土曜日の本

０３１ 「地下迷宮」

　地下迷宮。

　そこには、血と暴力の気配が渦巻いている。

　無機質な石の壁が連なる迷路には、神秘的な呪術紋様が描かれており、床には血の後や屍の残骸が残っていた。

　わたしは、赤いワンピースに身を包んでその凶悪なダンジョン最深部をさらに下っていく。


＞なあ、あんた。


　突然声をかけられたが、わたしは無視する。


＞待ちなよ、お嬢さん。


　わたしは、振り返ってみる。

　鎧を身につけ、マントで身体を包んだ男がいた。


＞ネットナンパなら間に合ってるから。

＞馬鹿いえ。ここは地下50階だぞ

＞それが？

＞後3階下れば地下の底だ。こんなとこでナンパするかよ。

＞で、なんの用？

＞あんた、その格好アーマークラス10くらいだろ。

＞そうね。

＞レベルいくつだ？

＞まだ1だけど。

＞ありえん。一体どうやってここへきた？


　わたしは、男を見てみる。

　鎧は、竜の鱗を使った対魔法と対物理攻撃どちらにたいしても強力な防御力を持つものだ。

　手にした槍は、ユニコーンの角を加工した特殊な力を持つアーティファクトらしい。

　腰に吊した剣は、刀身が光り輝き赤いルーン文字が浮かび上がっていた。魔法的攻撃力を付加された剣だ。

　身を包むマントはエルフの作ったもので、光学迷彩が施されておりフードを被って身を覆うと姿を消すことができる。

　首から吊した魔よけや指輪、ガントレットやブーツ、どれも魔法的な特殊効果が施されていた。

　レアアイテムの固まりみたいな男だ。多分これだけの装備を手に入れるために数千時間以上は軽く費やしているだろう。

　そこそこのネットジャンキーといえる。

　でも。

　それでも、わたしの求める一万時間級のジャンキーに比べると子供みたいなものだ。


＞あんたには、関係ないよ。

＞いや、まて。そこより先に行くな。

＞なんで。関係ないでしょ、あんたに。

＞やめろ、そこから先は魔導師マグナスの縄張りだ。


　わたしは、無視してどんどん進む。


＞馬鹿、そこにモンスタートラップが！