Worldtrace

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[Worldtrace2]

夜襲

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中々に素晴らしい布団だ。こんなにゆったり寝たのは久しぶりだ。まぁ、昨日も寝てたけど。俺は少し寝返りを打つ。
その時、何処からか"うわ~"と言う声が聞こえて来る。その後、続けて"きゃ~"と言う声も聞こえる。まるで遊園地にある絶叫マシンに乗せられた客が声を上げている様だった。そして今度は"助けてくれ~"と言う一言と同時に爆発音が鳴る。

俺「は!」

俺は空を見上げる。満天の星がそこには広がっていた。

俺「うわ~!綺麗な星空!・・じゃねぇよ!あれ?俺、家で寝て?・・・え?屋根は?」

簡単な話だった。俺の家の天井が根こそぎ消えていただけだ。そして俺の胸辺りまで下がった壁に近付き村の方を見る。村は既に火の海だった。俺は急いで刀を持って村に向かう。着替えてる暇が無いから靴だけ履き替えパジャマで走る。何処に行けば良いかも分からない。

?「きゃ~!」

俺は声の方を見ると子供を抱えた女性が魔物に襲われそうになっていた。
俺は一直線に走り、女性に迫る右腕を落とすとすれ違いざまに今度は左足を斬る。俺は直ぐに振り向き、魔物がよろめいた所で一気に首を落とす。

俺「あんた!大丈夫か?」

女性「ありがとうございます。」

俺「避難場所とか聞いてないか?何処に行けば良い?」

女性「あの・・・、何かあった時は教会に行く様に言われていますが?」

俺「教会、・・・・行くぞ!」

俺は女性と子供を連れ教会に向かう。教会には結界が張られていたが、案の定周りには魔物がいる。自警団らしき男達が対処しているが怪我人の方が多い。

女性「ひ!」

俺「そこにいろ!」

俺は目にも止まらぬ速さで魔物を片付ける。

自警団員1「おお!助かった!あんた何者だ?」

俺「ん?俺はしがない傭兵だよ。」

自警団員2「そうなのか?」

自警団員3「おい!怪我人を!早く中へ!」

皆んな慌ただしく走っている。

マリア「シリウス君!」

俺「ああ!マリアさん!大丈夫?」

マリア「うん。だけど結界の維持に力を使ってるから怪我した人の治療が出来なくて。」

う~ん。参ったな。結界に関しては俺に出来る事は無い。その時、ピロリンと音がする。分かっているとは思うが俺のスマホだ。

マリア「え!・・・何の音?」

俺「気にしなくて良いよ。」

俺は画面を見る。そこには結界アプリなる物がダウンロードされていた。自分から取るつもりは無いけど知らない間にアプリを入れるのはやめて欲しい。とは言え、今は必要な物だろうから文句は言えない。

マリア「だ、大丈夫?何か凄い顔してるよ?」

俺は神様の理不尽さに呆れていた所為か、不満が顔に出てたみたいだ。余程の顔なのか心配された。とにかくアプリを起動する。するとカメラモードが動く。多分、結界を張りたい対象の写真を撮れば良いんだろう。とりあえず写真を撮りアプリを確認する。この後どうするのか?そこからの操作方法が分からない。右上にヘルプがあった。

マリア「何!これ!」

俺「ん?」

俺がマリアさんの顔を見るとずっと何かを見つめてる。目線の先を追いかけると何と教会が結界に覆われていた。マリアさんの張った物よりデカいヤツだ。あれ?撮っただけで良いのか?結構簡単だな。

マリア「シリウス君!後ろ!」

俺は身体を回転させて攻撃を躱し、猿の形をした小型の魔物の後頭部を掴み結界へと投げる。

マリア「あ!」

自警団員1「どわ!何するんだ!」

その猿の魔物は結界に当たると光の粒になって消える。

俺「マリアさんの結界、解除して大丈夫みたいだよ。怪我人の治療に行って良いんじゃない?」

マリア「そ、そう?」

自警団員1「今度やる時は前もって言っておいてくれ。」

俺「ああ、ごめんごめん。」

改めて神様の理不尽さを考えると常識というか感覚というかが鈍る様だ。少しイラッと来てあの猿?を叩き付けていた。

オジさん「シリウス君!」

オバさん「シリウス君!」

俺「あれ?オジさん、オバさん。まだ避難してなかったのか?」

オジさん「ああ、私達は避難しそびれている人がいないか自警団の人達と村を見て周っていたんだ。」

俺「とりあえず教会に結界張ってあるから中に避難してくれ。」

オジさん「ああ、避難はするけど・・・。」

ん?歯切れが悪いな?

オバさん「お願い!ジンとエリスちゃんを助けて!」

俺「2人がどうした?」

オジさん「襲撃が始まった時に家を飛び出して行ったんだ。」

オバさん「その後をエリスちゃんが直ぐに追いかけて行って。」

オジさん「まだ他にも問題があるんだ。エリスちゃんは剣を持って行ったんだけどジンは今、剣を持って無いんだ。」

俺「は?・・・あいつ、武器も持たずに行ったの?」

オバさん「ジンは代わりに鍬を持って行ったの。」

鍬?・・・鍬でどうやって魔物と戦う?上手く隙を突いて首を落とすか?まぁ、出来ない事も無いかも知れないけど。って今はそれ所じゃないな。

オジさん「お願いだ。ジンとそしてエリスちゃんを助けて上げてくれ。」

オバさん「例え、あの娘が何処の誰でどんな立場の人間だったとしても私達からすればもう家族なの!」

オジさん「魔族との事で家族を亡くしている君に、こんな事を頼むのは酷だと分かっているけど。なんとかしてくれ!頼む!」

俺「とりあえず教会に行ってくれ。今あそこが1番安全だから。ジンの事は俺がなんとかするよ。」

オジさん「ああ、お願いだ。」

オバさん「お願いね。」

オジさんとオバさんを見送った後何故か、ある日の記憶が脳裏に蘇る。
それは育ての母、アイリーンの故郷で聞いた占いの内容だった。

"貴方は近い将来、大きな分岐点に差し掛かります。愛か憎しみか、辛い事にこの分岐点において貴方に選択権はありません。"

それと同時にウルドに見せられたムービーも思い出す。ジンが女性を抱きしめて泣いているシーンだ。
例の占いとムービー、それと今のジンの生活環境に今日この時の襲撃。その4つの情報が出揃って、俺はようやくジンの闇堕ちの原因を理解した。

俺「マジか。ジンが抱きしめてたのはエリスかよ。」

しかも今回、ジンに選択権は無い。レコードに記録されている以上あいつには変えられない。だが、俺はこの『世界』には存在しない人間。その俺なら結果を変えられる。要するに俺がエリスを助ければ良い。・・・・俺がエリスを助ける。アイリーンを殺した奴等の仲間を。和解する様には言われた。だが助けるという内容は入っていない。
正直俺が助ける理由も無ければ必要も無い。ただエリスを助けられる人間は多分この村には俺しかいない。それに助けないとジンが闇堕ちする。
答えは1択、理解はしてる。だが納得は出来ない。俺の中で葛藤が起きる。

俺「参った。毎度の事だけど、本当に酷な選択を迫るね。神様達は。」
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