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プロローグ4 魔法学者エドモントの出会いと変な勇者パーティー結成

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 勇者見習いノエルによって無理やりパーティーを組まされた俺とモフちゃんはノエルに引っ張られながら、ノエルが受けたクエスト「死霊の塔の主を倒す」をやる羽目になった。
そして、俺は現地に着いて驚いた。
 死霊の塔を中心に村ができており、商魂たくましい村人たちが冒険者相手に商売をしていた。
 屋台で料理を提供している村人や武器の手入れをしている村人もいるが、中には見るからに胡散臭いアクセサリーなどを売っている村人もいる。
 俺もモフちゃんもこの村はやばいと感じていたが、ノエルはそんなことお構いなしに村長の家に向かった。
 すぐに村長とは出会えたが、あからさまに歓迎していないうえに、時折、舌打ちしていた。
 そんな村長の様子など無視してノエルはすぐさま俺たちを引連れて、死霊の塔に向かった。
 もっとも死霊の塔に入ることはできなかった。
 死霊の塔は丘の上に建っているのだが、その丘を登ろうと様々な罠が張り巡らされていて、塔を登ることはおろか近づくこともできなかった。
 無謀な冒険者が何人か挑戦したが、全員が罠によって跡形もなく吹っ飛んだ。
 その様子を見ている旗を持ったツアーガイドらしき老人と観光客。
 俺はノエルに今日の所は宿屋に泊って英気を養った方がいいと提案し、ノエルもその提案を受け入れてくれた為、俺達は宿屋に向かった。

 その日の深夜。
 俺は一人で死霊の塔に向かった。
 ちなみにモフちゃんはいない。
 モフちゃんは今ノエルが起きないようにノエルの抱き枕になってもらっている。
 俺のスキルであるCAGにはステルスモードと呼ばれる能力があるため、こんな深夜でも村人たちに気づかれることなく行動できるが、それも完璧じゃない。
 あくまで相手の認識を鈍らせるだけの能力だから、用心しないといけない。
 そこで俺は死霊の塔が建っている丘の周りには罠を設置している村人たちがいた。
 昼間の様子を見て、俺は怪しいと思っていたがやはりカラクリがあった。
 もしも死霊の塔の主がいるのなら、塔の中に罠を仕掛ければ済むはずなのに、なぜか丘の周りに罠があるのは、おかしいと思っていた。
 結果は予想通り。
 俺は村人に気づかれないように、細心の注意を払って丘を登り、死霊の塔に着いた。
 近くで見る死霊の塔は夜なのに不気味さはほとんどなかった。
 それどころか存在さえ忘れ去られているかのような雰囲気さえあった。
 俺はドアを開けて内部に侵入したが、塔の中は何もなかった。
 あるのは、吹き抜けの階段だけ、罠も塔を守る番人もいなかった。
 俺はすぐさま理解した「死霊の塔の主」はここの村人たちが作った嘘。
 だから、丘の周りに罠を作って誰も近づけさせなかった。
 そう俺は理解したが、とりあえず塔の頂上に登ることにした。

 二時間ほど階段を昇ったところで行き止まりになっていた。
 俺はポイントで購入しておいたライトを使って辺りを照らした結果、天井に折りたたみ式の梯子を発見した。
 俺は梯子を使って、上に登るとそこには死霊の塔の主であるガイコツがいた。

 塔の最上階は書斎なのかと思わせるほど壁に本が敷き詰められて、部屋の中央の机にそのガイコツは座っていた。
 ガイコツは机に向って、なにかを書いていた。
 俺は声を掛けたが、ガイコツはまるで俺の事を認識していない。
ステルスモードのままだったのを思い出して、俺は解除したが、その瞬間にガイコツは立ち上がって、こちらを振り向いた瞬間に俺を見て驚いた。
 その驚きは塔の外にまで聞こえる叫び声と、あごの骨がはずれるんじゃないかと思うほどのボディランゲージだった。
 さいわいなことにガイコツはすぐに冷静さを取り戻し、俺に話しかけてきた為、戦闘にはならなかった。
 情報交換によっていくつかわかったことがあった。
 ガイコツの名は魔法学者のエドモント。
 本人曰く、元人間でこの塔で古今東西の研究をしていたが、うっかりミスを犯して、アンデッドのリッチになったそうだ。
 それでしかたなく、そのままこの塔で研究を続けているらしい。
 なお、この塔はエドモントが魔法研究のために建てた「死霊の塔」ではなく、「資料の塔」だそうだ。
 お互いに情報交換をしたいる時に話が微妙にかみあわないと思っていたが、理由はそれだった。
 俺はエドモントにこの塔は「死霊の塔」と呼べばれている事と、村人が塔の周りに罠を張り巡らされていることや勇者たちに命を狙われていることを教えた。
 エドモントはまたも驚いて、俺に問いだたしてきたが、塔の外を見て納得した。
 エドモントが知る限りでは、この塔以外建造物はなかったのに、いまや塔を囲むように村ができている。長い時が流れた事を理解したと小さな声でつぶやいた。
 俺はこれからどうするんだと尋ねたら、「資料の塔」と共にこの地から出ていくと言った。
 俺は塔の周りには罠が張り巡らされていると言ったが、エドモントは長い魔法研究の成果の一つに飛行魔法を生み出したから、それでここから脱出すると言っていった。
 俺は「資料の塔」ごと、ロケットにみたいに飛ぶのかと聞いたら、さすがにそこまでは無理なので「資料の塔」は収縮魔法で小さくして持ち運ぶと言った。
 俺達は早速外に出た。
 外に出たエドモントは「資料の塔」を小さくし、自分と俺に飛行魔法をかけて、空に飛んだ。
 ただし高さは三メートル。
 飛んでいるというよりも空中に浮かんでいると言った方が正しいような気もしたが、 エドモント曰く、もっと高く飛ぶには技術がいるそうだ。
 こうして俺達はとりあえず、罠が張り巡らされた危険地帯を突破したのだった。

 朝日が昇る頃。村中は大騒ぎになっていた。
 飯の種である塔が突然消えたのだから、大騒ぎになるのは当然だ。
 俺はそんな村人たちを無視して、宿屋の台所で朝ごはんを作っていた。
 本当なら朝ごはんが出る料金プランで支払ったのだが、この塔消失によって、それどころじゃないと宿屋の主人とおかみさんは、大慌てで村長の所に向かったからだ。
 そして全員分の朝ごはんができた頃、モフちゃんが寝ぼけているノエルを誘導して連れてきてくれて、俺達は食事をはじめた。

 寝ぼけていたノエルも朝ごはんの匂いで意識が覚醒し、俺達は食事を取り始めた。
 驚いたことにアンデッドのエドモントも食事ができるそうだが、もっと驚いたのはモフちゃんに食事をあーんしてもらっているノエルだった。
 まるで雛鳥が親鳥からエサをもらうように、モフちゃんがノエルの口に食事を運んでいた。
 なんとうらやましい光景だと思ったが、普通はモフちゃんの方が雛鳥ではないのだろうか。
 そしてノエル。見習いとはいえまがりなりにも勇者としてのプライドがないのか?
 やがて食事を終えた俺達は今後の事を話すことにした。
 さいわい宿屋には俺を含めて、モフちゃん、ノエル、変装したエドモントの四人しかいないため、秘密の話をするのにはちょうどいい。
 ひとまずモフちゃんとノエルにエドモントの事を紹介した。
 ノエルが斬りかかってくることも予想していたのだが、「そうなんだ」の一言で終わった。
 むしろモフちゃんを見たエドモントの方が興奮していた。
 なんでもモフちゃんはレッサーベアという滅多に見られない種類の幻獣で、その生態は謎に包まれているとエドモントが興奮しながら教えてくれた。
 興奮しているエドモントに落ち着くように説き伏せながら、俺はノエルにどうするか聞いてみた。
 ノエルが受けたクエスト「死霊の塔の主を倒す」は失敗に終わっている以上、この村にいる理由はないからだ。
 ノエルは無言で依頼書を俺とエドモントに見せた。
 俺は驚いた依頼した相手がこの村の村長だったからだ。
 自作自演していた奴が自分で自分の首を絞めるようなことをするとは考えられないが、エドモントが条件部分ところを指さして納得した。
 条件部分に勇者見習い限定を書かれていた。
 俺は納得したこの村の村長はおそらく、箔をつけるために依頼したんだろう。
 誰も来るはずないと思っていたところにノエルが来てしまって不機嫌になった。
 ノエルは違約金を支払わなければならないと言うが、塔がなくなった以上ここにいてもしかたがないと俺は説き伏せて、冒険者ギルドがある町まで行くことにした。
 
 結果だけ見れば、違約金は支払わなくてよかった。
 理由は依頼を達成する前にクエストである塔がなくなっていたから無効ということになった。
 むしろ違約金を支払わなくてはならないのはあの村の村長だった。
 あの村長はエドモントの塔を利用して裏で色々と事業を手広くやっていたらしくて、塔がなくなったために多額の違約金を支払わなければならなくなったそうだ。
 拝金主義(ゼニゲバ)にはいい薬になったかもしれない。
 だが一つ問題が起こった。
 いつの間にか俺、モフちゃん、エドモントがノエルのパーティーメンバーとして正式に登録されていた。
 ノエルに何を考えているんだとツッコミをいれたが、聞く耳をもたなかった。
 現在の勇者見習いノエルのパーティーは、
 勇者見習いノエル
 従者扱いの俺
 愛玩動物?モフちゃん
 魔法学者エドモント
 の四人となっている。
 普通のパーティーなら、仲間を守る前衛や後方から支援する後衛などがいるのに、このパーティーにはそれがない。
 俺の心配をよそにノエルは冒険者カードを俺たちに渡した。
 とりあえず、俺の当初の目的である身分証は手に入ったが、妙に納得できなかった。
 こうして一ヶ月の時間が進む。
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