世界を救ったゲーマー・ファントムMAYAは、異世界で竜と戦う

ヒルナギ

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第19話「キャプテン・スターアンドストライプス」

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 そこまで語り終えたマヤは口を閉ざすと、ソファに座り直す。

 すでに深夜といってもいい時間帯に、なりつつあった。

 マヤはテーブルから冷めたコーヒーをとり、口に運ぶ。

 それにしても昔から蒼ざめた孤独を纏った子だと思っていたが、久しぶりにおれのところにきた彼女の纏う空気はさらに蒼白さをましているじゃあないか。

 むしろ、強制冷却装置でブーストしてるんじゃないかと、思えるほどだ。

 薄く笑みを浮かべ、まずそうに冷めたコーヒーを飲むマヤにおれは催促をする。


「それで、その後どうなったんだよ」


 マヤは、口の端を少し歪める。


「悪い魔道師クラウス公子と、悪い傭兵キャプテン・スターアンドストライプスはファントム・マヤにやっつけられた。それで、この話はおしまい」

「なんだよ、そりゃあ」


 おれは苦笑しながら、煙草に火をつける。


「おまえって、黄門様が印籠出す前にチャンネル変えちゃうタイプだろ」


 マヤはおれの言葉に、無言で眉をひそめる。

 そして、おれを馬鹿にしたような目つきでみつめた。

 おれはため息をつきながら、煙草の煙を吐く。


「マヤ、おまえさ、ひとつ勘違いしてることがあるぞ」

「へえ?」


 マヤは、少し面白そうにおれをみる。


「おまえが着ていたフライトジャケットだがな、あれバズリクソンズじゃあないぞ」


 マヤの瞳が、驚愕で大きくひらかれる。

 そして、なにかを言うように口をひらく。

 言葉が発せられないまま、口はとざされる。

 マヤは、一度深呼吸するとようやく口をひらいた。


「だってあれはわたしがギブスンのパターン・レコグニションを読んでキョウヘイにウイリアム・ギブスンモデルの話をしたときに、くれたやつだよ」

「そりゃあそうだが、あれはそもそもMA-1じゃないだろ。CWU55Pだ。だいたい10万もする馬鹿げたナイロンジャケットなんて、おれが持ってるわけない」


 マヤは深いため息をつくと少し俯いて、腕組みをする。


「そういえば、キョウヘイっていつもダメージド・ジーンズはいてるしね」

「まあ、安いからな」


 マヤは、小馬鹿にしたような色を目にうかべる。


「グランジ・リスペクトでダメージドはくのは、わかるよ。わたしも、カート・コバーンは好きだしね。でも高校生じゃあるまいし、安いからダメージドはくとかないわ」


 おれは、やれやれと苦笑する。


「おまえ十代のくせに、カート・コバーンきくのかよ。それにしてもマヤ、おまえおれに対する態度が前より辛辣になってないか」


 マヤは面白がっているように、よくひかる目でおれをみる。


「最近、判ったことがあるんだ」

「ほう」


 おれは煙草の火を消すと、ウイスキー・オンザロックのグラスを口に運ぶ。


「キョウヘイって出版した著作や掲載した記事を逐一自分のサイトに、リストアップしてるよね」

「ああ」

「そこから想定されるキョウヘイの年収は、わたしのそれを下回ってるよ」


 おれはウイスキーにむせて、せき込む。


「いやいやいや、流石にそれはないぞ。おまえ、インターンシップだろ」

「そうなんだが」


 マヤは、意地悪く笑う。


「わたしの会社はわたしの家賃と学費を、払ってくれてるんだよね。それを計算にいれると、越えるんだよ」

「そうじゃなくてな、そこは課税対象となる収入でくらべろよ」

「十九の小娘に年収で負けてる三十代のおとこって、少なくとも尊敬の対象にはならないよね」

おれが見苦しく反論をかさねようとしたとき、玄関のインターホンが呼び出し音を発した。

「誰だろう、こんな遅くに」


 おれはつぶやきながら、携帯端末を操作してリビングの壁にかけている液晶ディスプレイに玄関のカメラが送ってきた画像を映す。

 ネイビーブルーのテーラードジャケットに、インディゴのトラウザースといういでたち。

 クルーカットに髪をととのえ精悍な印象はあるが、IT系の営業マンにみえなくもない。

 しかし、おれはその顔に見覚えがあった。

 顔の画像データでセキュリティシステムに照会をかけると、しっかりヒットしてくる。

 おれはやれやれと思いながら、ディスプレイに内蔵されたマイクへ話しかけた。


「コークのセールスなら、間に合ってるぜ」


 スピーカーが、玄関のおとこの返事を伝える。

 意外に流ちょうな、日本語だった。


「おれは、友達に会いたいだけだよ。いてるんだろう、ファントム・マヤ」


 おれは、ため息をつく。


「向こうは、おまえのこと友達だとは思ってないだろ」

「この島国のコミックでは、一度戦った相手はマブダチになったはずなんだが」


 おれは、あたまをかかえる。


「最近のジャンプは、知らないね。バットマンがジョーカーに救いの手を差し出すキリングジョークなら、知っているけれどな」


 玄関のおとこは、肩をすくめた。


「DCコミックは、詳しくなくてね。おれは、マーベル派なんだ」

「ああ、そういえばコードネームはキャプテン・アメリカだっけ」


 玄関のおとこは、笑ったようにみえる。


「いや、キャプテン・スターアンドストライプスだ」


 似たようなもんだろ、とおれが言う前にマヤが口をはさむ。


「いれてやりなよ、キョウヘイ。わたしなら、平気だよ」


 おれは驚いて、マヤをみる。

 マヤは、穏やかな笑みをうかべて頷く。

 おれはやれやれと首をふると、マイクに向かって話す。


「いいぜ、こいよ。酒をのみながらアヴェンジャーズの話でもしようか。ただし」


 キャプテンを名乗るおとこは、一瞬眼差しをカメラにむける。


「ジャックダニエルなんて、ないからな。リッター10ドルの安酒だぞ」


 キャプテンは、声をあげて笑う。


「アフガニスタンでは酒が飲めるだけで、神に感謝したものだ」


 おれはため息をつき、玄関の電子ロックを解錠する。

 しばらくして、キャプテン・スターアンドストライプスがリビングに入ってきた。

 両足は義足のはずだが、それを感じさせないスムーズな動作だ。

 ハリウッド映画にでてくるマッチョな傭兵と違い、小柄でIT技術者のような雰囲気がある。

 だが、その顔にはいくつもの傷跡があり灰色の瞳は狼の鋭さがあった。

 キャプテンは、呆れたように苦笑している。


「あんたらはひとを家にいれるとき、武器をチェックして取り上げたりしないのかよ」


 おれは、肩をすくめた。


「どうでもいいけどな、うちの嫁は特殊作戦群の教導部隊に所属する士官だ。あんたがここにいるという情報は、ラングレーまでとんでるよ」


 キャプテンは、かってにソファへ腰をおろす。

 おれが差しだしたグラスにウイスキーを注ぐと口をつけ、眉をひそめる。


「カンパニーには、いやというほど協力してる。むしろ」


 キャプテンは、グラスをテーブルに置いた。


「感謝のしるしとして、ここにマッカランの五十年ものをとどけにきたってバチはあたらないくらいだ」


 おれは、鼻で笑った。


「そんな金があれば、犯罪者を司法取引をえさに使ったりしないだろ。リッター10ドルで我慢しとけ」


 キャプテンは、もう一度グラスを口に運びにやりと笑う。


「いや、これはこれで悪くない。トレーラーハウスに住んでいた、ガキのころを思い出す味だ」


 マヤが、耐えきれないといった感じで笑い出す。

 キャプテンが、少し眉をあげてマヤをみる。


「ファントム・マヤの笑い声がきけるとは、驚きだ。ストーンコールドがあんたのうりだと思ってたよ」


 マヤは、笑いながら目尻に滲んだ涙をふく。


「わたしは笑いもすれば泣きもする、十九の小娘だよ。で、あんたはなに。自分をこてんぱにやっつけた相手と仲良くするのが趣味なの」


 キャプテンは驚いたようにマヤをみて、そしておれをみた。

 おれは、頷いてみせる。


「キャプテンさん、このノリに耐えられないなら、帰ったほうがいいぜ」

「いや、少し感動しただけだ。ゲーム大会後のインタビューで負かした相手をこきおろしてるのをみて、おれは拍手してたからな。自分がその立場になったってのは、感無量だ」


 おれは、あきれて苦笑する。


「で、ファントム・マヤ。あんたの話は、どこまでいったんだい」


 冷笑をうかべているだけのマヤに変わって、おれがこたえる。


「マザー・ロシアがやられたあと、アイゼン・ジャックをセットアップするところまでだな」


 キャプテンは、煙草に火をつけ紫煙を吐き出す。


「じゃあ、差し支えなければ続きはおれが話すとしようか」


 おれは、マヤのほうをみる。

 マヤは、微笑みながらうなずいた。


「ちょうど、話疲れたところだたった。あとは、おまかせするよ」

「じゃあ、決まりだな」


 キャプテンは、にやりと狼のように笑う。


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