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第22話『江入杏南の正体』
しおりを挟むその日の部室は偶然にも俺と江入さんの二人だけだった。
本のページを捲る音が二重奏。
パラパラ……。
すごく静かだ。
酒井先輩と鳥谷先輩の騒がしい二人がいないとこんなもんか。
「ふむ……」
ボクシング部のバーベルが視界に入った。
ちょっと筋トレしてみるか。
床からバーベルを持ち上げる種目。
デッドリフトってやつをやるぞ!
ガシャンガシャン。
「…………」
魔王の力を持つ俺からすると、部室にあるプレートを全部つけても握っただけで持ち上がっちゃうくらい軽かった。
これ、無意味すぎるわ……。
ちょー空しい。
筋トレを趣味にできないとわかって俺は少しへこんだ。
別に筋トレにそこまで興味があったわけじゃないけどさ。
趣味の可能性がひとつ消えるというのはそれだけで切ない気持ちになるもんだ。
切なさを痛感した俺は読書を再開した。
「ふう……」
キリのいいところまで読めたし、今日はいつもより早いけど帰ろうかな……。
俺は本を閉じて栞を挟み自分の鞄にしまった。
持ち帰るのは江入さんに許可を取ってある。
小説って、休み時間の暇を潰すのにもってこいなんだよね。
生徒手帳を読むよりよっぽど有意義に過ごせる。
「江入さん、俺はもう帰るよ。鍵は任せていいかな?」
「…………」
江入さんは何も言わない。
おかしいな。いつもなら返事くらいはしてくれるんだけど。
どことなく違和感を覚えながら俺は部室のドアノブに手をかけた。
……が、ドアノブは回らなかった。
回しても反発してくる。
何者かによって妨害されているようだった。
「…………!」
外側から逆に回していやがるッ……。なんて握力だッッッ!
いや、待て待て。
これ握力なの?
なんか念力っぽい感じで反発してるような……。
「新庄怜央……」
背後から無機質な声で名前を呼ばれる。
「ヌウッ!?」
力を込めていたので思わず変な唸り声で返事をしてしまった。
「なんだ、江入さんか……」
いつの間にか真後ろに接近していた江入さんがいた。
彼女の青みがかったショートカットの黒髪がさらりと揺れる。
「新庄怜央、貴方は一体何者?」
謎な質問をされた。
さっきは無反応だったのに。
いきなりどうしたんだろう?
「何者って、江入さん、どういうこと?」
「貴方の正体について、私は訊いている」
なぜ彼女がこんな質問を急にしてきたのかは不明だ。
しかし、まさか前世が魔王ですと答えるわけにはいかない。
「正体って、どういうことかな?」
俺がすっとぼけると、
「………………。このままでは真理に迫った回答は得られないと判断した。よって異空間フィールドを展開し、武力的な制圧を視野に入れた対応に移行する」
「は……?」
次の瞬間、俺たちは部室ではない場所に移動していた。
いや、正確には俺と江入さんを中心に周囲の景色が塗り替わっていったという感じか……。
気がつくと俺は灰色な景色が延々続くだけの広い空間に閉じ込められてしまっていた。
ここはどこだ? 何をされた? これは江入さんの仕業なのか?
一体どうやって――
「出口を探しても無駄。この異空間フィールドから逃げることはできない」
彼女は俺が逃げ場所を探していると思ったようだ。
もちろん帰り道は教えてほしいけどね。
「江入さん、君は何者なんだ……? これは何をしようと……?」
今度は俺が正体を質問する番だった。
いや、マジでなんなの。
無口でコミュニケーション取りにくい女の子だと思ってたら、いきなりわけのわからないことを言い出して得体の知れない力を使いだした。
こわいよぉ、ホラーだよぉ。
「私は銀河惑星連盟大帝国、先遣調査クローン部隊所属、【エイリア】シリーズ、個体識別記号『ン・NA』である」
「…………」
日本語でおけ?
余計にわからなくなったよ……。
銀河……惑星……。
SFか?
「私はこの惑星の観測を行なうために帝国の本星からやってきた調査員。我が祖国である帝国の目的は銀河系惑星の統一にある。私の役目は侵略予定の惑星に先んじて潜入し、脅威度の測定を行ない、本星が適切な戦力を派遣できるようデータを揃えること」
ふむふむ……。
えーと、要するに彼女は地球を侵略しにきた宇宙人?
うわ、それってエイリアンじゃん!
本当にいたんだ! 月刊ムゥの編集部に教えてあげたい。
「君は宇宙人のスパイってことか?」
「この星の言い方ならばそれでいいはず」
「なんとまあ……」
地球人の常識では信じがたいことだ。
けど、前世が魔王の俺がそれを言ってもね。
超常的なことを実際に引き起こしてるし、彼女が電波や中二病でないのは間違いない。
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