Worldtrace

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クライド

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初日は何とか生き延びた。だが玄人の騎士達はほとんどが初日で潰れた。後は学生が残ってるだけだ。唯一幸いと言えるのは、まだ戦いに慣れてる冒険者がいるという事だ。ただもしかしたら今日死ぬかもしれない。相手は魔物でも凄い数だ。死の恐怖は拭えない。

同級生「クライド!」

クライド「え!何!」

同級生「どうしよう!冒険者達が逃げる算段してる!」

クライド「だ、駄目だよ!ここが潰れたら王都が!」

同級生「だけど力のある騎士は動けないし、残ってる騎士達も士気が落ちて何も言えないんだ。おまけにこの都市に住んでる住民が戦う為に農具とかを持って集まってるんだ。」

クライド「どうして!」

同級生「自分達の家族とか故郷を守りたいからだって。」

守る?・・・死ぬかも知れないあんな恐い場所に何で行けるのか?気持ちだけでどうにか出来る事じゃない。

同級生「どうする?」

クライド「どうするって?」

同級生「上級生もいない司令官もいない状況じゃ戦えないだろ?どう逃げる?」

逃げる?確かに勝ち目が無い以上死ぬより良い。それで後はどうなる?ここが落ちれば、王都は火の海だ。でも自分達だけでは無理だ。幸いここには身一つで来ている。気付かれない内にこの都市を脱出する事は出来る。同級生達と一緒に逃げる為に外に出るとある家族の姿が目に映る。遠目に見た限り一般市民だと思う。これから戦いに行くのだろう。子供は何事か分からない様子だけど奥さんは泣いてる。周りで似た様な光景がいっぱい見える。

クライド「ねぇ。」

同級生「気にするなよ!このままじゃ皆んな死んじゃうんだぞ!」

クライド「逃げるってそもそも何処に逃げるのさ。王都もどうなるか分からないんだよ?生き残れるかも分からない。」

同級生「でもここにいたら確実に死ぬ。今は生き残れる確率の高い方に掛けるのが正解だろ!」

それはもっともな意見だ。何も自分から危険な場所に行く必要は無い。でもここで生きる人からすればそれは関係ないんだろう。守りたい。その一念だ。そんな時ある幼馴染に言われた言葉を思い出す。

"周りが変わらないならもう自分が変わらないと変化なんて起きないぞ。"

そして気付く。"ああ、そうかここだ!ここで変わらないと!"と。

クライド「ごめん。やっぱりここに残るよ。戦わなくちゃ。今変わらないと僕は変われないから。」

同級生「何の話だよ。とにかく僕は行くぞ。じゃあな。」

そして開戦の数分前、広場に冒険者と都市の住民、残りの動ける騎士達全員を集めた。

冒険者1「これから何が始まるんだ?こっちはそろそろ退散するんだけどな。」

住民「お、おい!俺達を見捨てるのか!」

冒険者1「そう言われてもな。騎士団だって逃げるんだろ?」

騎士「い、いや、そういう訳じゃ・・・。」

冒険者2「待ってくれ、ここには動けない親父やお袋がいる。いきなりいなくなられたら俺の家族はどうなる?」

住民「そ、そうだ!家は捨てられない!」

冒険者1「俺に言われてもな。騎士様からもなんとか言ってやってくれよ。」

冒険者2「そうだ!民を守るのは騎士の仕事だろう?こいつを説得してくれ!」

住民「ああ、俺からも頼む!」

騎士「ま、待ってくれ!こういう事は上の者に判断を仰がねば。私の一存では決められない。」

冒険者1「ハッキリしねぇな。素直に"逃げるから好きにしろ!"って言えないのか?」

冒険者2「ふざけるな!ここは"共に戦いましょう"と宣言する所だ!そうだろう!」

騎士「え!い、いや。あははは。」

住民「笑ってる場合じゃないだろう!」

案の定、騒動が起きる。ただの学生の身で何を言っても聞いてくれないかも知れない。でも皆んなに伝えないと。

クライド「皆さんすみません。僕はクライドと言います。騎士の見習いで学生をしています。この場にいる全ての人、皆んなにそれぞれ考えや想いがあるのは分かっています。それでもお願いします。力を貸して下さい。ここで戦わなければ王都は・・・いえ、国が滅びます。誰も家族や仲間を救う事が出来なくなります。僕も家族が死ぬかも知れません。大事な物、全部を守る為に協力して下さい!お願いします!」

冒険者1「はぁ~、確かにこのままだとそうなるよな。仕方ない。もう少し付き合うか。ただ代金分しか働かないぞ。」

冒険者2「俺は元々ここが故郷だ。最初から戦うつもりだった!言われるまでも無い!」

住民「俺達もやるぞ!」

騎士「わ、私も栄えある騎士団の一員だ。私達もやるぞ!」

演説のお陰か皆んなやる気を出してくれた。この程度で上手く行くは分からなかったがこれでとりあえずの準備は出来た。後は力の限り守るだけだ。
そして開戦・・・辛うじて魔物達を抑えている。土魔法で下から壁を出し大型の魔物をひっくり返し、小さい魔物は石の弾丸で撃ち抜く。穴を掘って落としたりもした。ただ数が減ってる気がしない。そんな余計な事を考えていた所為だろう。魔物が直ぐ近くに来ていた。

クライド「あ!しまった!」

魔物「ガァ!」

同級生「クライド!危ない!」

同級生が盾で弾きトドメ刺す。

クライド「え!どうして!」

同級生「なんかあのままお別れって、寝覚めが悪いだろ?」

クライド「うん!ありがとう!」

その時突然王都の方から物凄い光の柱が立つ。

同級生「何だよ!あれ!どういう事だよ!」

頭の中にある幼馴染の顔が浮かぶ。

クライド「大丈夫だよ。こんな状態であいつが何もしない筈が無い。僕達は目の前の敵に集中するんだ!」

同級生「わ、分かった!」

結果から言うと多少の死傷者を出したが、クライドは見事都市を守り抜き自身も生き延びた。
そして本来なら学園を卒業後成績によって準男爵もしくは男爵になるが彼はいきなり子爵になる。同郷の者達の中ではそれなりの出世だった。
だがこれはこの戦争が終わった後の話だ。まだ戦いは続く。
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