ファーストフラッシュ

紺色橙

文字の大きさ
49 / 52
第五章 君よ、ここに、この胸に

5-1

しおりを挟む
 年末に届いた葉書には、取り壊しの日取が決定されたと書かれていた。
 再来年予定のそれはまだ先ではあるが、本腰入れて引っ越し先を考え始めなければならない。

 寝返りできるようになったらしい依子さんの子供の相手をしながら、雪はバイトを続けた。
 依子さんがいない分クリスマスは雪が外に立ち、一年前のようにケーキを売る。
 一つ買ってきて、と予約を入れたケーキは最後の日にうちに持って帰られる予定。
「焼けたホットケーキみたいな匂いがするんです」
 赤ちゃんの頭はなんだか甘くていい匂いがするらしい。
 お店で馴染んだ焼き菓子の匂いが染みついたのかとも思ったがそうではなく、赤ちゃん独特のものなんだと雪は説明をした。
 俺は美味そうだなという感想しか持たなかったが、雪にとってお菓子が平和と幸せの象徴のようなものであるならいいと思う。

 新しく作った雪の図書館カード。
 スマホで予約をして本を借りてくるという。
 お菓子を作りたいのならオーブン機能があるほうがいい。
 うちにあるやつも機能はついていた気がするが、使っていないのなら使えない理由があるということ。
 新しく買うのもいいだろう。
 引っ越しすると色々と必要になる。
 給料は変わらないが幸い年二回ボーナスが出る。
 少し待つくらいはしてもらおう。

 まだ先の雪の誕生日。
 変なものを選ぶより本人に聞いた方が早いと雪に聞く。
 当たり前のように雪は要らないという。
 こいつはそうだよなと思いながら、家の中を見回した。
 無理に誕生日に合わせる必要はないのかもしれない。
 誕生日だから買うんじゃなくて、いつだって欲しいと思うものをお金をためて買えばいい。
 欲しい時に欲しいと言えるように。



 あの日から雪に触れないようにした。
 雪が二十歳を迎えるまで理性的でいようとその瞬間は確固たる意志で思ったのだが、一月もせずに破られた。
 布団の中俺の腕を抱き枕のように使う雪は、頬を肩にくっつけ告白をした。
「ケースケさんにしてもらう妄想して、一人でしてる」
 いつどこでと聞けば、俺がいない時にこっそりだという。
 気配すら感じられないものに気付くはずもない。
 全く気付かなかったと返せば、雪は良かったと小さく笑った。

 あの日のように口でさせることはしていない。
 触りたいというから触らせてはいるけれど、最後まではしていない。
 最後までして欲しいと毎度言う雪に、指だけの挿入を繰り返す。
 寝転んだ俺の上にうつ伏せになる雪は、顔を俺の鎖骨や首にこすりつけ喘ぎを漏らす。
 結構な頻度で行う行為によって、雪が気持ちよくなるところを直ぐに刺激してやることができるようになった。
 雪をいかせた後に自己処理を行うのも、我慢してもしきれずに湿った下着を履き替えるのも何とも情けないが、最後までやるのは二十歳になってからというのはもう意地だった。
「早く誕生日がきたらいいのに」
 呟く雪に、口には出さずに同意する。
 口しないのはちょっとしたプライドでしかない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

今日くらい泣けばいい。

亜衣藍
BL
ファッション部からBL編集部に転属された尾上は、因縁の男の担当編集になってしまう!お仕事がテーマのBLです☆('ω')☆

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...