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第51話『キャッサバ』
しおりを挟むその後、俺は魔法でダンタリオンをボコボコにした。
あいつもいろいろ使ってきたが、俺が焦るほどのものはなかった。
地べたに這いつくばるダンタリオン。
彼の胸元にある青かった水晶が赤くなってピコンピコンと点滅し始めた。
「ちいっ……ここまでか……」
ダンタリオンがそう呟くと、彼の筋肉は急激に萎んでいき、最初に会ったときのマッスルサイズに戻った。
「ありゃ? もう元の姿に戻るのか」
「悪魔の姿に戻れるのは三分間だけだからよ……。魔素が少ない地球の環境じゃ長くは活動できねえんだ」
活動限界ってやつか。
俺はいくらでも昔の力が使えるけど、悪魔は制約があるみたいだ。
「オレ様がここまで一方的にボコボコにされるとは……。さすがは魔王を自称するだけのことはある。だが、オレは負けるわけにはいかねえのよ」
「魔王だったのは自称じゃなくて事実なんだけどね……」
ダンタリオンには魔王といえば悪魔の王という固定観念があるようだ。
俺が魔族の魔王だったことを理解してもらうためには別の魔王があるということを彼に根気強く説明しなきゃいけない。
それは非常に億劫なので俺はまあそのままでいいかと結論を下した。
ダンタリオンは悪魔形態を維持できなくなっても戦い続ける意思を示していた。
あんまりやりすぎて命を奪うようなことはしたくないんだが……。
一応、今は段田理恩という人間として生きてる存在みたいだし。
「もう諦めろよ。お前は俺に勝てない」
「そんなことあるか! 諦めなきゃ可能性は――」
次の瞬間、最初にダンタリオンが座っていたステージ上の玉座から音楽が流れてきた。
パワッハラッ♪ パワッハラッ♪
パワフルでハラハラ~♪
ふたりは! パワッハラ~♪
どうやらスマホの着信音のようだった。
「…………」
「…………」
ユアスーツ! マイスーツ! 生きてるんだから欠勤なんて『めっ』でしょ~♪
これは……女児アニメ、『ふたりはパワハラ』の曲だ。
昔、妹が見てたっけ……。
「電話、出たら……?」
「い、いいのか?」
「ああ、どうぞ……」
「じゃあ、ちょいと出させてもらうわ……」
ダンダリオンはいそいそとステージに上がり、椅子に置いてあったスマホを手に取る。
「ハイ、モシモシ」
『やっと出た! ちょっと! 兄さん、今日はキャッサバを買ってきてって頼んだでしょ! 早く帰ってきてくれないと夕飯の支度ができないじゃない!』
電話の向こうから女の子の怒鳴る声が聞こえてきた。
「あ、うん……ごめん、ちょっと今は立て込んでて……え? いや、うん、友達……そう、友達といろいろあってさ……」
「…………」
俺は何を見せられているのだろう。
「え? 一緒にいるけど……は? 挨拶がしたい? それはちょっと……いや、違うよ。いじめられてるわけじゃないから、大丈夫だから……」
何やら言い訳じみたことを電話先の相手に述べている。
ややあって――
「あの、少し妹と話してもらってイイですか?」
ダンタリオンは縋るような瞳でそう言ってきた。
ドレッドヘアのくせにうるうるした目をしてくんじゃねえ!
いや、ドレッドヘアという髪型を否定するわけじゃないけど。
「仕方ないな……」
同じく妹がいる身として、何となく無下にできなかった。
先程のやり取りを見る限り、恐らくダンタリオンは妹のことをそれなりにちゃんと家族として見ているようだし……。
「ハイ、代わりました、ともだちです……」
俺はなぜか段田理恩の友達として彼の妹に挨拶をした。
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