投影ディスプレイが死んでドルーズは闇と沈黙の中に投げ出された。
ドルーズは、笑うしかないと思う。
戦闘開始後一分もたたずに撃墜されたのは、はじめての経験だ。
これは、艦隊の命運を決する戦いであったというのに。
それがこんなでたらめな結果になるとは、誰にも予測できなかったろうと思う。
ドルーズは、ヘッドセットにアラームが響くのを聞く。ドルーズの機は、死に瀬している。機体は生命維持装置が停止する寸前に、ドルーズを仮死状態にする措置をとるはずだ。
これで生き延びれば、おれはいい笑いものだな。ドルーズはそう思い彼には珍しく皮肉な笑みを、薔薇色の唇に浮かべる。
ドルーズは笑いながら、闇の中へと沈んだ。
0
あなたにおすすめの小説
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる