それは愛か本能か

紺色橙

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第一章 宮田颯の話

1-18 日曜日に*

 とろりと身体の中から彼の体液が落ちるのがわかる。
 その感覚が何とも言えず再び自分に熱を持たせた。
「お前、慣れてる」
 抵抗するように嫌がるように口にしてはみたものの、身体は素直に上条を受け入れた。
「あっ、まだ、すんの」
「まだ足りない」
 今日だけで上条を受け入れるのは3回目になる。
 中に出されたものは出ることなく、再び上条のモノに押し戻されかき混ぜられた。
 求められるだけでなく自分からも相手を求めているのがわかる。
 発情期でもないのに盛って、体液の交換をする。

 文化祭二日目の日曜日は仕事が無く、片付けのために終わってから行けば良かった。
 明日どうするかという話になった時それを言えば、学校に行く前にうちに来ないかと誘われた。

「あっ――」
「颯君の中きつい。凄い締め付けてくる」
 目の前にいたら殴ってやるが、俺の後ろから抱き付くように挿入してくる男には殴る真似で後ろに手を振るくらいしかできない。
 足に力は入らず、上条の匂いがするシーツに顔を埋める。
「いく、もう、」
 奥を抉られるように動かれれば、声にならない声が漏れる。
 反った背中に頬ずりするようにキスされた。
「いいよ」
 こんな状態で片付けに行けるのだろうかと少しだけ頭の端で考えたが、上条の匂いに溺れるようにただ快楽に沈んだ。



 昼飯も食べずひたすら体を繋げ、ひたすら僕の番だと刻み込まれた。
 もう噛まれたのだから番にはなっているのに、上条は全く同じところを上書きするように噛んできた。
「俺発情期じゃないのに」
 綺麗にしてもらった体を動かす気にもなれず、上条の腕を捕まえたままぼやく。
「じゃないのに?」
「何でこんなに盛ってんだろ」
 俺を見下ろした上条は笑って、倒れこむようにして抱き付いてきた。
 その腕に抱かれ肌に触れると、終わったはずの行為をまた始めてしまうように体が疼いた。
「そうだ、次の発情期はいつですか?」
「んーと、12月くらい」
「またざっくりな」
「周期アプリが一週間前になると教えてくれる」
 上条はそっか、と呟いた。
「俺薬まだ飲むの? 番って飲まないの?」
「うーん……」
 発情期が無くなるとは聞いたことが無い。だから番になっても続くんだろうとは思う。
 だけど番になったのなら、無差別的にアルファに反応することは無くなる。
「行為を求める本能自体はなくなりません。番になったのなら君は、僕だけを求めてくれる」
「そーなんだ」
 番相手だけを求めるようになるのか。
「じゃあ俺は、お前を呼べばいいの?」
「呼んでください」
「こなかったら?」
「発情期の始まりに行為をすれば治まると思います。それに絶対、呼ばれたら行きます」
 上条の言葉に安心する。
 絶対なんてないことだってわかっているけれど、絶対と言い切ってくれることに安心する。

「僕と、もう一緒に住むことは出来ませんか?」
「ん?」
「発情期だとかじゃなくて、もう番なんですから」
 ぽっと突然頭の真ん中に番という文字が浮かんだ。
 なんとなく一時的な関係だと思ってしまっていたが、ずっとなのか。
 夫婦のように、一緒に暮らしていくものなのか。
 出逢ってセックスして噛まれて、それで終わりじゃないのか。
「そんなこと、できんの?」
 毎日会っていたら上条の身体は持たないんじゃないだろうか。
 ひたすら求める俺の相手をしていたら何もできなくなってしまう。
「勿論。どこかいいところ探しますね。待てなければこの部屋に来てもらっても――」
「任せる、けど」
 オメガは番になれば、番相手のアルファだけを求めるようになる。
 ただのセックスだけならもしかしたら誰とでもできるのかもしれないけど、心は特定の相手だけを求める。
 アルファはどうなのかな。
 アルファのフェロモンは無くならないと上条は言った。
 その性欲は俺だけに向くのかな。
「結婚、しなくていいの?」
「しますよ」
 ただの番は別として、やっぱり結婚は出来るだろう。
 こいつを誰にもあげたくないけど、欲しがる人は多いだろう。
 ぎゅっと首元に抱き付いた。
 俺がこいつの首に噛みついたところで、何にもならないのに噛みたくなった。
「噛みたいの? いいよ」
 すりすりと鼻先を擦りつけやりたがっていることが分かったのか、笑い交じりに許可された。
 犬歯を突き立てるように、口を開けて噛みついた。
 イーっと力を入れる。
「結構痛い」
 言いながらポンポンと頭を撫でられる。
「血が出てたもんね。颯君はこれに耐えてくれたんだ」
 結構強く噛んだけれど、血が出るほど噛む気はなかった。
 口を離せば歯形が残っている。
「何歳で結婚するの」
「出来る年になったらすぐに」
「18?」
「そうですね。18歳の誕生日にでも」
「そっか」
 上条のお兄さんは若かった。あの人も誕生日を迎えてすぐに結婚したのだろう。
 若くに結婚して、早くに子供を作り育てる。そうして優秀なアルファが世界に溢れる。
「僕は5月だけど、颯君は8月生まれですよね。だから颯君の誕生日、8月4日には籍を入れましょう」
 楽しみだなぁと上条は笑った。
「番だけじゃなくて、俺と結婚すんの?」
「他に誰と」
「だって番じゃなくても結婚できるじゃん。俺は俺として相手してほしいけどそれとは別にさ」
 歯型をぺろぺろと舐める。くすぐったそうに頭が動く。
「前言ったとおりですよ。子供だとか家だとかは良いんです。そのために僕は1年も父を説得したんだ」
 こいつがどのくらいストーカーをしてどのくらい俺を見ていたのか聞いた方がいいかもしれない。
「親と仲違いする気は無いですよ。颯君を守ることにも繋がるし。でも君の他に誰かと関係を持つ気は、一切ない」
 舐めるのをやめさせるように抱きしめられた。
 胸が抑えられうーっと声が出る。
「颯君がそうして、心配事とか話してくれるのが嬉しい。一方的に想像して答えを用意しているだけじゃなくて、今こうして話せているのがすごく嬉しい」
 こいつは本当にストーカーの間何をしていたんだろうか。
「俺は運命とか信じてなかったし、やるのもお前が初めてだし、結婚に夢見たこともないけど……」
 苦しさから離れると、身体をずらしキスをされる。
 言葉を紡ぐ合間に、ちゅっと触れ合う。
「薬飲まなくなるなら楽でいい」
 何とも素直じゃない言葉。
 上条が欲しい、お前だけがいいってこんなに想っているのに。
「薬なんかもう、一生要らないですよ」 
 絡んだ舌にまた甘える声が出た。



 身体を押さえつつ学校に行けば、いつもは距離を取る上条は俺から離れず、俺の代わりのように働いた。
 準備はそれなりに時間がかかったのに片付けは数時間で済んでしまう。
 燃えるゴミと資源を分別回収し、いつも通りに戻ってしまった教室へ向かう。
 出店のおっさんのようだった日暮は部活Tシャツのままだが、まだあとで部活に戻るのかもしれない。

 放送が流れ、片付けのある人は残りであとは解散となった。
 見回りの先生が声をかけながら練り歩く。
「颯君、帰れる?」
 一度座ったら立つのがしんどい。
 腰を押さえ立ち上がり、鞄を持ってくれようとするのは拒否した。
 あまり近くにいたら匂いで昼間のことが呼び起こされてしまうのに、上条もきっとそれをわかっているのに俺の身体を心配して離れなかった。

 車で送られ、片付けで埃っぽい体を洗うために本日二度目の風呂に入る。
 桃からの連絡はまだ来ていなかった。
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