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ふたりの秘密
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しおりを挟む麗華とは俺が中3に上がり、引っ越した先の公園で出会った。
俺の両親は俺が小さい頃に離婚した。
理由は何だったか、正直興味がなかったから覚えていない。
それから母は一人で俺を育ててくれて、中学に上がる頃に今の義父である男を初めて紹介してみせた。
それからはたまに母はそいつと出かけたり、家に呼んだり。
一応思春期の俺に2人は配慮していたみたいだけど、俺がいるからとか、俺が成人を迎えるまで籍は入れないとか、そんな理由がうざくてある日「早く結婚したら」と言った。
それからしばらく経って2人は籍を入れ、俺は中3の時に苗字が変わり義父が所有するマンションに引っ越した。
学区は変わらなかったから転校することはなかったが、苗字が変わったことには少し抵抗があった。
義父はそこそこ金持ちで、今まで母と2人きりだった時よりも格段に良い生活をさせてもらったと思う。
別にそこに不満などなくて、彼も俺に下手に関わってくるわけでもなく差し障りのない会話をする程度だった。
それでもやはり一応思春期。
結婚するまではたまにしか見なかった2人の姿を気にしてないつもりでも、毎日見るのは何となく違和感があった。
明確な理由が分からないまま、家に帰りたくないとぼんやり思って近くの公園で時間を潰していた。
麗華と出会ったのは、そんな初夏の夕暮れ時だった。
「あなた、いつもつまんなそうな顔してここにいるわね」
屋根の下にあるベンチで生温いコーラを飲む俺に、買い物袋を両手に下げて麗華が話しかけてきた。
見た目は20代半ばってところだろうか。
最初、一方的に話しかけてくるし断りもなく勝手に隣に座るし、何だこの女って思った。
「私もね、旦那が出張とか仕事が忙しくて帰る時間も遅くて、広い家に一人でいるのが嫌なんだー」
だから君と一緒。
そう麗華は笑って、何という事もない覚えてもいないどうでもいい話をして帰っていった。
またね、と手を振って。
俺は別に期待してた訳でもなく、ただやりたい事も帰りたい理由もなかったからほぼ毎日同じ時間にはその公園のベンチに座っていた。
たった30分。
自販機で買ったコーラが生温く味気なくなるまでの時間。
彼女は毎日来た訳じゃなかった。
金曜日の夕方、17時。
決まって彼女はこの曜日に買い物に行って、買い物袋をぶら下げてやって来る。
「見て、類!今日はマグロが安かったの!」
金曜日はいろいろと安い日らしい。
毎回俺に戦利品を見せてくるのが日課になっていた。
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