Worldtrace

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[Worldtrace2]

喧嘩2

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最初の立ち上がり、クリスは様子見で防御に徹するつもりだろう。ただメリアってのも中々の様だ。俺達は離れて見てるから、どう動いたかよく分かる。
体勢を低くしながらクリスとの距離を詰めた。正面から見れば目の前から消えた様に見える筈だ。そんな動きをされれば普通は驚く。メリアはクリスの顎を目掛け左のアッパーカットを放つ。ただクリスは冷静にスウェーで避ける。メリアは続けて裏拳の状態で拳を振り下ろす。だがクリスは左へ移動し躱す。
メリアは更に左拳でフック気味のパンチを繰り出そうとしている様に見える。多分、クリスも俺と同じくそう思っていたんだろう。しかしメリアは左脇を素早く締めると右フックを放つ。フェイントだ。左を意識させて途端に右にスイッチした。
クリスは直ぐに距離を取り、その右フックを躱す。

マーク「クリス様!」

しかしクリスは唇の左端から少し血を出している。クリスは血を拭うと少し目付きを変える。対照的にメリアがニヤリと笑う。
ふと支部長を見るとクリスが殴られたショックからなのか、白目を剥き口から泡を吐いて立ったまま気絶していた。器用な奴だな。普通立ったままは無理だろう?鯉の活き造りみたいなのと一緒で新鮮なら立っていられるとか?いや、多分違うな。
阿保な事考えて無いで試合に集中するか。

メリア「フッ、どうした?その程度か?まぁ、そんな綺麗な顔をしているんだ。殴られた事も無いから驚いただろう?だけどね、ここからが本当のお楽しみだよ!」

俺は素直な感想を洩らす。

俺「あいつ、やるな。」

マーク「感心してる場合か!」

俺「でもクリスの奴、気にしてないみたいだぞ?」

クリス「フッ、確かに本気で殴られたのは今のが初めてですよ。ですが、お陰でやっと"本気"というのがどういうものか体感出来そうです。」

今の台詞は中々格好良いと思うけど、別の見方をするとなんか噛ませ犬みたいに見えて来る。そんな台詞言って大丈夫か?自分でフラグ立てるなよ?
俺の心配を他所にクリスとメリアの勝負は続く。エキサイトしてる冒険者達はメリアを応援している。"そのまま一気にやっちまえ"とか"もう一発顔面に叩き込め"と物騒な事を言っている。メリア自身もラッシュを掛ける。

メリア「フン!どうした防戦一方じゃないか!さっきの発言はハッタリか!」

確かにギャラリーが興奮するのも当然だ。かなり優勢に見える。あの時、メリアの攻撃は確かに当たっていた。正確には掠っただけだが、野次馬を興奮させるのには十分な材料だろう。
ただそこからはクリスの独壇場だった。あの一撃以外にクリーンヒットと呼べる物は無い。全て完璧に躱す。完璧に躱すというのは見るからに避けるのでは無く、ミリ単位で躱している。僅かな動作と足捌き、そして完全に見切る洞察力。マークはハラハラしてる様子だが、俺としてはもう先が見えていた。後は相手が弱った所で取り押さえるだけだ。多分クリスもそのつもりなんだろう。メリアもクリスが自分の弱った所を狙っている事を感じ取っているのか、さっきから挑発してクリスの方から動く様に促している。

メリア「はぁ、はぁ、どうした腰抜け!掛かって来い!」

クリス「フッ。」

クリスが挑発する様に笑う。

メリア「こいつ!」

こういう荒くれ者達は大変だ。あまり下手な失敗は出来ない。舐められたり馬鹿にされたりすると今後の仕事にも支障が出るだろう。
まだ余裕の笑みを浮かべる優男の坊ちゃんにあっさり負けた。そんな結果は不味い。それに自分から挑んだ勝負に傷すら受けて無い内から負けを認める事も出来ない。
しかしメリアは気付いている。クリスには勝てない。最初の当たりはまぐれだと。
クリスはメリアの蹴りを躱す。その直ぐ後に左のボディブロー、右ストレートと続ける。クリスはその右ストレートを躱して脚を掛ける。

メリア「ぐわ!」

クリス「これくらいで終わりにしましょう。ある程度は実力を理解してくれたでしょう?」

メリアが倒れ込み、辺りは騒然としている。圧勝ムードは一瞬で敗戦ムードになる。状況があまりに有利な為か、俺はずっと主人公の格好良いイベントムービーを見ている気持ちで観戦していた。お陰で気付くのが遅くなった。
クリスが助け起こそうと近付く。この時、俺の中でアクション映画のシーンでよく見る光景と状況が重なって見えた。

俺「あ!気を付けろ!」

マーク「え!」

クリス「うわ!」

メリアは振り向き様にクリスの顔面に砂を掛ける。

メリア「お前みたいな坊ちゃんに馬鹿にされたまま引き退がれるか!」

俺もマークも流石に不味いと思った瞬間、状況が変わる。メリアの右ストレートを躱すと、その右腕を掴み、そのまま左手で右肩を押さえ地面に組み伏せる。

メリア「ぐぁ!」

クリス「済みません。少々手荒になってしまいました。」

メリア「あんた・・・見えてるのか?」

クリス「いえ、目にゴミが入ってしまい開けられません。ただ先生のお陰で貴女の行動は見切れました。」

メリア「は、はは。そうかい。分かった。完敗だよ。あたいの負け・・。」

俺もこれでようやく話が進むなと思っていた。だがここで待ったが掛かる。

男冒険者1「おい!あの野郎!とうとうメリアに手ぇ出しやがったぞ!」

男冒険者2「このままただ殴られるだけなら許してやるつもりだったが、もう勘弁ならねぇ!」

男冒険者3「貴族だろうが関係ねぇ!叩きのめすぞ!」

メリア「は?ち、ちょっと待てよ!あたいの負けだよ!」

ガルマン「ひゃ~!」

えぇ~。先に喧嘩売ったの彼女だよ?何故そうなる?そして支部長がいつの間にか意識を取り戻していた。だけど冒険者達の貴族だろうが関係ない発言で蟹の様に泡を吹いて気絶する。
まぁ、良い。こいつは放って置こう。だけど流石にこっちは放って置く訳にも行かないよな。近付こうとすると目が見えない筈のクリスが、俺に手を出し制止する様に指示をする。クリスはメリアから離れる。

クリス「皆さんの意見も理解しています。どうぞ、お相手しますよ。」

男冒険者1「野郎!馬鹿にしやがって!やっちまうぞ!」

うわ~、自分から喧嘩売った!大丈夫かよ?ただ俺の心配は杞憂に終わる。クリスはこの状況を無傷で切り抜けた。
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