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第十二話
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冬の夜空を飾るシリウスの輝きを宿したかのような美しい短刀は、肉眼では捉えられぬ微細な振動をおこした。
それは、気功によって引き起こされる高周波の振動である。そして短刀に流された気は、刀身に宿った光の波動を天上の音楽へと変え、魔神の瞳に向かって放たれた。
魔神は、失った蛙の頭に変えて獣の頭を出現させている。獰猛な獣の咆哮を放ちながら、怒りのこもった眼差しを黒天狐にむけた。憎しみと呪詛に彩られた獣の瞳に、黒天狐の抜いた鳴狐の放つ光の叫びが飛び込んだ。
魔神はうめき声をあげ、動きをとめる。黒天狐は、嘲るような笑いを仮面の下に浮かべていた。
「二階堂流、心の一方だ」
黒天狐は、金縛りにあったかのように動きをとめた魔神の上で滞空し、みおろす。
「魔神とはいえ、ひとの姿をとればひとの理からは免れん」
黒天狐は魔神の上に舞い降り、右手を獣の頭にかざす。
「浸透勁だ。魔神とて、頭の中身はひとと同じで柔らかいもの」
黒天狐は、魔神から距離をとる。魔神は頭の中を粉砕され、目と耳と口から赤い血を噴出させた。
内部を粉砕され皮の袋と化した獣の頭が消え去り、老人の頭が出現する。黒天狐は再度心の一方を放つべく、短刀を魔神へ向けた。
鋼が冬の雷となって冷めた光を放ち、血が渋く。斬り飛ばされたのは、黒天狐の腕だ。冷めた輝きを放つ短刀は、腕ごと夜の地面に落ちる。
黒天狐の腕を切り落としたのは、魔神が手にしている剣であった。黒天狐に斬り落とされた腕が剣を握ったまま宙を舞い、短剣の仕込まれた黒天狐の腕を斬り落としたのだ。
そのまま剣を握った魔神の腕は宙を舞い、魔神の元へ戻る。魔神は斬り落とされた腕を、傷口に押し当て元に戻した。
「狐マントよ、そなた技は見慣れぬものであったがゆえ、すこし面倒であった。だが、もう判った」
魔神は一瞬にして、黒天狐との距離を潰し黒天狐の首を掴むと宙につりあげた。黒天狐は、うめき声をあげる。
「狐マント、そなたの技はもう効かぬよ。糸も浸透勁も、その力を奪った」
「残念だな」
喉を押しつぶされた黒天狐は、半ばうめき声のように声を出した。老人の顔は、暗黒の愉悦に歪み邪悪さを増している。
「なに、心配するな、狐マント。そなたの絶望、苦痛、恐怖、そのすべてを我は存分に味わい尽くしたうえで、そなたを喰らう。光栄に、思うがいい」
「いや、そうじゃあない」
首を絞められながら、黒天狐の瞳は強い光を放っている。
「あんたのように高位の魔神が、ただのひとにすぎないこのおれに葬られるのが、残念だと言った」
老人の顔が怪訝だというような、表情をみせる。その瞬間、魔神の胸で血が爆ぜた。老人の顔は、不思議なものを見るように自分の胸をみる。
血に塗れた胸は、夜に赤い薔薇が咲き誇った様を思わせた。魔神の手は力を失い、黒天狐は解き放たれ地面に降りる。
魔神の身体あちこちで、血が爆ぜ真紅の花が咲き誇ってゆく。月明かりの下、放たれる血飛沫が舞台を赤く染めてゆく。真夜中の薔薇園に絨毯爆撃が行われるかのように、魔神の身体を赤い破裂が覆っていった。
「全部、時間稼ぎだったんだ。おれの仲間があんたにつけた傷から、あんたの中に糸を這わせるためのね」
魔神は、火に包まれた城が崩落するように、地面へ崩れ落ちる。そこには、魔法陣が出現していた。魔法陣は、貪欲なリバイアサンのように崩れる魔神の身体を闇の海へのみ込んでゆく。
「浸透勁は、逆位相の気で止められる。硬気功も、同じだろう。でも、糸を通じて送り込まれる気は、止められない」
血まみれとなった魔神は、呪詛の声をあげながら魔法陣の中へと沈んでゆく。黒い氷が真夜中の太陽に溶かされてゆくように、魔神の身体は形を崩してゆき消え去った。
魔法陣もやがて蒼ざめた輝きを失い、あとに残ったのは一冊のグリモワールである。黒天狐は、その本を手にした。頭上をみあげると、ヒースのあやつるeVTOLがきていた。
それは、気功によって引き起こされる高周波の振動である。そして短刀に流された気は、刀身に宿った光の波動を天上の音楽へと変え、魔神の瞳に向かって放たれた。
魔神は、失った蛙の頭に変えて獣の頭を出現させている。獰猛な獣の咆哮を放ちながら、怒りのこもった眼差しを黒天狐にむけた。憎しみと呪詛に彩られた獣の瞳に、黒天狐の抜いた鳴狐の放つ光の叫びが飛び込んだ。
魔神はうめき声をあげ、動きをとめる。黒天狐は、嘲るような笑いを仮面の下に浮かべていた。
「二階堂流、心の一方だ」
黒天狐は、金縛りにあったかのように動きをとめた魔神の上で滞空し、みおろす。
「魔神とはいえ、ひとの姿をとればひとの理からは免れん」
黒天狐は魔神の上に舞い降り、右手を獣の頭にかざす。
「浸透勁だ。魔神とて、頭の中身はひとと同じで柔らかいもの」
黒天狐は、魔神から距離をとる。魔神は頭の中を粉砕され、目と耳と口から赤い血を噴出させた。
内部を粉砕され皮の袋と化した獣の頭が消え去り、老人の頭が出現する。黒天狐は再度心の一方を放つべく、短刀を魔神へ向けた。
鋼が冬の雷となって冷めた光を放ち、血が渋く。斬り飛ばされたのは、黒天狐の腕だ。冷めた輝きを放つ短刀は、腕ごと夜の地面に落ちる。
黒天狐の腕を切り落としたのは、魔神が手にしている剣であった。黒天狐に斬り落とされた腕が剣を握ったまま宙を舞い、短剣の仕込まれた黒天狐の腕を斬り落としたのだ。
そのまま剣を握った魔神の腕は宙を舞い、魔神の元へ戻る。魔神は斬り落とされた腕を、傷口に押し当て元に戻した。
「狐マントよ、そなた技は見慣れぬものであったがゆえ、すこし面倒であった。だが、もう判った」
魔神は一瞬にして、黒天狐との距離を潰し黒天狐の首を掴むと宙につりあげた。黒天狐は、うめき声をあげる。
「狐マント、そなたの技はもう効かぬよ。糸も浸透勁も、その力を奪った」
「残念だな」
喉を押しつぶされた黒天狐は、半ばうめき声のように声を出した。老人の顔は、暗黒の愉悦に歪み邪悪さを増している。
「なに、心配するな、狐マント。そなたの絶望、苦痛、恐怖、そのすべてを我は存分に味わい尽くしたうえで、そなたを喰らう。光栄に、思うがいい」
「いや、そうじゃあない」
首を絞められながら、黒天狐の瞳は強い光を放っている。
「あんたのように高位の魔神が、ただのひとにすぎないこのおれに葬られるのが、残念だと言った」
老人の顔が怪訝だというような、表情をみせる。その瞬間、魔神の胸で血が爆ぜた。老人の顔は、不思議なものを見るように自分の胸をみる。
血に塗れた胸は、夜に赤い薔薇が咲き誇った様を思わせた。魔神の手は力を失い、黒天狐は解き放たれ地面に降りる。
魔神の身体あちこちで、血が爆ぜ真紅の花が咲き誇ってゆく。月明かりの下、放たれる血飛沫が舞台を赤く染めてゆく。真夜中の薔薇園に絨毯爆撃が行われるかのように、魔神の身体を赤い破裂が覆っていった。
「全部、時間稼ぎだったんだ。おれの仲間があんたにつけた傷から、あんたの中に糸を這わせるためのね」
魔神は、火に包まれた城が崩落するように、地面へ崩れ落ちる。そこには、魔法陣が出現していた。魔法陣は、貪欲なリバイアサンのように崩れる魔神の身体を闇の海へのみ込んでゆく。
「浸透勁は、逆位相の気で止められる。硬気功も、同じだろう。でも、糸を通じて送り込まれる気は、止められない」
血まみれとなった魔神は、呪詛の声をあげながら魔法陣の中へと沈んでゆく。黒い氷が真夜中の太陽に溶かされてゆくように、魔神の身体は形を崩してゆき消え去った。
魔法陣もやがて蒼ざめた輝きを失い、あとに残ったのは一冊のグリモワールである。黒天狐は、その本を手にした。頭上をみあげると、ヒースのあやつるeVTOLがきていた。
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