エンマの這い上がり

序章

勇者召喚。
それは自分達の能力では解決できない物事を異世界の人間に解決させる手段である。
召喚する側は自分に都合のいいことしか考えていない。
その召喚によって、この世界のシステムを大きく狂わせる存在が召喚されることになることに気づいていなかった。
これは二つの世界を狂わせた物語。

　ある神殿で勇者召喚の儀式が行われようとしていた。
「大司教様！本当にやるんですか？」
「いまさら何を言っているんだ！もう準備を終えて後は召喚するだけであろう！」
「しかし、いくつかの問題点が残ったままです！このまま召喚すれば予想もつかない化け物を呼ぶかもしれないのですよ！」
「それなら心配はいらない！すぐに送り返せばいいだけだろう！」
「しかし！」
「うるさい！うるさい！うるさい！この者を追放しろ！」
　そう言って大司教に意見した男は神殿から追放された。
「では、勇者召喚の儀式を始める！」
　そう言って大司教は勇者を召喚する為の儀式を始めた。
　自分達がこれからとんでもない化け物を招き寄せることも知らずに

　舞台は変わって、地球の日本のとある地方都市。
　重い足取りの中年男性が歩いていた。
　見た目には仕事も人生も疲れた男という言葉がしっくりくる。
　突如、歩道に魔法陣が現れ、男は引きずり込まれた。

　大司教たちは困惑していた。
　結果だけ見れば勇者召喚は成功した。
召喚されたのは、壮年の男が一人。
だが、問題なのはその壮年の男が、高いびきをあげながら、寝ていることであった。
このままだと埒が明かないと判断した大司教は部下に命じて、男を起こすために揺さぶったが目覚めない。
様々な手段を使ったが目覚めないため、最終的に神官たちが総動員で金物を叩きまくり、その音でやっと男は起きたのだった。
すぐさま大司教は男にここは異世界で、勇者に選ばれて召喚されたと説明し、神殿の中央にある石板に触れるように促した。
その石板に触れることによって男のステータスがわかるようになる。
大司教たちは男がどんな能力をもっているのか見定めるつもりだったが、予想の斜め下をいく結果になった。
男は大司教に指示に従って、石板に触れた。
空中に文字が浮かび上がったが。
「大司教様！大変です！」
「なんだ！どうしたんだ？」
「召喚された者のステータスを見ようとしたら、文字化けしていて、読めません！」
「なに！それは本当か？」
「おそらく不完全な召喚による弊害だと思われます！どうしますか？」
「耳をかせ！」
「はっ！」
　そういって大司教は部下と何やら話し始める中、男は石板を見つめていた。
（コレ漢字だ）
　男は仕事の経験上、あの大司教たちが怪しいと判断していた為、本当のことを教える気にはなれなかった。
　やがて大司教たちは話を終えて、男の元へ向かった。
「まことに残念ですが、元の世界にお返しします」
　そう言って、神官たちは男を外へ誘導した。
　神官たちは男を中心に魔法陣を書き、男に「それではお返ししますので、そこから動かないでくださいね」と言って呪文を唱え始めた。
　男の周りが光に包まれた。

　次に男が見た風景は見渡すばかりの草原だった。
「元の世界に帰すって、地獄に帰してくれるんじゃないのか？まいったな……裁判しなっきゃならないのに……」
　男は神官たちが唱えた魔法が転移魔法だったことを後に知る。
　大司教は男を追放しただけだった。
　しかし、この大司教の判断がこの世界のシステムを大きく狂わせることになる。
　なぜなら召喚された男は閻魔大王だった。

※閻魔大王
地獄の王。死者の生前の罪を裁く神でもある。