ファーストフラッシュ

紺色橙

文字の大きさ
52 / 52
おまけ

ささやかなもの

しおりを挟む
 冷えた布団を捲り上げ、シーツに足を滑らせる。力なく置かれたケースケさんの腕を持ち上げ、そっと胸に寄り添った。
 背中側は冷たくて、寄せた額は温かい。オレより高い体温を貰って、布団の中で息を吐く。背が伸びケースケさんと同じほどになったけれど、こうして守るように抱きしめてもらうのは心地いい。
 すっかり眠っているケースケさんは勝手に腕を動かしても起きはしない。だから勝手に身を寄せる。

 でも――。

 潜り込んだ布団の中。熱くなって息苦しくなって、「ぷはっ」と布団から顔を出す。冷えた空気が少し入って、ケースケさんの首元を通った。それに反応してなのか、意識のなかった腕が動く。薄い寝息が止まり、確認するようにオレの体が撫でられる。
 起こしてしまわないように、体の前に縮めた手の指先すら動かさない。
 優しい手はオレの背中を伝い頭を撫で、そのまま頭を抱えるように止まった。

 ケースケさんは眠りが浅い人ではない。少し明るいうるさいくらいでは起きないし、オレがこうして後からこっそりその腕の中に無理やり収まろうとも今まで起きたことはない。
 だけどもいつもこうして、眠ったままオレのことを撫でてくれる。
 オレの存在を確認して、無理やり作った居場所を許してくれる。

「大好き」

 いつも言っている言葉。夢の中でも、伝わればいい。



---



 体の下で雪の腕が潰されている。

 こいつの寝相はそう悪くはない。最初からずいぶんと縮こまって寝ていたし、未だに大の字になっていることはない。だから、これはこいつの癖なのだろうと思う。
 一緒に寝るようになっていつからか、――俺は簡単に寝れる人間なので気付いたころにはという話だが、ふと夜中にトイレで目が覚めた時なんかにこうして雪の腕が俺の体の下にある。俺に抱き着くようにしているときもあれば、体は開かれ、ただその腕だけが俺に潰されていることもある。

 最初は今まで一人で生きてきた俺の寝相が悪く、こいつを潰してしまっているのかと思った。なんせ今までは長いこと一人、ベッドで大きく寝ていたわけだ。突然来たものに対応できなくても当然だろう。
 だけどもあまりにも回数が多いし、雪が苦しんでいる様子もない。大の男の体は重いだろうが、腕一本抜け出せないほど太ってもいない。

 だから結論として、おそらくこいつはわざと俺の体の下に腕を突っ込んでいる。理由はわからない。わからないが、俺は別にそれでも寝れているし、こいつもそれがいいのならそれでいいと思う。
 多少、血が止まったりしないんだろうかと思い気付けばどかしてはいるけれど、まさか寝ている間ずっと潰れているわけでもないだろう。


 腕をどかし、体が楽になるように仰向けに転がす。抵抗なく動いた雪は深く息を吸い、吐いた。
 俺も同じように布団に入りなおし、先ほど潰れていた雪の手に触れる。手を握って寝るわけじゃない。ただ少しだけ手の甲で確認して、そのまま眠る。
 自分のではない体温が布団のぬくもりを保ち、目を閉じれば夜に静かに溶け込んでいった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

モルト
2021.03.16 モルト

何だがとても綺麗な世界だと思いました。雪の境遇や主人公との生活が特別良い訳では無いですが、当たり前の幸せや生活が何なのか2人の生活から分かる気がしました。これから2人がどうなるのか楽しみです!

2021.03.17 紺色橙

ありがとうございます。起伏の特にないぱっとしない話ですが、それが全てなのでそんなところを気に入っていただけると嬉しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。