ファーストフラッシュ

紺色橙

文字の大きさ
44 / 52
第四章 ダメな大人

4-7

しおりを挟む
 帰り道で雨は止んでしまった。
 殆ど仕事の無かった傘を閉じ階段を上る。
 階段には足跡が残る。

「急いで風呂入れよ。お湯入れるか」
 古く狭い湯船にゆっくり浸かるなんてことは基本的にはしていない。
 でも、夏終わりの暑い中の雨とはいえ、頭から足先まで見事に濡れているのはあまり良くないだろう。
 それなら、多少なりと体を温めてから快適な室内に戻るほうがいい気がする。
「このままだと床が濡れちゃうので、タオル貰ってもいいですか」
「ああ、ならこれ」
 外に行くときに着ていたTシャツを脱いで床に放る。
 濡れたわけではないが傘を差していても当たる雨で湿っぽくなった。
「何だったら今脱いでそのまま風呂な」
 玄関に立ったままの雪をおいて、少しのお湯を張ろうと風呂場に向かった。

 
 この団地の建物自体は築4.50年だと思うが、まさかこの風呂までそうだとは思わない。
 ただ明らかに狭い。
 自動で湯量の設定できない風呂にお湯を出す。
 手で直接触って温度の確認。
 あんまり熱いのもこの季節嫌だろうし、ぬるいくらいでもいいだろうか。

 視界の端に入る裸の雪を確認し、お湯から手を出し水をパッパと払った。
「雪、背伸びた?」
 裸足でしっかりと立ち、久しぶりに見た裸の雪は記憶の中よりも背が高い。そして以前よりも肉がついた。
 どちらもちゃんと食っている証拠だろう。
 水溜まりの出来そうな鎖骨はまだあるが、浮き出た肋骨はもう無い。
 骨にそのまま皮を張り付けたような体は、どうにか肉に守られ始めているらしい。
「お湯少なかったらもっと入れて」
 流れ落ちるお湯は止めていない。
 風呂のドアに立つ雪をすり抜け部屋に戻ろうとしたところで、ケースケさん、と呼ばれた。
 雨で張り付いた髪が邪魔そうでかき上げてやる。
「一緒に入りませんか」
「は?」
 思ってもいない誘いに変な声が出た。
 全裸の雪と半裸の俺。
 冷静に見てみるとなんだかよくないようで、とたんに気まずくなる。
「こんな狭いとこ2人で入らねーよ。早く雨流しといで」


 気まずさを覚えたことにドキドキした。
 あんな"お誘い"を受けると思っていなかったし、瞬間、勝手に想像をしてしまった自分に恥ずかしくもなった。

 湿った服を着替え洗濯機に放り込む。
 ゲリラ豪雨なんていつあるかわからないから、折り畳み傘を買ってやろう。
 バイト先に置き傘が出来たほうが良いだろうか。いや邪魔だろう。
 濡れるのを心配して電話に出れなかったみたいだから防水のケースでも探そうか。
 傘があればそんな心配も要らないか?
 そんなことを先ほどの自分を隠すように考える。

 なんとなく、もうわかっている。
 自分が気付かない振りをしていたことに気付いている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...