前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい

のみかん

文字の大きさ
19 / 69

第19話『椎茸を食べる程度には嫌だった』

しおりを挟む




「おい、こんなところで魔力を全力解放とか何考えてるんだ?」

「うるさい! うるさい! もういいわ! こうなったら討伐してやる!」

 砂埃を巻き上げて、結城優紗が立っていた位置から姿を消した。
 これは魔力を全身に行き渡らせて発動させる身体強化だ。
 高速で移動して俺を翻弄しようって魂胆か。

「くたばれっ!」

 俺の背後を取った結城優紗が魔力を纏った拳で殴りかかってきた。

 全部見えてるけどね。

「よいしょっ」

 手の平で易々とキャッチ。

「なっ! 受け止めた!? あんた、聖なる魔力が効かないの!?」

「あっちの世界でも効かなかったからお前は負けたのでは?」

 本音を言えば、前世では少し脱力する程度には効いていた。
 椎茸を食べる程度には嫌だった。
 でも、今は本当になんともない。

 身体が人間になったからだろうか?

「弱い魔族には効くけど、俺には効かないってあっちでも説明したよな?」

 結城優紗に説明したのは覚えてないが。
 多分してると思う。
 聖なる魔力を攻撃の軸に使う勇者にはいつも教えてたはずだから。

「ぐぬぬ……」

 俺の言葉に結城優紗は唸っていた。
 しまった。
 こういう正論はロジハラって非難されるんじゃなかったか?

 この前、ネットで見たんだよね……。

 恐ろしいよね……。

「パラライズ」

 俺は『とんっ』と結城優紗の首元を指で突いて麻痺させる魔法を食らわせた。

「ぐぎゃっ……」

 叫びながら倒れ込む結城優紗をそっと支えて地面に寝かせてやる。
 ほら、痣とか残したらまた停学になっちゃうかもなんで……。
 まったく、生きづらい世の中だよ。

「ぐっ……くそぅ……負けた……ふぐぅ……」

 結城優紗はビクンビクンと地面で痙攣している。

 意識はあるけど身体は自由に動かないっぽい。

「あのさ、さっきも言ったけど、俺は普通に高校生活を楽しみたいだけだから。お前が心配するようなことは何もないからさ。だから、もう関わってこないでくれるとありがたいな?」

「なんで……トドメを刺さないのよ……魔王なんだから殺せばいいじゃない……!」

 結城優紗はギリリッと歯軋りしながら恨めしそうに言った。

 それは潔さや覚悟というより、俺がそういう輩であってくれと願う意味の言葉に聞こえた。

 俺が非道な魔王なら、俺の言葉はすべて戯れ言と流すことができるから。
 召喚魔法に関わる事柄を信じなくて済むから。
 けど、そんな事情は俺の知ったこっちゃない。

「俺が人殺しになったら家族にも迷惑かかるから無理!」

 俺と結城優紗が二人で出て行ったのは大勢に見られてるわけで。
 真っ先に疑われるのがわかってて、そんなことをやれるはずがなかろう。
 ここは法治国家日本なのだ。

 盗賊や魔物がたくさんいて、剣や魔法で乱世なファンキー世界じゃない。

 指先で突いただけで逮捕されちゃうくらい暴力に厳しい社会なのである。

「アハハッ……魔王が家族に迷惑って……もうただの現代人じゃないのよ……」

 結城優紗が乾いた笑い声を上げた。
 笑っているのに心が泣いている……。
 少し詩的に表現してみた。

「なあ、結城、お前は俺が許せないかもしれないが、違う世界の諍いを持ち込んでいがみあうのはやめないか? お互い不干渉でいこうぜ? 俺はこっちで魔王として世界をどうこうするつもりはないし……。そのほうがきっと両方にとって有意義だと思うんだ」

 向こうでも世界をどうこうするつもりはなかったけどね。
 あれは人間側が勝手に因縁つけて絡んできてただけだから……。
 でも、それを彼女にここで説明する必要はない。

 別に優しさとかじゃないよ?
 だって、あっちの世界ですでに説明してるはずですし。
 俺は魔王城まで来た勇者には必ず真実を告げてたから。

 誰も信じなかったけど。ぴえん。

「ねえ、あんたが言ってた召喚魔法の……本当なの……?」

「ああ、そうだよ」

「…………」

 俺が答えると、結城優紗は虚ろな目になって何も言わなくなった。


 …………。


 彼女は異世界を救えず帰還したことを負い目に感じていたのかもしれない。

 しかし、騙されたまま戦いに駆り出されていた事実を知って、気持ちの整理をどうつければいいのかわからなくなってしまったのではないか? 

 だとすれば少しだけ同情できなくもない。

 だからといって、行き場のなくなった感情を俺に襲いかかることで解消しようとするのは勘弁してほしいが……。

「あのさ、他に用がないなら俺もう教室に帰るから……」

 こんな状態の彼女を置いていくのはどうかと思ったけど、そろそろ昼休み終了のチャイムが鳴るんだよね。

 今の俺は真面目さをアピールしなくちゃいけない立場。
 授業に遅れるなどもってのほか……ッ!
 襲いかかってきた相手と天秤にかけたら比べるまでもなく自分の評判が大事でしょう。

 そういうわけで、アディオッス!




 放課後。

 俺は入部届を握りしめて将棋ボクシング文芸部の部室に向かっていた。

「……げっ!?」

 部室に入ると、そこには入部希望者の先客がいた。

「あたしもこの部に入るから! あんたが本当に危険じゃないか監視するためにねっ!」

 先客は結城優紗だった。

 な、なんでこいつが……。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

あなたはダンジョン出禁ですからッ! と言われた最強冒険者 おこちゃまに戻ってシェルパから出直します

サカナタシト
ファンタジー
ダンジョン専門に、魔物を狩って生計を立てる古参のソロ冒険者ジーン。本人はロートルの二流の冒険者だと思っているが、実はダンジョン最強と評価される凄腕だ。だがジーンはある日、同業の若手冒険者から妬まれ、その恋人のギルド受付嬢から嫌がらせを受けダンジョンを出入り禁止にされてしまう。路頭に迷うジーンだったが、そこに現れた魔女に「1年間、別人の姿に変身する薬」をもらう。だが、実際には「1歳の姿に変身する薬」だった。子供の姿になったジーンは仕方なくシェルパとなってダンジョンに潜り込むのだが、そんな時ダンジョンい異変が起こり始めた。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...