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第一章 宮田颯の話
1-20 首輪をつけたお出掛け
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上条と約束していた土曜日を、桃を探すのに使うことにした。
あいつに会ってしまえば俺はただあいつにくっついて丸一日潰してしまう。
もうどこにも行きたくない、上条だけ居ればいいと思考は溶けてなくなってしまうだろう。
だから、土曜日も日曜日も桃を探した。
詳しい住所は知らなかったが桃が住んでいる町は知っていて、よく名前が出てくる店も分かっていた。
地図を開きその周辺を探し、とにかく歩いてみる。
いつも行っていただろうコンビニや24時間やっている弁当屋。
駅からそこら辺に向かって歩いてみたり、その近くでオメガが一人で住めそうな建物を探した。
運良く会えればよかったけれどそんなことはなく、2週目、俺は道行く人に写真を見せた。
桃が残していたふざけた動画から切り取った画像を直接見せて、この子を知らないかと尋ねて回った。
オメガが一人で住めるような場所を聞き、そこの住人にも同じことを繰り返す。
良い返事は来なかった。
3週目、俺は上条から貰った首輪をつけた。
オメガだとアピールできた方が、相手にも怖がられずに教えてもらえるんじゃないかと思ったからだ。
鍵を無くしては困るから箱の中にしまい、しっかりとロックをされた首輪をつける。
ゆとりはあるけれど慣れないそれに、少し息が詰まるような気がした。
上条に繋がれているようで、そんな目的ではないと分かっているのに下半身が反応する。
大きく深呼吸をして、また桃の町を探した。
成果は上がらず、次の探し場所を考えなければならなかった。
相変わらず連絡はなく、最悪のことだけが頭に浮かぶ。
俺と話す気がなくなったから端末ごと捨てたというのならいいけれど、きっとそうじゃない。
以前した約束が思い出される。
「いなくなるなら言って」
要するにそれは、この世からいなくなるのならということだ。
もし死にたいと思って行動するのなら、その前には言ってほしいと、そういう約束をした。
上条から来る連絡を、ごめんと言って避けた。
俺には上条っていう運命の番がいて、俺だけが幸せでいる。
運命を求めていたのは俺じゃなくて桃だったのに、俺だけが幸せでいる。
「桃だったらよかったのに」
運命の相手を見つけられたのが、俺じゃなくて桃だったらよかったのに。
上条の相手が、桃だったらよかったのに。
周期アプリが教えてくる。発情期の一週間前。
次の土日はアルファが多く出歩く街に行ってみようかと思っていたから、焦った。
どうしよう。
でも行かないと。
もしかしたら桃がいるかもしれない。
それに俺は番になっている。他のアルファには反応しないから、問題ない。
桃がどこかで捕まっているかもしれない。早く行かないと。
桃がどこかで苦しんでいるかもしれない。早く行かないと。
桃がどこかで寂しがっているかもしれない。早く行かないと。
***
アルファが多いところに行くのに、首輪をつけていこうか迷った。
アルファの街でオメガだとアピールするのは良くないだろうか。
でもつけていた方がオメガには信用してもらいやすい。それに俺も噛まれない。
でも俺はそもそも番だし襲われることは無い。それなら要らない。
でも桃を探す効率を考えるのなら――。
でも、でも、でも、と並ぶ思考の中から、俺は"桃と同じオメガである"ということを選んだ。
「颯、そんなのつけてどこいくの」
家を出ると車があった。
横付けされた車の前で俺を見据える上条が、怖い顔をしている。
「桃を探しに行く」
怖かったけれど、嬉しかった。
自然に抱き付いて、その胸の中で滞りなく行き先を告げた。
「上条だ」
良い匂いがする。前より匂いが強い気がする。俺が最近嗅いでいなかったから、記憶違いかな。
「ダメだ、颯」
「ダメって?」
「どこに行こうとしてた?」
「桃がいるところだよ。桃は寂しがり屋だから、どこかで泣いてると思う」
「桃って言うのは颯の、ネットの友達だよね」
「そう。ほんとに桃は寂しがり屋なんだよ」
上条の良い匂い。目を閉じればそのまま包まれて溶けてしまいそう。
俺の大好きな運命の番。
「颯、ダメだ。行かせない」
「なんで?」
「どこにいるかわかってるのか? どこに行こうとしてた?」
「分かんないから探しに行くんだよ。アルファの街に連れていかれてるかもしれない。桃は可愛いから」
「颯がアルファの街に行くの? 僕の番なのに保護具をつけて、もうすぐ発情期なのに? 僕のことを求めてくるはずなのに?」
「そうだよ。上条は僕の番だから、発情期になったらすぐに呼ぶよ」
「ダメだ」
「もう番になってるんだから」
「ダメだ」
上条はもう何を言ってもダメしか言わなかった。
目を開けて首元を見やれば、俺の噛んだ歯型はとっくに消えてなくなっていた。
上条の車に乗せられ、そのまま座席に押し倒された。
「出して」
怖い声に車が走り出す。
怖い顔が苦しそうに俺を見る。
「僕の番だ」
ぐっと首輪のロックが引っ張られ顎が上がる。
「颯は僕のだよ」
そんなのわかってる。
今すぐにでも俺は上条に直に触れたくなってしまう。そのぐらい俺はこいつを求めている。
「颯。僕の颯」
何度も何度も名前を呼ばれた。
体は押さえつけられ、腕がぶらりと垂れ下がる。
呼吸できないほどキスが繰り返され、何をしようとしていたのかわからなくなった。
「かみじょお、すき」
良い匂いが立ち込める。
ああ、これに埋もれて死んでしまいたい。
あいつに会ってしまえば俺はただあいつにくっついて丸一日潰してしまう。
もうどこにも行きたくない、上条だけ居ればいいと思考は溶けてなくなってしまうだろう。
だから、土曜日も日曜日も桃を探した。
詳しい住所は知らなかったが桃が住んでいる町は知っていて、よく名前が出てくる店も分かっていた。
地図を開きその周辺を探し、とにかく歩いてみる。
いつも行っていただろうコンビニや24時間やっている弁当屋。
駅からそこら辺に向かって歩いてみたり、その近くでオメガが一人で住めそうな建物を探した。
運良く会えればよかったけれどそんなことはなく、2週目、俺は道行く人に写真を見せた。
桃が残していたふざけた動画から切り取った画像を直接見せて、この子を知らないかと尋ねて回った。
オメガが一人で住めるような場所を聞き、そこの住人にも同じことを繰り返す。
良い返事は来なかった。
3週目、俺は上条から貰った首輪をつけた。
オメガだとアピールできた方が、相手にも怖がられずに教えてもらえるんじゃないかと思ったからだ。
鍵を無くしては困るから箱の中にしまい、しっかりとロックをされた首輪をつける。
ゆとりはあるけれど慣れないそれに、少し息が詰まるような気がした。
上条に繋がれているようで、そんな目的ではないと分かっているのに下半身が反応する。
大きく深呼吸をして、また桃の町を探した。
成果は上がらず、次の探し場所を考えなければならなかった。
相変わらず連絡はなく、最悪のことだけが頭に浮かぶ。
俺と話す気がなくなったから端末ごと捨てたというのならいいけれど、きっとそうじゃない。
以前した約束が思い出される。
「いなくなるなら言って」
要するにそれは、この世からいなくなるのならということだ。
もし死にたいと思って行動するのなら、その前には言ってほしいと、そういう約束をした。
上条から来る連絡を、ごめんと言って避けた。
俺には上条っていう運命の番がいて、俺だけが幸せでいる。
運命を求めていたのは俺じゃなくて桃だったのに、俺だけが幸せでいる。
「桃だったらよかったのに」
運命の相手を見つけられたのが、俺じゃなくて桃だったらよかったのに。
上条の相手が、桃だったらよかったのに。
周期アプリが教えてくる。発情期の一週間前。
次の土日はアルファが多く出歩く街に行ってみようかと思っていたから、焦った。
どうしよう。
でも行かないと。
もしかしたら桃がいるかもしれない。
それに俺は番になっている。他のアルファには反応しないから、問題ない。
桃がどこかで捕まっているかもしれない。早く行かないと。
桃がどこかで苦しんでいるかもしれない。早く行かないと。
桃がどこかで寂しがっているかもしれない。早く行かないと。
***
アルファが多いところに行くのに、首輪をつけていこうか迷った。
アルファの街でオメガだとアピールするのは良くないだろうか。
でもつけていた方がオメガには信用してもらいやすい。それに俺も噛まれない。
でも俺はそもそも番だし襲われることは無い。それなら要らない。
でも桃を探す効率を考えるのなら――。
でも、でも、でも、と並ぶ思考の中から、俺は"桃と同じオメガである"ということを選んだ。
「颯、そんなのつけてどこいくの」
家を出ると車があった。
横付けされた車の前で俺を見据える上条が、怖い顔をしている。
「桃を探しに行く」
怖かったけれど、嬉しかった。
自然に抱き付いて、その胸の中で滞りなく行き先を告げた。
「上条だ」
良い匂いがする。前より匂いが強い気がする。俺が最近嗅いでいなかったから、記憶違いかな。
「ダメだ、颯」
「ダメって?」
「どこに行こうとしてた?」
「桃がいるところだよ。桃は寂しがり屋だから、どこかで泣いてると思う」
「桃って言うのは颯の、ネットの友達だよね」
「そう。ほんとに桃は寂しがり屋なんだよ」
上条の良い匂い。目を閉じればそのまま包まれて溶けてしまいそう。
俺の大好きな運命の番。
「颯、ダメだ。行かせない」
「なんで?」
「どこにいるかわかってるのか? どこに行こうとしてた?」
「分かんないから探しに行くんだよ。アルファの街に連れていかれてるかもしれない。桃は可愛いから」
「颯がアルファの街に行くの? 僕の番なのに保護具をつけて、もうすぐ発情期なのに? 僕のことを求めてくるはずなのに?」
「そうだよ。上条は僕の番だから、発情期になったらすぐに呼ぶよ」
「ダメだ」
「もう番になってるんだから」
「ダメだ」
上条はもう何を言ってもダメしか言わなかった。
目を開けて首元を見やれば、俺の噛んだ歯型はとっくに消えてなくなっていた。
上条の車に乗せられ、そのまま座席に押し倒された。
「出して」
怖い声に車が走り出す。
怖い顔が苦しそうに俺を見る。
「僕の番だ」
ぐっと首輪のロックが引っ張られ顎が上がる。
「颯は僕のだよ」
そんなのわかってる。
今すぐにでも俺は上条に直に触れたくなってしまう。そのぐらい俺はこいつを求めている。
「颯。僕の颯」
何度も何度も名前を呼ばれた。
体は押さえつけられ、腕がぶらりと垂れ下がる。
呼吸できないほどキスが繰り返され、何をしようとしていたのかわからなくなった。
「かみじょお、すき」
良い匂いが立ち込める。
ああ、これに埋もれて死んでしまいたい。
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