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第二章 露呈
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夕方から開始された忘年会は、思ったよりも早くに終わった。
三交代勤務だからというのもあるのだろう。
当然明日もそれぞれの時間に仕事があるわけで、なんだったらこれから仕事に行くという多少厳しそうな人もいた。
駅のロッカーに預けていたプレゼントを取り出し、緩む口元を隠す用にして扉を閉めた。
「クリスマスケーキいかがですか」
駅を出てすぐにどこからか聞こえてきた声に振り返る。
今日は25日。
クリスマスらしさは昨日でほぼ終わりだが、まだケーキは売っているのだろう。
せっかくだからと売り場に向かった。
「雪?」
見慣れた顔が見慣れない姿でそこにいた。
白いクリームに赤い苺のクリスマスケーキ。
「ケースケさん、あの、オレ、ごめんなさい」
ケーキ屋の制服だろう白い服。
少なくなったケーキの並ぶショーケースの横に立つ雪は、知らない普通の若者だった。
「バイト?」
「ごめんなさい」
ごめんなさいと何度も口にする雪は、店の中に駆け込んだ。
バイトをしていることは悪くはないが、俺に言わないのは意外だった。
何かをするなら絶対に報告があると思っていたから。
店の中で他の店員に話している姿が見える。
その手はすでに制服のボタンを外そうとしていて、きっと俺に怒られると慌てているのが見て取れた。
「雪、ケーキ買っていく」
「いらっしゃいませー。ありがとうございます」
店に入り声をかければ、おそらく店長なのだろうおじさんが愛想よく答えてくれた。
「こっちの1つ下さい」
「ケースケさん待って、オレが」
「堂前治くんのお家の方?」
「あー、そうです」
親兄弟でも親戚でもないがめんどくさいので肯定した。
「堂前治くん、もうおしまいでいいよ。このケーキも持って帰ってね」
「まだ20時です」
「お家の方いらしてるし、もう大丈夫だよー」
でも、と言い続ける雪は俺がもっと遅くに帰ってくると思っていて、最後までバイトをする約束だったのだろう。
俺も忘年会でこんなに早く終わるとは思っていなかったから、先に寝ておけと伝えていたし。
店長はケーキを袋に入れて渡してくれた。
もう少し待っててくださいねと言われ、俺は店の中を見て待つことにした。
個人店なのか以前からあるこの店は今クリスマスで占められている。
アイシングされたジンジャーマンクッキーがまさにそれっぽい。
明日になれば天井や壁にあるクリスマス飾りは撤去されるのだろうか。
窓に描かれたメリークリスマスの白い文字、店の片隅にあるキラキラしたツリー、焼き菓子の隣に並ぶ小人たち。
俺がしてやれなかったクリスマスがここにはあった。
「勝手してごめんなさい」
店長に挨拶をして店を出てすぐ、雪は頭を下げた。
「良いじゃんバイト。お前が自立するのは良いことだよ。ケーキも貰えたし」
「だけど」
「せっかくのケーキがあるんだし、早く帰ろう」
手にあるのは一人で歩み始めた雪の成果だ。
「これ、クリスマスプレゼント」
買ってきたものを渡せば、雪は案の定受け取れないと言った。
でも雪のために買ってきたものだ。
俺には一切の必要がない物。
雪のサイズの服と同じ、雪のためのもの。
「開けなそれ」
いつまで経っても封を開けないものだから、俺は雪の手を取りそのリボンを掴ませ引いた。
赤いリボンはするりと解ける。
「あ」と小さな声を漏らしたのもそのままに、続けて包装紙に指を引っかける。
サンタの顔のシールがはがれ、ビリと紙が破けた。
「外国だと盛大に破くらしいよ。嬉しいってアピールするために」
破ける包装紙に泣きそうな顔をする雪が俺を見る。
「お前のだよそれ。メリークリスマス」
その手は一瞬の躊躇の後、亀裂を広げた。
ホールのケーキを半分に切る。
用意したのは平皿とパスタを食べる大きなフォーク。
「全部ケースケさんのなのに」と雪はおかしなことを言っていた。
「全部お前のならまだしも、何で俺」
プレゼントを足元に置いたまま雪は動かずにいた。
「ケースケさん甘いものが好きだから、ケースケさんにプレゼント出来たらって」
「俺のため?」
「そうです」
俺が甘いものを好きだと知っているから、甘いものをプレゼントに選んだのだろう。
以前1度だけそんなことを言った気もするがいつだったか。
「バイトしたら買えるって思ったんです」
「お前金あるだろ。いや、バイトが悪いって言ってるんじゃなくて」
「お金はケースケさんのだから」
雪が冴木から貰った金を雪は俺のだと思っている。
名義は間違いなく雪なのに、それでもなぜか。
「あの名義はお前。あの金はお前が冴木さんから貰ったもの。お前が自由に使っていい物だよ」
「でも俺ここにずっとお世話になってて」
引け目だろうか。
「お前はここで働いてるだろうが。掃除も洗濯も料理も」
「それは」
「家政婦扱いしてるみたいで悪いけど、あー、もう。じゃあちゃんと金を今度から渡すよ」
「そんな!」
何かを否定したいようだが、迷うように雪の目が動く。
「でもな、別に何もしなくてもここにいていいよ。家事をこなすのはお前が一人暮らし始めたときに確実に必要になるから役に立つけど、ここにいる間の義務じゃない」
もっと好きなことをしたらいい。
それだけ。
「冴木さんから貰った金を使わずに貯めておくんでも良いと思うよ? 今までお前がただ働きしててくれたことに今後はちゃんと給料も払うし」
綺麗に洗濯されたシーツ。
野菜がたくさんの料理。
埃の無い部屋。
快適な生活だ。
「ちがう。違うんです」
雪は頭を振る。
「ケースケさん、オレどうしたらいいですか。何したらここにいてもいい?」
「何って」
「オレが作るごはん美味しくないからダメ?」
「何言ってんだよ」
雪の作るごはんは美味しい。何も問題なんてない。
「作らなくていいって、不味いから」
「違うよ」
「オレ、ケースケさんと一緒にいたい。ケースケさんのことが好き」
作らなくていいの意味が伝わっていなかったか、と否定しようとした口が開いたままになる。
「え?」
雪はその腕で顔を隠してしまう。
抑えた声が漏れる。
「おい、雪」
触れれば腕は抵抗もなく下ろされる。
涙に濡れた目はこちらを見ない。
「ごめんなさい」
いつもの声がいつもと同じようにいつもの言葉を放った。
三交代勤務だからというのもあるのだろう。
当然明日もそれぞれの時間に仕事があるわけで、なんだったらこれから仕事に行くという多少厳しそうな人もいた。
駅のロッカーに預けていたプレゼントを取り出し、緩む口元を隠す用にして扉を閉めた。
「クリスマスケーキいかがですか」
駅を出てすぐにどこからか聞こえてきた声に振り返る。
今日は25日。
クリスマスらしさは昨日でほぼ終わりだが、まだケーキは売っているのだろう。
せっかくだからと売り場に向かった。
「雪?」
見慣れた顔が見慣れない姿でそこにいた。
白いクリームに赤い苺のクリスマスケーキ。
「ケースケさん、あの、オレ、ごめんなさい」
ケーキ屋の制服だろう白い服。
少なくなったケーキの並ぶショーケースの横に立つ雪は、知らない普通の若者だった。
「バイト?」
「ごめんなさい」
ごめんなさいと何度も口にする雪は、店の中に駆け込んだ。
バイトをしていることは悪くはないが、俺に言わないのは意外だった。
何かをするなら絶対に報告があると思っていたから。
店の中で他の店員に話している姿が見える。
その手はすでに制服のボタンを外そうとしていて、きっと俺に怒られると慌てているのが見て取れた。
「雪、ケーキ買っていく」
「いらっしゃいませー。ありがとうございます」
店に入り声をかければ、おそらく店長なのだろうおじさんが愛想よく答えてくれた。
「こっちの1つ下さい」
「ケースケさん待って、オレが」
「堂前治くんのお家の方?」
「あー、そうです」
親兄弟でも親戚でもないがめんどくさいので肯定した。
「堂前治くん、もうおしまいでいいよ。このケーキも持って帰ってね」
「まだ20時です」
「お家の方いらしてるし、もう大丈夫だよー」
でも、と言い続ける雪は俺がもっと遅くに帰ってくると思っていて、最後までバイトをする約束だったのだろう。
俺も忘年会でこんなに早く終わるとは思っていなかったから、先に寝ておけと伝えていたし。
店長はケーキを袋に入れて渡してくれた。
もう少し待っててくださいねと言われ、俺は店の中を見て待つことにした。
個人店なのか以前からあるこの店は今クリスマスで占められている。
アイシングされたジンジャーマンクッキーがまさにそれっぽい。
明日になれば天井や壁にあるクリスマス飾りは撤去されるのだろうか。
窓に描かれたメリークリスマスの白い文字、店の片隅にあるキラキラしたツリー、焼き菓子の隣に並ぶ小人たち。
俺がしてやれなかったクリスマスがここにはあった。
「勝手してごめんなさい」
店長に挨拶をして店を出てすぐ、雪は頭を下げた。
「良いじゃんバイト。お前が自立するのは良いことだよ。ケーキも貰えたし」
「だけど」
「せっかくのケーキがあるんだし、早く帰ろう」
手にあるのは一人で歩み始めた雪の成果だ。
「これ、クリスマスプレゼント」
買ってきたものを渡せば、雪は案の定受け取れないと言った。
でも雪のために買ってきたものだ。
俺には一切の必要がない物。
雪のサイズの服と同じ、雪のためのもの。
「開けなそれ」
いつまで経っても封を開けないものだから、俺は雪の手を取りそのリボンを掴ませ引いた。
赤いリボンはするりと解ける。
「あ」と小さな声を漏らしたのもそのままに、続けて包装紙に指を引っかける。
サンタの顔のシールがはがれ、ビリと紙が破けた。
「外国だと盛大に破くらしいよ。嬉しいってアピールするために」
破ける包装紙に泣きそうな顔をする雪が俺を見る。
「お前のだよそれ。メリークリスマス」
その手は一瞬の躊躇の後、亀裂を広げた。
ホールのケーキを半分に切る。
用意したのは平皿とパスタを食べる大きなフォーク。
「全部ケースケさんのなのに」と雪はおかしなことを言っていた。
「全部お前のならまだしも、何で俺」
プレゼントを足元に置いたまま雪は動かずにいた。
「ケースケさん甘いものが好きだから、ケースケさんにプレゼント出来たらって」
「俺のため?」
「そうです」
俺が甘いものを好きだと知っているから、甘いものをプレゼントに選んだのだろう。
以前1度だけそんなことを言った気もするがいつだったか。
「バイトしたら買えるって思ったんです」
「お前金あるだろ。いや、バイトが悪いって言ってるんじゃなくて」
「お金はケースケさんのだから」
雪が冴木から貰った金を雪は俺のだと思っている。
名義は間違いなく雪なのに、それでもなぜか。
「あの名義はお前。あの金はお前が冴木さんから貰ったもの。お前が自由に使っていい物だよ」
「でも俺ここにずっとお世話になってて」
引け目だろうか。
「お前はここで働いてるだろうが。掃除も洗濯も料理も」
「それは」
「家政婦扱いしてるみたいで悪いけど、あー、もう。じゃあちゃんと金を今度から渡すよ」
「そんな!」
何かを否定したいようだが、迷うように雪の目が動く。
「でもな、別に何もしなくてもここにいていいよ。家事をこなすのはお前が一人暮らし始めたときに確実に必要になるから役に立つけど、ここにいる間の義務じゃない」
もっと好きなことをしたらいい。
それだけ。
「冴木さんから貰った金を使わずに貯めておくんでも良いと思うよ? 今までお前がただ働きしててくれたことに今後はちゃんと給料も払うし」
綺麗に洗濯されたシーツ。
野菜がたくさんの料理。
埃の無い部屋。
快適な生活だ。
「ちがう。違うんです」
雪は頭を振る。
「ケースケさん、オレどうしたらいいですか。何したらここにいてもいい?」
「何って」
「オレが作るごはん美味しくないからダメ?」
「何言ってんだよ」
雪の作るごはんは美味しい。何も問題なんてない。
「作らなくていいって、不味いから」
「違うよ」
「オレ、ケースケさんと一緒にいたい。ケースケさんのことが好き」
作らなくていいの意味が伝わっていなかったか、と否定しようとした口が開いたままになる。
「え?」
雪はその腕で顔を隠してしまう。
抑えた声が漏れる。
「おい、雪」
触れれば腕は抵抗もなく下ろされる。
涙に濡れた目はこちらを見ない。
「ごめんなさい」
いつもの声がいつもと同じようにいつもの言葉を放った。
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