キスとパンチの流星群

湯島二雨

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第3章…盗撮カメラ

10.ストーカー

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―――



 キーンコーンカーンコーン

放課後。
非常に長く感じた学校がようやく終わった。

下校中の結衣はかなり疲れた様子だ。この町でやっていける自信を完全になくしてしまった。
今日からいきなりお姫様になり環境がガラリと変わった結衣はかなり気力を消耗し、若干フラフラしながら帰り道を歩く。


……

………

…………


なんかついてきている。なんでついてくるんだ。
校門を出てからずっと、結衣の背後数メートルほどの場所に流星がいる。何分経っても後ろにいる。道を曲がっても流星がいる。どう考えてもついてきている。

流星は結衣をストーキングしている。ストーカーというにはあまりにも堂々としていて、物陰に隠れたりする様子もない。

背後から凄まじい視線を感じて、結衣は耐えられなくなり後ろを振り向いた。流星と目が合う。目が合って流星は上機嫌。結衣は不機嫌だった。


「……あの……ついてこないでくれませんか? ストーカーですか? 帰り道が途中まで一緒とかなら謝りますけど……」

「お? いやオレん家は全然道違うけど」

「じゃあやっぱりストーカーですか。迷惑なんですけど」

「何言ってんだ。お前のことはオレが守るって昼に約束したばかりだろ」

「いや約束はしてないですけど。あなたが勝手に言ってるだけです」


あれだけ嫌そうな顔でハッキリ拒絶したのに流星はちっとも応えてない。嫌われていようが引き下がる気は全くない。


「うるせぇな。男には意地やプライドってもんがあんだよ。あんなに嫌そうな顔されておめおめと引き下がるわけにいくか!
命に代えても惚れた女を守ると決めたオレの覚悟を甘く見るな」

一瞬たりとも目を逸らさず言い切った流星を見て結衣は言葉に詰まる。

ここまでストレートに好意を向けてくれるのは嬉しいが信用できない。信用できるわけがない。
いつどこで襲ってくるかとか、家にいても襲われる可能性があるとか言われたが、そんなことはこの男も同じだ。この男にも全部当てはまっている。
昨日はキスしてきたし、今朝なんて急に家に押しかけてきた。ホラーだ。信用しろなんて無理な話だ。何が命に代えても守るだ。普通に考えて流星の方が襲ってくる側だろう。

うんざりした結衣は前を向いて歩くスピードを上げる。それに合わせて流星も速く歩く。流星は歩きながら話しかけてくる。結衣は構わず歩く。


「なぁ結衣、こう見えても昨日のことは悪かったと思ってるんだぜ? オレのせいでお前が危険に晒されるハメになったって自覚はしてる。だからオレが責任持って守ってやるって言ってんだよ」

「…………」

結衣は歩くのを止めた。流星も止まる。結衣はおずおずと後ろを振り向いた。

「……いや、私は別に……セクハラさえしなければあなたを邪険に扱ったりしないですけど……?」

信用はできない。しかしあまり失礼な態度をとるのもよくないと思った結衣は逃げるのをやめた。
わずかながらデレてくれたと思った流星はテンションが上がる。

「ああ、安心しろ。昨日みたいなことは二度としないから。お前に嫌われたくないしセクハラなんて二度としな―――」


―――瞬間、強い風が吹いた。


―――ビュウゥゥッ


「きゃああっ!?」

「うおっ……!?」


思わず目を瞑ってしまうほどの強い風が2人の間を駆け抜けていった。

「なんだこの風……!? 春の嵐か……!?」

身体に叩きつけるように流れる風をうざいと思いつつ、うっすら目を開ける。

「―――ッ!?」

目を開けた流星はハッとした。強い風にも関わらず目を見開く。そこにはものすごい光景があったからだ。


前方にいるのは結衣。結衣の短いスカートが上にめくれあがり、中身が見えていた。流星に見せつけるように見えていた。

ぷりんぷりんの可愛らしいお尻と、それを包み込む純白のパンツ。男子禁制の神聖な桃源郷がそこにある。強い風で完全にパンチラしていた。

それを見た流星の下半身は一瞬にして血流が流れ込み、勃起した。鼻血も垂れ流した。瞬きもせずに聖なる布を凝視し、その映像を脳内に刻み込む。

普段から女とヤりまくりで女体なんて飽きるほど見てるはずのな流星が、パンチラくらいでここまで性的興奮するのもおかしい気がするが、それだけ結衣のパンツは流星にとって特別で神だった。


「―――ッ!? きゃああぁっ!?」


風でスカートがめくれてることに気づいた結衣は慌ててスカートを押さえて桃源郷を隠すが、もう遅く、流星にバッチリと目に焼き付けられてしまっていた。

うざい風だと思っていた流星だったが前言撤回。なんて素晴らしい風だ。心の底から風に感謝する。神がいるなら絶対に神にも感謝したいと思わずにはいられない流星だった。


ヒュウゥゥゥ……

「…………」

「…………」

風が去って、気まずい空気が流れる。
スカートを押さえたまましばらくフリーズする結衣。膨らんでしまった股間を隠すように前かがみになる流星。

しばらくの間があったあと、ゆっくりと結衣が後ろを向いた。極度の恥ずかしさで顔が真っ赤で涙目になってて、プルプルと震えていた。


「……っ……セクハラはしないって……言ったそばから……」

今にも泣きそうな瞳でギロッと流星を睨み付けた。

「は!? いやいやちょっと待て! 今のはオレのせいじゃねーだろ!? さすがのオレも風は操れねえよ! 事故だよ事故!! しょうがねえよ!!」

流星も顔を真っ赤にしながら弁明する。それでも結衣が涙目で睨み付けてくることに変わりはなかった。

「なんですかその鼻血!? なんで前かがみなんですか!? ガッツリ見てるじゃないですか!! 事故は仕方ないですけど恥ずかしいんだからガン見しないでください! もっとこう……とっさに目を逸らすとかできなかったんですか!?」

「いや……なんで視線を逸らす必要があるんだ? むしろ見ない方が失礼だと思うんだが。すげー可愛い王道って感じの純白のパンツが素晴らしくて目が離せなかったんだ。
恥ずかしがることはねーよ! めっちゃ素晴らしいパンツだよ!! それに結衣ってめっちゃいい匂いするよな! 風に乗っていい匂いがこっちまで漂ってきて幸せな気分になって硬直しちまって―――」

「うるさいっ!! それ以上言ったらぶっ飛ばしますよ!?」


フォローするつもりで言ったが結衣には逆効果だったようで、さらに顔を赤く染め、声を荒げた。

鼻血を手で押さえて前かがみというなんとも間抜けな姿勢の流星だが、不良としてぶっ飛ばすという言葉は聞き捨てならなかった。


「ハッ……誰に向かって口利いてんだ結衣。ぶっ飛ばすだって? やれるもんならやってみろよ」

指をクイクイと動かしながら結衣を挑発する。

「やってやるよこのエロ魔人っ!!!!!!」

結衣は挑発に乗った。恥ずかしすぎて逆上し、流星に殴りかかる。

流星は結衣のパンチを難なく躱し、真後ろに立つ。結衣は再び殴ろうとするが、これも余裕で避けられる。

昨日の提央祭のときと違って流星は油断してないので、結衣のノロノロ攻撃など当たるわけがない。流星と結衣では身体能力に差がありすぎてフッと消えたように見える。


「バカめ、このオレをなんだと思ってんだ。ケンカの百戦錬磨、南場流星だぞ。油断さえしなければお前みてーな一般人のヘナヘナパンチなんか喰らうわけねーだろ」

「…………」

鼻血ダラダラのくせにドヤ顔でかっこつける流星を見て結衣は腹立たしかった。
結衣は負けず嫌いなところがある。なんとしても一発殴りたくて、どうすれば殴れるか考える。

しかし、鼻血垂らしてるところを見て、簡単に殴れる方法を思いついた。
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