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第四章 ダメな大人
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店長から電話を受け、雪は店ではなく店長の家に行くようだった。
住所を聞きメモを取る。
スマホの地図でそこを映し出してやれば、雪はこの家からのルートを入念に確認していた。
出産を無事に終えた奥さんはまだ病院にいるという。
付き添っていた店長は家に戻り、赤ちゃんと奥さんが帰る準備をしていた。
雪はその手伝いに呼ばれていた。
慌ただしかった数日分の片付けの手伝いをしにいくという。
家事が得意だと言ってもいい雪はきっと役に立つだろう。
休みの日だというのに自分が出かけてしまうことを雪は少し申し訳なく思うようだった。
行っておいで、ちゃんと水分買ってから行けよと送り出す。
雪がスタートさせた洗濯機の回る音を聞きながらテレビをつけた。
クーラーをつけていても夏の日は高く、外にいたらきっと眩暈がするほど暑いだろう。
用意してもらった飯を食い、音を立てて終わりを告げた洗濯機をしばらく放置していると何とも不思議な気分だった。
日曜日のだらしのないお父さんのような、想像上の生き物。
夕方には帰ってくるだろうと無意識に雪の行動を決めつけ、それまで何をしていようかと開放的なような寂しいような気がした。
最近ずっと雪が家にいたものだから、自分一人に不自然さを覚える。
なんだか時間を持て余しているような。
食い終わった食器を片付け洗濯物を干す。
乾燥機よりも外の方が早いだろう。急ぐ用事もないけれど。
掃除機もかけ、雪がしているように布団も干した。
以前は何をしていたっけと、見もしないテレビの前に戻ってテーブルに頬杖をつく。
くそ暑い最中に外に出る気はない。
雪は大丈夫だろうか。
覗き見たスケッチブックはまだまだあった。
筆はどうだろうか。使いにくいとかはないのか。
チューブ絵具ではなく色鉛筆型に変わったものはどうだろう。
やっぱり好きな色だけ既に減っているだろうか。
一まとめにされている道具を手に取る。
筆先が広がっていることもなく、まだ水彩色鉛筆は減っていない。
ブランドによって違いはあるだろうから、もっと違うものを今度選ばせた方がいいかもしれない。
細かいところを描きたいならもっと細い筆が必要だし。
夕飯はどうしようか。買ってこようか。
雪が何時に帰ってくるかわからないし、俺が作って待っていようか。
長年一人暮らしをしていても全く身につかなかった料理スキルを発揮しても、きっと雪は文句なく食うだろう。
茹でただけのパスタに出来合いのソースをかければ、その方が安全。
でも最近は自分の家の在庫も知らない。
全部任せてしまっている。
「ああ、」
納得するように声が漏れた。
いつでも雪は出ていける。
分かっているように家事もできるし外で仕事もできる。
いつのまにか雪に整えられ管理された家に慣れてしまったのは自分の方だ。
ただ居心地が良いとあいつを認め褒めるだけでなく、既にこれが当然だと思っている。
いつ帰ってくるのかと親を待ちわびる幼子のように帰宅を気にするのは、もう自分の方なのだ。
だらだらしていたらいつの間にか日は暮れていた。
外に干していた上掛けをはたいて取り込む。
それをベッドに放り投げると玄関の扉が閉まる音がした。
「おかえり」
急いで部屋に入ってきた雪は、夕方になっても残る熱気を遮るように窓を閉めた俺を見つけ頭を下げた。
「ごめんなさい。すぐご飯作ります」
そういえば夕飯どうするかと昼間に考えていた気がする、と寝る前のことを思い出す。
だらしなく昼寝したものだから何もしていない。
「どっか食いにいこーぜ。何がいい? ラーメン? ハンバーグ?」
「ごめんなさい」
「別に作れないときは作らなくていいよ。てか俺が買ってくるか作ろうと思ってたんだけど、寝てて何もしてない」
「野菜も肉もあるしすぐにやります」
「いいって」
「でも」
雪は頑なだった。
「なぁ雪」
外は暑いし、作ってくれるというのなら急がずに待っていてもいいだろう。
「うちにいてよ」
夕方に帰ってくるだろうという予想のままに、ちゃんと雪は帰ってきた。
言われた雪は瞬きをして、何のことかと考えているようだった。
夕飯のラーメンの話ではない。
「なんか前ほら、お前が出て行かなきゃいけないとかなんとか話したけど……」
俺はこの家にいたらいい、と言ったんだ。
いたらいい、と。
「うちにいて」
俺は許可を出すんじゃなくて、お願いする側だった。
住所を聞きメモを取る。
スマホの地図でそこを映し出してやれば、雪はこの家からのルートを入念に確認していた。
出産を無事に終えた奥さんはまだ病院にいるという。
付き添っていた店長は家に戻り、赤ちゃんと奥さんが帰る準備をしていた。
雪はその手伝いに呼ばれていた。
慌ただしかった数日分の片付けの手伝いをしにいくという。
家事が得意だと言ってもいい雪はきっと役に立つだろう。
休みの日だというのに自分が出かけてしまうことを雪は少し申し訳なく思うようだった。
行っておいで、ちゃんと水分買ってから行けよと送り出す。
雪がスタートさせた洗濯機の回る音を聞きながらテレビをつけた。
クーラーをつけていても夏の日は高く、外にいたらきっと眩暈がするほど暑いだろう。
用意してもらった飯を食い、音を立てて終わりを告げた洗濯機をしばらく放置していると何とも不思議な気分だった。
日曜日のだらしのないお父さんのような、想像上の生き物。
夕方には帰ってくるだろうと無意識に雪の行動を決めつけ、それまで何をしていようかと開放的なような寂しいような気がした。
最近ずっと雪が家にいたものだから、自分一人に不自然さを覚える。
なんだか時間を持て余しているような。
食い終わった食器を片付け洗濯物を干す。
乾燥機よりも外の方が早いだろう。急ぐ用事もないけれど。
掃除機もかけ、雪がしているように布団も干した。
以前は何をしていたっけと、見もしないテレビの前に戻ってテーブルに頬杖をつく。
くそ暑い最中に外に出る気はない。
雪は大丈夫だろうか。
覗き見たスケッチブックはまだまだあった。
筆はどうだろうか。使いにくいとかはないのか。
チューブ絵具ではなく色鉛筆型に変わったものはどうだろう。
やっぱり好きな色だけ既に減っているだろうか。
一まとめにされている道具を手に取る。
筆先が広がっていることもなく、まだ水彩色鉛筆は減っていない。
ブランドによって違いはあるだろうから、もっと違うものを今度選ばせた方がいいかもしれない。
細かいところを描きたいならもっと細い筆が必要だし。
夕飯はどうしようか。買ってこようか。
雪が何時に帰ってくるかわからないし、俺が作って待っていようか。
長年一人暮らしをしていても全く身につかなかった料理スキルを発揮しても、きっと雪は文句なく食うだろう。
茹でただけのパスタに出来合いのソースをかければ、その方が安全。
でも最近は自分の家の在庫も知らない。
全部任せてしまっている。
「ああ、」
納得するように声が漏れた。
いつでも雪は出ていける。
分かっているように家事もできるし外で仕事もできる。
いつのまにか雪に整えられ管理された家に慣れてしまったのは自分の方だ。
ただ居心地が良いとあいつを認め褒めるだけでなく、既にこれが当然だと思っている。
いつ帰ってくるのかと親を待ちわびる幼子のように帰宅を気にするのは、もう自分の方なのだ。
だらだらしていたらいつの間にか日は暮れていた。
外に干していた上掛けをはたいて取り込む。
それをベッドに放り投げると玄関の扉が閉まる音がした。
「おかえり」
急いで部屋に入ってきた雪は、夕方になっても残る熱気を遮るように窓を閉めた俺を見つけ頭を下げた。
「ごめんなさい。すぐご飯作ります」
そういえば夕飯どうするかと昼間に考えていた気がする、と寝る前のことを思い出す。
だらしなく昼寝したものだから何もしていない。
「どっか食いにいこーぜ。何がいい? ラーメン? ハンバーグ?」
「ごめんなさい」
「別に作れないときは作らなくていいよ。てか俺が買ってくるか作ろうと思ってたんだけど、寝てて何もしてない」
「野菜も肉もあるしすぐにやります」
「いいって」
「でも」
雪は頑なだった。
「なぁ雪」
外は暑いし、作ってくれるというのなら急がずに待っていてもいいだろう。
「うちにいてよ」
夕方に帰ってくるだろうという予想のままに、ちゃんと雪は帰ってきた。
言われた雪は瞬きをして、何のことかと考えているようだった。
夕飯のラーメンの話ではない。
「なんか前ほら、お前が出て行かなきゃいけないとかなんとか話したけど……」
俺はこの家にいたらいい、と言ったんだ。
いたらいい、と。
「うちにいて」
俺は許可を出すんじゃなくて、お願いする側だった。
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